聖女と邪龍の娘

りーさん

文字の大きさ
87 / 107
第三章 学園の少女達

第85話 マリアの予知

しおりを挟む
「ここは……?」

 カオルが起き上がると、そこは見覚えがある森の中。

「ここって、私が最初に暮らしていた森……?」

 辺りを見渡したが、やはり自分が暮らしていた森の中だったようだ。

「かあさま!」

 そんな幼い声がどこからか聞こえる。カオルは、そちらの方に向かってみるが、近くから声が聞こえるだけで、姿は見えない。

(確か、ここは……)

 カオルは、昔の記憶を頼りに、人一倍大きい大樹の根元を探る。すると、ある一点だけ透ける所があった。そこを通ると、そこには一人の少女と、血だらけの女性がいる。

「母様!」

 血だらけの女性は、カオルの母であるマリアだった。
 マリアに触れようとするも、なぜか体が透けてしまう。

「カオル……」

 マリアは、自分ではなく、幼い少女に視線を向ける。

(そうだ……ここは、母様が死んだ……)

 ここは、マリアの、最後の場所だった。自分は、避難するために、精霊達によって、安全な場所へと連れてこられて、その後に、マリアも運ばれてきた。

(確か、魔法阻害とか、そういうので攻撃されたせいで、回復魔法が効かないんだったっけ……)

 触れられないが、カオルはマリアの出血している患部に触れる。透けてしまうが、自分は触れているような感覚でいた。

「ごめんね、カオル……あなた達だけを残していくのを許してちょうだい」
「かあさま。やだよ、死なないでよぉ……」

 幼い少女は大泣きしている。それは、悲しさよりも、申し訳なさから流しているように見えた。その理由が、カオルにはなんとなくわかった。
 カオルが、人間にマリアやガーノルドの事を話してしまったから、こうなっているのだと、幼いながらも、なんとなく理解していたのだ。

「きっと大丈夫よ。予知したの。あなたが大きくなったら、あなたの事を、家族のように思ってくれる存在が、きっと現れるわ」

(そうだ!母様は、そう言ったんだった……)

 ここは、最近も思い浮かべた事があった。街中で暴走した時に、眠ってしまった夢で見た光景だ。
 あの時は、母親が何て言っていたか思い出せなかったが、今、はっきりと思い出した。

「かぞく……?」
「そうよ。とっても素敵な人達。カオル達が危険な目にあっても、助けに来てくれるし、守ってくれる。そんな、母様や父様みたいな人達よ」
「カオルのかあさまととうさまは、かあさまととうさまだけだもん!」

 いやいやと首を振りながら、少女はマリアに抱きつく。

「もちろん、カオルの母様や父様は私達だけよ。でも、あなたは、理外者なの」
「リガイシャ……?」

(理外者って、ナティーシャ様が言っていた……)

 理外者である自分達は邪魔だと言っていた。理外者なのもよく分かっていない。なので、理外者がなんなのかなんて分かるはずもない。

「……とにかく、一人でいるのは危ないのよ。たとえ、精霊達と一緒でもね」

 マリアは、少女の頭を撫でながら、優しくそう言った。

「ひとりで?」
「精霊がいるから、大抵の危険からは守ってくれるかもしれない。でも、精霊ではどうにも出来ない存在もいるの」
「そうなの?」

 少女は、周りを飛んでいる精霊達を見渡す。精霊達は、ばつが悪そうに、顔をそらした。

「そして、それをどうにか出来てしまうのもいるわ」
「だれ?れてぃあさま?」
「そうね。レティア神もそうだわ。でも、現実にも生まれる。それが理外者なの」
「それが、カオル……?」

 カオルは、マリアのまさかの言葉に、頭を抱える。自分が、そんなにすごい存在なんて思っていなかったからだ。もちろん、聖女と邪龍の娘と、精霊術士いうのが、立派な肩書きになるのは理解している。
 それでも、それだけだ。それだけだと思っていた。

「そう。理から外れているからこそ、理を越えた力を得る事が出来る。だからこそ、その身を狙われる。多分、今回のも……」

 マリアは、少し悲しそうな顔をしながら、カオルの頭を撫で続ける。
 少女は、意味がよく分かっておらず、「かあさま……?」とマリアの顔を覗き込む。

「カオル。あなたは、いつか真の厄災と対峙する事になる。でも、きっと大丈夫よ。あなたには、頼れる存在が出来ているはずだから」
「かあさま?それって……」

 どういう事?と少女が聞く前に、少女の頭から手を離す。そして、カオルの方に視線を向けて、ニコッと微笑んだ。
 カオルが目があったかと驚いたその瞬間、マリアの目が閉じる。

(私の姿は見えてないはずだよね……?)

 少女が気づいているような様子はなかったので、カオルはそう思っていた。

 カオルは、そっと、マリアに触れようとする。手に触れた瞬間、まるでカオルの手を握るように、指が動いた。

「母様……」

 懐かしいのと、悲しいのが合わさって、カオルは涙を流す。

「カオル!」

 聞き覚えのある声が聞こえて、カオルは涙を拭い、声が聞こえた方を見る。そこには、リーズがいた。

「リーズ!」
「……母上か」

 カオルの側に横たわっているマリアを見て、リーズが物悲しそうに呟く。カオルは、何も言わなかったが、心の中ではうなずいた。

「……行くぞ」
「……うん」

 リーズと手を繋いで、カオルは光がある方に向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。 ※タイトルはそのうち変更するかもしれません※ ※お気に入り登録お願いします!※

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...