私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん

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第三章 地方視察

140.

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 結局、湖の件は解決とは言わないまま中途半端な形で終わって、屋敷に戻ることになった。エルクトお兄さまによると、湖が枯れた原因について人的なものの可能性が出てきているため、正式に調査隊が派遣されることになるのではとの話で、私たちの調査はまったくの無意味というわけではなかったけど。

 エルクトお兄さまはことの顛末を他の兄姉たちに話しに行っているらしい。私はというと、約束通りハーステッドお兄さまの部屋を訪ねていた。

 ハーステッドお兄さまはお茶の用意をして私を待っていた。
 でも、なぜかルーカディルお兄さまも一緒にいる。一体なぜ?

「それで、調査は満足した?」
「まぁ、おおよそは」

 どうせなら解決したかったけど、それはできる人に任せるしかない。私は、堕ちた神器のことだけ頭に入れておこう。神器たちがしつこいから関わりにはいかないつもりだけど、普段から気をつけていないと、気づいたら巻き込まれてましたなんてことになりかねない。
 私は大丈夫だったとしても、エルクトお兄さまが危ないパターンもある。まだリルディナーツさまの言っていた因果というものはよくわかっていないけど。

「それで、ハーステッドお兄さまの力について話してくれるって聞いたんですけど……」

 私はルーカディルお兄さまのほうに視線を向けてしまう。
 わざわざ部屋に訪ねてくるように言っていたから、てっきり私だけにこっそり教えてくれるのかなと思ってたのに、ルーカディルお兄さまもいたから。

「僕のことを話すならルーカディルもいたほうがいいかと思って」
「えっ、どうしてですか?」

 ハーステッドお兄さまの力とルーカディルお兄さまの関係性がわからない。

「それは今から話すから」
「……わかりました」

 私が頷くと、ハーステッドお兄さまはお茶を一口飲んで、軽く息をつく。

「まず、僕の目について話そうか。見たほうが早いと思うからちょっと待ってね」

 ハーステッドお兄さまがそう言うと、ハーステッドお兄さまの左目が発光する。心なしか、色合いもオレンジ色が混ざったような不思議な色をしている。
 まるで宝石のような、炎みたいな。とてもきれいだ。

「これは『魔眼』って言うんだ」

 ハーステッドお兄さまは説明を続ける。『魔眼』というのは、オーラというものを見ることができるらしい。

 オーラというのは、もやのようなもので、ハーステッドお兄さまも詳しくは知らない。でも、そのオーラを見て何か異常がないかを見ることができるとのこと。
 主に、邪悪なものを見るものだそうだ。邪悪なものは黒いもやのようなものが見えるらしい。

「僕のこの力は母上から受け継がれたもので、母上が嫁ぐ理由にもなったんだ」
「えっ、そうなんですか?」

 ハーステッドお兄さまの母親は、第二妃のアリリシアさま。リカルド先生の授業によると、アリリシアさまは、レニシェン王国のお隣である、ベリル王国という名前の小国の王女さまだったらしい。
 ベリル王国の国土はレニシェン王国の半分もないらしく、レニシェン王国の半属国のような立ち位置なのだという。

 そのベリル王国では赤が高貴な色とされているらしく、ベリルという名前も古代語で『赤』を意味する。
 国民も赤い髪や瞳をしていることが多く、特に瞳はベリル王国固有のものだそうで、赤い瞳をしていればベリル王国にルーツがあるのだとか。

 カイエンの朱色の瞳もリベル王国由来のものなのだろう。ルージアも赤い瞳をしていたから、カイエンだけというよりは、フォークマー伯爵家がベリル王国と関わりがあるんだろうな。

「この魔眼の力はベリル王国の王家ーールヴィニール家に受け継がれているもので、母上も使えるらしいよ」
「それなら、エルクトお兄さまも?」
「いや、ベリルの赤い瞳を受け継いでいてないと使えないから、兄上は使えないんじゃないかな。そういう話も聞いたことないし」

 エルクトお兄さまはアルウェルト王家の金の瞳だもんね。
 そう納得しかけたとき、ハーステッドお兄さまが「でも」と呟く。

「なんとなく感じ取るくらいはできる気がするけどね。兄上はそういうのに敏感だし」
「そ、そうですね……」

 さすがは兄弟最強のエルクトお兄さま。ただでは転ばない。エルクトお兄さまは領主のことを無能扱いしていたけど、それはハーステッドお兄さまが見たものの気配を感じ取っていたからかもしれないね。

「魔眼の力はほとんどが男に受け継がれるもので、女が受け継ぐのは稀なんだ。それもあって母上がレニシェンに嫁ぐことができたし、嫁ぐ理由にもなったってわけ」

 ハーステッドお兄さまの言葉に私は首をかしげる。
 ベリル王国よりもレニシェン王国のほうが国としての力は上だから、魔眼のお陰で嫁ぐことができたというのはわかる。でも、それが嫁ぐ理由にもなったというのはどういう意味なんだろう。

「……帝国への、抑止力のためだ」

 私が理解できていないことが伝わったのか、ルーカディルお兄さまが説明してくれる。

「レニシェンと……ベリルの共通の隣国。軍事力も高く、レニシェンは問題ない……が、ベリルは違う」

 ふむふむ。つまり、魔眼の力を持つ王女を嫁がせることで、ベリル王国を帝国から守ってもらおうと考えたということか。
 レニシェン王国からしてみても、帝国との関係は良好とはいえないみたいだし、そのついでならくらいの感覚なのかもしれない。
 いや、国同士が関わる政略結婚ならもっと仰々しいものなんだろうけど、普段のお父さまやお妃さまを知っている身としては、本音はそんなところな感じがするんだよね。
 まだ魔眼の力の全貌はわからないけど、エルクトお兄さまが頼りにしているような感じはしたから、それなりに使い勝手のいい力なのだろう。それなら、レニシェン王国だけが不利益を被っているというわけではないのかも。ハーステッドお兄さまという新たな『魔眼』の持ち主を産んでいるしね。

 それはわかった……けど。

「それとルーカディルお兄さまと何の関係が……?」
「ルーカディルも似たような力を持ってるんだよ」

 ね、と同意を求めるような目を向けるハーステッドお兄さまに対して、ルーカディルお兄さまは小さく頷く。

「俺のは……『星の瞳』と呼ばれるもの。ハーステッドと同じで……オーラを見ることができる」

 星の瞳ってどういう意味だろう?私がこてんと首をかしげると、ルーカディルお兄さまの右目が輝きだす。すると、その瞳に五芒星のような紋様が浮かんだ。

「それは……ルルエンウィーラさまから……ですか?」

 私の言葉に、ルーカディルお兄さまはこくりと頷く。

「『星の瞳』は真実を見る……。だからこそ、すべてを見通す神の瞳とも……呼ばれている」

 神の瞳……それはすごそうだ。どういうようにして真実を見るのかはわからないけど、場合によっては神器と同等の力があるんじゃないかなと思ってると、脳内にペンダントの声が響いた。

『まぁ、真実を見抜く力を持つ神器はあるな』

 いや、あるんかい!それなら、本当に神の瞳そのものじゃないか。リルディナーツさまに会ったら詳しく聞いてみようかな。

「それじゃあ、ルルエンウィーラさまが嫁いだのもそれが理由なんですか?」
「それも……一つ」

 それも一つ?ということは、他にも理由があるということ?

「単純に国同士の利益だよ。ルルエンウィーラさまの故国は資源は豊富だけど軍事力に欠けた部分があったから、それを補うための政略結婚」

 私の表情を読み取られたのか、ハーステッドお兄さまが説明してくれる。
 どうやら、アリリシアさまとルルエンウィーラさまは似たような理由でお父さまの元に嫁いだらしい。
 お父さまは正妃であるシュリルカお母さまに恋愛感情を向けているわけではないし、お母さまも親愛以上の感情をお父さまに向けていないから、政略結婚の問題はなかったみたい。
 そういえば、シュリルカお母さまはどういう経緯でお父さまと結婚したのか知らないんだよな。地方視察から帰ったら聞いてみよう。兄姉たちに聞けば教えてくれそうだけど、こういうのは本人の口から聞けるほうがいいもんね。

「話を戻すけど、この目の力で領主の周りに変な黒いもやが見えたんだよ」
「もや……ですか」

 そういえば、黒かったってハーステッドお兄さまも言っていたし、エルクトお兄さまも、ハーステッドお兄さまが黒いものが見えたと言っていたからと領主のことを警戒していた。
 そこから考えると、『魔眼』にとって黒いものというのはよくないものであり、警戒対象になるのだろう。

「でも、魔力とは違うってことは、魔法ではないんですよね?」
「そう。そこがわからないんだよね~。ルーカディルは?僕の後にシルヴェルス兄上と一緒に会ったんでしょ?」

 あっ、そうなんだ。まぁ、私が知らなかっただけで、この二人の力は兄姉たちの間では周知の事実だったんだろうな。
 ハーステッドお兄さまではよくわからなかったから、ルーカディルお兄さまにも見てもらったのかもしれない。

「俺も……わからない。だが、あの領主は……嘘は、ついていなかった」

 領主は、知らないという発言からだんだんと知らないはずという曖昧な表現になっていったとハーステッドお兄さまは言っていた。それが真実ということは、そう思い込んでいるということだろう。
 魔法じゃない力となると……やっぱり神器かなぁ。ペンダントの言葉からすると心当たりがありそう。

『いや、そっちはわからない。僕が心当たりがあるって言ったのは、湖に落ちてた黒結晶のほうだけ』

 えっ?湖を枯れさせたのと領主に手を出したのは別の存在なの?湖のことを知らされたくないから領主に細工したのかなと思ってたんだけど……実はそうじゃない?

「……これ以上深入りすることはないよ。万が一のことがあっても、アナには自衛の手段がないんだから、下手に首を突っ込まないほうがいい。領主に手を出したのがどんな奴かわからないけど、友好的じゃないのは確かだから」

 いろいろと考え込んでいる私のことが気になったのか、ハーステッドお兄さまが忠告する。あのロニスニルでの一件以来、兄姉たちはちゃんと理由を説明してくれるようになった。
 兄姉たちは、あまり説明をしない傾向があった。それはおそらく、わざわざ説明しなくてもわかるだろうという漠然とした信頼があったのだと思う。だって、お父さまたちやお妃さま、他の兄姉たちはそういうことができるタイプだから。

 でも、私は察する能力はそんなに高くはないから、じっくり考えないとわからないし、じっくり考えてもわからないことはある。

「……はい、わかりました」

 今回ばかりは私も自分から突っ込みにはいかない。堕ちた神器の可能性があるなら調べたいけど、ライやペンダントから関わるなと言われているしね。

「話はこれでおしまいだけど……他に気になることはある?」
「……その魔力じゃない何かって、ハーステッドお兄さまは感じたことはあるんですか?」

 もし、それが堕ちた神器の力だとしたら。ペンダントやライのことも何か感じ取っているのではないだろうか。

「……あるよ」

 心臓の鼓動が早くなる。私は、表情を取り繕えているだろうか。気づいていて、知らない振りをしていたのならーー

「学園にいた時にね。ほら、アナとあの伯爵令息が侵入者に襲われたっていうあの日と、魔物の大群が街を襲撃したときかな」
「……それって、レーシャン森林とロニスニルの……?」

 おそるおそる尋ねた私の言葉に、ハーステッドお兄さまはこくりと頷く。

「でも、まったく同じってわけじゃない。近くはあったけど、黒さなら領主のほうが明らかに上。なんていうか……なりかけてる感じ?」

 私は、心臓がドキッとした。学園の一件に関わっているのは、私とカイエン、エルクトお兄さま、ペンダントにライ。そして……吸魔の指輪。
 カイエンはロニスニルにはいなかったから除外。私とエルクトお兄さまはハーステッドお兄さまと頻繁に会っているから、もし私たちのことならハーステッドお兄さまは気づくはずだから違うだろう。
 同じ理由で、私の胸にぶら下がっているペンダントやトラの姿で側にいるライも違う。

 となると、残るのはーー指輪だけ。指輪なら、ハーステッドお兄さまは直接対峙したことはないけど、学園の時もロニスニルの時にも近くにはいたから、もやだけが見えていた可能性はある。

 もし、ハーステッドお兄さまの言っている魔力じゃない何かというのが、堕ちた神器の力だとしたら、なりかけている感じというのは、つまりーー

『あいつも堕ちかけてるってことなんだろう』

 私と同じ結論にいたったであろうペンダントが呟く。やっぱり……そういうことなんだろうか。でも、今でもあんなに強いのに完全に堕ちたりでもしたら、手がつけられなくなりそうなんだけど……

『まぁ、僕の障壁は意味を失くすだろうな』

 ですよねー。ライも力が通じないとか言いそうだしなぁ。しばらくは指輪に会わないように願うしかない。でも、向こうから来た場合はどうすれば……

「……アナ、大丈夫?」
「顔色、悪い」

 お兄さまたちの言葉にハッとする。私は顔に出やすいというのに、二人の前でペンダントと会話してしまっていた。

「……もう、寝たほうがいい」
「そうだね。明日も早いし、アナは部屋に戻って休んでて」
「あっ、いやーー」

 別に体調が悪いわけじゃない。
 そう言おうとしたけど、今は考えることが多すぎる。その中には、お兄さまたちに知られたくないこともある。
 それなら、一人になったほうが都合がいいかも。

「……わかりました。失礼します」

 私はペコリと頭を下げて、ハーステッドお兄さまの部屋を後にした。
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