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第一章 辺境の街 カルファ

13. みんなで夕食

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 馬車に揺られて屋敷へとたどり着いた僕たちは、出迎えもほどほどに、部屋に案内されてからはゴロゴロしていた。
 ウォルターさんに同室をと頼んでいたので、広めの部屋を用意して貰えた。

「もふもふらっふぃ……ふらっふぃ……しゃいこう……」

 ふふふと笑いながら、ルーナは幸せそうにベッドでゴロゴロしている。
 よっぽどフラッフィーのベッドがご満悦らしい。僕と一緒に寝る用のダブルベッドなので、大きさがそれなりの分、ルーナは余計にご機嫌のようだ。

 僕はというと、ひとまずルーナを引きずり出したエサの一つを渡すことができて、ほっとしている状態だ。
 これなら、しばらくはウァノスを渡す必要はないかも。

「お兄ちゃん、約束のウァノスちょーだい!」

 ……これは、俗に言うフラグというやつだろうか。ウァノスのことを考えた瞬間に、ルーナがウァノスの要求をしてくるなんて。

「じゃあ、せめて起き上がって。僕たちは客だから、ベッドを汚すわけにはいかないでしょ」
「むぅ……わかった」

 ルーナは不満そうではあるけど、ベッドから降りて、すたすたと僕のところにやってくる。
 ルーナも、お気に入りのベッドが汚れるのは嫌なんだろう。後でまた寝ればいいと思ってるのもあるだろうけど。

 僕は、カバンからウァノスを二つ取り出すと、ルーナに渡した。

「ありがとー!」

 ルーナは、嬉しそうにウァノスを頬張る。これだけ見ると、本当に子どもみたいだよなぁ。スイッチが入ったときはまあまあ怖いけど。

「おふぃーふぁん。ふぉーふぁあふぉーふうの?」
「食べ終わってから話しなさい」

 僕が母親のように注意すると、ルーナは咀嚼を速めて、ごくんと飲み込む。
 そして、改めて聞いてきた。

「お兄ちゃん。これからどうするの?」
「……とりあえず、ベッドの購入資金を貯めるために、仕事を引き受けなくちゃいけないけど、その金額を把握するために、寝具店に見に行こうか」
「ベッド、買ってくれるの!?」

 ルーナは驚いたように聞いてくる。
 まぁ、僕の性格上、ルーナをただ甘やかしたりはしないから、なんだかんだ買ってもらえないと思ったのかもしれない。

「うん。買ってはあげるよ。出歩いてる最中は使えないだろうけど」
「な、なんで!?」
「そりゃあ、ルーナに常時フラッフィーのベッドを使わせたら、その場から動かなくなるからね。だから、使えないというより使わせないかな」
「ひどい!詐欺だ!」
「詐欺じゃないよ。使わせるなんて言ってないもん」

 買ってあげるとはいろんな場面で何度か口にしたけど、それを使わせてあげるとは一言も言ってないんだよね。

「いじわる」
「じゃあ、ずっと寝ないって約束できるなら使ってもいいよ。でも、暇さえあれば一日中寝てるようなルーナがそんなことできるの?」
「……………………できる」

 だいぶ間があったんだけど。本当にできるの?

「……本当?」
「できるったらできる!」

 ルーナはきっと僕を睨みつける。まぁ、そこまで言うなら、信じるとしよう。

「じゃあ、起きなかったらフラッフィーのベッドは禁止にするからね」
「……わかった」
「それじゃあ、今日はもう遅いから、明日見に行こうか」
「うん。じゃあ、おやすーー」
「待った」

 用件はすんだとばかりに寝ようとするルーナを、僕は腕を掴んで止める。

「……なに?」
「夜ごはんを食べてないし、何より父さんたちへの報告がまだだ。やらないとめんどくさいぞ」

 父さんたちは、のんびりなところはあるけど、割と世話焼きのようで、僕たちのことを猫可愛がりしている。
 ルーナが部屋から出てこないことに悩んではいたものの、強く言えないでいるくらいには、僕らのことを甘やかしているのだ。

 父さんたちが旅の許可をした経緯も、僕たちに嫌われたくないけど、ずっと話さないのも嫌だから連絡だけはしてねって感じだろうから。
 ここでやらなかったら、冗談抜きでここまで飛んでくるかもしれない。

 そうなったら、大騒ぎどころでは済まなくなりそうだ。それだけは避けなければ。

「お兄ちゃんがやればいいじゃん。お出かけの言い出しっぺなんだし」
「僕としては別にいいけど、多分ルーナの声も聞きたいって騒ぐよ?ルーナ、うるさいの嫌いでしょ?」

 ルーナは寝るのが大好きなので、当然ながら寝るのに適した環境が好きだ。
 逆に、うるさくしたり理由もないのにルーナを起こしたりなどの安眠妨害を行えばルーナは暴れだす。
 確か、寝ているルーナにイタズラした精霊にルーナがぶちギレて、僕たちの家が半壊したこともあったっけ……?
 父さんが顔を真っ青にして修繕してたなぁ……イタズラした精霊は、三日三晩説教されたって聞いたよ。

「むぅ~……わかった」

 うるさいのは嫌だったのか、ルーナは渋々了承してくれる。
 よかった。屋敷が破壊されるのは防げそうだ。そんなことになったら、土下座なんてものじゃ済まなくなる。

「それじゃあ、ご飯のときにでもウォルターさんに報告して、明日の外出許可もらってこようか。そしたらもう自由にしていいから」
「うん!」

 先ほどまで不機嫌だったとは思えないほどの明るさで、ルーナは部屋を出ていく。
 ほんと、自分の欲望には素直なんだから。

◇◇◇

 夜ごはんは、ウォルターさんとレイクスさん、そしてなぜか屋敷に来ていた兵士長も一緒に摂ることになった。

 レイクスさんは、できあがったという身分証を僕たちに渡してくれた。
 それは、カードのような形で、僕たちの名前と、後見人の名前だけが書いてある状態だ。これなら、たとえ落としたとしても、精霊だと気づかれることはないだろう。

 兵士長が来てる理由は、まったくわからない。だけど、いくら屋敷の持ち主とはいえ、兵士長が遊びに来るってことはないだろうし、何か用事があるのは確かなんだろう。

 でも、僕はそんなことよりも、夕食のほうに惹かれていた。

 夕食のメニューは、パンと肉の入ったスープ、それからサラダだった。
 精霊界には動物がほとんどいなくて、お肉はまず食べられなかったから、こうして食べられるのは嬉しい。

「お前ら、明日はどこか行こうとしてるか?」

 僕がパンをちぎりながら食べていると、兵士長から声をかけられる。
 僕は、噛んでいたパンをごくんと飲み込んで話した。

「フラッフィーのベッドを見に行こうかと思ってましたけど……」
「なら、その前に寄りたいところがあるから付き合ってほしい」
「寄りたいところ?」

 はて?街に着いたばかりなのに、わざわざ僕たちを連れていかなければならないようなところなんてあるかな?
 またあの詰所のようなところかな?いや、あそこに行く理由が思い浮かばない。

「冒険者ギルドに行こうと思ってな。お前たちに会わせておきたい奴がいるんだ」
「……誰ですか?」
「そこのギルドのギルドマスターだ」
「ギルっ……!?」

 それ以上の言葉が出なかった。下界に来たことがない僕でも、ギルドマスターがどんな人なのかはだいたい知ってる。

 下界には、多くのギルドがあるけど、そのギルドの統括がギルドマスターだ。
 ギルドマスターは、立場はもちろんのこと、実力という意味でもギルドのトップであることが多い。

 なんでそんな人と僕たちが会わないといけないの?権力者とは、関わらないに越したことはないのに。

「……なんでですか?」
「ほら、そこの嬢ちゃんのベッド買うために金が必要だって言ってただろ?それでお前たちに仕事を出すのはいいが、お前たちに依頼できそうなのが、魔物退治や薬草採取くらいでな。それは冒険者ギルドの管轄だから、余計なトラブルを呼ばないためには話を通しておいたほうがいいんだ」

 ああ、根回ししておかないと、自分たちのテリトリーを荒らされたと思われるわけね。それで、冒険者として活動はしないけど、このような仕事をさせてますって報告するわけだ。
 下手をすれば、ダブルブッキングになりかねないしね。トラブルは起こさないに越したことはない。

 だけど……

「それなら、兵士長が伝えるだけでよくないですか?」

 わざわざ僕たちが訪ねる必要はなさそうなんだけど。

「俺らとしても、お前らをそうほいほいと表に出すわけにもいかないからな。お前らのことをそれとなく伝えて、話しさえ通ればいいと思ってたんだが、向こうがすぐにでも会いたいって言ってきてな……急遽、この話を持ってきたんだ」

 いや、ますますなんで?途中まではなるほどと納得してたけど、訳がわからなくなったよ?
 まだ、僕たちに会いたいというところまでは理解できる。話に聞くだけじゃなくて、実際に確かめたいと思うのは自然のことだ。
 でも、なんですぐに会おうとするの?変にこじれないための話し合いなら、後日に時間を設けて、ゆっくりと話すべきだと思うんだけど、ギルドマスターがそんなすぐに予定を空けられるものなの?
 それとも、冒険者ギルドのギルドマスターは暇なのかな?

「それって……会わないとダメですかね?」
「ダメってわけではないが……会ったほうがいいだろうな」
「……ルーナはどう?」

 さっきからもくもくと食べていたルーナに話題を振る。
 ルーナは、こっちに話題を振るなとばかりにむすっとした顔で無言の威圧をしてくるけど、僕は負けじと見つめ返す。
 我関せずを貫いていたけど、そうはさせない。

「……めんどくさい」

 ルーナは、はぁとため息をつきながら言う。

「うん、僕もめんどくさいと思う」

 ルーナの言葉に僕も頷いた。

 街に滞在するだけで、なんでこんなにややこしくなるかなぁ?
 僕はおいしいものを食べたくて、ルーナはフラッフィーのベッドで寝てたいだけだというのに。

「わたしたちに会いたいんならこっちに来いって思うよ。こっちの都合で会いたいんならともかく、向こうが言ってきたんなら、こっちが会わせる必要はなくない?」
「いや、こっちの都合もあると思うよ?」

 向こうが機嫌を損ねてテリトリーに入るのを許してくれなかったら、どうやってお金を集めればいいんだって話になる。
 ルーナのベッドも買えなくなるんだけど、わかってるのかな?

「まぁ、それがいいっつうなら、そうやって返事しておこう。だが、あいつの性格上、普通に会いに来ると思うけどな」
「大丈夫。お兄ちゃんが何とかするから」
「なんで僕任せ!?」

 納得いかないとばかりにそう言ったけど、周りはあははと笑うだけだった。
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