聖女と邪龍の娘

りーさん

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第四章 隣国の少女達

第98話 マリアの企み 2

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 枢機卿は案内するように指示した応接室に向かう。
 そこには、優雅に紅茶を飲んでいる女性がいた。

(この方は、何も変わっていないな)

 そう思いながらも、その事をとやかくは言わずに、枢機卿は彼女の向かい側に座る。

「あなたがなぜ生きているのかは問いません。なぜここに来たのかお聞かせいただいても?」
「実はですね、真の厄災が完全復活を遂げようとしているのです」
「なんと……!まだ聖女の力も覚醒していないというのに……!」

 マリアの発言を疑う事はなかった。
 彼女の自分勝手な性格はあまり好まなかったが、聖女としての腕や実績は確か。
 そんな彼女の言う事ならば、信憑性は充分にあるからだ。

「ある程度は私が止められるでしょう。ですが、それも時間稼ぎにしかならない。ですので、私が知る限りの戦力をぶつけようかと」
「知る限り……となると、まさか、邪龍を……」

 枢機卿は、これ見よがしに嫌悪感を見せつける。
 邪龍は、自分にとっては悪の象徴のしもべなのだ。良い印象を持てという方が無理がある。

「ええ。ガーノルドも当然。私とガーノルドはちょっとやそっとでは死にませんからね」
「真の厄災に邪龍をぶつけると言うのですか!裏切られでもしたら……!」
「それはないと思いますよ。ガーノルドの主である東の邪神は真の厄災を嫌っているようですからね。それに……」
「それに……?」

 枢機卿が聞き返すと、マリアはニッコリと不気味な笑みを浮かべる。

「ガーノルドは裏切らせませんから!」
「そ、そうですか……」

 マリアの様子に、枢機卿はそう言う事しか出来なかった。

「では、そんな訳ですので、枢機卿様に一つ頼み事を」
「頼み事……?」

ーーーーーーーーーーーーーー

 神殿から出てきたマリアは、一仕事を終えたとばかりにため息をつく。

「いや~、あの驚愕の表情は見物だったわね~。ガーノルドにも見せてあげたかったわ!」

 わざと驚かせるために紹介状を持たずして会いに行った。これで少しは意趣返しが出来ただろう。
 シュトルベンは、神殿が絶対という考え方があるため、マリアと考えは合わない。
 だが、それは正反対の存在である邪神や邪龍を敵視しているという事だ。もちろん、その筆頭である真の厄災、ロードライトもだろう。
 マリアはそれを利用した。今にも真の厄災が完全復活する。そう囁けば、枢機卿が動かないはずはない。
 適当な事を囁いて誘導するのは、下の立場の者には少し申し訳ないなと思いながらも、あながち嘘でもないので構わないだろうとも思っていた。
 神殿が動けばその神殿を重要視する神聖国であるラクエルシェンドも無視出来ない。
 そうなれば、当然ながら学園も。
 そして、その作戦は成功する事となる。
 神殿が真の厄災が復活すると大々的に広めたお陰で、そんな状態で対抗戦を開催する訳にはいかないという事になり中止となった。
 これで、真の厄災が復活するかもという事になれば、ここの住民は家で引きこもるだろう。巻き込まれる者も減るはずだ。
 ここまでは予想通り。問題は、この不安感をロードライトやロードライト側の邪神に利用されないかという問題だった。
 あれは人の負の感情を糧とする。不安感を煽れば煽るほど出てくる可能性は高いが、自分がいるところにのこのこ出てくるとは思わない。

「マリアサマ!」

 不意に、近くにいる精霊が話しかけてくる。
 マリアは、周囲を軽く見渡すが、特に見られているわけでもなさそうなので、精霊達と会話する。

「どうしたの?」
「コッチ!ガーノルドサマ!」
「アルダサマモ!」

 ガーノルドとアルダが来ていると知り、マリアは精霊達についていく。
 被っているフードはいつもよりも深く被っていた。
 路地裏の方に行くと、そこに二つの人影がある。
 二人とも少年のような姿をしている。

「アルダはともかく、ガーノルドまで子どもの姿をしているのは珍しいわね」
「ここは神聖国だからな。この姿の方が都合が良い」
「それで、ここに来た理由は?ガーノルドはともかく、アルダまで……と、なると……」
「ロードライトが本格的に動き出すようだ。狙いはお前の娘達だぞ」

 予想はしていた事だったが、いざそれを聞くと、マリアの目が冷たくなる。
 動き出す事は予想していた。カオルの浄化によってダメージを負っていたとはいえ、あれではあいつにとってはかすり傷。少し休めば回復しているに違いない。
 でも、思ったよりも早かった。もう少し様子を見ると思ったのだが、そうではなかったらしい。

「娘達の所に向かうわ。早くーー」

 娘達がいる宿に向かおうとした時、不意に上空から殺気を感じて、結界を張る。
 結界に攻撃がぶつかり、バチバチと電流が走る。
 その攻撃が晴れたときに、目の前に一人の少女が立っていた。

「あら、ここはあなたの管轄外では?」

 マリアはその人物に余裕そうな笑みを浮かべる。

「それなら大丈夫。あの方直々のご許可よ」

 少女はそう言いながら、一歩、また一歩と近づいてくる。その少女の雰囲気は、明らかに一般人のものではない。

「ロードライトは何をしようとしているのかしら?」
「私は知らないわ。それに、知っていたとしても、あなたに教える義理はないわね」
「それもそうね。そして、私に何の用かしら?」
「そうね。言うなら……」

 そう言いながら、周囲に黒い霧を発生させる。

「あなたを行かせる訳にはいかないって所かしら?」
「あら、そう。なら、力ずくでも通るだけよ!」
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