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第四章 隣国の少女達
第97話 マリアの企み 1
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お城を出て、マリアはカオルとリーズに宿に戻っているように指示を出した。
「私は用事がありますから、先に帰っていてくださいね」
「……先生を一人にするのは不安しか残らないんですけど」
リーズが、何かを疑うような視線を向けてくる。
実の母親ではあるが、今は生徒と教師という間柄。寂しい気持ちはあるけれど、リーズの接し方の方が正しい事は分かっている。
少し違和感を感じる事は内緒だが。
「大丈夫ですよ。ちょっと神殿の方に遊びに行くだけですから」
「余計にダメですよ!かあ……マリア先生は……」
カオルが不安そうに話しかけてきた。それもそのはず。
マリアは元は神殿に所属していた聖女。今でこそ立場を追われているが、神殿には顔見知りもいる。そんな場所に飛び込んで、無事に済む訳がない。
それはマリアも理解していた。だからこそ、娘達を連れて行きたくはなかった。
娘達の顔つきは、マリアと瓜二つだ。リーズの性格や纏っている雰囲気こそは夫であるガーノルドに似ているものの、それ以外はすべてマリアに似ている。
もし二人の存在が公になる事があろうものなら、リーズの方はともかく、カオルは確実に神殿に狙われるだろう。
一度、そのような事があった。このラクエルシェンドでも起こりかねないというか、この国の方がそのような事は起こりやすそうだ。
敵の本拠地みたいな場所に乗り込もうなんて、よほどの腕の持ち主でなければ、頭がおかしくなったと思われる事だろう。
「ちゃーんと考えがありますから!では、カオルちゃん達を頼みましたよ」
マリアは、周りを飛んでいる精霊に小声で話しかける。
「ハーイ。カオルサマ、リーズサマ、ヤド、イク」
少したどたどしい言葉遣いで、小さい体ながらもカオル達の事を押している。
カオルとリーズはまだ納得していないようだったが、精霊は何百どころか、何千もいる。どんなに非力でも、そんな数で力いっぱい押されてしまえば敵わない。
特に、風の精霊は風の力で力をかさ増ししているのだからなおさらだ。
「さて、久しぶりの友人にご挨拶に行きましょうか」
マリアは、カオルとリーズを見送った後、神殿へと歩みを進めた。
ーーーーーーーーーーーーーー
神殿で、レティア神へと祈りを捧げている少女がいた。
その子は、美しい白金の髪を持ち、海のように深い青い瞳を持っていた。
「聖女様」
「枢機卿様……」
聖女と呼ばれた少女が振り返ると、そこには枢機卿がいる。
今の時間帯、枢機卿は教皇様の元にいるはずだが、なぜこんなところにいるのだろうか。
そう思って、聖女はじっと枢機卿を見つめる。
「力の発現はどうでしょうか」
「まだ……みたいです。レティア神とはなかなか繋がりません。これでは、神託を聞くのもままなりませんね」
聖女の仕事としては、魔物の出没場所の浄化や、魔憑きの症状の緩和などが主な仕事だが、レティア神からの神託を受け取るというのも重要な仕事だった。
(そもそも……私はレティア神からの加護をいただけていないのに……)
聖女になる条件として、レティア神の加護を持っていることが一番にあげられる。
もちろん、加護を持っていない存在が聖女となった前例はあるものの、加護をもらって、初めてレティア神から聖女として認められたということになるのだ。
彼女は、あくまでも祝福をもらっただけで、加護は賜っていない。そんな自分が聖女として担ぎ上げられるのに、日々疑問が募っていた。
「焦りは禁物です。日々祈りを重ねれば、きっとレティア神はーー」
「枢機卿!失礼します!」
枢機卿が聖女と話していると、突然大きな音を立てて、枢機卿を呼ぶ声がする。
枢機卿は眉をひそめながら、その声の持ち主を見た。
「騒々しいですよ。ここは神聖な神殿の中でもさらに神聖な祈祷の場。それに繋がる扉を乱暴に開けるだけではなく、大声を出すなど……」
「も、申し訳ございません。で、ですが、枢機卿にお目通り願いたいと申される方が……」
枢機卿は、その言葉に疑問を持った。
自分は枢機卿という立場。国の重鎮と言っても過言ではない自分に、会いたいという人物は決して少なくない。なので、枢機卿は決して人物の訪問に驚いている訳ではなかった。
理由は、気軽に会える立場でない自分なので、大抵の人物は門前払いだ。だが、神官の一人が伝えに来たという事は、そう簡単には追い返せないような人物。向こうもそれなりの立場であるという事だ。
だが、そんな人物が果たしてどんな理由で自分に会いに来たのか?枢機卿はそれが分からなかった。
「どなたですか」
「そ、それが……」
「私ですよ~」
その声に気づいた枢機卿が声のする方を見ると、そこには数年前まで何度も目にした存在が立っている。
あり得ない。枢機卿は、心の中で何度も呟いた。
そこには、死んだと報告を受けた存在が、何事もなかったかのように突っ立っているのだから。
「お久しぶりですね~、シューくん」
「い、入り口で待っていてくださいと……!」
自分との約束を取りつけようとした神官男は、枢機卿の事をシューくんと呼んでおきながら、そこには触れずに、勝手にここまで来た事に焦っているようだ。
そんな神官の心境に気づいていないのか、彼女はニコニコしながら答える。
「だって、なかなか迎えに来てくれないものですから」
「まだ数分しか経っていないじゃないですか……。私のような立場ですと、簡単には取りつけられないんですよ!」
「いや、彼女であれば問題ない。ただちに防音の応接室にご案内するように」
「えっ……あっ、はい!かしこまりました!」
枢機卿が事前の約束もない客人を迎え入れた事には戸惑いながらも、神官の男は言われたように応接室に案内する。
彼女は相変わらず笑みを絶やす事なくついていった。
「あ、あの……枢機卿様。彼女は……?」
置いてけぼりになっていた聖女が、枢機卿に恐る恐る尋ねる。
枢機卿は、少しだけため息をついて答えた。
「あなたが知る必要はありません。私は席を外しますので、聖女様は祈りの続きを。お邪魔いたしました」
「い、いえ……。またお越しください……」
いつもの枢機卿とは違う様子に少し戸惑いながらも、その場を立ち去る枢機卿を見送った。
「私は用事がありますから、先に帰っていてくださいね」
「……先生を一人にするのは不安しか残らないんですけど」
リーズが、何かを疑うような視線を向けてくる。
実の母親ではあるが、今は生徒と教師という間柄。寂しい気持ちはあるけれど、リーズの接し方の方が正しい事は分かっている。
少し違和感を感じる事は内緒だが。
「大丈夫ですよ。ちょっと神殿の方に遊びに行くだけですから」
「余計にダメですよ!かあ……マリア先生は……」
カオルが不安そうに話しかけてきた。それもそのはず。
マリアは元は神殿に所属していた聖女。今でこそ立場を追われているが、神殿には顔見知りもいる。そんな場所に飛び込んで、無事に済む訳がない。
それはマリアも理解していた。だからこそ、娘達を連れて行きたくはなかった。
娘達の顔つきは、マリアと瓜二つだ。リーズの性格や纏っている雰囲気こそは夫であるガーノルドに似ているものの、それ以外はすべてマリアに似ている。
もし二人の存在が公になる事があろうものなら、リーズの方はともかく、カオルは確実に神殿に狙われるだろう。
一度、そのような事があった。このラクエルシェンドでも起こりかねないというか、この国の方がそのような事は起こりやすそうだ。
敵の本拠地みたいな場所に乗り込もうなんて、よほどの腕の持ち主でなければ、頭がおかしくなったと思われる事だろう。
「ちゃーんと考えがありますから!では、カオルちゃん達を頼みましたよ」
マリアは、周りを飛んでいる精霊に小声で話しかける。
「ハーイ。カオルサマ、リーズサマ、ヤド、イク」
少したどたどしい言葉遣いで、小さい体ながらもカオル達の事を押している。
カオルとリーズはまだ納得していないようだったが、精霊は何百どころか、何千もいる。どんなに非力でも、そんな数で力いっぱい押されてしまえば敵わない。
特に、風の精霊は風の力で力をかさ増ししているのだからなおさらだ。
「さて、久しぶりの友人にご挨拶に行きましょうか」
マリアは、カオルとリーズを見送った後、神殿へと歩みを進めた。
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神殿で、レティア神へと祈りを捧げている少女がいた。
その子は、美しい白金の髪を持ち、海のように深い青い瞳を持っていた。
「聖女様」
「枢機卿様……」
聖女と呼ばれた少女が振り返ると、そこには枢機卿がいる。
今の時間帯、枢機卿は教皇様の元にいるはずだが、なぜこんなところにいるのだろうか。
そう思って、聖女はじっと枢機卿を見つめる。
「力の発現はどうでしょうか」
「まだ……みたいです。レティア神とはなかなか繋がりません。これでは、神託を聞くのもままなりませんね」
聖女の仕事としては、魔物の出没場所の浄化や、魔憑きの症状の緩和などが主な仕事だが、レティア神からの神託を受け取るというのも重要な仕事だった。
(そもそも……私はレティア神からの加護をいただけていないのに……)
聖女になる条件として、レティア神の加護を持っていることが一番にあげられる。
もちろん、加護を持っていない存在が聖女となった前例はあるものの、加護をもらって、初めてレティア神から聖女として認められたということになるのだ。
彼女は、あくまでも祝福をもらっただけで、加護は賜っていない。そんな自分が聖女として担ぎ上げられるのに、日々疑問が募っていた。
「焦りは禁物です。日々祈りを重ねれば、きっとレティア神はーー」
「枢機卿!失礼します!」
枢機卿が聖女と話していると、突然大きな音を立てて、枢機卿を呼ぶ声がする。
枢機卿は眉をひそめながら、その声の持ち主を見た。
「騒々しいですよ。ここは神聖な神殿の中でもさらに神聖な祈祷の場。それに繋がる扉を乱暴に開けるだけではなく、大声を出すなど……」
「も、申し訳ございません。で、ですが、枢機卿にお目通り願いたいと申される方が……」
枢機卿は、その言葉に疑問を持った。
自分は枢機卿という立場。国の重鎮と言っても過言ではない自分に、会いたいという人物は決して少なくない。なので、枢機卿は決して人物の訪問に驚いている訳ではなかった。
理由は、気軽に会える立場でない自分なので、大抵の人物は門前払いだ。だが、神官の一人が伝えに来たという事は、そう簡単には追い返せないような人物。向こうもそれなりの立場であるという事だ。
だが、そんな人物が果たしてどんな理由で自分に会いに来たのか?枢機卿はそれが分からなかった。
「どなたですか」
「そ、それが……」
「私ですよ~」
その声に気づいた枢機卿が声のする方を見ると、そこには数年前まで何度も目にした存在が立っている。
あり得ない。枢機卿は、心の中で何度も呟いた。
そこには、死んだと報告を受けた存在が、何事もなかったかのように突っ立っているのだから。
「お久しぶりですね~、シューくん」
「い、入り口で待っていてくださいと……!」
自分との約束を取りつけようとした神官男は、枢機卿の事をシューくんと呼んでおきながら、そこには触れずに、勝手にここまで来た事に焦っているようだ。
そんな神官の心境に気づいていないのか、彼女はニコニコしながら答える。
「だって、なかなか迎えに来てくれないものですから」
「まだ数分しか経っていないじゃないですか……。私のような立場ですと、簡単には取りつけられないんですよ!」
「いや、彼女であれば問題ない。ただちに防音の応接室にご案内するように」
「えっ……あっ、はい!かしこまりました!」
枢機卿が事前の約束もない客人を迎え入れた事には戸惑いながらも、神官の男は言われたように応接室に案内する。
彼女は相変わらず笑みを絶やす事なくついていった。
「あ、あの……枢機卿様。彼女は……?」
置いてけぼりになっていた聖女が、枢機卿に恐る恐る尋ねる。
枢機卿は、少しだけため息をついて答えた。
「あなたが知る必要はありません。私は席を外しますので、聖女様は祈りの続きを。お邪魔いたしました」
「い、いえ……。またお越しください……」
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