聖女と邪龍の娘

りーさん

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第二章 神殿の少女達

第45話 怒りと侮蔑

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「うぅ……」

 そこまで高くはなかったけど、体のあちこちが痛い。骨は……折れてない。やっぱり、ただの打撲みたい。打撲は、完全には治せない。回復魔法は、痛みまでは消せないから。とりあえず、血が出ている所は回復魔法を使って塞ぐ。

「カオルさん、ここはどこでしょうか……」
「私も分かりません」

 地下なんだろうけど、妙に明るい。人の出入りがあるのかもしれない。

「歩けますか?」
「ええ、多分大丈夫だと──っ!」

 私の手を取って立ち上がろうとした時、一瞬顔を歪めて、座り込んでしまった。足を押さえて痛そうにしている。

「やっぱり怪我したんですか?」
「そうみたいですね。今、痛んできました」

 押さえている場所は、赤く膨れ上がっている。こんな症状は見た事がないから分からない。

「ホネオレテル」
「タツ、ムリ」

 骨が折れてるの?なら、なんで私は打撲で済んだんだろう?

 ──父様の血を引いているから?

 他の人間よりも頑丈だから、私は骨が折れなかったのかな?

 とりあえず、骨折を治さないと。

「今、足の治療しますね。痛みは治らないので、注意してください」
「ありがとうございます。……カオルさん。ダルジスが言っていた事は事実なのですか?」
「それは、どの話ですか?」
「父君が邪龍だという事に決まっているでしょう。そして、フードを被ってまで、カオルさんとリーズさんの二人に分かれているのも……」

 もう司教様には完全に気づかれているだろうし、正直に話した方が良いのかもしれない。

「まず、父様が邪龍なのは事実です。偏見を持つ者も多いですが、父様は一度も人間に危害を加えた事はありません」
「……そうですか」
「……なんとも思わないんですか?」
「私は偏見など持ちません。そのように見られていたのは不快です」
「……すみません」

 怒ってしまったのかと思い、少しうつむいてしまう。でも、なんとなく怒ってはいないような気がして、顔色をうかがってみると、指で髪をいじっているだけで、怒っている感じはしない。

「お気になさらず。それよりも、二つ目の質問に答えてくれますか?」
「あっ、はい……分かれているのは、私達が聖女と邪龍の娘だからです」
「もっと分かりやすく言ってくれませんか?」
「聖女の“聖”の力と、邪龍の“邪”の力は相反する存在です。そのままでは、お互いが打ち消そうとして、暴走を始めます。そうなると、私はもちろん、周りに被害がおよびますので、これで分けているんです。なので、それで私とリーズは別れたんです」

 出来るだけ分かりやすく伝えたつもりだけど、伝わったかな?

「では、最初から別れていた訳ではないのですね」
「はい、そうです。フードを外すと本当に苦しかったので……」
「経験があるんですか?」
「2度あります」

 一度は、両親が止めてくれたから大丈夫だったけど、二回目の時は本当に苦しかった……クラウド様が助けてくれたらしいけど、あまり覚えていない。でも、あと少し遅れれば、自分が死んでいた事は分かっている。

「そうですか。では、そろそろ移動しましょう。痛みは和らいできましたし」
「そうですね」

 もう一回立ち上がる。今度は普通に立ち上がった。

「所で……どこに向かえば良いんでしょうか?」
「そうですね……とりあえず、同じ方角に向かってみましょうか」

 やっぱり、ティルは私よりもしっかりしている。「こちらです」と言って、私の先頭に立って誘導してくれる。

「カオルサマ、ダレカクル」
「シキョウダ!シキョウ、クル!」

 シキョウ……司教様!?どうしよう……早く何とかしないと……

「ティル。精霊達が、司教様が来ると……」
「それは厄介ですね。このままだと袋小路になってしまいます。また姿を隠す事は出来ませんか?」
「周りに闇の精霊がいないので……」

 あの落下でまたはぐれてしまったんだろう。あの子達には迷惑をかけてばかりだな。それはそうとして、確かにこのままだと見つかってしまう。だからと言って、戻ろうにも、他に道はないから、見つかるのが遅くなるだけ。

「……仕方ありません。見つかるのを覚悟で行きましょうか」

 そう言って、ティルは再び歩き出す。見つかるのを覚悟でって言ってたけど、このままだと見つかるだけでなく捕まってしまうかもしれない。

 なんで司教様がここにいるのかは分からないけど、少なくとも、この辺りの事なら、司教様の方が詳しい。さっき逃げられた事も運が良かっただけといえるのに、全く道が分からない状態で逃げるのはまず不可能。

 ティルは、何を考えているんだろう。

 そのまま進むと、案の定、司教様に見つかった。

「おや、ここにおられたのか。どうやって入り込んだんだ?」

 私がいても、もう敬語を使うような事はしていない。この言葉からするに、揺れで地面が崩れて落ちた事は知らないんだろう。

「あなたには関係のない事です。道を開けてください」

 もう逃げるのは難しいのに、ティルは態度を変える事はない。強気で司教様に接している。リーズみたいな子だな。

「誰に物を言っている?」
立場が偉いだけの勘違い野郎・・・・・・・・・・・・・……ですかね?」

 あの時、リーズが言っていたセリフをそのまま司教に言った。

 そのセリフはまずいよ!リーズが言った時は、逆上して手をあげていたのに!ティルは何を考えているの?

「そうか……」

 司教様はそう言うだけで、特に何もしない。

 怒らないのかな?そう思ったのもつかの間、司教様は怒り……というよりは、憎しみがこもった表情でこちらを睨みつけた。

「立場が偉いだけ……そんな言葉は聞き飽きたわ!!父の力で成り上がった愚か者と何度言われたと思う!?私は実力でこの地位を築いたに決まっているだろうに!奴らは、奴らは……」

 そう言って、憎しみをこめたまま、涙を流している。

 そんな司教様が、少しかわいそうに思えてきた。リーズだったら、優しすぎると言われそうだけど。

「何か間違っているのですか?あなたは実力がないのに、自分の力で成り上がったと勘違いなさっているのです。本当に実力があるなら、見返してやれば良いだけの事。それが出来ないなら、あなたは実力がないという証拠でしょう?」

 同情している私とは反対に、冷たい目でティルはそう吐き捨てた。その目には、侮蔑や呆れなどいろんな感情が含まれているように見えた。

「黙れ黙れ!奴らの見る目がないに決まっている!私の実力がない。親の権力のおかげな訳がないんだ!」

 ティルの言葉に、そう言って反論した。司教様は、親と比べられたのかもしれない。その親が何を考えて、司教様を司教まで昇らせたのかは分からないけど、親心なのかな。

「それに、もう立場だけなんて言う奴はいない……」
「言い訳は見苦しいですよ?」

 ティルがそう言うと、今度はニヤニヤと笑い出した。

「お前達が逆らわなければここまではしないつもりだったが……仕方あるまい」

 そして、「来い!」と叫ぶ。すると、また大きな揺れがあった。その時、ちょうど天井にひびが入って、崩れ始めた。

 とっさに結界を張って、安全な所まで引き返す。そして、天井は崩れ、何かが降ってきた。それと同時に、土煙が発生する。

「奴は今腹を空かせていてね。上質な餌を欲しているんだ」

 そう言って、足音が鳴り出し、だんだん遠くなっていった。そして、やがて土煙は晴れ、降ってきたものが見えるようになってきた。

「そんな……これはまさか……」

 もう言葉も出なくなるくらい震えている。私も、神殿で会う事になるとは思っていなかった。

 これはおそらく……

「魔獣……」
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