転生王子はあくまでも楽したい~面倒事はごめん被ります~

りーさん

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第一章 あくまでも働きたくない

11. 売り込み

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 商会を立ち上げたはいいものの、僕のやることは大して変わらない。

「魔塔主さま~、今日も来ましたよー」
「また来たの?」

 僕が魔塔の入り口で呼びかけると、クローディル兄さんがげんなりとした顔で僕を出迎える。

「ただの取引なんですから、そんなに嫌そうな顔をしないでくださいよ」

 僕が魔塔に出向いたのは、僕が個人的に欲しいと思う魔道具を作ってもらうためである。でも、商会長となった僕は依頼という形で来たので、兄上ではなく魔塔主と立場で呼んでいる。
 まだ名ばかりの商会である今は、商会の名前を広げることが大切である。
 一番簡単なのは寄付などの慈善事業を行うことだけど、第四王子である僕にはそこまで多くの予算は振り分けられないために、自由に使えるお金にそこまでの余裕はない。

 ならば、商品を売り込んでお得意様を作るしかないが、当然仕入れるためのお金もないので、僕は魔道具のアイデアを魔塔に売ることで同時に名を売ろうとしていた。
 ついでに自分の欲しい魔道具も手に入るとまさに良いことづくめ。
 本来ならこういう交渉の場に商会長が出向くことはないんだけど、兄上に対しては僕が出向くことにしている。
 理由は二つあり、相手が王族であることだ。侍女のメアリーは王族の要求を退けることはできないので、対等の立場に立つことができない。
 もう一つは、僕が商会長であることを知っているからだ。父上に宣言した通り表向きは大人の男性にしているけど、兄さんたちには僕が商会を設立したことについて報告が行っている。
 商会が儲かるようなことがあれば、王子として割り当てられている予算とは別に自由に使える財産ができるのに加えて、武器や毒の調達なども他の王子や王女と比べて容易になってしまう。
 父上が報告に来るように言ったのもそれが理由だ。父上は息子相手でも報告を鵜呑みにはせずに必ず裏を取る。もしその時に報告に偽りがあれば、国王に虚偽を述べたとして処罰をくだすことができる。
 王子という身分は簡単には自由を与えてもらえないのだ。

 そんなわけで僕が商会長であることは身内には知られているので隠す必要などもなく、僕が向かったほうが不要なトラブルは起きないというわけだ。
 クローディル兄さんはなんだかんだ身内に甘いところがあるので、一つくらいなら買ってくれるだろうという下心もある。
 現に、迷惑そうにはしているけど追い返そうとしないどころか魔塔の中に入れてくれるし。

「では、魔塔にはどのようなご用件でしょうか?商会長」
「本日はシクセラ商会が取り扱っている商品をお持ちしたのでご覧いただければと」

 シクセラ商会というのは、僕が立ち上げた商会の名前。
 僕が商会長であることは秘匿することにしたので、自分の名前を商会の名前に使えない以上、どんな名前にするかと考えたものの、特にいい名前が思いつかなかったので、アレクシスをローマ字にして逆読みしたシクセラというものにしておいた。
 この国の文字は英語じゃないから別にいいかという考えである。

「商品らしきものが見当たらないけど」
「これが商品です」

 僕は以前にクローディル兄さんに見せた設計図を持ってきた。
 ティーポットとは違い、構造も含めていろいろと複雑なので、何度も書き直してようやく納得のいく出来になったものを選んできたので何もわからないということはないはずだ。

「これ……魔道具の図案?」
「はい。ひとまず外観と希望する機能を書いておいたので、お気に召すのがあればお売りします」
「えっ、図案を売るの!?」

 商品を売るとなると当然ながら誰もが実物と考えるだろうから、これは新しいだろう。

「はい。魔道具を作るにもまずはどのようなものを作るのか思いつかないといけないでしょう?」
「それは……そうだけど」
「それに、魔道具は見た目も大事ですよ。貴族相手にも魔道具を作っている魔塔主さまならご存じでしょう?」
「うん、まぁ……」

 そう。貴族というのはとにかく見映えを重視する。
 母上の温室も外観はオシャレで美しいけど、外から見えないところに魔道具の仕掛けを作ってあるのだ。他にもお守りなどは一見そうとは見えない形や仕掛けにすることで対策を取られにくくしたりしている。

「ひとまず、文句はこれを見てからにしてください。魔塔主さまが喜びそうなものを厳選してきましたので」

 前世で綾目ネットワークの異名をつけられた知識の豊富さと記憶力を生かし、クローディル兄さんの魔道具の製作技術にも期待していろいろと細かく考えてきた。
 まぁ、一つ二つくらいは挑戦的な意味でお遊びも混ぜてるけど。
 クローディル兄さんの普段の生活ぶりを考えると、どれかは刺さると思う。

 しばらくクローディル兄さんの様子を観察していると、クローディル兄さんの目が輝きだす。

「……商会長、こちらの魔道具はどのようなもので?」
「ああ、これはドールというものですね」

 よりによってお遊びで入れたやつに食いついたか。
 ドールというのは前世のロボットを参考に構造を考えた、魔力で動く人形である。人形というよりはぬいぐるみのほうが近いかもしれない。
 この国の技術では球体関節を作るのは難しいだろうし、人のような形より可愛いかなと動物のデザインにしてしまった。

 これが作れるならアドリアネにプレゼントするのもいいかもなんて考えてたりなかったり。まぁ、前世では動く人形なんてホラーでしかないから、絶対に喜ばれないプレゼントだと思うけど。

「闇魔法に精神操作というものがあると聞いて、その魔法を応用すれば自分の思うように動かせる人形が作れるかなと……」

 精神操作というのは、人の心を乗っ取り操る闇魔法。危険性が高い魔法のため、特別な許可がない限りは使用を禁止されている魔法である。

「……そうだね。理論上はできると思う」

 えっ、ほんとに?これ、本当にお遊び感覚で入れたから、できると言われても困惑しかないんだけど。
 基本となる魔法だって禁止扱いされてる危険なものだし。

「精神操作の魔法の操作の部分の術式だけを組み込んで、人形全体に魔力が行き渡らせるようにすれば……いや、それだと必要な魔力量が多すぎるか。なら、随所に魔力石を……」

 なにやらぶつぶつと呟きながら構想を練っているクローディル兄さんに僕は尋ねる。

「あの、持ってきた僕が言うのもなんですけど、大丈夫なんですか?」
「うん。禁止されているのは人に無断で使う場合であって、申請すれば問題ないから」

 そんなに緩くて大丈夫?許可を得たから勝手に使う連中も出てきそうなんですけど。
 ……まぁ、大丈夫なら大丈夫ということにしておこう。
 決して、面倒だからではない。これはまだ十歳にもならない王子が首を突っ込むことではないからだ。

「では、お買い上げいただけるということで?」
「……そうですね。ここまで興味が引かれてしまっては。おいくらでしょう?」

 僕はう~んと悩む素振りして、クローディル兄さんに告げる。

「今回は無料でいいです。その代わり、僕の発案ということを証明していただければ」
「ちゃっかりしてるなぁ……」

 クローディル兄さんが手を振り上げるとどこからか紙が飛んでくる。これも魔法だろうか。
 その紙をクローディル兄さんがキャッチすると、何かをサラサラと書き始める。

「これでどうでしょう、商会長?」
「確認しますね」

 クローディル兄さんから紙を受け取り、中身を確認する。

ーーーーーーーーーー

  魔道具『ドール』に関する権利について

・魔道具『ドール』はアレクシス・ラーカディア・スピネルの発案であることを認める
・魔道具『ドール』に関する権利はアレクシス・ラーカディア・スピネルが保有するものとする
・クローディル・ラーカディア・スピネルはアレクシス・ラーカディア・スピネルに魔道具『ドール』の試作品及び完成品を提供するものとする

    クローディル・ラーカディア・スピネル

ーーーーーーーーーー

 項目はこの三つだった。その下にクローディル兄さんのサインがしてある。
 僕としては発案者が別であることさえ示してくれればよかったんだけど、どうやら試作品と完成品をそれぞれくれるらしい。兄さんの顔を見ると、どうせお前も欲しいんだろう?と言いたげに笑っている。
 これはありがたい。人形なら何の文句も言わずに指示に従ってくれるから、一体くらいは欲しい。

「これで大丈夫です」
「じゃあ、もう一枚用意しましょう。それぞれで保有するということでどうでしょうか」
「はい、構いません」

 クローディル兄さんはまた魔法で紙を自分のほうに飛ばすと、またサラサラと書き始める。
 その間に僕は一枚目の紙にサインをしておく。

「ではこちらにも」
「お早いですね」

 僕がサインを終えるのと同時に書き終わっていた。絶対に魔法の補正のようなものがあると思うけど、兄さんの様子を見るに教えてくれそうにはない。

「サインしました」
「では、私はこちらを持っておきましょう。お話は以上でしょうか」
「はい」

 クローディル兄さんが食いついたのはドールだけのようだ。他のものは魔塔の魔法使いに売り込みしてみるとしよう。次はロロナ辺りがいいだろうか。
 王子の僕がやると押し売りになるだろうし、メアリーに行ってもらうのがいいかも。

「では、入り口まで送りましょう」
「よろしくお願いします」

 僕はクローディル兄さんの手を取り、魔塔を出た。
 今回の商談は、身内であることを含めても初回にしては上々の成果ではないだろうか。楽をして暮らすためにも、このままの勢いで商会を大きくしていこう。
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