転生精霊の異世界マイペース道中~もっとマイペースな妹とともに~

りーさん

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第一章 辺境の街 カルファ

14. 一日目の夜

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 僕たちは夕飯を食べ終わって、部屋に戻っていた。
 さすがに子供用の寝巻きはないらしく、僕らは着替えないで眠ることになる。
 まぁ、この服は薄くて柔らかい生地で作られてるから、寝巻きとして充分に使えるけど。

「お兄ちゃん、さっさと終わらせよ~……」

 ふわぁとあくびしながらそう言うルーナに、僕はこくりと頷く。
 二人きりになれたので、今から父さんたちへ今日の報告をするのだ。念のため精霊術で防音も施しておいたので、部屋の外に話し声が漏れることはないだろう。

 僕が、ルーナのほうをちらりと見ると、目をとろんとさせながら、首をがくがくとさせていた。
 ルーナは、いつにも増して眠そうだ。無理もないだろう。今日は、ルーナが生まれてから約百年の間で、最も長く起きていたと言っても過言ではない。久々にそれなりの距離を移動してもいるし、ルーナは完全にへとへとだろう。
 僕も疲れてるくらいだ。なるべく早く終わらせることとしよう。

 僕は、カバンの中から水晶を取り出し、そこに少しだけ魔力を込める。

 すると、透明な水晶は虹色に輝きだして、部屋中に光が溢れた。
 けど、不思議と眩しくはない。

「父さーん、母さーん」

 僕が水晶に呼びかけると、向こうからガシャンと物音がする。
 それも、一度や二度ではない。

 向こうで何が起きてるんだ?と思いながらも返事を待っていると、水晶の表面が波紋のように揺れる。

「ルート!遅いじゃないですか!」

 そんな声とともに、金髪緑眼の美人が現れる。僕たちの母さんで、風と光の上級精霊のファリスだ。
 ぷくっと不機嫌そうに膨らむ頬は、ルーナにそっくりだ。僕もルーナや母さんとは顔立ちが似ているから、不機嫌になるとこんな顔になるのかもしれない。

「仕方ないじゃん。いろいろとトラブルが重なって、この時間じゃないと連絡ができなかったんだから」

 僕だって、こんな時間に話すつもりはなかった。街に入ったら、適当にご飯でも食べて、身分証が作れるなら身分証を作って、フラッフィーのベッドがある宿に泊まる予定だったのだ。
 それが、思ったよりも街の警備が厳しかったので、僕らは不審人物として捕まって、なんやかんやで屋敷に客として泊まることになるなんて、誰が想定できる。

「まぁ、忘れてなかったのならいいです。それで、ルーナはどこですか?」

 水晶も万能ではない。魔力を通した相手と通信できるけど、逆に言えば魔力を通さなければ通信ができない。
 音や声は聞こえても、姿を認識させることができないのだ。

「ルーナ。母さんとお話ししよ」

 僕は後ろに座っているルーナに声をかける。

「は~い……」

 ルーナは眠そうに目を擦りながら、こちらに這いずるように向かってくると、水晶に魔力を込める。
 これで、母さんにもルーナの姿が見えるはず。

「ルーナ!起きていたんですね」

 寝てると思ってたの?まぁ、ルーナならあり得るというか、当たり前の考えかもしれないけど。

「お兄ちゃんが話せって言うから」
「その言い方だと、僕が無理やりやらせてるみたいになるんだけど?」
「だってそうじゃん」
「違うからね?」

 確かに、ここに父さんたちが突撃してくることのないようにルーナを説得したけど、最終的に話すと決めたのはルーナだ。ルーナがどうしても嫌だというなら、僕一人で何とかするつもりではあった。
 ルーナの機嫌を損ねて精霊界に帰還なんて最悪のパターンを実行させるわけにはいかないからね。

「……母さん、父さんはいないの?」

 とりあえず話題をそらそうと、僕はさっきから声すらも聞こえない父さんの話題を出す。
 話題そらしではあるけど、気になるのも事実だ。父さんほど親バカなら、僕たちから連絡が来たら、真っ先に応答するだろうに。

「ああ。あの人なら、ふて寝していますよ」
「ふ、ふて寝……?」
「ええ。『いつまで経ってもルートたちから連絡が来ない!』って涙ぐみながら布団にくるまってしまいました」

 子どもか。連絡が来ないって言っても、そこまで遅い時間帯でもないんだけど。
 この国では、日の入りとほぼ同時に夕食をとるけど、夕食を終えてから一時間も経ってないよ。壁にかかっている時計を見ても、まだ七時にもなってないみたいだし。

「起こさないの?パパ、絶対に拗ねるよ?」

 間違いない。母さんにぞっこんだから、起こさなかったことを怒ったりはしないだろうけど、間違いなく拗ねる。めんどくさくなる。
 下手をすれば、こっちに突撃してくることだろう。それだけは阻止せねば。

「だって、起こしたら起こしたで面倒じゃありませんか、あの人」

 はぁとため息混じりに呟くその言葉に、僕は苦笑いすらできない。気持ちはわかるけど、なぜそんなことをすると思ってしまう。
 だって、起こさないほうがもっとめんどくさくなるから。起こしてよ。

「一応、父さんとも話すつもりだったからさ。起こしてくれない?」

 僕のお願いに、母さんは「う~ん」と頭を悩ませるけど、仕方ないというようにため息をついた。

「わかりました。では、防音結界を解除しましょう」

 防音結界を解除……?もしかしなくても、父さんが僕たちの通信に気づかずにふて寝してるのってこれが原因じゃない?
 ショックのせいかと思ったけど、母さんは父さんに僕たちと話をさせる気はなかったのか。そう考えると、少し母さんが怖くなってくる。

「パパ~?いるの~?」

 ルーナがのんびりとした口調で声をかけると、それとは反対に、水晶の向こう側からどんがらがしゃんと大きな物音がする。
 絶対に父さんだな、うん。さっきの母さんといい、この夫婦は、もう少し落ち着けないものかな。

「ルート!ルーナ!遅いじゃないか、待ちくたびれたぞ!」
「それは悪かったけど、父さんはふて寝してたんじゃないの?」

 別に待ちくたびれてはなさそうだよね。寝てたんだもん。
 父さんは、わかりやすいくらいに目をそらした。おいこら。

 僕がじとっと父さんに無言の圧を送っていると、父さんはリミッターが外れたように叫び出す。

「仕方ないじゃないか!ルートたちに忘れられてると思ったんだぞ!遅くなるならそう言ってくれてもいいだろう!」
「いや、その連絡すらもする余裕がなかったんだって」

 今思えば、詰所にいたときにできたかもしれないけど、いつ誰が入ってくるかわからないあの場所で通信なんかできるはずもない。
 騒ぎを起こさないことを第一にしてたから、仕方ないんだ。仕方ない。

「……まぁ、いいか。それで、今日は何をしていたんだ?」
「街の警備が思ったよりもしっかりしててね。列が長くて入るのにも時間かかったし、順番になっても、立ち入るための検査で一日が終わったよ。今は、街に入れてくれた人のお屋敷にいるの」

 本当なら、いろいろと見て回りたかったんだけどね。まぁ、それは明日に回そう。

「あら、それならこっそりと入ればよかったのでは?」
「街の入り口には警備がいたし、街の周りは壁で囲われてるから入れないよ」
「飛べばいいじゃありませんか」

 さも当然かのようにそう言う母さんに、僕は呆れ果てる。本当に、子が子なら親も親だ。

「だよね?ママもやっぱりそう思うよね!?あんな長い列に並ぶ必要なんてなかったんだ!」

 当の本人も激しく同意を求める。なんかまるで、僕が間違っているような感じがしてくるけど、非常識なのは絶対にルーナと母さんのほうだ。

「それやってたらフラッフィーのベッドで寝れてないよ?」

 僕が真顔で静かにそう言うと、ルーナは「うっ」と呻いて固まる。
 同じことをそのときも言っていたはずなんだけど、きれいに頭からすっぽ抜けてたみたいだ。

「まぁ、フラッフィーのベッドを使ったのですか!?」
「寝心地はどうだったのだ!」

 僕がフラッフィーのベッドという単語を出すと、今度は父さんまでもが興奮をしだす。
 そうだった。この人たちも精霊だから、怠惰の道具には食いつくんだった。

「ふかふかしててよかったよ。僕はまだ寝てないけど」
「もふもふだったよ~。あれを味わっちゃったら、もう元のベッドじゃ寝られないよ~!」

 僕は普通に説明したけど、ルーナは完全にとろけきった顔で説明する。
 それだけ満足しているということなのだろうけど。だらけっぷりはすごかったからな、本当に。

「二人だけずるいですよ!うらやまけしからんです!」

 母さんはぷくっと頬を膨らませて抗議する。ルーナほどではないけど、母さんたちもかなり怠惰なほうだからね。
 これは、ベッドを買うなんて言ったら、自分たちの分を要求しかねないな。明日の予定も話そうかと思ったけど、黙ってーー

「明日はベッド見に行くんだ~。精霊界に戻ったらゴロゴロするの!」

 あかーん!

 ルーナからすれば、最高のベッドの自慢をしたかっただけかもしれないけど、今の父さんたちにそんなこと言ったら……

「ルーナたちだけずるいですよ!私の分もください!」
「私の分もくれ!」

 ほらこうなった!無理だよ!小金貨一枚でベッド三つは、フラッフィーじゃない素材でも無理だよ!

「そんなにお金ないから!」
「お金ならちゃんと渡しますから!」

 そういうことじゃないよ!立て替えてくれればいいわけじゃない!

「使えるお金に制限があるの。三つも買えないよ」
「なら、制限を増やせばいいだろう」

 簡単に言うけど、それは難しいと思うよ?身元不詳の僕たちが自由にお金使うってのは。
 少なくとも、フラッフィーのベッドが複数あるような高級店などでは入れてすらもらえないと思う。

「パパたちの分は今はいいじゃん。別にこの街にしかないわけじゃないんだし、わたしのがあれば」

 真顔でそう言うルーナに、僕はため息をつく。
 誰のせいでこうなったと思ってるんだか。

「……そうだね。ルーナが約束を破ったら母さんたちにそのベッドを渡そうか」
「なんでそうなるの!?」

 ルーナは信じられないとばかりに声を荒らげる。僕も自分が意地の悪いことを言っている自覚はあるけど、ルーナにはこれくらい厳しくしないとダメだと思う。

「だって、約束を守れなかったら使わせないって言ったでしょ?使わないベッドを持っててもしょうがないし、欲しい人がいるんなら渡せばいいじゃん」
「わたしのベッドだよ!?」
「ちゃんと起きるっていう約束を守れば大丈夫だよ」
「わたしのベッドなのにぃ~……」

 ルーナは少し涙目になりながらしょんぼりとする。
 まぁ、約束を破ったとしても、さすがに本気でルーナのものを渡すつもりはない。
 渡したふりをして、別のものを買うつもりではいるけど、これくらいの危機感を持ってもらえば、約束を破ることはないだろう。

 泣かせたことに罪悪感はあるけど。

「じゃあ、僕たちそろそろ寝るから。また明日、このくらいの時間に連絡するよ」
「ちょっと!私たちの分のベッドも買ってくださいよ!?」
「ルーナが約束破ったらね」

 まだぎゃあぎゃあと何か言ったいたけど、全部無視して、僕は一方的に通信を切る。
 はぁ……まだ一日目なのに、どっと疲れた。

「ルーナ、僕はそろそろ寝るけど」
「……わたしのベッド」

 そう言って、ルーナはベッドの中央に寝転がって占拠する。絶対に動かないという不屈の意志を感じた。
 どうやら、よほど僕の言葉に腹を立てたらしい。僕も悪かったけど、やり方が大人げなさすぎる。

「わかった。じゃあ、僕はあそこのソファで寝るよ」

 本音としては、もちろんベッドで寝たいけど、もうくたくただから、とりあえず寝転がりたい。ルーナと争うほどの体力が残ってない。
 僕は、部屋の隅に置いてあるソファのほうに向かって歩き出す。

 すると、後ろから服の裾をくいっと引っ張られる。
 振り返ると、ルーナが枕を持って僕の服の裾を掴んでいた。

「……わたしもソファで寝る」
「えっ、そんなスペースないけど?」

 ソファはこのお屋敷にふさわしい大きさではあるものの、さすがに二人で寝るスペースはない。大人一人がちょうどいいくらいだ。
 子ども体型の僕たちでも、体を重ねあってなんとか乗るくらいだろう。寝返りなんてうったら落っこちると思う。

「じゃあ、床で寝る。一緒に」
「いやいや、せっかくあるんだから、ルーナはベッドで寝なよ。気に入ってたんでしょ?」

 というか、『わたしのベッド』じゃなかったの?ルーナが寝ればいいのに、なんでこんなに頑ななんだ。

「……好きじゃない」

 嘘つけ。部屋に入ってからずっと離れなかったくせに。

「ルートがソファで寝るなら、わたしもソファで寝る!床なら床で寝るの!」

 ルーナはさらに強く僕の服を握ってくる。さっきまで泣いていたからか、少し涙目にもなっている。
 そこまではっきり言われると、さすがの僕でもルーナの目的に気づいた。

「……僕と一緒に寝たいの?」

 僕がそう指摘すると、ルーナは顔を赤くして俯く。
 でも、小さくこくりと頷いた。可愛いところあるじゃん。

「じゃあ、一緒にベッドで寝る?」
「わたしのベッド」

 そこはぶれないんかい。

「じゃあ、ソファにしようか」

 僕がそう言うと、ルーナは嬉しそうに頷いた。
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