転生精霊の異世界マイペース道中~もっとマイペースな妹とともに~

りーさん

文字の大きさ
17 / 30
第一章 辺境の街 カルファ

17. ギルドマスター

しおりを挟む
「もう~。おばさんじゃないって言ってるでしょう。せめて、名前で呼びなさいな」

 ルーナのブリザードを纏った言葉にも顔色一つ変えることなく、軽く返してくる。
 すごいな、この人。

「おばさんの名前知らないもん」
「私の名前はフェルニールって言うの。フィーって呼んでくれていいわよ」

 ようやく名前が判明した。それにしても、ギルドマスターって指摘してきたことには何も言わないな。事実だから?

「……それで、用はなんなの?」
「まぁまぁ、そんな急かさずに。座ってお話ししましょう?」

 フェルニールさんは、僕たちに向かいに座るように促してくる。
 相手がギルドマスターということで、僕たちを訪ねてきた理由はわかったけど、どこか胡散臭く感じて、素直にはいわかりましたと座れない。

 ルーナも同じなのか、普段なら真っ先に座ってだらけそうなものを、ずっと直立不動のままだ。

「やだよ。せっかく気持ちよく寝てたのに、なんで座って話さないといけないの?どうせならゴロゴロしたいよ」

 違った。起こされたことのイライラとだらけたい気持ちが合わさっただけだった。
 本当にぶれないな。

「別に私としては寝転がってくれても全然いいよ?」
「いや、やめておいたほうがいいと思う……」

 あっけらかんと言う女性に、僕は自分でも少し驚くくらいのガチのトーンで返した。
 でも、それくらいにその提案は危険だ。

 寝たいのに寝られない状態のルーナほど危険なものはない。
 ただでさえ今もイライラしているのに、だらける体勢にさせた上で話し合いという名の安眠妨害をやったら、冗談抜きで屋敷が破壊される可能性がある。
 魔法の実力はルーナのほうが上なので、僕では守りきれない。

「……お兄ちゃん。心配しなくても大丈夫だよ」
「ルーナ……?」

 僕の考えを読み取ったのか、ルーナが安心感を誘う声色で話しかけてくる。
 でも、僕はなぜか寒気を強く感じた。

 それは、気のせいではなかったらしく、満面の笑みを浮かべて言う。

「やるとしてもあのおばさんだけにしておくから」
「そういうことじゃないんだけど!?」

 そもそもやらないでほしいという思いは伝わっていなかったらしい。

「あっ、殺さないでってこと?それなら大丈夫。ちゃんと手加減するよ。弱いやつを一回だけにしておくから!」
「そういうことでもなくて!」

 ルーナの口から物騒な言葉が出たからか、周りの大人は顔をひきつらせていたけど、今はそれを気にする余裕はない。
 まずは、すでにイライラの境地に達しかけているルーナをなんとか抑えないといけない。手加減するとは言ってるものの、本気になる可能性もある。
 というか、そもそもルーナに手加減なんてできないだろう。下界に来て早々に、ウルフを跡形もなく消し飛ばしたし。

「というか、そんなに言うならお兄ちゃんが一人で相手すればいいよね。そういう約束だし」
「あれはルーナが勝手に言っただけでしょ!」

 思わず否定してしまったけど、よくよく考えれば、確かに僕が一人で相手をするほうが遥かにマシのような気がしてきた。
 少なくとも、フェルニールさんが命の危機に瀕することはない。

「兄貴だけに任せるな。フラッフィーのベッドが買いたいなら、お前も話は聞け」

 兵士長が僕たちを宥めるように言う。屋敷の主(多分)とはいえ、一応はお客さん扱いなのに、気を遣わせて申し訳ないな。

「む……」

 ルーナは不満そうな表情を浮かべているけど、言われていることは事実だからか、素直にレイクスさんの隣に腰かける。僕も、それに安心してルーナの隣に腰かける。

 ようやく話し合いができるな。

「いやぁ~、君たち面白いね」

 フェルニールさんはケラケラと楽しそうに笑う。僕は、反対に呆れ返った。

 面白いって……さっきまでルーナはあなたを消すも同然の発言をしてたんだけども。
 気づいていないのか、気づいていながら気にしてないのか。前者ならただのバカだけど、後者なら案外食えない人かも。
 今までの感じからして、後者っぽいけど。

「んで、わざわざ伺いも立てずに訪ねてきた理由はなんだ。こいつらも暇なわけじゃねぇんだぞ」
「いやいや、のんびりと串焼き食べてる子たちが忙しいわけないでしょ」
「「忙しいよ」」

 珍しく僕とルーナの言葉が揃う。それだけ意見が合わないってことなんだけど、今回ばかりは同意見だったらしい。

「わたしたちはね、ベッドでゴロゴロしたり、おいしいもの食べたり、お昼寝したりで忙しいの」

 ルーナの言葉に、僕もうんうんと頷く。反対に、フェルニールさんはボソリと呟く。

「それはただだらけてるだけなんじゃ……」
「僕たちにとっては大事なんだけど?」

 フェルニールさんの呟きに、僕は冷たく返す。
 ルーナほどではないけど、僕も安眠妨害されて少しはイラついているので、これ以上神経を逆なでされたら、殺気を向けるくらいはしてしまうかもしれない……というか、多分向けちゃってると思う。

 昨日は全然ゆっくりできなかったからね。仕方ないね。前世の記憶があるだけで、元は怠け者種族の精霊だし。

 一応、僕は礼儀というものは兼ね備えているはずなんだけど、どうもこの人には礼を尽くすことができない。

「わかったわかった。手短に終わらせるよ」

 どうどうと僕を静めながら、フェルニールさんはカバンから紙を取り出す。
 その紙には、薬草の絵と文章が手書きで書いてあった。

「これは、依頼書ですか?」

 冒険者ギルドに限らず、ギルドというのは、自分たちの管轄内の依頼を受け付ける。
 たとえば、何か情報が欲しい場合は情報ギルド、物を売り買いしたければ商業ギルドと言った具合だ。
 そして、薬草が欲しかったり、魔物を退治して欲しいといった依頼は、冒険者ギルドの管轄である。依頼を出したいときは、依頼内容をギルドの受付に告げる必要がある。よほどの内容でなければまず断られることはなく、もし管轄外の場合は、管轄内の他のギルドを紹介されるそうだ。

「そう。これは薬草の採取依頼で、常設しているものだから、今も受付中なんだ」

 常設の依頼というものもあるのか。確かに、常に需要のある薬草とかは、なるべく多く抱えておきたいし、少なくなるたびにいちいち募集してはきりがないのかもしれない。薬草が集まる前に無くなる可能性もあるし。

 そして、わざわざ常設の依頼を僕たちに見せてきたということは、フェルニールさんは多分……

「つまり、わたしたちに常設の依頼をやらせようって魂胆なわけだ」

 僕の言葉を代弁するように、ルーナが言う。ルーナの言葉に、フェルニールさんはにんまりと笑みを浮かべた。
 やっぱり、そういうことらしい。まぁ、下手な軋轢を生まないためには、これくらいがちょうどいいんだろうな。

「わたし、高額な依頼もしたいんだけど」

 ルーナとしては、さっさとマイベッドが欲しいんだろうけど、フェルニールさんは難しそうな顔をする。

「ギルドの一員じゃない君たちにはこれくらいが精一杯でね。あんたたちをギルドの一員にできたらいいんだけど、そこのおっさん共が反対するんだよね~」

 やれやれと言ったように、フェルニールさんは兵士長のほうを見る。
 僕も、反射的に兵士長のほうを見ると、当然だとばかりにふんぞり返って言う。

「ギルドだってまともなやつばかりじゃねぇだろ。こいつらはガキで、容姿もまあまあだ。物珍しさから手を出すやつがいないとは限らねぇからな」

 フェルニールさんは、ちらりと僕たちのほうを見て、嘲るように言う。

「心配なの?あんたから聞いた話が事実なら、心配いらなさそうだけど。遠慮なく反撃しそうだよ」

 失礼な。そんな短気じゃないよ、僕もルーナも。

「いや、こいつらの場合、やりすぎる可能性があるからな」

 僕らの心配じゃなかったんかい!嘘でも心配してよ、そこは。
 まったく。ちゃんと訂正しないと。

「そんなことないですよ。やりすぎるのはルーナだけです」
「そこが問題だって言ってんだ」
 
 一緒にされたら困ると伝えたけど、兵士長もわかっていたみたいだ。
 それならよかった。

「ちょっと!わたしが危ないやつみたいに言わないでよ!わたしは普通だもん!」
「地面がえぐれるくらいの魔法を使って五匹のウルフを毛の一本も残さずに消し飛ばしたのに?」

 僕が間髪を入れずにそう返すと、ルーナは静かに目をそらす。
 周りは、ぎょっとしたような顔でルーナを見ていた。それは、驚愕というよりかは、ドン引きに近いように見える。

「お、お兄ちゃんがわたしに任せたから……」
「『わたし一人で充分』って言ってなかった?」

 ルーナは、言葉に詰まったようで、黙り込む。
 初めてルーナに口で勝ったな。内容が内容だから嬉しくはないけど。

「う~ん……確かに、それなら強い魔物とかのほうがいいのかもねぇ~」

 いや、納得しないでくださいよ。それに、ルーナならドラゴンとか相手させないと。ちょっと強くした程度じゃ、ほぼ意味ないです。

「えっ!?いいの?」

 ルーナは、パアッと顔を輝かせる。

 嬉しそうにするな!ちょっとは遠慮しろ!

「一応は考慮してみるけど、すぐには無理だから、しばらくは薬草採取かな」

 そう言って、フェルニールさんはカバンを探る。
 あったあったと言いながら、何枚かの紙を並べた。

 それは、すべて薬草の絵だった。いくつかは、精霊界でも見たことあるーーというか、これは……

 僕は、一枚の紙を手に取った。

「お兄ちゃん、それがどうかしたの?」

 ルーナが僕が手に取った紙を覗き込みながら尋ねてくる。

「あっ、これ見たことある」

 でしょうね。僕たちの住んでいたお城の近くによく生えてるし。
 う~ん……ルーナに言っても大丈夫かな。暴走する未来が見えるんだけど……

「これはね、氷霧草ひょうむそうって言うんだけど……ウァノスに使われる薬草の一種なんだよ」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。

葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。 だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。 突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。 これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...