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第一章 辺境の街 カルファ
11. 手続き
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手続きは、そんなに複雑なものでもなかった。
どちらかというと、レイクスさんとウォルターさんがいろいろとサインのようなものをしていて、僕はただはいはいと頷くだけ。
そのせいか、異様に眠気が襲ってきて、僕はうつらうつらとしていた。
はぁ~……早くベッドで休みたい。
「おーい。起きてるか~?」
「なんとか……」
「じゃあ、ここにお前らの名前を書いてくれ。これで全部終わりだ」
僕は、差し出された紙に目を通す。そこには、お互いが守るべき条件が箇条書きに書かれている契約書だった。
いろいろと小難しく書いてあるので要約すると、レイクスさんとウォルターさんは後見人として、僕らの身柄の保護と立場の保証。僕らの活動責任の負担。
僕たちは被後見人として、街の滞在許可に加えて、定期的な活動報告。そして、後見人の仕事依頼の引き受け義務。
僕は、被後見人項目の一つを見て、目を細めた。
「仕事依頼の引き受け義務ってなに?拒否権ないの?」
一応、うつらうつらとしながらも、僕はちゃんと話を聞いていた。
そのときの、ルーナがフラッフィーのベッドを欲しがっているもののお金がないから、仕事を与えてやってくれという兵士長の言葉に、確かに頷いた。
でも、強制は聞いてない。引き受けたいときに引き受けるではダメなの?
「すまねぇが、その言い回しは直せねぇんだ。今回のケースでは、被後見人には後見人に対しての拒否権はねぇんでな。貴族が貴族の後見人をするのとは訳が違うんだ」
「……僕らの身分がはっきりしないから?」
「ああ。だから、不必要な自由を与えることはよしとされない。被後見人とはいうが、実質的に後見人の奴隷……よくても従者扱いされる」
う~ん……やっぱりそんな感じかぁ。どうりで公認の抜け道なんて言われるわけだ。全部都合よくはいかないな。
「じゃあ、こっそり頼むとかは?」
「できなくはねぇが……バレたときがまずい。公的なものじゃねぇから、無許可の行動になる。被後見人が後見人の許可なく歩き回ってるってだけで、身分証は簡単に剥奪されるからな。いわゆる、お尋ね者になるぞ」
「なんでそんなに厳しいんですか?」
「こういうときに使われる後見人制度は、ほとんどが訳ありなんだ。元犯罪者だったり、お前たちのように身元不明だったりな。だからこそ、さっき嬢ちゃんが言ったように、スパイを警戒しなきゃならねぇ。疑わしい行動を取れば、スパイの容疑ありとして切り捨てられるってわけだな」
そういう理由なら、ふざけるなとは言いにくいな。国防は国を運営する上で、軽視してはならないものだ。
でも、強制はちょっとなぁ……。
僕が難色を示してると、レイクスさんがはははと笑う。
「大丈夫だ。依頼の強制って言っても、そもそも俺たちが依頼しなきゃいいだけだからな」
「ええ。あなたがたが引き受けたいと思ったときに適当に仕事を頼みますから、普段は気にしなくてもいいですよ。無許可でないことを示すために記述しているだけですから」
あっ、それもそっか。やることがなければ、義務もなにもないね。
僕たちの意見もちゃんと聞き入れてくれるこの人たちなら、無茶な依頼もしてこないと思う。
そう考えると、特にもう問題点はないように思えるけど……
「ルーナ、この内容でサインしてもいい?」
賢い妹に尋ねてみる。もしかしたら、僕が気づいていない問題点があるかもしれない。
うつらうつらとしていたけど、意識はあったはずなので、話の節々は聞き取っているはずだ。
「ん~……お金は?お金はどのくらい、何に使っていいの?制約なしじゃ、武器を買ったりとか、薬を買ったりできちゃうから、それはまずかったりしない?」
少しとろんとしてはいるものの、ルーナの目つきが鋭くなる。
購入制限か。確かに僕たちは、基礎知識は知っていても、下界の常識には疎い傾向があるから、無許可のものを購入しても気づかない可能性が高いな。
リスクは潰しておくに限るけど……ルーナのことだ。絶対に裏がある。
「確かにそうか。じゃあ、小金貨一枚までは自由に使えることにしよう。どうせ、何の憂いもなくフラッフィーのベッドを買いたいだけだろ?」
「あっ、バレた?」
ルーナはイタズラがバレた子どものような笑みを浮かべる。
まぁ、そんなところだろうとは思ったよ、うん。
「よし。新たに項目を記載しておいたから、これでいいならサインしてくれ」
僕は、改めて渡された紙に目を通す。被後見人の部分には、小金貨一枚の使用許可が加わっていたのを確認して、僕はさらさらと自分の名前を書く。
文字は、種族や国によっていろいろと違いはあるものの、イーリス語という世界共通語が存在するので、それを使っていれば困ることはない。
一応、文字の書き取りなどは下界経験者の精霊に習っていたので問題はない。イーリス語は、前世のアルファベットと読み方も使い方も文法もほぼ同じなので、特に覚えやすかったのもある。
見た目としては、英文字の筆記体が一番近いのもあって、書きやすくもある。
ルーナに紙を渡すと、ルーナも同じようにイーリス語で名前を記入する。
ルーナが兵士長に紙を返す。
「よし。これでやっと終わったな。身分証は、数日後に渡すから、今は待っててくれ」
「やっとか~」
いや~、街に入るだけなのに長かったなぁ。それだけ、セキュリティがしっかりしてるってことだろうから、そこは安心だけど。
「お兄ちゃん、眠い……」
ルーナが僕の服の袖を掴んでうとうとし始める。
いや、話し合いしてる間はほとんど寝てたよね!?まだ寝足りないの!?確かに、ルーナは一週間ぶっ通しで寝てたこともあるけど、さすがに。
「では、お二人は私の屋敷にお越しください。フラッフィーのベッドもありますよ」
「わーい!行く行く!」
魅力的な提案をしてくれたウォルターさんに、ルーナは満面の笑みで頷く。
ウォルターさん、ルーナの扱いがもうわかりだしたかな?
「お兄ちゃんも行くでしょ!?」
同意することが決定しているかのような口ぶりで、ルーナは言う。
まぁ、下手に宿で泊まるよりは安全だから、別にいいけど。宿代が浮くのも助かるし。
「うん、僕も行く」
「では、しばらくお待ちください。馬車の手配をして参りますので」
そう言って、ウォルターさんは出ていってしまった。また待たされるパターンかぁ。
「場所教えてくれれば、自分たちで行くのに」
「貴族が出入りする屋敷に、素性も知らない子どもをホイホイ招き入れられるわけねぇだろ。ウォルターと一緒に馬車に乗ってれば、客人扱いされるから、おとなしく乗っていけ」
どうやら、心のなかの声が漏れてしまっていたらしく、兵士長が僕の呟きに答えてくれる。
まぁ、そう言う理由なら、おとなしく待つか。
「ねぇねぇ。なんでこの街にウォルターさんの屋敷があるの?貴族って、都と領地にだけ屋敷を持つものなんじゃないの?」
ルーナがこてんと首をかしげる。いつもの柔らかい瞳なので、ヤバいスイッチは入ってないようだ。疑ってるわけではなく、単純に気になっただけだろう。
「ああ。正確には、外国から来た要人をもてなすための屋敷の管理権を持ってるのがウォルターなんだよ。一応、所有者は別にいるんだが、管理をウォルターに任せてるんだ。その代わりに、あいつの客人も自由に招いていいってことになってる」
その言葉に、僕はうん?と疑いを持つ。ウォルターさんは、貴族とはいえ子爵であり、自分で名ばかりと言っていた。
それに、カルファ防衛軍の一員とはいえ、分隊の副隊長というだけである。
そんな人が、そんな大層な役割を任されたりするものだろうか。普通なら、もっと身分と立場が上の人が管理をしそうなものなのに。
ということは、所有者という人が、ウォルターさんのことを信用して権限を預けたということだけど、身分がまあまあ高そうで、ウォルターさんとそれなりに親しそうなのはーー
「……その所有者って、兵士長だったりしません?」
僕がじとっとした目で兵士長を見ると、兵士長は静かに目をそらす。
「……いや、俺じゃないぞ?」
これは図星だな。
僕は、深々とため息をついた。
どちらかというと、レイクスさんとウォルターさんがいろいろとサインのようなものをしていて、僕はただはいはいと頷くだけ。
そのせいか、異様に眠気が襲ってきて、僕はうつらうつらとしていた。
はぁ~……早くベッドで休みたい。
「おーい。起きてるか~?」
「なんとか……」
「じゃあ、ここにお前らの名前を書いてくれ。これで全部終わりだ」
僕は、差し出された紙に目を通す。そこには、お互いが守るべき条件が箇条書きに書かれている契約書だった。
いろいろと小難しく書いてあるので要約すると、レイクスさんとウォルターさんは後見人として、僕らの身柄の保護と立場の保証。僕らの活動責任の負担。
僕たちは被後見人として、街の滞在許可に加えて、定期的な活動報告。そして、後見人の仕事依頼の引き受け義務。
僕は、被後見人項目の一つを見て、目を細めた。
「仕事依頼の引き受け義務ってなに?拒否権ないの?」
一応、うつらうつらとしながらも、僕はちゃんと話を聞いていた。
そのときの、ルーナがフラッフィーのベッドを欲しがっているもののお金がないから、仕事を与えてやってくれという兵士長の言葉に、確かに頷いた。
でも、強制は聞いてない。引き受けたいときに引き受けるではダメなの?
「すまねぇが、その言い回しは直せねぇんだ。今回のケースでは、被後見人には後見人に対しての拒否権はねぇんでな。貴族が貴族の後見人をするのとは訳が違うんだ」
「……僕らの身分がはっきりしないから?」
「ああ。だから、不必要な自由を与えることはよしとされない。被後見人とはいうが、実質的に後見人の奴隷……よくても従者扱いされる」
う~ん……やっぱりそんな感じかぁ。どうりで公認の抜け道なんて言われるわけだ。全部都合よくはいかないな。
「じゃあ、こっそり頼むとかは?」
「できなくはねぇが……バレたときがまずい。公的なものじゃねぇから、無許可の行動になる。被後見人が後見人の許可なく歩き回ってるってだけで、身分証は簡単に剥奪されるからな。いわゆる、お尋ね者になるぞ」
「なんでそんなに厳しいんですか?」
「こういうときに使われる後見人制度は、ほとんどが訳ありなんだ。元犯罪者だったり、お前たちのように身元不明だったりな。だからこそ、さっき嬢ちゃんが言ったように、スパイを警戒しなきゃならねぇ。疑わしい行動を取れば、スパイの容疑ありとして切り捨てられるってわけだな」
そういう理由なら、ふざけるなとは言いにくいな。国防は国を運営する上で、軽視してはならないものだ。
でも、強制はちょっとなぁ……。
僕が難色を示してると、レイクスさんがはははと笑う。
「大丈夫だ。依頼の強制って言っても、そもそも俺たちが依頼しなきゃいいだけだからな」
「ええ。あなたがたが引き受けたいと思ったときに適当に仕事を頼みますから、普段は気にしなくてもいいですよ。無許可でないことを示すために記述しているだけですから」
あっ、それもそっか。やることがなければ、義務もなにもないね。
僕たちの意見もちゃんと聞き入れてくれるこの人たちなら、無茶な依頼もしてこないと思う。
そう考えると、特にもう問題点はないように思えるけど……
「ルーナ、この内容でサインしてもいい?」
賢い妹に尋ねてみる。もしかしたら、僕が気づいていない問題点があるかもしれない。
うつらうつらとしていたけど、意識はあったはずなので、話の節々は聞き取っているはずだ。
「ん~……お金は?お金はどのくらい、何に使っていいの?制約なしじゃ、武器を買ったりとか、薬を買ったりできちゃうから、それはまずかったりしない?」
少しとろんとしてはいるものの、ルーナの目つきが鋭くなる。
購入制限か。確かに僕たちは、基礎知識は知っていても、下界の常識には疎い傾向があるから、無許可のものを購入しても気づかない可能性が高いな。
リスクは潰しておくに限るけど……ルーナのことだ。絶対に裏がある。
「確かにそうか。じゃあ、小金貨一枚までは自由に使えることにしよう。どうせ、何の憂いもなくフラッフィーのベッドを買いたいだけだろ?」
「あっ、バレた?」
ルーナはイタズラがバレた子どものような笑みを浮かべる。
まぁ、そんなところだろうとは思ったよ、うん。
「よし。新たに項目を記載しておいたから、これでいいならサインしてくれ」
僕は、改めて渡された紙に目を通す。被後見人の部分には、小金貨一枚の使用許可が加わっていたのを確認して、僕はさらさらと自分の名前を書く。
文字は、種族や国によっていろいろと違いはあるものの、イーリス語という世界共通語が存在するので、それを使っていれば困ることはない。
一応、文字の書き取りなどは下界経験者の精霊に習っていたので問題はない。イーリス語は、前世のアルファベットと読み方も使い方も文法もほぼ同じなので、特に覚えやすかったのもある。
見た目としては、英文字の筆記体が一番近いのもあって、書きやすくもある。
ルーナに紙を渡すと、ルーナも同じようにイーリス語で名前を記入する。
ルーナが兵士長に紙を返す。
「よし。これでやっと終わったな。身分証は、数日後に渡すから、今は待っててくれ」
「やっとか~」
いや~、街に入るだけなのに長かったなぁ。それだけ、セキュリティがしっかりしてるってことだろうから、そこは安心だけど。
「お兄ちゃん、眠い……」
ルーナが僕の服の袖を掴んでうとうとし始める。
いや、話し合いしてる間はほとんど寝てたよね!?まだ寝足りないの!?確かに、ルーナは一週間ぶっ通しで寝てたこともあるけど、さすがに。
「では、お二人は私の屋敷にお越しください。フラッフィーのベッドもありますよ」
「わーい!行く行く!」
魅力的な提案をしてくれたウォルターさんに、ルーナは満面の笑みで頷く。
ウォルターさん、ルーナの扱いがもうわかりだしたかな?
「お兄ちゃんも行くでしょ!?」
同意することが決定しているかのような口ぶりで、ルーナは言う。
まぁ、下手に宿で泊まるよりは安全だから、別にいいけど。宿代が浮くのも助かるし。
「うん、僕も行く」
「では、しばらくお待ちください。馬車の手配をして参りますので」
そう言って、ウォルターさんは出ていってしまった。また待たされるパターンかぁ。
「場所教えてくれれば、自分たちで行くのに」
「貴族が出入りする屋敷に、素性も知らない子どもをホイホイ招き入れられるわけねぇだろ。ウォルターと一緒に馬車に乗ってれば、客人扱いされるから、おとなしく乗っていけ」
どうやら、心のなかの声が漏れてしまっていたらしく、兵士長が僕の呟きに答えてくれる。
まぁ、そう言う理由なら、おとなしく待つか。
「ねぇねぇ。なんでこの街にウォルターさんの屋敷があるの?貴族って、都と領地にだけ屋敷を持つものなんじゃないの?」
ルーナがこてんと首をかしげる。いつもの柔らかい瞳なので、ヤバいスイッチは入ってないようだ。疑ってるわけではなく、単純に気になっただけだろう。
「ああ。正確には、外国から来た要人をもてなすための屋敷の管理権を持ってるのがウォルターなんだよ。一応、所有者は別にいるんだが、管理をウォルターに任せてるんだ。その代わりに、あいつの客人も自由に招いていいってことになってる」
その言葉に、僕はうん?と疑いを持つ。ウォルターさんは、貴族とはいえ子爵であり、自分で名ばかりと言っていた。
それに、カルファ防衛軍の一員とはいえ、分隊の副隊長というだけである。
そんな人が、そんな大層な役割を任されたりするものだろうか。普通なら、もっと身分と立場が上の人が管理をしそうなものなのに。
ということは、所有者という人が、ウォルターさんのことを信用して権限を預けたということだけど、身分がまあまあ高そうで、ウォルターさんとそれなりに親しそうなのはーー
「……その所有者って、兵士長だったりしません?」
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