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第二章 あくまでも一人でいたい
18. 友人
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授業が再開してから一週間。
ボーッと騎士団の訓練を眺めている僕に近づいてくる存在がいる。
騎士団の副団長の息子であるフェリクス。前世では僕の友人の九条琉夏だった男だ。
琉夏は僕に水を差し出しながら言う。
「やる気を出せとは言いませんが、殿下がそのような顔をなさっていては皆の士気が下がってしまいます」
琉夏ことフェリクスは、僕が哉斗の生まれ変わりなのも当然知っているけど、人目のある場所では王子として接してくれている。
「兄上がやる気まんまんだから大丈夫だ」
「……ジークフリート殿下がやる気を出されると、それはそれで不安しかありませんが……」
「そうなのか?」
普段はおバカなところがあるけど、人前ではちゃんと振る舞えているはずだ。まぁ、僕の本質を見抜いた琉夏なら兄さんの本質も見抜かれていそうだけど。
「あの人がやる気を出すといつも空回りして振り回されると父がぼやくので」
「ああ~、それは大正解」
僕もジークフリート兄さんと手合わせをしたことがあるけど、弟にいいところを見せたいのか、技を連発して体力切れになり持久力で勝つことがよくあったからね。
どれだけ強い攻撃も当たらなければ意味がない。ジークフリート兄さんが相手に当てることを意識すれば僕が負けてもおかしくなかったんだけど、ただ振り回すだけだから距離を取っていればほぼ当たらなかったんだよね。
そんな状態の人が指導していてもよくなるどころか悪化しそう。でも、副団長がわかっているなら大丈夫かな?
「あの人は、普段からあのような?」
「いや、普段のほうがひどい」
どうして家族だけの空間になると知能が半減するんだろうか。プライベートで気を抜いているにしても抜きすぎだ。
「なるほど。アレクシス殿下は兄君に似たのですね」
「それは普段の私の素行がひどいということか?」
フェリクスには、たびたび部屋に友人として遊びに来るようになってから、僕がだらけているのも何度か見られている。
僕が怠惰なのは哉斗だったころからだから大して驚かれなかったけど。
「私室でくらい気を抜いても構わないだろう。外で相応に振る舞えていればいい」
「……まぁ、あなたのことですからその心配はしていませんが」
「そうか?」
期待が過ぎると思わないでもないけど、その期待を裏切ることのないようにしておかなければ。
少なくとも、ジークフリート兄さんと同類に扱われるわけにはいかない。
「おい、そこの二人!さっきから聞こえてるぞ!」
ついにジークフリート兄さん本人から口出しされたが、僕は毅然として言い返す。
「はい、聞こえるように話していますから」
「聞こえないようにしろ!」
そこは話すなじゃないのか。ジークフリート兄さんの頭の悪さが際立つのは他の兄たちが優秀だからかと思ったけどそうでもなさそう。
「ひとまず、暇ならお前たち二人で打ちあえ。見てるのもいいが実践も大事だろう」
「私がアレクシス殿下と手合わせすれば一撃も当たりませんから永遠に終わりませんよ」
王子に直接は言えないためか、フェリクスは遠回しに断りを入れてくる。
まぁ、一週間前の手合わせでもなんだかんだ全部回避できたからそう思うのも無理はない……って、ちょっと待て。遠回しに僕の攻撃も当たらないって言ってないか?
一週間前に一発当てたというのに!偶然に近いものだとしても、当てたものは当てたのだから。
「私はそこまでの腕はない。すべてわかった上でなら私が負ける」
あの時はアレクシスが哉斗であると知らなかったから一発を当てられたようなものだ。琉夏は哉斗の性分をよく知っている。次戦えば負ける可能性は高い。
フェリクスの言うように攻撃が当たらずともこちらの攻撃も避けられるだろうから、持久戦になるだろう。そうなれば体力はこちらのほうが少ないのだから、いずれ動けなくなる。
「……お前ら、なんかあったか?知らない間に距離が縮まっているように見えるが」
「先日、フェリクスと友人になりまして」
「おい、俺は聞いてないぞ!父上や兄上たちにも言ったのか!?」
ジークフリート兄さんが僕に掴みかからんとばかりに矢継ぎ早に尋ねてくる。人前ではちゃんと“私”というのに一人称が“俺”に戻っていることからも相当に焦っているのだろう。
ここまで焦るのは、王子にとって“友人”というのは、いわば自分の傘下に加えることを指すのだ。
僕がここでフェリクスを友人として紹介するのは、フォルクナー侯爵家を自分の陣営に引き入れたと宣言するのと同じようなものである。
「兄上のお考えになっているようなことではございません。フェリクスは私の騎士ではありますが、フォルクナー侯爵は私の騎士ではないのと同じです」
あくまでもフェリクス個人として付き合うつもりだということを伝えると、ジークフリート兄さんはわかりやすいくらいにほっと胸を撫で下ろしていた。
ジークフリート兄さんはもう少し腹芸がうまくなるべきだと思う。王子としてはわかりやすすぎるのは致命的だ。
「ですが、父上たちにも話は通しておきます。今度の食事会の時にでも」
「ああ、そうしておけ。私からも伝えておく」
ジークフリート兄さんはその話で満足してしまったのか、また訓練に戻ってしまった。打ち合わなくていいのかな?やりたいわけじゃないから言わないけど。
「……なぁ、フェリクス」
「なんでしょう」
「お前は私の友人か?」
別に友人になると決めたわけではない。哉斗と琉夏は友人だったかもしれないけど、フェリクスとアレクシスとしてはそうではないかもしれない。
まだ父上に正式に伝えてはいないから撤回することはできる。あくまでも候補として話したことにすれば、僕が不用意だったとして片づけることがーー
「殿下」
フェリクスの言葉で思考に沈んでいた僕の意識が戻ってくる。
フェリクスに目を向けると、フェリクスは僕の腕を掴む。
「あなたが私を振り払おうと、私はあなたにしがみつきますよ。腕っぷしには自信がありますので」
フェリクスの腕を掴む力が強まる。自分のほうに引っ張っても、その腕を振りほどくことはできない。
絶対に離さないとばかりに掴んでくる。
「ならば、私もお前を振り払うためにも、もっと鍛えなければならないな」
とりあえず、まぐれ勝ちしなくなるまでね。
ボーッと騎士団の訓練を眺めている僕に近づいてくる存在がいる。
騎士団の副団長の息子であるフェリクス。前世では僕の友人の九条琉夏だった男だ。
琉夏は僕に水を差し出しながら言う。
「やる気を出せとは言いませんが、殿下がそのような顔をなさっていては皆の士気が下がってしまいます」
琉夏ことフェリクスは、僕が哉斗の生まれ変わりなのも当然知っているけど、人目のある場所では王子として接してくれている。
「兄上がやる気まんまんだから大丈夫だ」
「……ジークフリート殿下がやる気を出されると、それはそれで不安しかありませんが……」
「そうなのか?」
普段はおバカなところがあるけど、人前ではちゃんと振る舞えているはずだ。まぁ、僕の本質を見抜いた琉夏なら兄さんの本質も見抜かれていそうだけど。
「あの人がやる気を出すといつも空回りして振り回されると父がぼやくので」
「ああ~、それは大正解」
僕もジークフリート兄さんと手合わせをしたことがあるけど、弟にいいところを見せたいのか、技を連発して体力切れになり持久力で勝つことがよくあったからね。
どれだけ強い攻撃も当たらなければ意味がない。ジークフリート兄さんが相手に当てることを意識すれば僕が負けてもおかしくなかったんだけど、ただ振り回すだけだから距離を取っていればほぼ当たらなかったんだよね。
そんな状態の人が指導していてもよくなるどころか悪化しそう。でも、副団長がわかっているなら大丈夫かな?
「あの人は、普段からあのような?」
「いや、普段のほうがひどい」
どうして家族だけの空間になると知能が半減するんだろうか。プライベートで気を抜いているにしても抜きすぎだ。
「なるほど。アレクシス殿下は兄君に似たのですね」
「それは普段の私の素行がひどいということか?」
フェリクスには、たびたび部屋に友人として遊びに来るようになってから、僕がだらけているのも何度か見られている。
僕が怠惰なのは哉斗だったころからだから大して驚かれなかったけど。
「私室でくらい気を抜いても構わないだろう。外で相応に振る舞えていればいい」
「……まぁ、あなたのことですからその心配はしていませんが」
「そうか?」
期待が過ぎると思わないでもないけど、その期待を裏切ることのないようにしておかなければ。
少なくとも、ジークフリート兄さんと同類に扱われるわけにはいかない。
「おい、そこの二人!さっきから聞こえてるぞ!」
ついにジークフリート兄さん本人から口出しされたが、僕は毅然として言い返す。
「はい、聞こえるように話していますから」
「聞こえないようにしろ!」
そこは話すなじゃないのか。ジークフリート兄さんの頭の悪さが際立つのは他の兄たちが優秀だからかと思ったけどそうでもなさそう。
「ひとまず、暇ならお前たち二人で打ちあえ。見てるのもいいが実践も大事だろう」
「私がアレクシス殿下と手合わせすれば一撃も当たりませんから永遠に終わりませんよ」
王子に直接は言えないためか、フェリクスは遠回しに断りを入れてくる。
まぁ、一週間前の手合わせでもなんだかんだ全部回避できたからそう思うのも無理はない……って、ちょっと待て。遠回しに僕の攻撃も当たらないって言ってないか?
一週間前に一発当てたというのに!偶然に近いものだとしても、当てたものは当てたのだから。
「私はそこまでの腕はない。すべてわかった上でなら私が負ける」
あの時はアレクシスが哉斗であると知らなかったから一発を当てられたようなものだ。琉夏は哉斗の性分をよく知っている。次戦えば負ける可能性は高い。
フェリクスの言うように攻撃が当たらずともこちらの攻撃も避けられるだろうから、持久戦になるだろう。そうなれば体力はこちらのほうが少ないのだから、いずれ動けなくなる。
「……お前ら、なんかあったか?知らない間に距離が縮まっているように見えるが」
「先日、フェリクスと友人になりまして」
「おい、俺は聞いてないぞ!父上や兄上たちにも言ったのか!?」
ジークフリート兄さんが僕に掴みかからんとばかりに矢継ぎ早に尋ねてくる。人前ではちゃんと“私”というのに一人称が“俺”に戻っていることからも相当に焦っているのだろう。
ここまで焦るのは、王子にとって“友人”というのは、いわば自分の傘下に加えることを指すのだ。
僕がここでフェリクスを友人として紹介するのは、フォルクナー侯爵家を自分の陣営に引き入れたと宣言するのと同じようなものである。
「兄上のお考えになっているようなことではございません。フェリクスは私の騎士ではありますが、フォルクナー侯爵は私の騎士ではないのと同じです」
あくまでもフェリクス個人として付き合うつもりだということを伝えると、ジークフリート兄さんはわかりやすいくらいにほっと胸を撫で下ろしていた。
ジークフリート兄さんはもう少し腹芸がうまくなるべきだと思う。王子としてはわかりやすすぎるのは致命的だ。
「ですが、父上たちにも話は通しておきます。今度の食事会の時にでも」
「ああ、そうしておけ。私からも伝えておく」
ジークフリート兄さんはその話で満足してしまったのか、また訓練に戻ってしまった。打ち合わなくていいのかな?やりたいわけじゃないから言わないけど。
「……なぁ、フェリクス」
「なんでしょう」
「お前は私の友人か?」
別に友人になると決めたわけではない。哉斗と琉夏は友人だったかもしれないけど、フェリクスとアレクシスとしてはそうではないかもしれない。
まだ父上に正式に伝えてはいないから撤回することはできる。あくまでも候補として話したことにすれば、僕が不用意だったとして片づけることがーー
「殿下」
フェリクスの言葉で思考に沈んでいた僕の意識が戻ってくる。
フェリクスに目を向けると、フェリクスは僕の腕を掴む。
「あなたが私を振り払おうと、私はあなたにしがみつきますよ。腕っぷしには自信がありますので」
フェリクスの腕を掴む力が強まる。自分のほうに引っ張っても、その腕を振りほどくことはできない。
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