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第一章 あくまでも働きたくない
3. 家族の集い
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食堂には、すでに僕以外の全員が揃っていた。
僕が食堂に入ると、注目が集まる。
「ただいま参りました」
僕が一礼すると、すぐさま父上から指示が飛んでくる。
「座れ」
その言葉がどこか冷たかったような気がするのは気のせいだと思いたい。本を読んでいたから時間に少し遅れてしまっているし、その辺りが原因だろう。
それに関しては僕が悪いので、素直に受け入れておこう。
僕が座ると食事が運ばれてきて、食事が開始される。
「アレクが遅れるなんて珍しいね~」
話しかけてきたのは第三王子であるクローディル兄さんだ。年は僕の三つ上で今年に十三歳になる。
クローディル兄さんは王族としては珍しくフランクな人で、自分の欲望に素直すぎるあまり、僕の他に父上が頭を抱える兄弟の一人である。ある意味、僕とは似た者同士と言えるだろう。
僕とは違って、魔法の開発で国の役に立ってはいるから、あまりとやかく言われないみたいだけどね。
研究中という素晴らしい理由で、食事会もよくすっぽかすんだけど、今日はいるみたい。
「図書室で調べ物をしていました。もう少しで読み終わりそうだったので読んでしまいたくて」
「あれ?アレクって本読むっけ?」
「本は読みます!」
前世でも図書館にはちょくちょく通うくらいには本が好きだった。本は知識の宝庫だし、あまり人と関わりを持ちたくなかった僕にとっては、本の見せる世界に魅了されていたとも言える。
まぁ、暇があれば読書するかなくらいのレベルですけど。
「何か成果はあったのか?」
そう尋ねる父上に対して、僕は少し言葉を選びつつ返事を返す。
「平民の暮らしについて学んでいたのですが、少々思うところがありまして」
平民の生活の暮らしを知ると、やはり現代の暮らしと比較してしまう。
まず当たり前だけど、文化水準があまり高くない。現代でいう家電製品などは、この世界では魔法具が代わりを果たしているのだけど、その魔法具が高価なので、平民は一部の上流層しか持っておらず、ほとんどが手作業を余儀なくされている。
洗濯は大きめの桶に水を入れてじゃぶじゃぶが基本みたいだし。そもそも、滅多に洗わないみたいだし。
火をつけるときも薪を組んで火起こしするのが一般的。ガスコンロなんて便利なものはまず存在しない。
そんな平民の暮らしを知って、僕はつくづく平民に生まれなくてよかったと思ってしまった。現代の機械に囲まれた楽な暮らしを知ってしまっている身としては、今の平民の生活水準には絶対に耐えられないだろうから。
だからこそ、平民にもこの極楽を知ってもらいたいと思う。まったく同じ性能とまでは行かなくても、少しでも生活が楽になってほしい。
でも、言うは易く行うは難しという言葉の通り、実行するとなると途方もなく大変だろう。
僕はそう気軽に目的を口にできる立場でもないから、言葉には慎重にならないといけない。
父上もそれはわかっているのだろう。これ以上尋ねるような真似はせずに、食事を再開した……のだが。
「なんだ?思うところって」
……ああ。この場には空気の読めない奴がいたんだった。
父上も同じことを考えたのか頭を抱えてしまう。
空気読まずな発言をしたのは、僕の兄である第二王子のジークフリート兄さん。年齢は僕の九つ上の十九歳なんだけど……頭の中身は僕やクローディル兄さんに劣ることだろう。いわゆる筋肉バカというやつである。
ジークフリート兄さんは武芸に才能を全振りしたのだろう。剣や弓など武器を扱う能力や、人を使う指揮能力は秀でているけど、勉強がまったくできない。
学園を落第していないのが奇跡というレベルでできないそうだ。足し算や引き算を理解したのが十歳なんだよ?信じられる?
落第していないのも、実技と身分で目こぼしをもらっている感じみたいだし。
社交のマナーはできるみたいで貴族たちの前ではしっかりと振る舞えるのが不幸中の幸いと言ったところで、貴族たちにはこのポンコツ具合は気づかれてないみたい。
でも、家族しかいない場所ではリミッターが外れるようで、王子としては信じられないようなポンコツ具合を披露する。
「ジーク……お前のそういうところを直せと常に言っているだろう?」
父上と同じように頭を抱えているのは、長男のクリストフ兄さん。年は僕の十三歳上で今年は二十三歳となる。
この国の王太子であり、顔よし、体つきよし、性格よし、頭よしのすべてが揃ったパーフェクトな王子で、父上から唯一叱責を受けない存在だ。
そして、僕たちに常に振り回される苦労人兼ツッコミ枠でもある。
こう整理してみると、この国の王子って問題がある奴ばっかりだな。……えっ?お前が筆頭だって?はは、なんのことかな。
「気になったから聞いただけだろ?」
「なぜ父上が詳細を聞かなかったのかわからないのか。あまり口にすべきではないからだ」
ちなみに、クリストフ兄さんも父上と同じくらいに頭が回るので、こういうのはすぐに察してくれます。
当のジークフリート兄さんは言っていることが理解できないのかきょとんとしている。クリストフ兄さんがこんなにわかりやすく説明してくれたのに。
「ここは俺たちしかいないだろ?別に聞かれたらまずいなら俺たちが口にしなきゃいいだけじゃんか」
「だからそういうことではなく……」
クリストフ兄さんまでも頭を抱えだす。
僕はその成り行きを静かに見守り、クローディル兄さんは関係ないとばかりにマイペースに食事を口に運ぶ。
これが僕たちの食卓事情である。
ちなみに、母上はこの時間帯は王妃としての公務、友人と食事やお茶会をしていることが多いので、滅多に同席することはなく、今日も不在である。
確か今は孤児院に訪問に行ってるんだったかな。
こうなると、必ず止めに入るのが……
「クリス、説教なら後にしてくださいませ。食事中ですよ」
姉である第一王女のシャルロッテだ。クリストフ兄さんと同い年の双子だけど、顔はあまり似てないから二卵性の双子なんだろう。
性格はそっくりなんだけどね。
ちなみに、シャルロッテ姉さんは隣国の第一皇子の婚約者でもあり、向こうの立太子に合わせて嫁ぐことになっている。
その立太子が残り半年なので、こういうやり取りが見られるのもあまり長くはない。
二十歳までに子どもを生むのが当たり前みたいなこの世界の基準だと、二十三歳での結婚は遅いほうだけど、帝国の法律で皇族は皇帝と皇太子しか伴侶を迎えられないことになっているから仕方ない。
この法律は過去に起こった苛烈な家督争いを避けるために制定されたと授業で習っている。だからこそ、皇太子を決めるのも慎重になり、ここまで遅くなったともいえる。
ちなみに、縛られているのは帝国内の皇族だけなので、臣籍降下してから結婚とか、他国に嫁ぐまたは婿入りとかはありです。その子どもに継承権はないらしいけど。
自分の好きな人と結婚するために継承権を放棄した事例もあるそうだ。
そんな帝国の裏事情はさておき、僕の家族はあともう一人。
僕の向かい側に座っており、先ほどから一言も発することなく黙々と食事をしている女の子。僕の妹であり第二王女のアリアドネ。末っ子の王女で、年齢は四歳。
アリアドネを一言でいうなら無口。アリアドネと話したことなんて数えるほどしかないし、話すときもこちらから話しかけて短い返事を返す程度のものだ。
自分から話しかけているところは見たことがない。
それに加えて、アリアドネは存在感もかなり薄い。今は目の前にいるから気づけるけど、背後に立たれてもまったくわからないし、一度姿を見失うとなかなか見つけられない。
よくお城の使用人たちがアリアドネを探しているのを見るけど、当の本人は柱の影にひっそりと立っていたりする。
そんなアリアドネを人形のようで不気味だと言うものもいるが、僕たちにとっては可愛い妹である。
「アレクシス、あなたも他人事のように振る舞わないで」
「で、でもどうしろと?」
クリストフ兄さんと一緒にジークフリート兄さんを責め立てろってこと?僕まで悪気がないジークフリート兄さんを責めるのはちょっと。
「早く報告できる成果を上げなさい。あなたはすぐに楽なほうに逃げようとするのですから」
いや、すぐに楽なほうに逃げるのは認めるけど、まだ一日目ですよ!?そんなすぐに成果が出るわけないでしょ!
「時間かけねばならないこともあります。まだ初日ですから」
「……そうですね」
納得したような返事をしているけど、その顔はまるで正反対だ。姉さんからの信用がまるでない。まぁ、自業自得なんだけど。
信用を取り戻すためにも、真面目に頑張りますか。
僕が食堂に入ると、注目が集まる。
「ただいま参りました」
僕が一礼すると、すぐさま父上から指示が飛んでくる。
「座れ」
その言葉がどこか冷たかったような気がするのは気のせいだと思いたい。本を読んでいたから時間に少し遅れてしまっているし、その辺りが原因だろう。
それに関しては僕が悪いので、素直に受け入れておこう。
僕が座ると食事が運ばれてきて、食事が開始される。
「アレクが遅れるなんて珍しいね~」
話しかけてきたのは第三王子であるクローディル兄さんだ。年は僕の三つ上で今年に十三歳になる。
クローディル兄さんは王族としては珍しくフランクな人で、自分の欲望に素直すぎるあまり、僕の他に父上が頭を抱える兄弟の一人である。ある意味、僕とは似た者同士と言えるだろう。
僕とは違って、魔法の開発で国の役に立ってはいるから、あまりとやかく言われないみたいだけどね。
研究中という素晴らしい理由で、食事会もよくすっぽかすんだけど、今日はいるみたい。
「図書室で調べ物をしていました。もう少しで読み終わりそうだったので読んでしまいたくて」
「あれ?アレクって本読むっけ?」
「本は読みます!」
前世でも図書館にはちょくちょく通うくらいには本が好きだった。本は知識の宝庫だし、あまり人と関わりを持ちたくなかった僕にとっては、本の見せる世界に魅了されていたとも言える。
まぁ、暇があれば読書するかなくらいのレベルですけど。
「何か成果はあったのか?」
そう尋ねる父上に対して、僕は少し言葉を選びつつ返事を返す。
「平民の暮らしについて学んでいたのですが、少々思うところがありまして」
平民の生活の暮らしを知ると、やはり現代の暮らしと比較してしまう。
まず当たり前だけど、文化水準があまり高くない。現代でいう家電製品などは、この世界では魔法具が代わりを果たしているのだけど、その魔法具が高価なので、平民は一部の上流層しか持っておらず、ほとんどが手作業を余儀なくされている。
洗濯は大きめの桶に水を入れてじゃぶじゃぶが基本みたいだし。そもそも、滅多に洗わないみたいだし。
火をつけるときも薪を組んで火起こしするのが一般的。ガスコンロなんて便利なものはまず存在しない。
そんな平民の暮らしを知って、僕はつくづく平民に生まれなくてよかったと思ってしまった。現代の機械に囲まれた楽な暮らしを知ってしまっている身としては、今の平民の生活水準には絶対に耐えられないだろうから。
だからこそ、平民にもこの極楽を知ってもらいたいと思う。まったく同じ性能とまでは行かなくても、少しでも生活が楽になってほしい。
でも、言うは易く行うは難しという言葉の通り、実行するとなると途方もなく大変だろう。
僕はそう気軽に目的を口にできる立場でもないから、言葉には慎重にならないといけない。
父上もそれはわかっているのだろう。これ以上尋ねるような真似はせずに、食事を再開した……のだが。
「なんだ?思うところって」
……ああ。この場には空気の読めない奴がいたんだった。
父上も同じことを考えたのか頭を抱えてしまう。
空気読まずな発言をしたのは、僕の兄である第二王子のジークフリート兄さん。年齢は僕の九つ上の十九歳なんだけど……頭の中身は僕やクローディル兄さんに劣ることだろう。いわゆる筋肉バカというやつである。
ジークフリート兄さんは武芸に才能を全振りしたのだろう。剣や弓など武器を扱う能力や、人を使う指揮能力は秀でているけど、勉強がまったくできない。
学園を落第していないのが奇跡というレベルでできないそうだ。足し算や引き算を理解したのが十歳なんだよ?信じられる?
落第していないのも、実技と身分で目こぼしをもらっている感じみたいだし。
社交のマナーはできるみたいで貴族たちの前ではしっかりと振る舞えるのが不幸中の幸いと言ったところで、貴族たちにはこのポンコツ具合は気づかれてないみたい。
でも、家族しかいない場所ではリミッターが外れるようで、王子としては信じられないようなポンコツ具合を披露する。
「ジーク……お前のそういうところを直せと常に言っているだろう?」
父上と同じように頭を抱えているのは、長男のクリストフ兄さん。年は僕の十三歳上で今年は二十三歳となる。
この国の王太子であり、顔よし、体つきよし、性格よし、頭よしのすべてが揃ったパーフェクトな王子で、父上から唯一叱責を受けない存在だ。
そして、僕たちに常に振り回される苦労人兼ツッコミ枠でもある。
こう整理してみると、この国の王子って問題がある奴ばっかりだな。……えっ?お前が筆頭だって?はは、なんのことかな。
「気になったから聞いただけだろ?」
「なぜ父上が詳細を聞かなかったのかわからないのか。あまり口にすべきではないからだ」
ちなみに、クリストフ兄さんも父上と同じくらいに頭が回るので、こういうのはすぐに察してくれます。
当のジークフリート兄さんは言っていることが理解できないのかきょとんとしている。クリストフ兄さんがこんなにわかりやすく説明してくれたのに。
「ここは俺たちしかいないだろ?別に聞かれたらまずいなら俺たちが口にしなきゃいいだけじゃんか」
「だからそういうことではなく……」
クリストフ兄さんまでも頭を抱えだす。
僕はその成り行きを静かに見守り、クローディル兄さんは関係ないとばかりにマイペースに食事を口に運ぶ。
これが僕たちの食卓事情である。
ちなみに、母上はこの時間帯は王妃としての公務、友人と食事やお茶会をしていることが多いので、滅多に同席することはなく、今日も不在である。
確か今は孤児院に訪問に行ってるんだったかな。
こうなると、必ず止めに入るのが……
「クリス、説教なら後にしてくださいませ。食事中ですよ」
姉である第一王女のシャルロッテだ。クリストフ兄さんと同い年の双子だけど、顔はあまり似てないから二卵性の双子なんだろう。
性格はそっくりなんだけどね。
ちなみに、シャルロッテ姉さんは隣国の第一皇子の婚約者でもあり、向こうの立太子に合わせて嫁ぐことになっている。
その立太子が残り半年なので、こういうやり取りが見られるのもあまり長くはない。
二十歳までに子どもを生むのが当たり前みたいなこの世界の基準だと、二十三歳での結婚は遅いほうだけど、帝国の法律で皇族は皇帝と皇太子しか伴侶を迎えられないことになっているから仕方ない。
この法律は過去に起こった苛烈な家督争いを避けるために制定されたと授業で習っている。だからこそ、皇太子を決めるのも慎重になり、ここまで遅くなったともいえる。
ちなみに、縛られているのは帝国内の皇族だけなので、臣籍降下してから結婚とか、他国に嫁ぐまたは婿入りとかはありです。その子どもに継承権はないらしいけど。
自分の好きな人と結婚するために継承権を放棄した事例もあるそうだ。
そんな帝国の裏事情はさておき、僕の家族はあともう一人。
僕の向かい側に座っており、先ほどから一言も発することなく黙々と食事をしている女の子。僕の妹であり第二王女のアリアドネ。末っ子の王女で、年齢は四歳。
アリアドネを一言でいうなら無口。アリアドネと話したことなんて数えるほどしかないし、話すときもこちらから話しかけて短い返事を返す程度のものだ。
自分から話しかけているところは見たことがない。
それに加えて、アリアドネは存在感もかなり薄い。今は目の前にいるから気づけるけど、背後に立たれてもまったくわからないし、一度姿を見失うとなかなか見つけられない。
よくお城の使用人たちがアリアドネを探しているのを見るけど、当の本人は柱の影にひっそりと立っていたりする。
そんなアリアドネを人形のようで不気味だと言うものもいるが、僕たちにとっては可愛い妹である。
「アレクシス、あなたも他人事のように振る舞わないで」
「で、でもどうしろと?」
クリストフ兄さんと一緒にジークフリート兄さんを責め立てろってこと?僕まで悪気がないジークフリート兄さんを責めるのはちょっと。
「早く報告できる成果を上げなさい。あなたはすぐに楽なほうに逃げようとするのですから」
いや、すぐに楽なほうに逃げるのは認めるけど、まだ一日目ですよ!?そんなすぐに成果が出るわけないでしょ!
「時間かけねばならないこともあります。まだ初日ですから」
「……そうですね」
納得したような返事をしているけど、その顔はまるで正反対だ。姉さんからの信用がまるでない。まぁ、自業自得なんだけど。
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