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第三章 地方視察
141. (ルージア視点)
ルージアは、昔から自分が一番でなければ気が済まなかった。さすがに両親や兄姉たちよりも上になりたいとまでは言わないが、同年代の誰よりも上になりたかった。
そのためには、ルージアは努力を惜しまなかった。嫌いだった勉強もしていたし、魔法の訓練も怠らなかった。その努力が実を結び、ルージアは伯爵令嬢として非常に優秀であり、魔力主義のルーメン派閥でも一目置かれていた。
それが崩れ去ったのは、少女式を迎えてからだ。その場には、末の王女がいた。
末の王女のことについては、ルージアも噂で聞いたことがあった。いわく、優秀なアルウェルト王家の恥とも言えるほどに弱く、醜く、愚かであると。
ルージアは、噂を本気にしていたわけではなかったが、そのように言われるくらいには、アルウェルトらしからぬ存在なのだろうとは感じていた。
それを実感したのが少女式の日。魔力奉納の際、王子の前に儀式を行ったラフィティクト公爵令嬢は、その立場にふさわしい輝きを放ったというのに、王女はアルウェルトの血筋であるにも関わらず、平民と変わらぬ輝きであった。いや、もはや輝いているというのもおこがましい。
あんな王女が自分よりも上に立つなど、ルージアは納得がいかなかった。あんな出来損ないに、なぜ自分のような優秀な人物がへりくだる必要があるのか。なぜあんなものが王女としていられるのか。ルージアは欠片も理解することができなかった。
そんなルージアにさらに追い討ちをかけるような存在が現れる。
それは、カイエンという名前の少年で、自分と同い年ではあるが、ルージアのほうが生まれは早いために弟という立場であると父である伯爵から説明を受けた。
今までは領地にある屋敷に住まわせていたが、学園に通うのに合わせて都の屋敷に住まわせることにしたそうだ。
今まで弟の存在など耳にしたことがなかったルージアは、突如として現れたカイエンを簡単には受け入れられなかった。
後に、使用人たちの噂話でカイエンが妾の子と知ってからはなおのこと。
しかも、カイエンは何もかもが自分よりも上だった。魔法は、ルージアは火と風の二属性であるのに対して、カイエンは火、水、風、土の四属性。
魔力の強さもカイエンのほうが上で、無詠唱を身につけるのもカイエンのほうが早かった。また、家庭教師に勉強を教わる際も、自分が苦戦したところをカイエンはいとも容易く終えてしまう。
その事実は、ルージアに屈辱を与えるのには充分だった。自分は貴族である優秀な父と優秀な母の間に生まれた生粋の貴族であり、それにふさわしい頭脳と魔法の力を持つ。そのはずなのに、平民の血が流れているような存在に負けるはずなどない。
現実を受け止められなかったルージアは、ついにカイエンを虐げ始めた。最初は憂さ晴らしに物を投げた程度だが、カイエンが抵抗をしないことに気づくと、その行いは徐々にエスカレートしていった。
殴る蹴る、髪を掴むなどの暴行は当たり前のように行われ、使用人の真似事でもさせたり、魔法の実験台にさせたこともあった。
カイエンは、ルージアの命令ならば何でも聞いた。顔を見たくないから離れに行けと言えば翌日には離れに生活の場所を移し、無能でいろと命じれば実力を隠すようにもなった。
本来なら、そのような扱いを受けていれば咎められるかもしれないが、カイエンはルージアの癇癪を嫌い力を隠しており、伯爵からの覚えはよくなかったことや、他の兄姉たちもカイエンに関心を抱くことはなく、ルージアを止める者は誰もいなかった。
そのような時間が続き、いつしかカイエンは本当に無能者として扱われるようになっていった。ルージアも、自分がそのように振る舞うように命じたことなどすっかり忘れて、カイエンは最初から無能であると都合のいい記憶に変わっていた。
それが再び狂いだしたのは、カイエンが末の王女の側近となってからだ。最初は、無能の王女に無能が仕えるなど粗末なこととしか思っていなかった。
だが、フタを開けてみれば、カイエンは側近となったことで城への出入りが自由となり、他の王子や王女と顔を合わせる機会が増えた。
しかも、カイエンが側近となってからは、カイエンを呼び出そうにもなぜか邪魔が入る。それは、父である伯爵が外聞のために妨害しているためであると知ったのは、すぐのことだった。
それだけならばまだよかったが、極めつけは新入生歓迎パーティーでのこと。カイエンがハーステッド王子に呼ばれ、他の王子や王女とも話していた。
おかしい。あり得るはずがない。自分を差し置いて、カイエンのほうが王族からの覚えがいいなど、あり得るはずがない。
カイエンは無能者で、自分よりも下であるべきで、それは絶対に覆らないことなのだから。
一体、どんな卑怯な手段を使ったのか。カイエンは卑しい血の流れる者だ。手段など選ばないのだろう。実に平民の血筋らしい。
きっと、偶然にも末の王女の側近となり、王族からの覚えが少しばかりよくなったからと、自分が本物の貴族になったように思っているのだろう。そのようなことなど万に一つもあり得ないというのに。
カイエンが傲慢になっているというのであれば、自分がもう一度教育する必要がある。カイエンは自分に逆らうことはない。少し強く言えば、すぐに従順であったあの頃に戻るだろう。本来ならば呼び出すところを自分が出向いてやるのだからなおさらというもの。
……そう、思っていたのに。
(あれは何?)
部屋から話し声がするのを不審に思ったルージアがドアの隙間から覗いてみると、そこには何やら支度しているカイエンとそれを手伝っている兄のリチャードの姿があった。
リチャードは、異母兄ではあるものの、カイエンとは違いれっきとした貴族であり、跡継ぎの筆頭候補である。
容姿端麗で成績も優秀であり、ルージアにとっても憧れの兄であった。
そんなリチャードが、カイエンの支度を手伝っている。いや、そもそもカイエンはなぜ支度をしているのだろうか。まるで、どこか遠くにでも行くかのようだ。
「ルージア、何か用か?」
ルージアの存在に気づいたリチャードが声をかけてくる。ルージアはおそるおそるドアを開く。その時、中にいたカイエンとも目があった。
だが、すぐさま反らされる。その生意気な行動に少しばかり腹を立てるが、今はリチャードの質問を答えるほうを優先すべきと判断したルージアは、その場では何も言わない。
「カイエンに用事があったのですが、何やら立て込んでいるようなので……」
ルージアはチラリとカイエンのほうを見る。カイエンは自分の名前を出されたのにも関わらず、ルージアと目を合わせず、黙々と作業を続けていた。
「すまないが、カイエンは私と支度をしているから、終わった後にしてもらえるか」
「……支度とは、何の?」
リチャードはルージアの質問には答えずに、カイエンのほうに目配りをする。リチャードの視線に気づいたカイエンが、ルージアと目を合わせて告げる。
「伯爵から領地に向かうように指示を受けたので、旅支度をしています」
「お父さまから?どうして?」
「地方視察をなさっている王族の方々を出迎えるために、リチャードさまに随行するようにと」
その言葉を聞いたとき、心の底から怒りが沸いた。
本当なら、強く問いただしたいところだが、今はリチャードもいる。呼吸をして気持ちを落ち着かせ、静かに尋ねた。
「どうしてあなたが?」
「私がアナスタシアさまの側近ですので、出迎えないのは失礼に当たると」
そう淡々と告げるカイエンに、怒りをぶつけずにいられた自分を褒めてやりたかった。父が命じたのだから、カイエンが同行するのはそれ相応の理由があるとは思っていた。
父の言う通り、カイエンは仮にも側近で、アナスタシアは仮にも王女だ。側近が出迎えなければ失礼になるのは当然のことと言える。
……そう、頭ではわかっている。でも……
(なんで、あんたなのよ)
無能の王女には無能のカイエンがふさわしい。その考えは今でも変わらないが、どうしても腑に落ちない点がある。
どうして自分は側近になれない?
どうして優秀な自分が優秀な王子や王女の側近となることができず、無能の王女に対してとはいえ、カイエンが王族の側近になることができる?側近の誓いには第三者の立ち会いが必要となる。そのため、側近になったということは、誰かに側近になることを認めてもらったということだ。
しかも、側近となることで王族とも近しくなり、挙げ句の果てに父の名代として領地で王族を出迎えるという。
どうして、カイエンにばかりこのような役目が与えられる?
しかも、カイエンの支度をリチャードが手伝っているという始末。本来ならばリチャードの支度をカイエンがするべき立場だというのに、その反対の行為が目の前で繰り広げられている。
「……でしたら、私も向かいます。王族の皆様を迎え入れるのに、付き添いがカイエンだけでは手に余るでしょう?」
地方視察を行っている王族は全部で七人。他にも護衛の騎士などもついてきているはずだから、人数は十人以上にはなるだろう。
リチャードは領主代理として、国王の名代の王子の相手で手一杯であるだろうし、カイエンはアナスタシア王女の相手くらいしかやらないだろう。ならば、他の王子や王女と接触する機会を得ることができる。
この好機を逃すわけにはいかない。リチャードからしてみても、迎え入れるための人手は多いほうがいいから、きっと喜ばれるはず。だというのにーーリチャードの瞳は冷たい。
「お前を連れていけるわけがないだろう。パーティーでの振る舞いを私が知らぬとでも思ったか?」
ルージアは言葉に詰まる。リチャードが言っているのは、新入生歓迎パーティーで、ハーステッド王子の不興を買ってしまったことだろう。だが、それには理由がある。
「あれはーー」
「言い訳は無用だ」
ルージアが説明しようとすると、リチャードによって遮られた。
「どのような理由があろうと、お前がハーステッド王子を筆頭に、王族の不興を買ったのは事実。そんな奴に王族の出迎えなどさせられるわけもない。父も許さぬだろう」
ルージアはきゅっと唇を噛み締める。あの、たった一度。しかも、大した失敗でもなかったはずなのに、それだけで信用を失ってしまった。
リチャードは「それに」と言葉を続ける。
「カイエンだけでは手に余るというが、カイエンは王族の不興を買う真似はしない。何度も登城を許されているのは、アナスタシア王女の側近である以前に、相応の振る舞いができるからだ」
言外に、カイエンだから登城を許されていると伝えられ、ルージアは奈落に突き落とされたような感覚に陥る。それと同時に、カイエンに強い怒りを抱いた。
いつもならすぐに騒ぎ立てるルージアだが、これ以上リチャードに悪印象を持たれたくはなく、ルージアは静かにドアを閉めた。
(カイエン……!)
その胸に、強い意志を抱いて。
そのためには、ルージアは努力を惜しまなかった。嫌いだった勉強もしていたし、魔法の訓練も怠らなかった。その努力が実を結び、ルージアは伯爵令嬢として非常に優秀であり、魔力主義のルーメン派閥でも一目置かれていた。
それが崩れ去ったのは、少女式を迎えてからだ。その場には、末の王女がいた。
末の王女のことについては、ルージアも噂で聞いたことがあった。いわく、優秀なアルウェルト王家の恥とも言えるほどに弱く、醜く、愚かであると。
ルージアは、噂を本気にしていたわけではなかったが、そのように言われるくらいには、アルウェルトらしからぬ存在なのだろうとは感じていた。
それを実感したのが少女式の日。魔力奉納の際、王子の前に儀式を行ったラフィティクト公爵令嬢は、その立場にふさわしい輝きを放ったというのに、王女はアルウェルトの血筋であるにも関わらず、平民と変わらぬ輝きであった。いや、もはや輝いているというのもおこがましい。
あんな王女が自分よりも上に立つなど、ルージアは納得がいかなかった。あんな出来損ないに、なぜ自分のような優秀な人物がへりくだる必要があるのか。なぜあんなものが王女としていられるのか。ルージアは欠片も理解することができなかった。
そんなルージアにさらに追い討ちをかけるような存在が現れる。
それは、カイエンという名前の少年で、自分と同い年ではあるが、ルージアのほうが生まれは早いために弟という立場であると父である伯爵から説明を受けた。
今までは領地にある屋敷に住まわせていたが、学園に通うのに合わせて都の屋敷に住まわせることにしたそうだ。
今まで弟の存在など耳にしたことがなかったルージアは、突如として現れたカイエンを簡単には受け入れられなかった。
後に、使用人たちの噂話でカイエンが妾の子と知ってからはなおのこと。
しかも、カイエンは何もかもが自分よりも上だった。魔法は、ルージアは火と風の二属性であるのに対して、カイエンは火、水、風、土の四属性。
魔力の強さもカイエンのほうが上で、無詠唱を身につけるのもカイエンのほうが早かった。また、家庭教師に勉強を教わる際も、自分が苦戦したところをカイエンはいとも容易く終えてしまう。
その事実は、ルージアに屈辱を与えるのには充分だった。自分は貴族である優秀な父と優秀な母の間に生まれた生粋の貴族であり、それにふさわしい頭脳と魔法の力を持つ。そのはずなのに、平民の血が流れているような存在に負けるはずなどない。
現実を受け止められなかったルージアは、ついにカイエンを虐げ始めた。最初は憂さ晴らしに物を投げた程度だが、カイエンが抵抗をしないことに気づくと、その行いは徐々にエスカレートしていった。
殴る蹴る、髪を掴むなどの暴行は当たり前のように行われ、使用人の真似事でもさせたり、魔法の実験台にさせたこともあった。
カイエンは、ルージアの命令ならば何でも聞いた。顔を見たくないから離れに行けと言えば翌日には離れに生活の場所を移し、無能でいろと命じれば実力を隠すようにもなった。
本来なら、そのような扱いを受けていれば咎められるかもしれないが、カイエンはルージアの癇癪を嫌い力を隠しており、伯爵からの覚えはよくなかったことや、他の兄姉たちもカイエンに関心を抱くことはなく、ルージアを止める者は誰もいなかった。
そのような時間が続き、いつしかカイエンは本当に無能者として扱われるようになっていった。ルージアも、自分がそのように振る舞うように命じたことなどすっかり忘れて、カイエンは最初から無能であると都合のいい記憶に変わっていた。
それが再び狂いだしたのは、カイエンが末の王女の側近となってからだ。最初は、無能の王女に無能が仕えるなど粗末なこととしか思っていなかった。
だが、フタを開けてみれば、カイエンは側近となったことで城への出入りが自由となり、他の王子や王女と顔を合わせる機会が増えた。
しかも、カイエンが側近となってからは、カイエンを呼び出そうにもなぜか邪魔が入る。それは、父である伯爵が外聞のために妨害しているためであると知ったのは、すぐのことだった。
それだけならばまだよかったが、極めつけは新入生歓迎パーティーでのこと。カイエンがハーステッド王子に呼ばれ、他の王子や王女とも話していた。
おかしい。あり得るはずがない。自分を差し置いて、カイエンのほうが王族からの覚えがいいなど、あり得るはずがない。
カイエンは無能者で、自分よりも下であるべきで、それは絶対に覆らないことなのだから。
一体、どんな卑怯な手段を使ったのか。カイエンは卑しい血の流れる者だ。手段など選ばないのだろう。実に平民の血筋らしい。
きっと、偶然にも末の王女の側近となり、王族からの覚えが少しばかりよくなったからと、自分が本物の貴族になったように思っているのだろう。そのようなことなど万に一つもあり得ないというのに。
カイエンが傲慢になっているというのであれば、自分がもう一度教育する必要がある。カイエンは自分に逆らうことはない。少し強く言えば、すぐに従順であったあの頃に戻るだろう。本来ならば呼び出すところを自分が出向いてやるのだからなおさらというもの。
……そう、思っていたのに。
(あれは何?)
部屋から話し声がするのを不審に思ったルージアがドアの隙間から覗いてみると、そこには何やら支度しているカイエンとそれを手伝っている兄のリチャードの姿があった。
リチャードは、異母兄ではあるものの、カイエンとは違いれっきとした貴族であり、跡継ぎの筆頭候補である。
容姿端麗で成績も優秀であり、ルージアにとっても憧れの兄であった。
そんなリチャードが、カイエンの支度を手伝っている。いや、そもそもカイエンはなぜ支度をしているのだろうか。まるで、どこか遠くにでも行くかのようだ。
「ルージア、何か用か?」
ルージアの存在に気づいたリチャードが声をかけてくる。ルージアはおそるおそるドアを開く。その時、中にいたカイエンとも目があった。
だが、すぐさま反らされる。その生意気な行動に少しばかり腹を立てるが、今はリチャードの質問を答えるほうを優先すべきと判断したルージアは、その場では何も言わない。
「カイエンに用事があったのですが、何やら立て込んでいるようなので……」
ルージアはチラリとカイエンのほうを見る。カイエンは自分の名前を出されたのにも関わらず、ルージアと目を合わせず、黙々と作業を続けていた。
「すまないが、カイエンは私と支度をしているから、終わった後にしてもらえるか」
「……支度とは、何の?」
リチャードはルージアの質問には答えずに、カイエンのほうに目配りをする。リチャードの視線に気づいたカイエンが、ルージアと目を合わせて告げる。
「伯爵から領地に向かうように指示を受けたので、旅支度をしています」
「お父さまから?どうして?」
「地方視察をなさっている王族の方々を出迎えるために、リチャードさまに随行するようにと」
その言葉を聞いたとき、心の底から怒りが沸いた。
本当なら、強く問いただしたいところだが、今はリチャードもいる。呼吸をして気持ちを落ち着かせ、静かに尋ねた。
「どうしてあなたが?」
「私がアナスタシアさまの側近ですので、出迎えないのは失礼に当たると」
そう淡々と告げるカイエンに、怒りをぶつけずにいられた自分を褒めてやりたかった。父が命じたのだから、カイエンが同行するのはそれ相応の理由があるとは思っていた。
父の言う通り、カイエンは仮にも側近で、アナスタシアは仮にも王女だ。側近が出迎えなければ失礼になるのは当然のことと言える。
……そう、頭ではわかっている。でも……
(なんで、あんたなのよ)
無能の王女には無能のカイエンがふさわしい。その考えは今でも変わらないが、どうしても腑に落ちない点がある。
どうして自分は側近になれない?
どうして優秀な自分が優秀な王子や王女の側近となることができず、無能の王女に対してとはいえ、カイエンが王族の側近になることができる?側近の誓いには第三者の立ち会いが必要となる。そのため、側近になったということは、誰かに側近になることを認めてもらったということだ。
しかも、側近となることで王族とも近しくなり、挙げ句の果てに父の名代として領地で王族を出迎えるという。
どうして、カイエンにばかりこのような役目が与えられる?
しかも、カイエンの支度をリチャードが手伝っているという始末。本来ならばリチャードの支度をカイエンがするべき立場だというのに、その反対の行為が目の前で繰り広げられている。
「……でしたら、私も向かいます。王族の皆様を迎え入れるのに、付き添いがカイエンだけでは手に余るでしょう?」
地方視察を行っている王族は全部で七人。他にも護衛の騎士などもついてきているはずだから、人数は十人以上にはなるだろう。
リチャードは領主代理として、国王の名代の王子の相手で手一杯であるだろうし、カイエンはアナスタシア王女の相手くらいしかやらないだろう。ならば、他の王子や王女と接触する機会を得ることができる。
この好機を逃すわけにはいかない。リチャードからしてみても、迎え入れるための人手は多いほうがいいから、きっと喜ばれるはず。だというのにーーリチャードの瞳は冷たい。
「お前を連れていけるわけがないだろう。パーティーでの振る舞いを私が知らぬとでも思ったか?」
ルージアは言葉に詰まる。リチャードが言っているのは、新入生歓迎パーティーで、ハーステッド王子の不興を買ってしまったことだろう。だが、それには理由がある。
「あれはーー」
「言い訳は無用だ」
ルージアが説明しようとすると、リチャードによって遮られた。
「どのような理由があろうと、お前がハーステッド王子を筆頭に、王族の不興を買ったのは事実。そんな奴に王族の出迎えなどさせられるわけもない。父も許さぬだろう」
ルージアはきゅっと唇を噛み締める。あの、たった一度。しかも、大した失敗でもなかったはずなのに、それだけで信用を失ってしまった。
リチャードは「それに」と言葉を続ける。
「カイエンだけでは手に余るというが、カイエンは王族の不興を買う真似はしない。何度も登城を許されているのは、アナスタシア王女の側近である以前に、相応の振る舞いができるからだ」
言外に、カイエンだから登城を許されていると伝えられ、ルージアは奈落に突き落とされたような感覚に陥る。それと同時に、カイエンに強い怒りを抱いた。
いつもならすぐに騒ぎ立てるルージアだが、これ以上リチャードに悪印象を持たれたくはなく、ルージアは静かにドアを閉めた。
(カイエン……!)
その胸に、強い意志を抱いて。
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