16 / 30
第一章 辺境の街 カルファ
16. まさかの訪問客
しおりを挟む
お出かけの翌日、僕たちは部屋でのんびりと惰眠を貪っていた。
昨日は、予定よりもだいぶ早い帰還に屋敷の人たちは驚いていたものの、普通に部屋の用意をしてもらえた。
「もふもふらっふぃ……らっふぃ……」
ルーナはすっかり眠りこけていて、時折そんなことを呟きながらすやすやと眠っている。
僕も、ルーナの隣でうとうととしていた。一応、詰所での反省を生かし、人が訪ねてきた場合に備えて、意識が飛びそうになったら、頬をつねって眠らないようにしていた。
でも、とろんとしてはいるので、どうしても反応が遅れてしまう。
(……うん?誰か来た?)
僕がコンコンとノックする音に気づいてから反応するのに、五秒くらいかかってしまった。
ルーナは気づいてもなさそうだけど。
「はぁーい……」
僕が目を擦りながらドアを開けると、そこにはウォルターさんが立っていた。
「どうしましたか?」
「お二人に客が来ています。お会いしてくれますか」
「客……ですか」
その言葉に、僕は疑いを向ける。ウォルターさんの言葉が嘘だと思ってるわけじゃない。訪問客の目的についてだ。
僕たちが街に来たのは、つい最近のことで、大して人と関わっていない。面識があるのは、訪ねてきたウォルターさんを除けば、レイクスさんと兵士長、僕たちを詰所に案内した兵士、後はトラブルを起こしていたあの二人の男女くらいである。
それなのに、僕たちがこの屋敷に滞在していると知った上で僕たちに会いに来たと言っている。警戒するなというほうが無理があるだろう。
人間なのか精霊なのか。それすらもわからない。でも、断ることも難しいだろう。
「ルーナ、起きてるでしょ。行くよ」
「ん。わかった」
ルーナはすっとベッドから起き上がって、僕のところに歩いてくる。
ウォルターさんは、起きているとは思わなかったのか驚愕したような表情を浮かべているけど、ルーナもいつも寝てるわけじゃない。
ルーナは眠っていても、周囲の会話はうっすらと聞こえているし、周囲の空気も感じ取れる。
不穏な会話が聞こえたり、空気が冷えきっていれば、いくら怠け者のルーナでも熟睡することはない。せいぜい、微睡む程度である。
睡眠というのは、ルーナに安心感を与える空間でしか行われないのだ。
だからといって、ルーナが睡眠好きであるのは変わらない。自分の安眠を妨害するものは、積極的に排除に動く。
今も、自分の安眠を妨げた訪問客に不満を募らせているのだろう。顔に出てるし。
「じゃあ、案内してくれますか」
「え、ええ。こちらです」
ウォルターさんの後についていき、僕たちはある部屋に通される。
中はそれなりに豪華な宝飾が施されているものの、置いてある家具はソファが二つとその間にテーブルがあるくらいなので、ここは応接室なのだろう。
ドアに近いソファには、兵士長がすでに腰かけていた。その側に控えるように、レイクスさんが立っている。向かい側にも誰か腰かけているようで、それが客かと視線をずらすと、僕ははっとなる。
あの人はーー
「あれ?あの時のおばさんじゃん」
ルーナが不思議そうに言う。
そう。そこにいたのは、昨日の串焼きを食べているときに話しかけてきた女性だった。
なんでここにというか、なんで僕たちがここにいるのを知ってるんだ!
「だから、おばさんじゃなくてお姉さまと呼びなさいって言ってるでしょう?」
「……は?」
ルーナが冷たいトーンで呟く。スイッチが入ったら冷たくなるけど、ここまでのは初めてだ。
疑問の言葉を投げかけているものの、ふざけたことを抜かすなという副音声が聞こえてくるのは、きっと気のせいではないだろう。
「なんで年下の人間をお姉さまなんて呼ばないといけないの」
「ちょ、ちょっとルーナ……!」
僕は、これ以上話させまいとルーナを制止する。これは、別に正義感からではない。
年下の人間
これは、かなりの危険ワードだ。僕たちは、普通の人間として見たら子どものような見た目なのだから、あの女性と比べて年上か年下かだと、大多数が年下と思うだろう。
それなのに、ルーナは人間のほうが年下だと断言している。
子どもが背伸びしていると可愛らしく思う人もいれば、うん?と疑いをかけてくる者もいるだろう。もし、この女性が後者のような考えの持ち主だったら非常にまずい。下手したら、僕たちの正体がバレる。
それを危惧しての制止だったけど、ルーナは僕の制止を振り払うように言った。
「大丈夫。どうせ知ってるだろうし」
…………へ?
僕は、しばらくルーナの言葉が理解できなかった。
ルーナがじっと女性のほうを見たので、僕も釣られるようにして見る。
すると、女性のほうは含みのある笑みを返してきたけど、しばらくしてあっははと大笑いしだした。
「いやぁ、話に聞いたときはそんな子いるのかと思ってたけど、マジだったみたいだね」
話に聞いた?それだとまるで、ルーナの話を誰かから聞いたように思えるけど、一体誰がーー
そこまで思ったところで、僕ははっとなる。
一人、いる。僕たちに会いに来るような人物で、あらかじめ僕たちのことを聞いていそうな存在が。
「ふーん……お兄ちゃんのほうも気づいた感じだね」
僕のほうが兄だというのも知ってるとなると、ほぼ確定っぽいな。
「それで、わたしたちに何の用?……ギルドマスターのおばさん」
昨日は、予定よりもだいぶ早い帰還に屋敷の人たちは驚いていたものの、普通に部屋の用意をしてもらえた。
「もふもふらっふぃ……らっふぃ……」
ルーナはすっかり眠りこけていて、時折そんなことを呟きながらすやすやと眠っている。
僕も、ルーナの隣でうとうととしていた。一応、詰所での反省を生かし、人が訪ねてきた場合に備えて、意識が飛びそうになったら、頬をつねって眠らないようにしていた。
でも、とろんとしてはいるので、どうしても反応が遅れてしまう。
(……うん?誰か来た?)
僕がコンコンとノックする音に気づいてから反応するのに、五秒くらいかかってしまった。
ルーナは気づいてもなさそうだけど。
「はぁーい……」
僕が目を擦りながらドアを開けると、そこにはウォルターさんが立っていた。
「どうしましたか?」
「お二人に客が来ています。お会いしてくれますか」
「客……ですか」
その言葉に、僕は疑いを向ける。ウォルターさんの言葉が嘘だと思ってるわけじゃない。訪問客の目的についてだ。
僕たちが街に来たのは、つい最近のことで、大して人と関わっていない。面識があるのは、訪ねてきたウォルターさんを除けば、レイクスさんと兵士長、僕たちを詰所に案内した兵士、後はトラブルを起こしていたあの二人の男女くらいである。
それなのに、僕たちがこの屋敷に滞在していると知った上で僕たちに会いに来たと言っている。警戒するなというほうが無理があるだろう。
人間なのか精霊なのか。それすらもわからない。でも、断ることも難しいだろう。
「ルーナ、起きてるでしょ。行くよ」
「ん。わかった」
ルーナはすっとベッドから起き上がって、僕のところに歩いてくる。
ウォルターさんは、起きているとは思わなかったのか驚愕したような表情を浮かべているけど、ルーナもいつも寝てるわけじゃない。
ルーナは眠っていても、周囲の会話はうっすらと聞こえているし、周囲の空気も感じ取れる。
不穏な会話が聞こえたり、空気が冷えきっていれば、いくら怠け者のルーナでも熟睡することはない。せいぜい、微睡む程度である。
睡眠というのは、ルーナに安心感を与える空間でしか行われないのだ。
だからといって、ルーナが睡眠好きであるのは変わらない。自分の安眠を妨害するものは、積極的に排除に動く。
今も、自分の安眠を妨げた訪問客に不満を募らせているのだろう。顔に出てるし。
「じゃあ、案内してくれますか」
「え、ええ。こちらです」
ウォルターさんの後についていき、僕たちはある部屋に通される。
中はそれなりに豪華な宝飾が施されているものの、置いてある家具はソファが二つとその間にテーブルがあるくらいなので、ここは応接室なのだろう。
ドアに近いソファには、兵士長がすでに腰かけていた。その側に控えるように、レイクスさんが立っている。向かい側にも誰か腰かけているようで、それが客かと視線をずらすと、僕ははっとなる。
あの人はーー
「あれ?あの時のおばさんじゃん」
ルーナが不思議そうに言う。
そう。そこにいたのは、昨日の串焼きを食べているときに話しかけてきた女性だった。
なんでここにというか、なんで僕たちがここにいるのを知ってるんだ!
「だから、おばさんじゃなくてお姉さまと呼びなさいって言ってるでしょう?」
「……は?」
ルーナが冷たいトーンで呟く。スイッチが入ったら冷たくなるけど、ここまでのは初めてだ。
疑問の言葉を投げかけているものの、ふざけたことを抜かすなという副音声が聞こえてくるのは、きっと気のせいではないだろう。
「なんで年下の人間をお姉さまなんて呼ばないといけないの」
「ちょ、ちょっとルーナ……!」
僕は、これ以上話させまいとルーナを制止する。これは、別に正義感からではない。
年下の人間
これは、かなりの危険ワードだ。僕たちは、普通の人間として見たら子どものような見た目なのだから、あの女性と比べて年上か年下かだと、大多数が年下と思うだろう。
それなのに、ルーナは人間のほうが年下だと断言している。
子どもが背伸びしていると可愛らしく思う人もいれば、うん?と疑いをかけてくる者もいるだろう。もし、この女性が後者のような考えの持ち主だったら非常にまずい。下手したら、僕たちの正体がバレる。
それを危惧しての制止だったけど、ルーナは僕の制止を振り払うように言った。
「大丈夫。どうせ知ってるだろうし」
…………へ?
僕は、しばらくルーナの言葉が理解できなかった。
ルーナがじっと女性のほうを見たので、僕も釣られるようにして見る。
すると、女性のほうは含みのある笑みを返してきたけど、しばらくしてあっははと大笑いしだした。
「いやぁ、話に聞いたときはそんな子いるのかと思ってたけど、マジだったみたいだね」
話に聞いた?それだとまるで、ルーナの話を誰かから聞いたように思えるけど、一体誰がーー
そこまで思ったところで、僕ははっとなる。
一人、いる。僕たちに会いに来るような人物で、あらかじめ僕たちのことを聞いていそうな存在が。
「ふーん……お兄ちゃんのほうも気づいた感じだね」
僕のほうが兄だというのも知ってるとなると、ほぼ確定っぽいな。
「それで、わたしたちに何の用?……ギルドマスターのおばさん」
25
あなたにおすすめの小説
家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜
三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」
「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」
「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」
「………無職」
「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」
「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」
「あれ?理沙が考えてくれたの?」
「そうだよ、一生懸命考えました」
「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」
「陽介の分まで、私が頑張るね」
「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」
突然、異世界に放り込まれた加藤家。
これから先、一体、何が待ち受けているのか。
無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー?
愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。
──家族は俺が、守る!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる