聖女と邪龍の娘

りーさん

文字の大きさ
48 / 107
第二章 神殿の少女達

第47話 取り引き

しおりを挟む
 先ほどの爆発で気づかれたのだろう。ここは行き止まりだから、袋小路になったという事になる。

「精霊を置いてきて良かったのですか?あなた自身に攻撃手段はないというのに」

 司教様の言う通り。一応、リーズがいるけど、話しかけてこないから、まだ回復していないんだと思う。精霊が何人かここにいるとはいえ、あの魔獣みたいな存在がまた出てきたら、無傷では済まないと思う。

 私は必要だと思うし、ティルの能力がないと、司教様は精霊術士になれないから、ティルを殺すような事はしないと思う。でも、ナルミス様は分からない。ここに閉じ込めていた所から、ナルミス様をどう扱っているのかは、想像がつく。

 ……いや、魔獣で殺されかけたんだから、私とティルの扱いも良くはないかな。

「精霊はいますよ。それで、なぜ戻ってきたんですか?」
「さすがに地下から大きな物音がすれば疑問に思いますよ。おそらく、あなたの精霊術でしょう?」

 やはり、あの爆発で気づかれていたみたい。

「あなたは本当に魅力的だ。数少ないはずなのに、あそこまでの精霊術を起こせるほど、愛されているのですね」
「何が言いたいんですか?」

 そう言ったら、こちらに近づいてきた。こっちには道がないので、後ずさりしても追いつかれてしまう。

「あなたの顔は美しい。マリア聖女の再来ですよ。マリア聖女と瓜二つの顔に、引けをとらない精霊術の強さ。そして、意思の強さまで。マリア聖女が若返ったと言われても信じてしまいそうだ」

  ……怖い。この人の目は普通じゃない。母様はきれいな人だったから、そんな人に似ていると言うのなら、私も美しいと言われる部類に入るのかもしれない。でも、母様と似ているのは外見だけだ。

 私はちっとも強くない。実力的にも、精神的にも。心を鬼にするとか言うけれど、私には出来ないから。

 母様を狙う人は大勢いたと思う。聖女としても、一人の女性としても。でも、全部父様が守ってた。母様に夢中だったのは、父様も一緒だから。母様が望んだら、一緒に会っていたらしいけど、決して一人にはしなかった。

 ……もしかしたら、そのせいで裏切りとか言われたのかもしれないけど……

 ううん。考えるのは後回しだ。今は、この状況をどうにかしないといけない。私に注意を引けば、ティルとナルミス様は逃がす事が出来るかもしれない。風で飛ばせるなら、先ほどの爆発魔法で穴を開けて、そこから逃がせば良いから。

 よし、そうしよう。

「みんな」

 小さく呼びかけた。多分、司教様には聞こえている。誰に呼びかけたのかも、分かっていると思う。

「どうにかするつもりですか?カオル嬢。確かに、ここは神殿ですから、精霊の力はいつも以上に強くなっているかもしれない。ですが、逆にここまで近づいていれば、あなたも巻き込む事になる。精霊は、あなたが傷つく事をよしとしないのは、あなたが一番分かっているでしょう」

 そんなのは分かっている。ずっと一緒に過ごしてきた友達だから。私だって、誰かを傷つける力があっても、精霊にだけは絶対に使いたくない。私もそう思うから、この子達も同じだと思う。事実、こんなに悪意を持って私の近くにいるのに、私を助けようとはせずに、司教様を睨んでいる。

「他に方法があるとでも言うのですか?」
「では、こうしましょう。あなたとティレツィアが黙ってついてきてくれるなら、そこにいるナルミス神官は逃がしましょう。ですが、あなたが反抗するようなら、たとえあなたに傷がついても、ティレツィアとナルミスを亡き者にします」
「だめですカオル様!私の事は気にせずとも……」

 そこまで言ったナルミス様の顔を見るために、後ろを振り返ると、まだ何か言いたそうだったけど、口をつぐんだ。

 自分をこんな目に合わせた元凶だから、無視しろとでも言い出すの?あなたは、利用されていただけなのに。一度も許されないのは、おかしい気がする。偽善者でも、馬鹿者でも何でも良い。連れ去ったのはナルミス様でも、助ける手助けをしてくれたのもナルミス様だから、あの人には生きていて欲しい。

「……分かりました。抵抗はしません。どうぞご自由に」
「カオルさんがそう言うなら分かりました。癪ではありますが、私も共に行きましょう」
「カオル様!ティル!」
「その代わり、ナルミス様は逃がしてください。それと……」

 ナルミス様の事もそうだけど、これも約束させないといけない。

「このフードは外さないでください。命の保証はありませんので」
「……良いでしょう。私も命は惜しい。その二つの条件を飲みます」

 そう言うと指をパチンと鳴らす。すると、どこからともなく、神官達が現れた。ナルミス様の見張りだったのかもしれない。魔法で隠れていたのだろうか。私がいいえと言ったら、この人達に始末させるつもりだったのかも。

「彼らに責任を持って送らせます。ご安心を。騙して処分するような事はいたしません。そんな事をすれば、あなたの精霊が牙を剥きそうなので」

 確かに、精霊も私が(脅されているとはいえ)心から望んで・・・・・・ついていっているのだから、司教様に手出しをしていない。でも、約束を破られたら、容赦なく攻撃するだろう。

 司教様が歩きだしたので、後ろをついていく。気になって、ナルミス様の方を見てみると、神官の一人が壁に触れていて、魔法陣のようなものが浮かんだ。隠し通路なのかな?

「カオルさん。兄は本当に大丈夫でしょうか……」

 いつもはしっかりしているティルがそんな事を聞いてきた。

「大丈夫だと思うしかありません。司教様の言う通り、約束を破れば精霊達は容赦なく攻撃します。下手をすれば、向こうの方が命が危ない訳ですから」
「……そうですよね。すみません。弱気なのは、私らしくありませんね」
「そんな事はありませんよ。私も、不安なのは同じですから」

 でも、向こうを信じるしかない。クラウド様達も必死になって探してくれているだろうし、もう少しの辛抱だから。

 神殿の地下にいるのは気づかないかもしれないけど……そういえば、母様が神殿の地下の話をしていた気がするな。

『カオル。神殿にはね、地下があるの。もし神殿に行く事になっても、絶対に入ってはいけないわ』
『どうして?』
『危ないからよ。神官は、心がきれいな人だけではないの。心が醜い人が、よく集まっているのよ。カオルが迷い込んだら、連れていかれてしまうわ』
『入っちゃったらどうするの?』
『それはね──』

 ……あれ?ここからが思い出せない。母様は、何て言ってたんだっけ……頑張って思い出さないと……

『それはね、✕✕が、✕✕で──祈るのよ』

 ……祈る?どうやって──

「着きましたよ」

 司教様の言葉で、一瞬で現実に戻された。そこは、最初に私達が落ちた場所に似ているけど、少し違うように思える。

 ここで、一体何をしようと言うんだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。

さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。 聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。 だが、辺境の村で暮らす中で気づく。 私の力は奇跡を起こすものではなく、 壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。 一方、聖女として祭り上げられた彼女は、 人々の期待に応え続けるうち、 世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...