転生王子はあくまでも楽したい~面倒事はごめん被ります~

りーさん

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第二章 あくまでも一人でいたい

19. 社交界 1

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 授業は午前に行っていて、午後は自由時間。その時間を生かして普段はゴロゴロしているのだけど、今日は顔だけは起こしてソファのほうに向けていた。
 フェリクスが部屋に遊びに来ているからである。……うん?それならちゃんと対応するべき?いいのいいの、こいつは僕の具合をわかってるから。

「……一応は真面目な話があるのでちゃんと聞いてくれません?」
「だからちゃんと顔を向けているじゃないか」
「起きて向かい側に座れって言ってんだよ!」

 僕と二人きりだと気が抜けるのか、たまに口調が琉夏の時のように乱暴になる。誰に聞かれてるかわからないから部屋の中でも気を配ってもらいたいんだけども。

「だってさぁ、さっきまでお前と打ち合ってて疲れてるんだもん」
「それなら攻撃を避けなければいいだけでは?」
「お前はわざと負けるの嫌いだろ。それに、模造剣とはいえ当たると痛いし」

 別に僕は痛い思いをしてまで負けたいわけではない。それに、フェリクスの中身が琉夏だとわかった以上余計に負けたくない思いが強くなった。
 その結果、お互いに攻撃が当たらない持久戦になり僕の体力は尽きた状態である。寝転がっていたいのは当然の心理であるといえる。

「それで、真面目な話ってなに?」
「アレクさまはライヒル伯爵家は知っていますか?」
「ああ。お前の母親の実家だろ」

 この国の貴族の名前は、ミドルネームは配偶者の出身の家の名前をつけることになっている。僕の場合は母親である王妃がラーカディア侯爵家の者なので、ミドルネームがラーカディアになるというわけだ。
 そして、フェリクスのミドルネームはライヒル。それは、侯爵夫人がライヒル伯爵家の出身であることを意味している。

「そこの伯爵令息が家庭教師に優秀だと褒められていたそうですよ。母がライヒル伯爵夫人から直接伺ったそうです」
「そいつ、何歳なの?」
「俺たちと同い年みたいですよ」
「なるほどね」

 わざわざフェリクスが僕に優秀だという話を持ってくるくらいなら、その子は年齢の割にというレベルではないのだろう。
 それなら、確かめてみるのもいいかもしれない。

「フェリクス。お前も僕の婚約披露パーティーに来るでしょ?」
「ええ。俺はアレクさまの側近候補ですから」
「それならライヒル伯爵のところも来るはずだよ。ライヒル伯爵のところの子どもは文官としての側近候補に名前が挙がっていたはずだから」

 王族は側近をつけることができる。第四王子の僕が許可されているのは騎士と文官が一人ずつの二人までだ。
 年齢に制限はないものの、登城できる年齢以上が望ましいとされる。王族の側近が城に出入りできないのは致命的だからね。

 側近は、自分と同年代の者を選ぶことが多い。単純に同じ時を過ごすことになるし、学園でも行動を共にすることができるためだ。
 現に僕の兄たちは同年代の側近だ。シャルロッテ姉さんだけは隣国に嫁ぐと決まっているから側近はいない。専属の使用人だけ連れていくそうだ。

 話を戻して、側近についてだけど、身分も考慮する必要はない。
 騎士といっても騎士団に所属していないといけないというわけではなく、あくまでも自分の裁量で決めることができる。
 極論、身なりの汚いホームレスを騎士にするということも可能ではあるのだ。登城するには厳しいチェックが入るからし、側近の行いは主の責任となるため、そんな怪しい人を選ぶことはまずないけど。

 側近選びは、この国では昔からあるもので、国王になるための試験の名残だと思っている。いかに自分の味方となる優秀な人材を引き入れられるかというのも、王となる者には必要な素質の一つだ。
 現に、昔は性別や人数の制限はなく、何人でも側近を迎えることができた。今は無用な争いを避けるためか、二人までとなった。

 僕は側近をつける気などさらさらなかったけど、フェリクスが琉夏の生まれ変わりであるとわかった以上、側においておくには側近という肩書きが都合がいい。
 フェリクスの場合は騎士だろう。周りもそう見ていると思う。だけど、問題は文官。僕はフェリクスだけでいいと思っているけど、周りはそう見てくれない。
 騎士を置いたなら文官も、となるのが必然であり、王族とのコネを作りたい人は自分の息子を押しつけてくる。
 もしライヒル伯爵家の息子があいつの生まれ変わりだとするなら、そいつを文官として置けばいい。

「……アレクさま。側近候補の名前を覚えているんですか?」
「一応ね。候補が決まったときにリストを渡されたからそれを見て。お前の名前もその時には知ってたよ」
「……さすが綾目ネットワーク」
「それ褒めてるの?」

 琉夏が僕のことを綾目ネットワークと呼ぶのは僕を茶化すときがほとんどだ。会話の流れからすると褒めてるんだろうけど、そのせいでまったく褒められている気がしない。

「……とりあえず、そいつが来たらお前から接触して。確かめ方はわかる?」
「アレクさまに言ったことと同じことを言えばいいんでしょう?」

 フェリクスの言葉に僕はこくりと頷く。

「それじゃあ、当日はよろしくね」
「はい。アレクさまの礼服を楽しみにしておきます」
「僕も楽しみにしておくよ。似合ってなかったら笑ってあげるから安心して」

 僕がそう言うとフェリクスは悔しそうな顔をする。立場上、僕がフェリクスを笑うことはできても、フェリクスは僕のことを笑えないからね。

「……いいですね、王子という立場は」
「こういう特権があることだけはね。それ以外は不便でしかない」

 どうせなら肩の荷を下ろせる平民とかがよかったんだけどなぁ……

「……アレクさまは王子に向いていると思いますけどね、いろいろと」
「……一応、褒め言葉として受け取っておいてあげるよ」

 フェリクスはクスリと笑う。それが子どもを見守る親のような目つきだったからなんか腹が立つ。

「では、お話は以上ですので、俺は失礼します」
「うん。またね」

 僕は静かに部屋を出ていくフェリクスを見送る。
 さて、パーティーの準備、頑張りますか。
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