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第一章 あくまでも働きたくない
4. 熱いお茶を求め
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図書室で調べものを始めてから三日。まったく成果が出ないので、父上に相談してみることにした。何か仕事をくれないかなというわずかな期待を持って。
メアリーに父上にアポイントを取ってもらうように頼み、指定された時間に父上を訪ねる。
僕はコンコンと父上の執務室をノックした。
「アレクシスです」
「入れ」
「失礼します」
入室の許可をもらえたので、僕は静かにドアを開ける。
「相談があると聞いたが」
「はい」
僕は本を読み漁って考えるもなかなか成果が出ないことを伝えると、父上は考える素振りをしている。
「お前は、王子としての貢献はどういうものだと考えている?」
「国民のためとなることではありませんか?」
父上の政務を手伝っているクリストフ兄さんは当然のこと、騎士団長であるジークフリート兄さんは国民の安全を守っており、クローディル兄さんは国民の生活を向上させている。
なら、僕は国民のために何ができるのかと問われると、何も思いつかない。
「間違いではないが、正しいとも言えん」
「では、父上はどのようにお考えなのですか?」
「理想を追求することだろう。人は単純なものだ。自らの理想のためならば、限界以上の力を発揮することができる」
理屈はわかる。試験に受かりたいという思いがあれば勉強は捗り、新しい服が欲しいと思えば購入するお金を貯めるために必死に働くだろう。
でも、僕の理想はだらだらと楽して生きることである。その理想を追求したところで国民のためになるとは到底思えない。
「僕は今までのように部屋で引きこもれればそれでいいんですけど」
僕の回答に父上の顔が歪んだけど、すぐに聞き返してきた。
「ならば、今までの生活で不満だったことはないか?」
「不満ですか……」
ないとは言わない。まず、勉強はできることならやりたくないし、寝ていたいのにメアリーが起こしに来る。
でも、それを言ったところでそこじゃないと言われるのは目に見えているので、もっと別の点に着目しよう。
「熱いお茶を飲めないことですかね」
僕は熱い……とまでは言わなくても、温かいお茶が好きだ。
お茶はメアリーに頼めば淹れてくれるんだけど、調理場と僕の部屋がそこそこ離れているため、運んでいるうちにお茶が冷めてしまい、ぬるいお茶しか飲めないのだ。毒味をしているからさらに遅くなる。
温かいお茶が飲みたかった僕は一度だけ調理場まで行ったことがあるけど、メアリーから王子が調理場に出入りしてはならないと注意されてしまってからは熱いお茶が飲めずにいる。
「では、その熱いお茶を飲めるようにすることを目標にしてみたらどうだ?そこから自分にできる王子の勤めが見つかるかもしれん」
「はい、わかりました」
父上の言う通り、まずは自分の不満を解消して理想を追求するところから始めよう。
まずは、熱いお茶を手に入れるところからだ。
◇◇◇
部屋に戻った僕は、机に向かい合っていた。
「やっぱりこれしかないかなぁ……?」
僕が考えているのは魔力石を使ったポットである。この国では火を使って湯を沸かすのが一般的だけど、火を使うコンロは調理場にしかない。だからといって、王子の部屋にコンロなんて危険なものを設置するわけにもいかない。
そうなると、後はIH……いわゆる電気しかないわけだけど、魔法が発展してしまっているこの国では電気なんて便利なものは存在しない。
ならどうするのかというと、魔力石というものを使うのである。
魔力石は魔力を込めることによって様々な効果をもたらす石のことで、鉱山で採掘したり、魔獣という魔力を使う獣から手に入れたりする。
魔力石は色によって込められる魔力と効能が変わり、コンロに使われているのは赤い魔力石で火の力を使うことができる。
魔力石を使った道具は魔道具と呼ばれており、この国では一般的に使われている。科学の代わりに魔法が発展した形だ。
他にも水や風などいろいろな効果を持つ魔力石があるので、発熱の力を持つ魔力石がないかと模索していたんだけど……成果は出ていない。
強いていうなら、火の魔力石があるにはある。だけど、火の魔力石は発火してしまうので、部屋で使うのは危険だ。
どうにか熱だけを抽出できないだろうか。
う~んと頭を悩ませていると、コトンと目の前にティーカップが置かれる。
置いてくれたのはメアリーだ。
「アレクシスさま。お茶を淹れましたので、どうぞ休憩なさってください。根を詰めすぎるのもよくないと思いますから」
「うん、ありがと」
僕はメアリーが淹れてくれたお茶を飲む。やっぱりぬるい。
温かいお茶が飲みたいよ~。
「それはティーポットですか?」
「そう。時間が経つとお湯が冷めちゃうじゃない?だから熱いままにできないかなぁ~って……」
一応、僕の持つ知識の中に火や電気を使わない加熱方法や温度を保ったりする方法はある。でも、どれも手間がかかるので、手軽さというものがなくなる。
僕はできる限り楽をしたい。すぐに作れてすぐに使いたいのだ。
いくら考えても答えが出る気がしない。……仕方ない。これは最終手段だったんだけど。
「メアリー、ちょっと出かけてくる」
「どちらに行かれるのですか?」
「クローディル兄上のところ」
餅は餅屋。魔道具なら詳しい専門家に聞けばいい。
でも、兄上のいる魔塔はなぁ……まぁ、どうにかなることを願うしかないか。
メアリーに父上にアポイントを取ってもらうように頼み、指定された時間に父上を訪ねる。
僕はコンコンと父上の執務室をノックした。
「アレクシスです」
「入れ」
「失礼します」
入室の許可をもらえたので、僕は静かにドアを開ける。
「相談があると聞いたが」
「はい」
僕は本を読み漁って考えるもなかなか成果が出ないことを伝えると、父上は考える素振りをしている。
「お前は、王子としての貢献はどういうものだと考えている?」
「国民のためとなることではありませんか?」
父上の政務を手伝っているクリストフ兄さんは当然のこと、騎士団長であるジークフリート兄さんは国民の安全を守っており、クローディル兄さんは国民の生活を向上させている。
なら、僕は国民のために何ができるのかと問われると、何も思いつかない。
「間違いではないが、正しいとも言えん」
「では、父上はどのようにお考えなのですか?」
「理想を追求することだろう。人は単純なものだ。自らの理想のためならば、限界以上の力を発揮することができる」
理屈はわかる。試験に受かりたいという思いがあれば勉強は捗り、新しい服が欲しいと思えば購入するお金を貯めるために必死に働くだろう。
でも、僕の理想はだらだらと楽して生きることである。その理想を追求したところで国民のためになるとは到底思えない。
「僕は今までのように部屋で引きこもれればそれでいいんですけど」
僕の回答に父上の顔が歪んだけど、すぐに聞き返してきた。
「ならば、今までの生活で不満だったことはないか?」
「不満ですか……」
ないとは言わない。まず、勉強はできることならやりたくないし、寝ていたいのにメアリーが起こしに来る。
でも、それを言ったところでそこじゃないと言われるのは目に見えているので、もっと別の点に着目しよう。
「熱いお茶を飲めないことですかね」
僕は熱い……とまでは言わなくても、温かいお茶が好きだ。
お茶はメアリーに頼めば淹れてくれるんだけど、調理場と僕の部屋がそこそこ離れているため、運んでいるうちにお茶が冷めてしまい、ぬるいお茶しか飲めないのだ。毒味をしているからさらに遅くなる。
温かいお茶が飲みたかった僕は一度だけ調理場まで行ったことがあるけど、メアリーから王子が調理場に出入りしてはならないと注意されてしまってからは熱いお茶が飲めずにいる。
「では、その熱いお茶を飲めるようにすることを目標にしてみたらどうだ?そこから自分にできる王子の勤めが見つかるかもしれん」
「はい、わかりました」
父上の言う通り、まずは自分の不満を解消して理想を追求するところから始めよう。
まずは、熱いお茶を手に入れるところからだ。
◇◇◇
部屋に戻った僕は、机に向かい合っていた。
「やっぱりこれしかないかなぁ……?」
僕が考えているのは魔力石を使ったポットである。この国では火を使って湯を沸かすのが一般的だけど、火を使うコンロは調理場にしかない。だからといって、王子の部屋にコンロなんて危険なものを設置するわけにもいかない。
そうなると、後はIH……いわゆる電気しかないわけだけど、魔法が発展してしまっているこの国では電気なんて便利なものは存在しない。
ならどうするのかというと、魔力石というものを使うのである。
魔力石は魔力を込めることによって様々な効果をもたらす石のことで、鉱山で採掘したり、魔獣という魔力を使う獣から手に入れたりする。
魔力石は色によって込められる魔力と効能が変わり、コンロに使われているのは赤い魔力石で火の力を使うことができる。
魔力石を使った道具は魔道具と呼ばれており、この国では一般的に使われている。科学の代わりに魔法が発展した形だ。
他にも水や風などいろいろな効果を持つ魔力石があるので、発熱の力を持つ魔力石がないかと模索していたんだけど……成果は出ていない。
強いていうなら、火の魔力石があるにはある。だけど、火の魔力石は発火してしまうので、部屋で使うのは危険だ。
どうにか熱だけを抽出できないだろうか。
う~んと頭を悩ませていると、コトンと目の前にティーカップが置かれる。
置いてくれたのはメアリーだ。
「アレクシスさま。お茶を淹れましたので、どうぞ休憩なさってください。根を詰めすぎるのもよくないと思いますから」
「うん、ありがと」
僕はメアリーが淹れてくれたお茶を飲む。やっぱりぬるい。
温かいお茶が飲みたいよ~。
「それはティーポットですか?」
「そう。時間が経つとお湯が冷めちゃうじゃない?だから熱いままにできないかなぁ~って……」
一応、僕の持つ知識の中に火や電気を使わない加熱方法や温度を保ったりする方法はある。でも、どれも手間がかかるので、手軽さというものがなくなる。
僕はできる限り楽をしたい。すぐに作れてすぐに使いたいのだ。
いくら考えても答えが出る気がしない。……仕方ない。これは最終手段だったんだけど。
「メアリー、ちょっと出かけてくる」
「どちらに行かれるのですか?」
「クローディル兄上のところ」
餅は餅屋。魔道具なら詳しい専門家に聞けばいい。
でも、兄上のいる魔塔はなぁ……まぁ、どうにかなることを願うしかないか。
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