聖女と邪龍の娘

りーさん

文字の大きさ
47 / 107
第二章 神殿の少女達

第46話 穴の先で

しおりを挟む
「うっ……」

 なんとかティルを避難させて、私が対応しているけど、魔獣の攻撃を喰らってしまった。

 回復魔法で治す暇もない。

「カオルサマ!」

 後ろから声が聞こえた。やってきたのは、精霊達だった。

「どうしたの?」
「クラウド、ツタエテキタ!」
「シキョウ、ワルイ、ツタエタ!」

 なかなか来ないと思っていたら、クラウド様に伝えていたんだ。

「カオルサマ。コイツ、ボクラタオス」
「カオルサマ、サキニイッテ」
「でも、ティルを置いていくには……」
「私なら大丈夫です。行きましょう」

 いつの間にか、近くまで来ていた。ティルは、決心したように、私を見る。

「それと、ナルミス様も……」
「ナルミス……コッチ……」
「分かるの?」

 そう聞くと、コクンとうなずく。もしかして、司教様が連れていくのを見たのかもしれない。闇の精霊の後についていく。ティルもこっちに着いてきている。やっぱり、あんな風に言いながら、本当は心配していたんだな。魔獣は、精霊が気を引いてくれていたので、なんとか抜けられた。

「そうです、カオルさん」
「何ですか?」
「兄には言うんですか?カオルさんが聖女と邪龍の娘だと」

 そう聞かれて、戸惑ってしまった。正直、まだ決まってない。正直に話すか、それとも黙っているか。ナルミス様の事は信じたい。でも、私はそれで痛い目を見ている。人を信じたいと思って、悪と認められなくて、周りを巻き込んでしまう。

 ナルミス様を、悪とするべきなのか、私には分からない。同じように、私達の事を話しても良いのかも。リーズは、神殿内で表に出てきてしまったせいで、しばらく会話も出来ない。だから、相談する事が出来ない。

 決められないまま、闇の精霊の案内に従って走っていく。

「オク……イル」
「ありがとう」

 精霊の頭を撫でると、他の精霊の後ろに隠れてしまった。すると、他の精霊達が「ジブンモ!」と訴えてきた。

「そんな事をすればそうなりますよ」

 そんな事を言っていないで、助けて欲しい。とりあえず、訴えてきた子は、みんな撫でる。

「それよりも、どうするんです?話すんですか?」
「……」

 答えが出せない。

「私の意見ですが、話しても大丈夫だと思いますよ。身内の欲目なのかもしれませんが、兄は秘密は厳守する人です。良い意味でも、悪い意味でも、秘密にして欲しいと言われたら、誰にも口外しません」

 ティルが、そこまで言いきるなら、良いんじゃないのだろうか。一度は、信用しないと。覚悟を決めないと。……話そう。

 闇の精霊の案内通りに歩いていくと、先の牢屋にナルミス様が閉じ込められていた。鍵がかかっているだろうし、どうやって開けよう?

「ナルミス様!」
「兄さん!」
「カオル様!ティルもどうしてここに?」

 私達は、ナルミス様に今までの事を話す。もちろん、私の事も。

「司教がカオル様の事を探るように言ってきたのは、そういう事でしたか」

 納得がいったかのように、ナルミス様はそう言った。

「兄さん、この事は……」
「分かっている。誰にも口外しない」

 はっきりとそう言ってくれた。その姿は、ティルと重なって見えた。やっぱり、兄妹なんだな。

「とりあえず、どうやって開けましょうか?」
「精霊でどうにかなりませんか?」

 精霊が鍵を持ってこれるかは分からないけど……一応、聞いてみよう。

「出来る?」
「コワセバイイ」

 …………えっ?今、何て言ったの?

「サガッテテ、カオルサマ。ナルミスモ」

 言われた通りに下がる。ナルミス様にも、少し離れるように言った。すると、火の精霊が、小さな光を生み出して、牢屋に放つ。その光が牢屋の柵にぶつかると、強く光って、大きな音と共に、牢屋が崩れた。

 これって、爆発魔法!?コワセバイイってそういう事?壊せば良いって事だったの?

 魔法を使う時は、少し抑えて欲しいって言ったのに、明らかに威力が強いし……でも、誉めてと訴えてくる精霊を叱る事は出来ない。こんなだから、優しすぎるとか甘いとか言われるのかな……

「相変わらず、すごい魔法ですね」

 そう言ってはいるけど、少し呆れているかのような目で見られている。この音で誰かが来るかもしれないからだろう。

「それで、どうやったら出られるのでしょうか?司教の後を着いていくのは危険すぎますし……」
「だが、入り口はおそらく一つしかない。天井に開いている穴から出られるのなら話は別だが……」
「イケルヨ?」

 えっ?

「いけるって……どういう事?」
「カゼデ、トバス」

 風で……飛ばす?

「精霊が何か言っているのですか?」
「風で飛ばすと言っているんです」
「なるほど。風魔法なら、宙に浮く事は出来ると思います」
「それなら、戻ってみましょう。精霊達なら、倒せていなかったとしても、負けている事はないと思います」
「なるほど。なぜここにいるのかと思っていたら、そう言えばあなたは精霊術士でしたね」

 後ろから声がして、振り返ると、そこには司教様がいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。 ※タイトルはそのうち変更するかもしれません※ ※お気に入り登録お願いします!※

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...