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第一章 辺境の街 カルファ

6. トラブル 2

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 争っている人たちがどこにいるのかは、すぐにわかった。声を中心にして、人だかりができていたから。
 完全に列が崩れている。これでは、いつまで経っても街に入れそうもない。
 街の見張りは、何をやってるんだか。それとも、不干渉という決まりでもあるのだろうか?

 僕らが、人混みを掻き分けながら進むと、はっきりと言い争っている人たちが見えた。

「だから、抜かしたのはそっち!」
「お前がどっか行ったから進んだだけだっつってんだろ!」

 どうやら、言い争いは平行線のままのようだ。これでは永遠に終わらなさそうだな。

「ちょっとお兄さんたち。いい加減にしてくれない?」

 僕が周囲の人混みから飛び出して言うと、言い争いをしている二人も含めて、周りは僕に注目する。

「なんだ?ガキは引っ込んでろ!」

 男が睨みながら言う。

 ガキって……。多分、僕はこの男より何倍も年上だと思うんだけど……
 まぁ、見た目は子どもだから仕方ないか。

「引っ込めるなら引っ込みたいけど、お兄さんたちのせいで列が進まないの。争いならよそでやってくれない?」

 僕が街とは反対方向のほうを指差すと、男の勢いは落ちて、何も言い返してこなくなった。
 まぁ、争いをやめてとは言ってないし、列を止めてるのは事実だから、自分の行いを正当化するいい言葉が思いつかないんだろうね。

「でも!この人、順番を抜かしたのよ!文句の一つでも言いたくなるわ」

 代わりといってはなんだけど、女の人も言い返してきた。
 一つ……ねぇ。
 僕は、はぁとため息をつく。

「もう充分言ったよね?続きがやりたいならよそでやって。列が進まなくて、街に入れないから」
「で、でも……」

 納得いかないのか、男みたいに素直に引いたりはしてくれない。
 めんどくさいなぁ……

「でもじゃないよ。ぎゃあぎゃあ騒がれて、迷惑だって言ってるの」

 少し睨むように言うと、女の人はたじろぐ。

「そうだ!お前らのせいで進まないんだよ!」
「くだらないことしてないで、どっちも後ろに並び直せばいいじゃねぇか!」

 僕の言葉に、周囲の人たちは同調するように叫ぶ。

 さっきまで我関せずという態度だったくせに、調子いいなぁ。
 本来なら、大人の庇護にあってもおかしくない見た目の僕を盾にして、恥ずかしくないのかな?

「おい!何の騒ぎだ!」

 ふと、そんな声が聞こえる。野次馬たちの声ではない。
 聞こえたほうに視線を向けると、人混みを掻き分けるようにして、男たちがこちらに来る。
 統一感のある見た目からして、どこかの組織の連中だろうか。

「うわ、治安隊だ」
「街の外は管轄外じゃないのか?」

 周りが勝手にひそひそと話してくれるお陰で、どんなやつらなのかすぐにわかった。
 治安隊という言葉の響きからして、おそらく警備員のようなことをやっているのだろう。どうやら、騒ぎを聞きつけて、争いをおさめるためにやってきたらしい。
 騎士というよりは兵士かもしれないな。

 どっちにしても、来れるんならさっさと来いよと思いながらも、僕は彼らに向かって足を踏み出す。

「このお兄さんとお姉さんが喧嘩してて、ぜんぜん前に進まないから、僕が怒ってたの」

 なるべく子どもっぽい言葉を意識して状況を説明すると、治安隊の人は、僕に探るような視線を向ける。

「お前のようなガキがわざわざか?親はどうした」

 治安隊の人は辺りをキョロキョロと見回す。
 確かに、僕らは見た目は子どもだ。親がいると思うか、普通は。
 口調は悪いけど、子どもの僕がトラブルに口を突っ込んだことを心配しているだけだろう。

「ここにはいないよ。遠くにいるの」
「そ、そうか……悪いことを聞いたな」

 僕の言葉に、治安隊の人はしどろもどろになる。そんなにおかしなことを言ったかと、僕は先ほどの言葉を思い返す。
 ……もしかして、親が死んだと思われている?

 精霊界にいるだけで、ピンピンしているんだけど、そう思ってくれるのなら、そう思わせておこう。
 でも、子どもだけなのは、やっぱり目立つか。この街で、保護者代わりの大人を見つけたほうがいいかも。

「それで、なんで喧嘩していたのか知っているか?」
「それはお兄さんたちに聞いたら?僕たちは、早く街に入りたいから、そんなことに付き合ってる暇はないの。このままじゃ、ルーナが地面に寝転んじゃうし」

 僕がルーナのほうに視線を向けると、釣られるように、治安隊の人や周囲の野次馬もルーナを見る。

 ルーナは、僕一人で対処できると判断したのか、僕が言い争いをしている二人に声をかけた辺りから、うつらうつらとし始めていた。
 今はふらふらしながら眠っている。いつ地面に倒れてもおかしくないだろう。

 そう思っていると、本当にがくんと体が揺れて、ルーナは前方向に傾いた。
 地面に倒れる前に、僕は地面を蹴って、ルーナの前まで移動して、ルーナを支えた。
 そして、なんとかルーナを立て直す。

「もふもふらっふぃ……もふもふの正義……」

 いつもと同じよくわからない寝言を呟く妹に、はぁとため息をつく。
 どんな状況でも変わらないな、この妹は。動きを止めたらすぐに寝る。
 眠り姫の呪いにでもかかってるのか?

「お前たち、よく似てるが兄妹か?」
「そうだよ。ルーナは僕の妹。寝るのが大好きだから、すぐに寝ちゃうの」
「んみゃあ……ウァノス……ウァノスパラダイス……」

 僕たちの会話はそっちのけで、ルーナの口からは、また新しい寝言が出てきた。
 ウァノスパラダイスってなんだよ。ウァノスがたくさん溢れているの?想像したら、すごいおかしな光景なんだけど。

「なら、さっさとベッドで寝かせてやれ。あいつらの対処は、俺たちがやるから」
「……わかった。でも、ちゃんと並ぶよ」

 街のほうを指した治安隊の人の言葉を断り、トラブルの対処だけ任せることに。

「ルーナ、起きないとここに置いてくよー」
「ウァノスがひとーつ……ふたーつ……」

 聞こえてるのか聞こえてないのか、ルーナはぶつぶつ呟いたまま、目を開ける気配がない。
 こうなったら、仕方ないか。

「……起きないならウァノスはお預けだね」
「えっ?起きてるよ?」

 何を言ってるんだとばかりに、ルーナはハキハキと話しながら、立ち去ろうとした僕の手をぎゅっと握る。
 その握る力は女の子とは思えないくらいに強く、置いていくなとアピールしているようだった。

 本当に、ルーナは扱いやすい。悪い大人に騙されたりしないか不安になるな。

「じゃあ、さっきの列に戻ろうか」
「おー!」

 僕の言葉に、ルーナは目覚めたばかりとは思えないほど元気よく返事をした。
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