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第四章 隣国の少女達
第92話 ラクエルシェンドへ 1
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大変遅くなりました!
↓本編
父様と母様と一緒に暮らすようになって、数日が経った。母様は、家族第一が悪化しているような気がするけど、父様は全然変わらない。……いや、父様もちょっと変わったかも。母様への対応が、だけど。父様の母様第一がちょーっとだけ悪化しているような気がする。母様が泣いたら容赦がないのはいつも通りだけど、私たちにはそれなりには情けというものをかけてくれていたような気がする。
でも、父様がリーズと話し合いをした後に、ちょっと森の方に見に行ってみたけど、それはひどい有り様だった。学園は消し飛ばなかったけど、そうなってもおかしくないような状態だった。
そんなある日、学園長に呼び出された。本人じゃないというのは分かっていても、真の厄災が化けていた存在なので、一人で会うのは怖くて、リーズと一緒に会いに行った。どうやら、リーズも呼ばれていたみたいだから、ちょうど良かったのかもしれない。
「カオル・メレスティリアです」
「入りなさい」
中から声が聞こえたので、そっとドアを開けて入ると、そこにはルーフェミア様、セレスティーナ様、ナルミス様がいる。
「あの……ここにはなんで……」
「対抗戦の件ですね。なるべくカオルさんの要望は通したかったのですが、あなた以上に優秀な方がリーズさんしか見当たらなかったものですから……」
「私はまだ出るとは言ってねぇぞ」
あらかじめ話があったのか、リーズは事情をある程度は知っているらしい。
そう言って、リーズはソファに座る。
「あなたが出ようが出まいが、カオルさんが対抗戦に出ることになるのは変わらないですよ?」
「カオルがはっきりと嫌だって言ってただろうが。意地でも通せよ」
不満げにリーズが訴えると、学園長は首をかしげる。
「それなら、リーズさんが直接仰られますか?」
学園長の質問に、リーズがため息混じりで答える。
「何言ってるんだ。とっくに言ってる」
「聞いてくれないでしょう?」
「いや、お前が了承してくれたらかまわないという言質ならとってきた」
学園長に対してお前という言い方はちょっとまずいと思うんだけど……。そう思いながらも、私が言ったところで聞き流すのは目に見えている。リーズは誰に対してもこうだ。気に入っている人物でなければ、名前も呼ばない。
私とレティア神以外に名前を呼んでいるのを見たことがない。
「……その人の名前って分かりますか?」
「ゼストって言ってたかな」
「……私の記憶に間違いがなければ、その人が一番あなた方を出場させようと躍起になっていたと思うのですが」
「あぁ。だから、ちょっと話し合いに行ってきただけだ」
リーズはニコニコしながら答える。
その話し合いが、平和なものじゃないような気がするのは、私の気のせいかな。
「それなら、別に出場しなくても構いませんよ。あの人がうるさいので声をかけただけですから……」
「じゃあやめるか。カオル」
「う、うん……」
別に、そこまでして出たくなかった訳ではないんだけど……。
でも、今のリーズにそんな事を言う勇気は、今の私にはなかった。
ーーーーーーーーーーーーーー
リーズとルーフェミア様と一緒に、クラウド様のお屋敷に戻った。その時、母様が出迎えてくれる。
そして、いつものように抱きついてきたけど、その顔は、ちょっと寂しそうだった。
「母様。どうしたのですか?」
「対抗戦に出ないって聞いたけど、本当?」
「えっ!?なんで母様が知ってるの?」
「精霊達が教えてくれたんですよ~。死んでも精霊達との繋がりがなくなった訳ではないですもの」
母様がニコニコしながらそんな事を言う。
私が精霊達の方を見ると、ごめんというような素振りをしてくる。……これは、私達の事を監視していたというのかな。ちょっと怖いような気もするけど、母様や父様が私達に過保護なのはいつもの事だ。……私だけかもしれないけど。現に、私だけを膝の上に乗せている。リーズは、可愛がられてはいるんだろうけど、私よりは放置ぎみという感じだった。私に戦う能力がないからなのだろうか?
「で、それがどうしたんだよ」
私も気になっていた事を、リーズが聞いてくれる。
「ラクエルシェンドに行くなら、一緒に行きたかったなぁって思いまして」
「……はぁ?」
しばらく間をおいて、リーズがそんな声をあげる。それも無理はない。対抗戦についていけるのは、当然ながら引率の教師だけ。部外者である母様はついていく事が出来ない。
母様も、それは分かっているはずなんだけど……
「あの……母様。対抗戦には、教師しかついていけませんよ……?」
「それじゃあ、教師になればいいんですね!」
名案だという風にそう言った母様に驚いたのは、クラウド様達の方だった。
「いやいや!そんな簡単にはなれませんよ!特に、あの学園は他の学園とも比べてトップクラスの名門ですから、簡単には教師の試験には受かりません。それに、聖女であったあなたが何か教えられる事があるのですか?」
クラウド様の言っている事が全部正しい。ずっとここで暮らしていると、ある程度は常識というものが身についてくる。
あの学園が、他の学園よりも、レベルというものが高いのは理解しているし、聖女の母様が教えられる事なんて、聖属性の魔法についてくらいしかなさそう。聖属性は希少だから、そんな何人もはいないだろう。
「それなら、精霊術士としてなら問題ありませんよね?」
「マリア様は、精霊術もお使いになるのですか!?」
「あれ?言ってませんでしたか?私も虹の加護を持っていますから。あと、レティア神の加護も」
「「「レティア神の加護!?」」」
「母様も虹の加護を持ってるんですか!?」
クラウド様、オーヴェ様、レナード様は、レティア神の加護の方に驚いているけど、私が驚いていたのは、母様も虹の加護を持っている事だった。
よく考えてみれば、父様はもちろんの事、母様も見えていた。母様は聖女とはいえ、普通の人間なんだから、加護を貰わないと精霊は見えないはずなのに。
聖女だから見えていたに決まっていると決めついていたのかもしれない。
「そうですよー。魔獣はガーノルドが倒してくれましたので、精霊術を使う機会はほとんどなくて、精霊を見るだけでしたけどね」
「それよりも……レティア神の加護というのは……?」
クラウド様達は、そちらのほうが気になったみたい。手を上げて聞いている。
「ああ、それは、聖女に与えられる加護でして、聖属性魔法の強化と、名を与えた精霊の力を強化します。私は誰にも名は与えていませんので、あってもなくても変わらなかったでしょうけど」
「与えたとしても、母上の頭脳じゃ覚えきれないだろ」
「否定できませんね」
リーズのからかいに、母様は真剣な表情で答えた。
そんな母様に、父様が呆れるような視線を向ける。
「いや、否定できるようにしろ」
「私は、カオルちゃんとリーズちゃんの事以外に脳のスペースを空けるつもりはありません!」
……あれ?父様が入ってないような……?父様は、気にしている様子はなさそうだけど……
「とりあえず、今からでも教師にしてもらえるように頼んできてみます!」
「いや、だから……」
クラウド様が止めようとするけど、母様は決めたらすぐに実行する人だ。止めても聞かない。
母様はそのまま走り去ってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーー
数十分後、私がルーフェミア様とお茶を飲んでいると、母様が帰ってきた。
「採用になりました!」
「「ええっ!?」」
嬉しそうに話す母様に、私とリーズが驚きの声をあげる。
「ほら!行きましょう!ラクエルシェンドに!」
「え、ええ……」
もう行く事が決まっているような言い方に、思わず困惑してしまう。母様が教師になれただけでも驚きなのに、ラクエルシェンドに行く気まんまんだから。
母様は死んだ事になっているはずなので、そこで知り合いに会ってしまったら、驚かれるだけではすまないんじゃないだろうか。それよりも、ラクエルシェンドに行くとなると、私は叔父様が心配だ。私は母様と瓜二つだから、気づかれるだろうし、だからって顔を隠したら、一緒についていく人に怪しまれるだろうし……難しい。
「ガーノルドも行きましょう?」
「いや、俺は寄る所があるから、先に行っててくれ」
「そうですかぁ……」
母様は残念そうにそう言うけど、それよりも私達が驚いた事は別にあった。
「父上が母上の誘いを断ったなんて、初めてじゃないか?」
リーズは、私に耳打ちで聞いてくる。
私も、同じように返事した。
「うん。明日は大雪どころか、血の雨でも降るんじゃないかな?」
「いやいや、父上の場合は、自力で降らせる方だろ。母上に近づく奴らには容赦なかったし」
「父様はそんな事はしないと思うけど……。さすがに人を殺した事はないと思うよ?」
「二人は俺の事をなんだと思っている」
内緒話が父様の耳には聞こえていたようで、ため息をつきながら聞いてくる。
「そうですよー!ガーノルドは人殺しなんてしませんよ!」
「だってさぁ、母上と父上が別行動した事なんてあったか?」
「う~んと……ない……ですね」
母様が少し目をそらしながらそう言うと、ほら見ろとばかりにリーズが母様を見る。
「俺だって別行動する時はするぞ。今回はアルダに呼ばれたからな」
「アルダ様に……ですか?」
「あいつに様をつける価値はない」
「どちらかといえばお前がつけるべきだろうが」
父様が冷たく言い放った時、どこにいたのか分からないけど、アルダ様が姿を現す。
「……なんだ?そのみすぼらしい姿は」
「お前の所の娘が邪気に弱いから、こんな姿になってやってるんだろうが!」
その言葉は私に刺さる……!アルダ様は、本来は普通の大人のような姿をしているらしいけど、それだと邪気が漏れてしまうので、私に気遣って子供の姿になってくれている。
「私は平気なんですけどね~。なんでカオルちゃんはダメなんでしょうか?」
「それはお前がレティアの加護を持ってるからだろ。邪気と瘴気には耐性が出来る」
「へぇ~、そうだったんですか~」
母様が感心したように頷いている。
知らなかったんだ……。もしかしたら、レティア神が私に加護を与えてこようとしたのも、私が邪気と瘴気に弱いからというのもあるのかもしれない。
「とりあえず、ガーノルドは借りていく。ガーノルド、ついてこい」
「仕方ないな」
めんどくさがりながらも、父様はアルダ様の方についていった。眷属なんだから、命令には従わないといけないと思うんだけど……。
やっぱり、父様にとっての一番は母様だけなんだろうか。
「さて、私達はラクエルシェンドに行く準備を~……」
「いや、母上がついてくるとは限らないし、そもそも私達は行くなんて言ってな──」
「私が行きたいんです連れていってくださぁあああぁああい!!」
私達がまだ渋っていると、今度は泣き落としを始めた。
それを見て、私達は慌てだした。父様が飛んできたらこの辺りが消し飛ぶ恐れがある。母様の涙にはそれだけ力があるのだ。
「分かった分かったよ!対抗戦に出ればいいんだろ!」
「そうですよ!出ますから泣き止んでください!」
「ほんと?ありがとー♪」
私達が出ると言った瞬間に、母様の涙は引っ込んだ。それどころか、ニコニコと笑いながら「伝えてきまーす」と言って部屋を出ていってしまった。
「はめやがったな……」
リーズが、隣でボソッと呟いた。
↓本編
父様と母様と一緒に暮らすようになって、数日が経った。母様は、家族第一が悪化しているような気がするけど、父様は全然変わらない。……いや、父様もちょっと変わったかも。母様への対応が、だけど。父様の母様第一がちょーっとだけ悪化しているような気がする。母様が泣いたら容赦がないのはいつも通りだけど、私たちにはそれなりには情けというものをかけてくれていたような気がする。
でも、父様がリーズと話し合いをした後に、ちょっと森の方に見に行ってみたけど、それはひどい有り様だった。学園は消し飛ばなかったけど、そうなってもおかしくないような状態だった。
そんなある日、学園長に呼び出された。本人じゃないというのは分かっていても、真の厄災が化けていた存在なので、一人で会うのは怖くて、リーズと一緒に会いに行った。どうやら、リーズも呼ばれていたみたいだから、ちょうど良かったのかもしれない。
「カオル・メレスティリアです」
「入りなさい」
中から声が聞こえたので、そっとドアを開けて入ると、そこにはルーフェミア様、セレスティーナ様、ナルミス様がいる。
「あの……ここにはなんで……」
「対抗戦の件ですね。なるべくカオルさんの要望は通したかったのですが、あなた以上に優秀な方がリーズさんしか見当たらなかったものですから……」
「私はまだ出るとは言ってねぇぞ」
あらかじめ話があったのか、リーズは事情をある程度は知っているらしい。
そう言って、リーズはソファに座る。
「あなたが出ようが出まいが、カオルさんが対抗戦に出ることになるのは変わらないですよ?」
「カオルがはっきりと嫌だって言ってただろうが。意地でも通せよ」
不満げにリーズが訴えると、学園長は首をかしげる。
「それなら、リーズさんが直接仰られますか?」
学園長の質問に、リーズがため息混じりで答える。
「何言ってるんだ。とっくに言ってる」
「聞いてくれないでしょう?」
「いや、お前が了承してくれたらかまわないという言質ならとってきた」
学園長に対してお前という言い方はちょっとまずいと思うんだけど……。そう思いながらも、私が言ったところで聞き流すのは目に見えている。リーズは誰に対してもこうだ。気に入っている人物でなければ、名前も呼ばない。
私とレティア神以外に名前を呼んでいるのを見たことがない。
「……その人の名前って分かりますか?」
「ゼストって言ってたかな」
「……私の記憶に間違いがなければ、その人が一番あなた方を出場させようと躍起になっていたと思うのですが」
「あぁ。だから、ちょっと話し合いに行ってきただけだ」
リーズはニコニコしながら答える。
その話し合いが、平和なものじゃないような気がするのは、私の気のせいかな。
「それなら、別に出場しなくても構いませんよ。あの人がうるさいので声をかけただけですから……」
「じゃあやめるか。カオル」
「う、うん……」
別に、そこまでして出たくなかった訳ではないんだけど……。
でも、今のリーズにそんな事を言う勇気は、今の私にはなかった。
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リーズとルーフェミア様と一緒に、クラウド様のお屋敷に戻った。その時、母様が出迎えてくれる。
そして、いつものように抱きついてきたけど、その顔は、ちょっと寂しそうだった。
「母様。どうしたのですか?」
「対抗戦に出ないって聞いたけど、本当?」
「えっ!?なんで母様が知ってるの?」
「精霊達が教えてくれたんですよ~。死んでも精霊達との繋がりがなくなった訳ではないですもの」
母様がニコニコしながらそんな事を言う。
私が精霊達の方を見ると、ごめんというような素振りをしてくる。……これは、私達の事を監視していたというのかな。ちょっと怖いような気もするけど、母様や父様が私達に過保護なのはいつもの事だ。……私だけかもしれないけど。現に、私だけを膝の上に乗せている。リーズは、可愛がられてはいるんだろうけど、私よりは放置ぎみという感じだった。私に戦う能力がないからなのだろうか?
「で、それがどうしたんだよ」
私も気になっていた事を、リーズが聞いてくれる。
「ラクエルシェンドに行くなら、一緒に行きたかったなぁって思いまして」
「……はぁ?」
しばらく間をおいて、リーズがそんな声をあげる。それも無理はない。対抗戦についていけるのは、当然ながら引率の教師だけ。部外者である母様はついていく事が出来ない。
母様も、それは分かっているはずなんだけど……
「あの……母様。対抗戦には、教師しかついていけませんよ……?」
「それじゃあ、教師になればいいんですね!」
名案だという風にそう言った母様に驚いたのは、クラウド様達の方だった。
「いやいや!そんな簡単にはなれませんよ!特に、あの学園は他の学園とも比べてトップクラスの名門ですから、簡単には教師の試験には受かりません。それに、聖女であったあなたが何か教えられる事があるのですか?」
クラウド様の言っている事が全部正しい。ずっとここで暮らしていると、ある程度は常識というものが身についてくる。
あの学園が、他の学園よりも、レベルというものが高いのは理解しているし、聖女の母様が教えられる事なんて、聖属性の魔法についてくらいしかなさそう。聖属性は希少だから、そんな何人もはいないだろう。
「それなら、精霊術士としてなら問題ありませんよね?」
「マリア様は、精霊術もお使いになるのですか!?」
「あれ?言ってませんでしたか?私も虹の加護を持っていますから。あと、レティア神の加護も」
「「「レティア神の加護!?」」」
「母様も虹の加護を持ってるんですか!?」
クラウド様、オーヴェ様、レナード様は、レティア神の加護の方に驚いているけど、私が驚いていたのは、母様も虹の加護を持っている事だった。
よく考えてみれば、父様はもちろんの事、母様も見えていた。母様は聖女とはいえ、普通の人間なんだから、加護を貰わないと精霊は見えないはずなのに。
聖女だから見えていたに決まっていると決めついていたのかもしれない。
「そうですよー。魔獣はガーノルドが倒してくれましたので、精霊術を使う機会はほとんどなくて、精霊を見るだけでしたけどね」
「それよりも……レティア神の加護というのは……?」
クラウド様達は、そちらのほうが気になったみたい。手を上げて聞いている。
「ああ、それは、聖女に与えられる加護でして、聖属性魔法の強化と、名を与えた精霊の力を強化します。私は誰にも名は与えていませんので、あってもなくても変わらなかったでしょうけど」
「与えたとしても、母上の頭脳じゃ覚えきれないだろ」
「否定できませんね」
リーズのからかいに、母様は真剣な表情で答えた。
そんな母様に、父様が呆れるような視線を向ける。
「いや、否定できるようにしろ」
「私は、カオルちゃんとリーズちゃんの事以外に脳のスペースを空けるつもりはありません!」
……あれ?父様が入ってないような……?父様は、気にしている様子はなさそうだけど……
「とりあえず、今からでも教師にしてもらえるように頼んできてみます!」
「いや、だから……」
クラウド様が止めようとするけど、母様は決めたらすぐに実行する人だ。止めても聞かない。
母様はそのまま走り去ってしまった。
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数十分後、私がルーフェミア様とお茶を飲んでいると、母様が帰ってきた。
「採用になりました!」
「「ええっ!?」」
嬉しそうに話す母様に、私とリーズが驚きの声をあげる。
「ほら!行きましょう!ラクエルシェンドに!」
「え、ええ……」
もう行く事が決まっているような言い方に、思わず困惑してしまう。母様が教師になれただけでも驚きなのに、ラクエルシェンドに行く気まんまんだから。
母様は死んだ事になっているはずなので、そこで知り合いに会ってしまったら、驚かれるだけではすまないんじゃないだろうか。それよりも、ラクエルシェンドに行くとなると、私は叔父様が心配だ。私は母様と瓜二つだから、気づかれるだろうし、だからって顔を隠したら、一緒についていく人に怪しまれるだろうし……難しい。
「ガーノルドも行きましょう?」
「いや、俺は寄る所があるから、先に行っててくれ」
「そうですかぁ……」
母様は残念そうにそう言うけど、それよりも私達が驚いた事は別にあった。
「父上が母上の誘いを断ったなんて、初めてじゃないか?」
リーズは、私に耳打ちで聞いてくる。
私も、同じように返事した。
「うん。明日は大雪どころか、血の雨でも降るんじゃないかな?」
「いやいや、父上の場合は、自力で降らせる方だろ。母上に近づく奴らには容赦なかったし」
「父様はそんな事はしないと思うけど……。さすがに人を殺した事はないと思うよ?」
「二人は俺の事をなんだと思っている」
内緒話が父様の耳には聞こえていたようで、ため息をつきながら聞いてくる。
「そうですよー!ガーノルドは人殺しなんてしませんよ!」
「だってさぁ、母上と父上が別行動した事なんてあったか?」
「う~んと……ない……ですね」
母様が少し目をそらしながらそう言うと、ほら見ろとばかりにリーズが母様を見る。
「俺だって別行動する時はするぞ。今回はアルダに呼ばれたからな」
「アルダ様に……ですか?」
「あいつに様をつける価値はない」
「どちらかといえばお前がつけるべきだろうが」
父様が冷たく言い放った時、どこにいたのか分からないけど、アルダ様が姿を現す。
「……なんだ?そのみすぼらしい姿は」
「お前の所の娘が邪気に弱いから、こんな姿になってやってるんだろうが!」
その言葉は私に刺さる……!アルダ様は、本来は普通の大人のような姿をしているらしいけど、それだと邪気が漏れてしまうので、私に気遣って子供の姿になってくれている。
「私は平気なんですけどね~。なんでカオルちゃんはダメなんでしょうか?」
「それはお前がレティアの加護を持ってるからだろ。邪気と瘴気には耐性が出来る」
「へぇ~、そうだったんですか~」
母様が感心したように頷いている。
知らなかったんだ……。もしかしたら、レティア神が私に加護を与えてこようとしたのも、私が邪気と瘴気に弱いからというのもあるのかもしれない。
「とりあえず、ガーノルドは借りていく。ガーノルド、ついてこい」
「仕方ないな」
めんどくさがりながらも、父様はアルダ様の方についていった。眷属なんだから、命令には従わないといけないと思うんだけど……。
やっぱり、父様にとっての一番は母様だけなんだろうか。
「さて、私達はラクエルシェンドに行く準備を~……」
「いや、母上がついてくるとは限らないし、そもそも私達は行くなんて言ってな──」
「私が行きたいんです連れていってくださぁあああぁああい!!」
私達がまだ渋っていると、今度は泣き落としを始めた。
それを見て、私達は慌てだした。父様が飛んできたらこの辺りが消し飛ぶ恐れがある。母様の涙にはそれだけ力があるのだ。
「分かった分かったよ!対抗戦に出ればいいんだろ!」
「そうですよ!出ますから泣き止んでください!」
「ほんと?ありがとー♪」
私達が出ると言った瞬間に、母様の涙は引っ込んだ。それどころか、ニコニコと笑いながら「伝えてきまーす」と言って部屋を出ていってしまった。
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リーズが、隣でボソッと呟いた。
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