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第三章 地方視察
136.
そんなわけで再び湖へとやってきた!……エルクトお兄さまと共に。
うん。ろくに魔法を使えず、足が速いわけでもない私が振りきれるはずがなかったし、一人にしてもらえるはずもなかったよ。
私が歩いて向かおうとしているところを捕まって、ここまで運ばれました。そう、まるで荷物のように。
めちゃくちゃ怖かったよ!やめてって言ってもやめてくれないもん、この人。屋敷に連れ戻されなかっただけマシかもしれないけど。
「でも、なんで他の人たちも来なかったんですか?」
兄姉たちの中で風魔法が使えないのはシルヴェルスお兄さまとルナティーラお姉さまくらいで、他は使えるからエルクトお兄さまと同じように簡単に追いつけるだろう。
「他の奴らは街の住民に聞き込みに行かせている。ハーステッドはシルヴェルスと共に領主を尋問しているだろうが」
ハーステッドお兄さまの闇魔法は精神に干渉することができて、精神を操ることで自白させることができる……らしい。
らしいというのは、私がその場面を一度も見たことがないから。使用人たちもあまり話したがらないから、想像しないほうがいいことであるのは確かだ。
「ちょっと領主が可哀想な気がします」
王族に嘘をついたとかならともかく、本当に湖の異変を知らなかったなら、お兄さまたちの行いは領主にとっては拷問でしかないだろうし。
「無能にかける情けはない」
湖の異変に気づかなかったから無能扱いってこと?
それはさすがにひどすぎませんか!?
そりゃあ、ハイスペックなお兄さまたちからすればほとんどの人が無能でしょうよ!
「つまり、私にも情けはかけないってことですね」
私も魔法がろくに使えない落ちこぼれの無能な王女さまですからね。お兄さまの理屈では情けをかける対象ではないだろう。
「お前は別に無能ではないだろう」
エルクトお兄さまのその言葉に嘘は感じられなかった。そもそも、エルクトお兄さまはお世辞を言うタイプではないので、私が無能ではないというのは本当に思っていることなんだろう。
でも、なんで?
「神器があるからですか?」
「それはお前の力ではないし、力を持っても無能なやつはいる。俺の言っていることはそういうことではない」
ならどういうことなんですかね?
中身の話だとしても、私はあまり褒められたものではないと思う。自分では考えて動いているつもりでも結局は周りを振り回しているし、エルクトお兄さまに関しては神器のことでたくさん迷惑をかけているし。
そんな私よりも領主のほうが無能なんですか?私が知らないだけで、領主が何かやらかしてるのかな。
「それより、手がかりを探すんじゃなかったのか?」
「あっ、はい!」
お兄さまの言葉で本来の目的を思い出した私は、湖の周辺をくまなく探し回る。
ひとまず踏み荒らされている場所を探したけど、特にめぼしいものはない。なら、後は湖があったと思われるあの大穴だけだ。
私は穴のふちに腰かけて、少しずつ足を前に進めて慎重に穴の中に入る。
ズルズルと引きずるように降りたから服が汚れてしまったけど、怪我をすることなく下まで降りられた。
私は地面を触ってみるけど、地面は乾燥していて水があったとは思えない状態だ。なんか、砂場の砂みたい。
花が踏み荒らされていた場所とは違い、本当に何もないから、何かあればすぐに見つかりそうだ。
(……うん?)
キョロキョロと辺りを見渡していると、何かがキラリと光った気がした。
私がそちらのほうに駆け寄ると、ピンポン玉くらいはありそうな黒くて球体のものが落ちている。
石にしては大きいし他に似たようなものが見当たらないし、形が整いすぎてて自然物のようには見えない。
お兄さまなら何か知ってるかなと思って拾い上げようとしたその時。
『触るな!!』
「ひゃあっ!」
突如として脳内に響いた声に驚き、私は変な声を上げて尻餅をついてしまう。
今の声は……ライ?
「どうした、アナスタシア」
「あっ、お兄さま……」
おそらく私のあの恥ずかしい悲鳴を聞いて来たのだろう。いつの間にかエルクトお兄さまが私の側にいた。
「この黒いものを拾おうとしたらライが止めてきて……」
「当たり前だ」
声が聞こえたほうを見ると、いつの間にかライとペンダントが人間形態になっている。
「お前がこれに触ったら爆発して消し飛んでたぞ」
「ええっ!?」
この黒いピンポン玉、そんな危険物なの!?……あれ?というか、その話、前にどこかで……?
「君の側近が森で触ったやつのことじゃない?同じやつかもしれないな」
「ああっ!」
ペンダントの言葉で完全に思い出した。カイエンが学園の森で怪我をしたときに見つけたと言っていたものだ。
ライやペンダントが知ってるってことは、神器関連か。指輪とかがちょっかいを出してきたってことかな。
「いや、これを落としたのはあんな奴よりも数倍は厄介な奴だ」
「数倍どころじゃないだろ」
「ど、どんな奴なの?」
指輪も森を消し飛ばしたりできる魔法を使えて、空間移動ですぐに逃げられたりするから厄介なのに、それ以上だと?
「「堕ちた神器」」
堕ちた……神器?
うん。ろくに魔法を使えず、足が速いわけでもない私が振りきれるはずがなかったし、一人にしてもらえるはずもなかったよ。
私が歩いて向かおうとしているところを捕まって、ここまで運ばれました。そう、まるで荷物のように。
めちゃくちゃ怖かったよ!やめてって言ってもやめてくれないもん、この人。屋敷に連れ戻されなかっただけマシかもしれないけど。
「でも、なんで他の人たちも来なかったんですか?」
兄姉たちの中で風魔法が使えないのはシルヴェルスお兄さまとルナティーラお姉さまくらいで、他は使えるからエルクトお兄さまと同じように簡単に追いつけるだろう。
「他の奴らは街の住民に聞き込みに行かせている。ハーステッドはシルヴェルスと共に領主を尋問しているだろうが」
ハーステッドお兄さまの闇魔法は精神に干渉することができて、精神を操ることで自白させることができる……らしい。
らしいというのは、私がその場面を一度も見たことがないから。使用人たちもあまり話したがらないから、想像しないほうがいいことであるのは確かだ。
「ちょっと領主が可哀想な気がします」
王族に嘘をついたとかならともかく、本当に湖の異変を知らなかったなら、お兄さまたちの行いは領主にとっては拷問でしかないだろうし。
「無能にかける情けはない」
湖の異変に気づかなかったから無能扱いってこと?
それはさすがにひどすぎませんか!?
そりゃあ、ハイスペックなお兄さまたちからすればほとんどの人が無能でしょうよ!
「つまり、私にも情けはかけないってことですね」
私も魔法がろくに使えない落ちこぼれの無能な王女さまですからね。お兄さまの理屈では情けをかける対象ではないだろう。
「お前は別に無能ではないだろう」
エルクトお兄さまのその言葉に嘘は感じられなかった。そもそも、エルクトお兄さまはお世辞を言うタイプではないので、私が無能ではないというのは本当に思っていることなんだろう。
でも、なんで?
「神器があるからですか?」
「それはお前の力ではないし、力を持っても無能なやつはいる。俺の言っていることはそういうことではない」
ならどういうことなんですかね?
中身の話だとしても、私はあまり褒められたものではないと思う。自分では考えて動いているつもりでも結局は周りを振り回しているし、エルクトお兄さまに関しては神器のことでたくさん迷惑をかけているし。
そんな私よりも領主のほうが無能なんですか?私が知らないだけで、領主が何かやらかしてるのかな。
「それより、手がかりを探すんじゃなかったのか?」
「あっ、はい!」
お兄さまの言葉で本来の目的を思い出した私は、湖の周辺をくまなく探し回る。
ひとまず踏み荒らされている場所を探したけど、特にめぼしいものはない。なら、後は湖があったと思われるあの大穴だけだ。
私は穴のふちに腰かけて、少しずつ足を前に進めて慎重に穴の中に入る。
ズルズルと引きずるように降りたから服が汚れてしまったけど、怪我をすることなく下まで降りられた。
私は地面を触ってみるけど、地面は乾燥していて水があったとは思えない状態だ。なんか、砂場の砂みたい。
花が踏み荒らされていた場所とは違い、本当に何もないから、何かあればすぐに見つかりそうだ。
(……うん?)
キョロキョロと辺りを見渡していると、何かがキラリと光った気がした。
私がそちらのほうに駆け寄ると、ピンポン玉くらいはありそうな黒くて球体のものが落ちている。
石にしては大きいし他に似たようなものが見当たらないし、形が整いすぎてて自然物のようには見えない。
お兄さまなら何か知ってるかなと思って拾い上げようとしたその時。
『触るな!!』
「ひゃあっ!」
突如として脳内に響いた声に驚き、私は変な声を上げて尻餅をついてしまう。
今の声は……ライ?
「どうした、アナスタシア」
「あっ、お兄さま……」
おそらく私のあの恥ずかしい悲鳴を聞いて来たのだろう。いつの間にかエルクトお兄さまが私の側にいた。
「この黒いものを拾おうとしたらライが止めてきて……」
「当たり前だ」
声が聞こえたほうを見ると、いつの間にかライとペンダントが人間形態になっている。
「お前がこれに触ったら爆発して消し飛んでたぞ」
「ええっ!?」
この黒いピンポン玉、そんな危険物なの!?……あれ?というか、その話、前にどこかで……?
「君の側近が森で触ったやつのことじゃない?同じやつかもしれないな」
「ああっ!」
ペンダントの言葉で完全に思い出した。カイエンが学園の森で怪我をしたときに見つけたと言っていたものだ。
ライやペンダントが知ってるってことは、神器関連か。指輪とかがちょっかいを出してきたってことかな。
「いや、これを落としたのはあんな奴よりも数倍は厄介な奴だ」
「数倍どころじゃないだろ」
「ど、どんな奴なの?」
指輪も森を消し飛ばしたりできる魔法を使えて、空間移動ですぐに逃げられたりするから厄介なのに、それ以上だと?
「「堕ちた神器」」
堕ちた……神器?
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