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第一章 辺境の街 カルファ
4. おやつタイム
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ルーナが勢いよく走り出して、一分後くらいのこと。
「疲れたぁ……」
「そりゃあ、体力ないのに全力で走ったら、そうなるよ」
先ほどまでの元気はどこへやら。ルーナはへろへろになって、僕にもたれながらじゃないと歩けないくらいに疲弊しきっていた。
他の種族よりも精霊は体力があるほうだけど、ルーナは部屋から出た回数が片手で数えられるくらいだ。体力なんてたかがしれている。人間の子どもよりはあるかな程度だ。
まだ、街らしきものも見えてないのに走り出したら、着く前にダウンするのは当然のことと言える。
「お兄ちゃあ~ん……ウァノス食べたい……ちょうだい」
妹の訴えに、僕は空を見上げて、太陽の位置を確認しながら答えた。
「……そうだね。少しだけ休憩しようか」
ルーナが走ってくれたお陰で、時間には少し余裕がある。十分くらいなら、休憩を挟んでも日暮れまでには街に着くはずだ。
「やったー!」
空元気なのか、心からなのかはわからないけど、先ほどのへろへろが嘘のようにハキハキと動きだし、近くの木の根本に腰かける。
それを追いかけて、僕もルーナの側に腰をおろした。
「ほら、食べよ!」
「わかったって」
僕は、ウァノスを入れておいたカバンに手を突っ込む。
そして、ウァノスを三つ、ルーナに渡した。
一つだけじゃ、絶対に満足しないだろうし、まだ数に余裕はあるし。
「はい」
「ありがとー!」
ルーナは、わあっと目を輝かせながら、丸々一つを口に入れた。
「ん~~~!!」
感嘆の声と、幸せそうな満面の笑みで、味わうように口を動かしている。
僕も、ウァノスを一つ手に取って、口に入れた。
おいしいけど、やっぱり甘い。精霊の粉は、地球の普通の砂糖よりも甘いのに、あまりくどさがないから、そこも好きだ。
しかも、虹色で見た目がカラフルだから、結構オシャレなんだよね。
「お兄ちゃん、おかわりちょーだい」
いつの間にか、渡した三つのウァノスを食べきっていたようで、期待の眼差しで僕に手を伸ばしてくる。
見た目は儚げな美少女のルーナだ。こんなおねだりをされれば、ほとんどの人はうんと頷くかもしれないけど、僕は指を交差させて、バツの形にした。
「ダーメ。街に着くまで、まだ時間はかかるし、ウァノスも限りがあるんだから、そんなに食べたらすぐなくなっちゃうよ」
「なくなったら精霊界に戻ってメイドにもらえばいいじゃん!」
いや、精霊界に行ったら、もう戻ってこないでしょ、多分……。
今は、おいしい食べ物と魔法の道具とフラッフィーのベッドに惹かれて、勢いで下界についてきているけど、魔法の道具は、あれば便利ってだけで、ルーナにとってはどうしてもというものではない。それに、父さんにでも頼めばすぐに作ってくれる。
フラッフィーも、ベッドはないけど、ルーナのお気に入りの抱き枕兼クッションはある。
食べ物も、そもそも僕ら精霊は、生きるための食事が必要ない。
普段は、大気の清浄な魔力を呼吸とともに取り込み、それを栄養としているため、必要なのは水くらいだけど、それも魔法で生み出しちゃえばいい。
こうやって現実を見れば、ルーナが旅をする理由なんて、ほとんどないのである。
ルーナは、ちょっと素直なところがあるから、自分の欲望のままに旅に同行してくれたけど、精霊界に戻れば、間違いなく現実に戻る。
そうなっては、その後いくら説得しても、ルーナを連れ出すことは不可能になるだろう。
「ダメ。ルーナも我慢を覚えないと」
「むぅ~!」
頬を膨らませて不満を表現するも、言葉は見つからないのか、そっぽを向いて何も言わない。
ルーナは、いつもこうだ。我を通そうとして、ちょっと言い返されるとすぐに拗ねる子どもみたいな性格をしている。
一応、生まれてから百年以上はたっているんだから、精神年齢は子どもじゃないはずなんだけどね。
「あっ、るーなさまがいる!」
「ほんと?ほんとだ!」
僕らが木陰で休んでいると、そんな声が聞こえてくる。
でも、誰なんだろうとは思わない。ルーナのことをるーなさまなんて呼ぶのは、彼らしかいない。
僕はくるりと振り返り、ふよふよと浮いているそれに声をかける。
「みんな、どうしたの?父さんたちからのおつかい?」
僕の言葉に、彼らはふるふると震える。
「ちがうよ!おーさまはかんけーない!」
「るーとさまとるーなさまがいたからきたの!」
「だってさ、ルーナ」
僕は、いつの間にかすやすやと寝ていたルーナに声をかける。
本当に隙あらば寝るな、この妹は。
「んあ……ああ、光精?どうしたの~?」
あくびしながら、とろんとした顔でルーナはぶつぶつと言う。
光精というのは、彼らの総称である。
精霊というのは、生まれ方が人間とは異なり、簡単にいえば、何度も生まれ変わる種族だ。
精霊は、命が尽きると、自身の持つ清浄な魔力を周囲にばらまく性質がある。
つまりは、空気中にあるきれいな魔力というのは、元は精霊が持っていたものということだ。
でも、魂の一部が、散布することなく留まり、周囲の魔力を取り込み、体を作り上げる。そうして生まれるのが精霊だ。
そして精霊は、周囲の物に溶け込む性質もある。
たとえば、人間の街で生まれたなら、人間の赤子のような容姿になるし、ドラゴンの里みたいなところで生まれたら、ドラゴンと似た見た目になる。
そして光精というのは、体を作り上げている途中の、いわゆる精霊の幽霊みたいなものである。
体を作り上げていなくても、意識はあり、速度は遅いけど、移動もできる。
自分の望むままに漂い、時が来れば体を構築し、精霊として生まれ、命が尽きれば、再び力を蓄える。
ちなみに、取り込んだ魔力の量によって、精霊は使える魔法の種類が変わったりもする。
でも、精霊には別の生まれ方もある。
その例が僕とルーナで、僕らは父さんと母さんに光精のときに魔力を注いでもらって精霊になった。
つまりは、人間と違って、母さんはお腹を痛めてはおらず、僕らは姿かたちは似ているものの、血の繋がった兄妹とは、またちょっと違うというわけ。
父さんと母さんの影響で姿が似ているだけなのだ。
僕らが全能の精霊なのも同じ理由である。父さんの魔力の影響を受けたのだ。
でも、すべての光精に言えるのは、魔力に惹かれるということと、生前の記憶は知識としてある程度残っているということだ。
現に、彼らは膨大な魔力を持つ僕らのほうにやってきたり、僕らが精霊王の子どもというのがわかっている。
僕も、どんな風に暮らしていたかはわからなくても、地球で生きていたものとは違う、どこかの村のような、森林のような様々な種類の景色の映像が、途切れ途切れになって、今も記憶に残っている。
ルーナは、前世はどんな風に暮らしていたのか、ちょっと気になるな。僕の近くにいたのか、それとも全然違うところにいたのか。
「お兄ちゃん、どうしたの?じっと見て」
「ううん。なんでもないよ。そろそろ行こうかなって」
僕がそう言って立ち上がると、ルーナは露骨に嫌そうな顔をする。
「もうちょっと寝てたい……」
ルーナは、おねだりするような眼差しで、上目遣いになる。
でも、僕は騙されない。ルーナの『もうちょっと』は『数日間』という意味なのを知っているから。
「もう行かないと間に合わないから。その代わり、街に着いたらウァノスをもう一つ食べていいから、行こう」
「ほんと!?行く行く!」
僕の言葉に、ルーナはすぐに機嫌を取り戻して、先導するように街のほうに歩いていく。
本当に、自分の欲望に忠実で、マイペースな妹だ。
「疲れたぁ……」
「そりゃあ、体力ないのに全力で走ったら、そうなるよ」
先ほどまでの元気はどこへやら。ルーナはへろへろになって、僕にもたれながらじゃないと歩けないくらいに疲弊しきっていた。
他の種族よりも精霊は体力があるほうだけど、ルーナは部屋から出た回数が片手で数えられるくらいだ。体力なんてたかがしれている。人間の子どもよりはあるかな程度だ。
まだ、街らしきものも見えてないのに走り出したら、着く前にダウンするのは当然のことと言える。
「お兄ちゃあ~ん……ウァノス食べたい……ちょうだい」
妹の訴えに、僕は空を見上げて、太陽の位置を確認しながら答えた。
「……そうだね。少しだけ休憩しようか」
ルーナが走ってくれたお陰で、時間には少し余裕がある。十分くらいなら、休憩を挟んでも日暮れまでには街に着くはずだ。
「やったー!」
空元気なのか、心からなのかはわからないけど、先ほどのへろへろが嘘のようにハキハキと動きだし、近くの木の根本に腰かける。
それを追いかけて、僕もルーナの側に腰をおろした。
「ほら、食べよ!」
「わかったって」
僕は、ウァノスを入れておいたカバンに手を突っ込む。
そして、ウァノスを三つ、ルーナに渡した。
一つだけじゃ、絶対に満足しないだろうし、まだ数に余裕はあるし。
「はい」
「ありがとー!」
ルーナは、わあっと目を輝かせながら、丸々一つを口に入れた。
「ん~~~!!」
感嘆の声と、幸せそうな満面の笑みで、味わうように口を動かしている。
僕も、ウァノスを一つ手に取って、口に入れた。
おいしいけど、やっぱり甘い。精霊の粉は、地球の普通の砂糖よりも甘いのに、あまりくどさがないから、そこも好きだ。
しかも、虹色で見た目がカラフルだから、結構オシャレなんだよね。
「お兄ちゃん、おかわりちょーだい」
いつの間にか、渡した三つのウァノスを食べきっていたようで、期待の眼差しで僕に手を伸ばしてくる。
見た目は儚げな美少女のルーナだ。こんなおねだりをされれば、ほとんどの人はうんと頷くかもしれないけど、僕は指を交差させて、バツの形にした。
「ダーメ。街に着くまで、まだ時間はかかるし、ウァノスも限りがあるんだから、そんなに食べたらすぐなくなっちゃうよ」
「なくなったら精霊界に戻ってメイドにもらえばいいじゃん!」
いや、精霊界に行ったら、もう戻ってこないでしょ、多分……。
今は、おいしい食べ物と魔法の道具とフラッフィーのベッドに惹かれて、勢いで下界についてきているけど、魔法の道具は、あれば便利ってだけで、ルーナにとってはどうしてもというものではない。それに、父さんにでも頼めばすぐに作ってくれる。
フラッフィーも、ベッドはないけど、ルーナのお気に入りの抱き枕兼クッションはある。
食べ物も、そもそも僕ら精霊は、生きるための食事が必要ない。
普段は、大気の清浄な魔力を呼吸とともに取り込み、それを栄養としているため、必要なのは水くらいだけど、それも魔法で生み出しちゃえばいい。
こうやって現実を見れば、ルーナが旅をする理由なんて、ほとんどないのである。
ルーナは、ちょっと素直なところがあるから、自分の欲望のままに旅に同行してくれたけど、精霊界に戻れば、間違いなく現実に戻る。
そうなっては、その後いくら説得しても、ルーナを連れ出すことは不可能になるだろう。
「ダメ。ルーナも我慢を覚えないと」
「むぅ~!」
頬を膨らませて不満を表現するも、言葉は見つからないのか、そっぽを向いて何も言わない。
ルーナは、いつもこうだ。我を通そうとして、ちょっと言い返されるとすぐに拗ねる子どもみたいな性格をしている。
一応、生まれてから百年以上はたっているんだから、精神年齢は子どもじゃないはずなんだけどね。
「あっ、るーなさまがいる!」
「ほんと?ほんとだ!」
僕らが木陰で休んでいると、そんな声が聞こえてくる。
でも、誰なんだろうとは思わない。ルーナのことをるーなさまなんて呼ぶのは、彼らしかいない。
僕はくるりと振り返り、ふよふよと浮いているそれに声をかける。
「みんな、どうしたの?父さんたちからのおつかい?」
僕の言葉に、彼らはふるふると震える。
「ちがうよ!おーさまはかんけーない!」
「るーとさまとるーなさまがいたからきたの!」
「だってさ、ルーナ」
僕は、いつの間にかすやすやと寝ていたルーナに声をかける。
本当に隙あらば寝るな、この妹は。
「んあ……ああ、光精?どうしたの~?」
あくびしながら、とろんとした顔でルーナはぶつぶつと言う。
光精というのは、彼らの総称である。
精霊というのは、生まれ方が人間とは異なり、簡単にいえば、何度も生まれ変わる種族だ。
精霊は、命が尽きると、自身の持つ清浄な魔力を周囲にばらまく性質がある。
つまりは、空気中にあるきれいな魔力というのは、元は精霊が持っていたものということだ。
でも、魂の一部が、散布することなく留まり、周囲の魔力を取り込み、体を作り上げる。そうして生まれるのが精霊だ。
そして精霊は、周囲の物に溶け込む性質もある。
たとえば、人間の街で生まれたなら、人間の赤子のような容姿になるし、ドラゴンの里みたいなところで生まれたら、ドラゴンと似た見た目になる。
そして光精というのは、体を作り上げている途中の、いわゆる精霊の幽霊みたいなものである。
体を作り上げていなくても、意識はあり、速度は遅いけど、移動もできる。
自分の望むままに漂い、時が来れば体を構築し、精霊として生まれ、命が尽きれば、再び力を蓄える。
ちなみに、取り込んだ魔力の量によって、精霊は使える魔法の種類が変わったりもする。
でも、精霊には別の生まれ方もある。
その例が僕とルーナで、僕らは父さんと母さんに光精のときに魔力を注いでもらって精霊になった。
つまりは、人間と違って、母さんはお腹を痛めてはおらず、僕らは姿かたちは似ているものの、血の繋がった兄妹とは、またちょっと違うというわけ。
父さんと母さんの影響で姿が似ているだけなのだ。
僕らが全能の精霊なのも同じ理由である。父さんの魔力の影響を受けたのだ。
でも、すべての光精に言えるのは、魔力に惹かれるということと、生前の記憶は知識としてある程度残っているということだ。
現に、彼らは膨大な魔力を持つ僕らのほうにやってきたり、僕らが精霊王の子どもというのがわかっている。
僕も、どんな風に暮らしていたかはわからなくても、地球で生きていたものとは違う、どこかの村のような、森林のような様々な種類の景色の映像が、途切れ途切れになって、今も記憶に残っている。
ルーナは、前世はどんな風に暮らしていたのか、ちょっと気になるな。僕の近くにいたのか、それとも全然違うところにいたのか。
「お兄ちゃん、どうしたの?じっと見て」
「ううん。なんでもないよ。そろそろ行こうかなって」
僕がそう言って立ち上がると、ルーナは露骨に嫌そうな顔をする。
「もうちょっと寝てたい……」
ルーナは、おねだりするような眼差しで、上目遣いになる。
でも、僕は騙されない。ルーナの『もうちょっと』は『数日間』という意味なのを知っているから。
「もう行かないと間に合わないから。その代わり、街に着いたらウァノスをもう一つ食べていいから、行こう」
「ほんと!?行く行く!」
僕の言葉に、ルーナはすぐに機嫌を取り戻して、先導するように街のほうに歩いていく。
本当に、自分の欲望に忠実で、マイペースな妹だ。
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