聖女と邪龍の娘

りーさん

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第三章 学園の少女達

第80話 黒髪の少女

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「お前、高いところは平気か?」
「……別に平気だが……」

 急に容姿が変わったのにもついていけてないのに、いきなりそう聞かれた。思わず平気だと答えると、彼女は俺を雑に抱える。

「地べたを走ると遅いんでな。飛んでいく」
「飛んでいくって……」

 どうやってと俺がたずねる前に、彼女は翼を広げて飛び上がる。
 その翼は、龍の翼に似ていた。あくまでも憶測の域からは出ていなかったが、彼女は聖女と邪龍の娘なのは本当かもしれない。無意識にそう思っていた。

「私の姿を隠しとけ」

 闇の精霊に一瞬視線を向けて、彼女が飛行する。闇の精霊が姿を隠しているので、二人が空を飛んでいることは誰も気づいていないだろう。

「通り抜けるのもめんどくさいな。壊すか」

 軽く息を吐いたと思ったら、そんな声が聞こえた。
 結界を壊すなんて、簡単には出来ない。何を言ってるんだという視線を向けたが、彼女は、そんな事は気にせず、左手に魔力を集める。

 邪属性の魔力だ。それも、かなりの強さ。だからか、彼女は少量集めたら集めるのはやめてしまった。
 彼女は、その手のひらから、魔力の塊をぶつける。すると、彼女はそのまま通る。結界に拒まれるかと思ったが、結界なんて存在しないように学園の敷地内に入った。
 彼女が着陸した瞬間に、俺は雑に地面に落とされる。

「痛っ……!」
「痛がってる場合か。さっさと立て」

 誰のせいだと思ってんだと思いながらも、俺は立ち上がる。
 周りを見ると、こちらを見ている男達がいた。確かに、痛がってる場合ではなかった。

「五人はいるな。片づけるから、ここの生徒の救出でもしてな」
「その前に、どうやって結界を通ったんだ」
「消滅魔法で消しただけだが?」

 消滅魔法!?

 消滅魔法は、伝説の存在だ。語り継がれているだけで、実際に使えるという者は存在しないと言われている。
 それが使えたという事は、おそらく邪属性の魔法なんだろう。邪属性は使用者が少ないから、伝説扱いされているのかもしれない。

「そんな事よりも、さっさと行け。お前を守りながらはめんどくさいんでな。精霊達に守ってもらえ」
「おいおい。はいそうですかって行かせると思ってんのかぁ!?」

 男達は魔法を放ってくる。その斜線上には俺がいる。

「チッ」

 舌打ちしながら、俺が避けようとする前に、彼女が俺の前に立った。
 その魔法は彼女に当たった。土煙が起こったが、それが晴れたら、そこには何ともなかったように立っている彼女がいた。

「私の魔法抵抗は折り紙つきだ。そんじょそこらの人間とは比べ物にならねぇ。早く行け。お前が傷つくとカオルが悲しむからな」

 カオルが悲しむ?彼女はやはりカオルではないのか。だとしたら、一体誰なんだ?顔は彼女とそっくりなのに、話し方も、性格も、何もかもが違う。

「あぁ、分かった」

 俺はそれしか言えなかった。そして、後ろを振り返ると、少し微笑んでいる彼女が見えた。

ーーーーーーーーーーーーーー

 校舎の中にも何人かいたが、精霊がすべて片づけていた。本当に、精霊に守られている構図が出来ている。それも、結構遠慮なくやっている。

『ルドニーク、コイ』

 精霊の案内で捕まっている場所まで目指す。ここからいちばん近いのは、二年生の所だそうだ。一年生は、教師と共に捕まっているらしい。

 俺は捕まっている子がいる教室まで来ると、見張りを伸ばして、教室に入る。そこには、何人かが両手が縛られた状態で結ばれていた。ほどこうとするが、一人の少女が止めてくる。

「ルドニーク・ヴァレリーフ様ですね?なぜ捕まっていないのかは知りませんが、今はほどくのはやめてください」

 その子は、あまり見覚えがなかった。そして、二年生とは思えないほど大人びた表情をしている。

「それはなぜだ?」
「まだ全員が捕らえられた訳ではありませんから。私達の足は決して速くない。今の状態で捕まりでもすれば、さらに厳重に拘束される事になります。それは困りますから」

 それを聞いて、一理あると思った。子供の足は、大人と比べて圧倒的に遅い。それ以前に、魔法の扱いもうまいと言える者は少ない。そんなので、居場所が分かっているならともかく、居場所も知らない魔法を使う大人からは逃げきれないだろう。

「分かった。ほどきはしない。それで、全員いるのか?」
「私の記憶が正しければ、風邪で休んでいる一人を除けば全員いますね」

 その少女は、周りに視線を配る。すると、目が合った子達は、次々にうなずきだした。

「それなら、他の学年の安全確認もしてくるか」
「その前に、一つお聞きしても?」
「なんだ?」

 別に聞かれるようなおかしな事はしていないと思う。
 彼女は、足を巧みに使って、自分の方に近づく。俺もしゃがむと、耳元で囁いてきた。

「あなたがここにすんなりと来られたという事は、誰か引きつけている者がいますね?誰ですか?」
「なんでそれを……」
「簡単な事です。いくらなんでも、ここまで一度も見つからずにというのは無理がありますし、先ほど、結界が破壊されたと言って慌てていました。それで、何人かは外に出たはずです。まだその男は何の報告も受けていなかったようなので、報告出来ない状態にあると判断しました」

 正直驚いた。わずかな情報でそこまで分かるものなのかと。

「それで、誰なのでしょうか?」
「俺にも分からない」
「……は?」

 今度は、少女が訳が分からないという顔をし始めた。

「テレスティリアを黒髪に黒目な状態にした感じだ」
「あぁ……リーズヴァルト様ですね。二度ほど見た事があります」
「リーズ……ヴァルト……?」

 それが彼女の名前なのか。

「それなら安心ですね。すぐに蹴散らして来てくれそうです」

 そんな馬鹿なと言いたかったが、今までの言動だと、あり得なくないと思っている自分がいる。
 聞きたい事はそれだけかと思って立ち去ろうとするが、そとから人の気配がする。

『ルドニーク、カベ、モタレテ、スワッテロ』

 精霊からそう指示されたので、言われたように壁にもたれて座った。

『……イマカラ……スガタ、ケス。オト、ケセナイカラ……コエ、ダサナイデ』

 俺はうなずいた、体の周りに何かがまとわりついた。これで俺の姿は見えない。後は、声を出さないようにしていればいいだろう。

 じっとしていると、女がやってきた。一瞬こちらを見てきたが、目はあっていないように感じた。気配も消しているので、滅多には気づかれないはずだが……少し、不安になった。

「さて、決心はついた?」
「何度言われても変わりません。あなた達の元にはつきませんから」
「そう……残念ね」

 彼女は小さくボソッと呟く。何を言っていたのか、俺は少し遠くて聞き取れなかった。
 次の瞬間、女は狂ったように笑い出す。

「あ~あ、残念残念!本当に残念!全属性のあなたが欲しかったのになぁ。無傷で手に入れられたら一番だったのに」

 そこまで笑いながらそう言って、次の瞬間、彼女の腕を鷲掴みにする。

「傷がついちゃうけどしょうがないわよね」

 無理やり引きずろうとしているので、隠れているのも忘れて飛び出そうとする。

「“動くな”」

 そう言われた瞬間、なぜか体が動かない。彼女も抵抗していたが、すぐに動かなくなった。いや、動いてはいるが、確実に鈍くなっている。

「びっくりした?私の命令には誰も逆らえないのよ。特に……」

 そこまで言うと、確実に俺の方を見た。やはり、気づかれていたようだ。

「魔力の強い子はね」

 その通りだった。少しは抵抗を見せている彼女と違って、俺はまったく動かない。かろうじて、時間をかけて指一本を動かせるくらいだった。
 俺は魔憑きだからそんじょそこらの人間よりも魔力が強い。それが、こんな風に枷になるとは思わなかった。

「あなたも連れ帰りたいけど、指令が下っているのはこの子だけだから、失礼するわ」

 くそっ!動け!動け動け!

 強く願っても、指が限界だ。

「おいおばさん、私は連れ帰らねぇのか?」

 ふとそんな声が聞こえる。女も慌てて後ろを向いた。その瞬間、女の体が吹っ飛んだ。

「私は全員に欲しがられると思ったんだがなぁ」

 ため息をつきながらそこに立っていたのは、外で戦っているはずの少女。

「リーズ……ヴァルト……さん」
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