転生精霊の異世界マイペース道中~もっとマイペースな妹とともに~

りーさん

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第一章 辺境の街 カルファ

15. ベッドと串焼き

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 父さんたちと話した翌日、僕たちは屋敷の外に出て、街に繰り出していた。

 僕は、ふわぁとあくびをする。昨日は、全然眠れなかった。ソファがベッドよりも固かったというのもあるけど、ルーナが落っこちないように気を配っていたら、熟睡なんてとてもできなかった。
 ルーナは僕を抱き枕のようにしながらぐっすりと寝ていたようで、元気いっぱいみたいだけど。

 そういえば、昨日の朝に屋敷に来ていた兵士長に聞いた話では、約束通り会いたいなら会いに来いという言葉をギルドマスターに伝えに言ったところ、さすがにすぐに時間は取れないらしく、後日にということになったらしい。
 なので、今日の目的は、ルーナの購入するベッドの検討をつけることと、食べ歩きである。

 ウォルターさんから、日没までの外出許可をもらっているので、ギリギリまで楽しむつもりだ。

 まずは、ベッドから。

「お兄ちゃん、早く早く!」
「そんな慌てなくてもベッドは逃げないよ」

 ようやく自分のベッドを手に入れることができる嬉しさからか、普段のルーナからは想像できないほど活発的だ。
 珍しく先導を切って、僕の手を引いている。

 一応、釘を刺しておかないと。

「ルーナ、今日はベッドを見るだけだからね?買うのはお金が貯まってからだからね?」
「わかってるわかってる!」

 ほんとかな~?駄々をこねまくる未来が見えるんだけど……まぁ、わかってるならいいか。

◇◇◇

 お屋敷から数分ほどで、目的のお店に到着した。ここは、ウォルターさんに紹介してもらったお店だ。
 お屋敷の近くというのもあるのか、他の建物も大きめで、富裕層が多いらしい。ここは一等地のようだ。それなりに繁栄している街なのかもしれないな。
 フラッフィーのベッドは、寝具店ならば比較的どこにでも売っているそうだけど、高価なものだとそれなりのグレードのお店にしか売ってないらしい。

 そういうお店は、一見さんお断りのところがほとんどのため、常連と一緒に来るか、紹介状を持ってないと、店に入れてすらもらえない。
 貴族御用達なことが多いからね。ここも、富裕層の平民が使うくらいのレベルらしい。

「お客さまですか?紹介状などはお持ちでしょうか」

 案の定、僕らは店の入り口で止められた。子どもみたいな見た目なのに、丁寧に接するのは、貴族の子どもの可能性があるからだろう。
 美人な母さんに似て、顔は良いほうだからね。

「お兄ちゃん、紹介状は?」
「ちゃんと持ってるよ」

 僕は、カバンからウォルターさんにもらった紹介状を取り出して、店員に渡す。
 昨日はレイクスさんと兵士長もいたから、その二人にも連名として書いてもらったので、かなりの効力のはずだ。

「お三方からの……!失礼しました、中へどうぞ」

 先ほどとはうってかわって、店員は自らドアを開ける。
 よかった、偽物扱いされたりしたらどうしようかと思ったよ。身分証があるにはあるけど、怪しいやつ扱いされたら嫌だしね。

 中に入ると、まずはかなり洗練された内装に圧倒された。
 外観は、周囲に合わせてかありきたりな見た目だったし、中もそんなものかなと思ってたのに。

 そして、高級店だからかはわからないけど、寝具専門というわけではないらしく、食器や棚なども置いてあった。
 ここは、家具全般を取り扱う店みたいだな。

「ベッドはこちらです」

 店員の案内に、ルーナは我先にとついていく。
 どうやら、紹介状には僕らが店を訪ねた理由も書いてあったみたいだ。
 僕が少し遅れてついていくと、店の一角のベッドコーナーが見えてきた。

 そこには、プリンセスベッドと呼ばれるような豪華絢爛なものから、安宿にあるような質素な見た目のものまで多くある。

 ルーナは、感動のあまりか震えている。残っているわずかな理性で、ベッドに飛び込むのを抑えているようだ。

「触って確かめてみてもいいですか?」
「ええ、座るまでなら自由に触れていただいてかまいません」
「だってさ、ル……」

 僕がルーナと呼ぶ前に、ルーナは手で触ってその感触を楽しんでいた。
 本当に、こういうことになると素早いんだから。あちらこちらと様々なベッドに触っているルーナに、僕は声をかける。

「ルーナ、気に入ったのはある?」
「全部!」

 いや、お金があったとしても、さすがに全部は買えないよ。余裕で上限金額の小金貨一枚分を越えるし。

「……特にいいのは?」
「う~ん……これ!」

 ルーナは一つのベッドに腰かけた。それは、デザインはシンプルながらも、そこそこのお値段のベッドだ。

 表示を見ると、ちょうど十万リーゼ。小金貨一枚分だ。
 上限ギリギリの物に目をつけるのは、さすがルーナと言ったところか。

「そちらがお気に召しましたか」
「ええ。ですが、今は購入できるだけの資金がないので、ここに置いておいてくれますか」

 なんで買えないのに来たのかと問われれば素直に答えるつもりだったけど、紹介状に書いてあったのか、店員は「かしこまりました」と頷いてくれる。

「じゃあ、ルーナ。もう行くよ。お金貯めたらまた来よう」
「はーい……」

 ルーナは不満たらたらだが、約束は約束だからか、素直にベッドから離れて、僕にくっついてくる。
 よかった、子どもみたいに駄々をこねられないで済んで。

◇◇◇

 再び街に繰り出す。今度は、僕の目的のための食べ歩きだ。

「お兄ちゃん、何食べたいの?」
「特に決めてないけど、おいしそうなやつかな」

 こういうのは、直感で楽しむものだ。無難なものを選んで楽しむのもいいし、チャレンジするのも悪くない。
 僕は、辺りをキョロキョロと見回す。そして、おいしそうな香りを漂わせている肉のほうに引き寄せられるように歩いた。

 そのお肉は、バーベキューみたいに金網で焼かれているけど、見た目は焼き鳥っぽそうな感じ。

「おじさーん。これなぁに?」

 子どもらしく無邪気な風に尋ねると、おじさんはニカッと笑う。

「これはブラクって言ってな。肉を細かく切って、タレにつけて焼くんだ。俺の作るブラクは世界一だぞ!」
「へぇ~!じゃあ、一本ちょうだい!」
「おう!100リーゼだ!」

 僕は、100リーゼ分である大銅貨一枚を取り出して渡して、おじさんからブラクを受け取った。

 そして、パクンと一口。

「これおいしいね!」
「だろ?」

 本当においしい。何の動物の肉なのかまではわからないけど、本当に焼き鳥みたいな食感だ。ももが近いかな?
 前世の僕は塩派だったけど、タレも好きだったなぁ。
 でも、この甘い感じは食べ続けるとくどいな。きつくはないけど、水分が奪われて、なんか飲み物が欲しくなる。
 精霊界でサラダを食べるときに使うドレッシングの作り方は知ってるし、オリジナルのタレでも考えてみようかな?
 さっぱりした味つけもこのお肉には合いそうだし。ビネガーや玉ねぎ、オレンジは隠し味に使ったりして。レシピがぽんぽん浮かんでくるなぁ。
 精霊界では似たような植物で簡単に作れたけど、下界にもあるだろうか。

(……うん?)

 ふと視線が気になり、そちらのほうを見ると、ルーナが僕をじっと見つめている。

「……ルーナもいる?」

 僕が残り半分になった肉串を差し出すと、ルーナはパクンと一口で全部食べた。
 どうやら、食べたいという訴えだったらしい。言ってくれれば普通に買ったのに。

「おいしい!」
「ね~」

 タレは甘い味つけなので、子ども舌のルーナにとっては好みの味のはずだ。

「おじさん、もう一本ちょうだい!」
「わたしも!」
「おう、出来立てをやるよ!」

 まだ物足りなくて、僕はもう一つ注文する。ルーナも釣られるように頼んだ。おじさんは気前よく返事をして、準備してくれる。
 おじさんは、細かく切られた肉片を串にさして焼き始める。

 タレをつけるんじゃないの?と思ったけど、肉の色が茶色っぽく変わると、一度焼くのを止めて、タレが入っていると思われる花瓶のような器に突っ込んだ。
 三秒くらいそのままにしてから引き抜くと、肉串に絡まったタレがぽたぽたと垂れる。
 そして、再び金網の上に置いた。

 ほうほう。二度焼きするのか。タレが焦げないようにかな?
 時間にして十秒くらいで、おじさんは僕たちのほうに二本の串焼きを差し出してくる。ブラクの完成のようだ。

 僕たちはお金を払ってそれを受け取ると、パクパクと食べる。

「お前ら、いい食いっぷりだなぁ~」
「だっておいしいもん!お肉ってあまり食べたことなかったからなのもあるけど」

 昨日は肉のスープを食べたけど、茹でるのと焼き上げるのとは、食感はもちろんのこと風味もまた違うんだよね。どっちもおいしいけど、僕はこっちのほうが好きかも。

「へぇ~。それくらいのお肉なら安価で手に入ると思うけどね~」

 不意に後ろから声をかけられて、僕は咄嗟に振り返る。それとほぼ同時に、ルーナがぎゅっと僕の腕を掴むのを感じた。
 振り返った先には、見覚えのない女性がいた。
 人がいることに気づいてなかったわけではないけど、声をかけてくるとは思わなかった。

「……おばさん、誰?」

 ルーナが冷たい目で見つめながら言う。これは、スイッチが入りかけてるな。

「おばさんってなんだ!私はまだ24だよ!」
「じゃあ、赤ちゃんだ」

 確かに、百年以上生きてる僕たちからすれば24歳は赤ちゃんだろうけど……いくら不審者とはいえ、さすがに失礼じゃない?

「赤ちゃんでもないよ。お姉さまって呼びなさい」

 なぜか誇らしそうにそう言う女性に、僕たちは何の言葉も出なかった。
 一つ理解できたのは、この人には関わらないほうがいいってことだ。

「帰ろう、お兄ちゃん」

 ルーナも同じ意見だったのか、僕の手を引っ張って屋敷のほうに誘導する。

「うん。そうだね」

 僕はそれに抵抗することもなく受け入れた。
 帰ろう帰ろう。この人と話しちゃダメだ。

 後ろからあの人が何かぎゃあぎゃあ言っていた気がするけど、僕たちはその場から走り去るようにして屋敷に戻った。
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