聖女と邪龍の娘

りーさん

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第二章 神殿の少女達

第44話 連続の揺れ

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「待て!!」

 あの時の言葉から普通に出られる訳もなく、怖い顔で追ってくる。

「カオルさん!後ろを見ている余裕はありません!」
「は、はい!」

 多分、リーズはまだ出てこられない。だから、逃げるしかない。精霊達は、いつの間にか側にいて、一緒についてきてくれてはいるけど、司教様を攻撃したくて仕方ない感じがする。

──何とか出来るの?

 いつも、戦闘はリーズに任せていた。リーズの方が強かったし、それに……

 攻撃するのが、怖かった。

 たとえ、人を襲う獣でも、血が流れるのは怖くて、苦しむ所を見るのも嫌だった。前は、獣を精霊術で倒したけど、また出来るかと聞かれれば、うなずく事は出来ないと思う。

 そんな事が出来てしまうと、父様みたいに、誰かに狙われるかもしれない。いや……違う。私は、父様達を殺した人達と同じになりたくない。

 勝手に悪と決めつけて、正義感を振りかざすような人達と、同じにはなりたくなかった。だから、たとえ全員が悪人だと言っても、認めたくはなかったし、本当の悪人なんていない。やり方を間違えただけ。そんな風に思っていた。

 でも、司教様はどうなんだろう?自分の欲望のためなら、簡単に人質を使って、自分の命令に従わせて、誘拐まで起こす。人を癒したり、守ったりする神官が、人を傷つけている。

 この人も、ただやり方を間違えただけ、なんて、堂々と言えるだろうか。なら、悪人と決めつけられる?いや、それも出来ない。

 やっぱり、私は偽善者だ。悪い事はいけないと思っているのに、悪い事と認める事が出来ずに、手を出せない。口だけな奴だ。

 なんで、こんな私を、レティア神は気にかけるんだろう。精霊王も、なんで虹の加護を私にくれたんだろう。良い事のはずなのに、こんなにも気にかけてくれて嬉しいと思っていれば良いのに、一度浮かんだその疑問は、簡単には消えてくれない。

「きゃあ!」

 その声で、一気に現実に戻された。逃げている途中で、ティルが転んでしまった。

「大丈夫ですか?」
「ええ、これくらい平気です。それよりも、早くここから移動しないと!」

 強い意思を感じる。ティルは……どうして強くいられるんだろう。私は、臆病で、逃げてばかりなのに……

「一旦、角に曲がって、先ほどのように姿を隠しませんか?さすがに疲れてきて……」
「……そうですね。このままだと捕まってしまってもおかしくありません。賭けに出ましょうか」
「私達が曲がった時にさっきと同じように姿を消してくれる?」

 そう聞くと、コクンとうなずいた。

 近くの曲がり角を曲がって、すぐに姿を消して貰った。音は消せないので、手で口をふさいで、通りすぎてくれるのを待つ。

「どこに行った?」

 目の前に司教様がいる。この距離だと、声を出したら気づかれる。せめて、姿が見えなくなるまでは、このまま音をたてないようにしないといけない。

 レティア神が、加護を貰っていないと言っていたから、多分精霊達は見えていない。なので、精霊達によって気づかれる事はおそらくない。

「逃がしたか……!」

 そう言って、悔しそうにそのまま歩いていった。まだだ。まだ声を出しちゃいけない。姿が見えなくなるまでは。

 しばらくして、やっと姿が見えなくなった。

 止めていた息を思いきり吐き出す。

「はぁ~……見つかるかと思った……」
「油断は出来ません。今のうちに移動しましょう」

 えっ?まだ疲れがとれてないんだけど……

 そんな私の事はお構いなしに、私の腕を引っ張って連れていこうとする。本当に行くの?

「あの……ナルミス様は……」
「そういえば、ダルジスが捕らえたと言っていましたね。ですが、場所は分かりませんし、たとえ分かっていたとしても、私達だけでは危険です」

 そうだよね……レティア神なら分かるかもしれないけど、あれ以来話しかけてこないし。レティア神も世界の管理者として忙しいみたいだし、逆にここまで気にかけてくれていたのが珍しい事だと思う。

 私もそう思えてはいるけど、ナルミス様の事は心配。ティルも多分そう思っている。手を強く握りしめて、そこから血が出ている。さっき転んだせいか、足からも血が出ている。

「待ってください。せめて、怪我だけでも……」

 もう司教様の言葉で私が聖女の娘だという事はばれているだろうし、それなら隠す理由はない。

 回復魔法で傷を治す。痛みまでは治せないから、まだ痛いかもしれないけど、それは我慢して貰うしかない。

「これで大丈夫です」
「ダルジスが欲しがるだけはありますね。カオルさん、早く行きましょう。いつ戻ってきてもおかしくありません」
「はい」

 ナルミス様は……

 ううん!きっと大丈夫だ!そう思わないと、足が動かない。少なくとも、ナルミス様を殺したりとかはしないはず。そうしたら、余計にティルが協力しようとしなくなるし、自分の立場も危うくなる。

 急いで逃げたいけど、足音をたてると気づかれる可能性もあるので、音をたてないように、歩いていく。

 しばらく歩くと、また大きな揺れがあった。私もティルも転んでしまう。

「大丈夫ですか?」
「ええ……ですが、先ほどから何なのでしょうか?これで三回目なのですが……」
「三回もこんな揺れがあったのですか?」

 もしかして、気づいていなかったの?考えてみれば、ティルはずっと地下牢にいた。なら、あまり衝撃を感じなかったのかもしれない。だとすれば、地下へは衝撃が来なかった?

 それなら、この揺れは、地上の何かが原因なのかもしれない。だとしたら、何なんだろう?

「もしかしたら、神殿の誰かがやったのかもしれませんね。なら、なおさら早く脱出するべきです」
「でも、ナルミス様は……」
「……兄なら大丈夫です。行きましょう」

 そう言う顔は、とても悲しそうに見えた。私達が再び歩き出そうとすると、また大きな揺れがあった。早くない?それに、揺れがだんだん大きくなっている。

「きゃあ!」

 大きな地響きと共に、ティルの悲鳴が聞こえて、後ろを振り返ると、地面が割れて、ティルが落ちそうになっていた。

 反射的にその腕を掴む。

「ティル!」
「構いません。離してください。カオルさんだけでも……」

 離せと言われて、離せる訳がない。底が分からないほど、暗い。そんな場所に落ちたら、怪我じゃすまないかもしれない。

 どうすれば良いの?一体、どうすれば……

 そう考えているうちに、また揺れが来た。さすがに間隔が短すぎる。今の衝撃で、私が立っている所も崩れてしまって、私達は穴の中に落ちてしまった。
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