転生精霊の異世界マイペース道中~もっとマイペースな妹とともに~

りーさん

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第一章 辺境の街 カルファ

21. ようやくの休息……とはならず?

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「何も、窓から飛び出すことはねぇだろ」

 屋敷に戻った僕は、兵士長から説教のようなものを受けていた。
 ようなものというのは、兵士長は怒っているというよりかは、呆れのほうが強い感じがしたから。

「だって、玄関まで行くのめんどくさいですし。床は汚さなかったからいいじゃないですか」
「そういう問題じゃないだろ!」

 帰ってきたときは、靴に付いた汚れを取り除いてから屋敷に入ったし、服とかはそもそも汚してないし、何の問題もないと思うんだけどなぁ……

「どういう問題なんですか?」
「……もういい。兄貴はまともかと思ったが、そうでもないのがよくわかった」

 むむっ、失礼な。まるで僕が非常識みたいじゃないか。

「その言い方はないんじゃありませんか?」
「なら、もうちょっと常識的な行動を身につけるんだな」
「むぅ~」

 納得がいかない……!

 もやもやとした思いを抱えながら部屋に戻った僕は、先に戻ってくつろいでいたルーナにクッションを渡した。

「はい、ルーナ」
「ありがとー、お兄ちゃん!」

 嬉しそうに群青色のクッションを受け取ったルーナは、それを抱き枕にしながらベッドに飛び込む。クッションが大きいから、あんまり抱き枕になってないような気がするけど、本人が満足そうなのでいいだろう。

「そうだ、お兄ちゃん。さっきパパから水晶で連絡があったよ」

 平然とそんなことを言い放つルーナに、僕は驚愕する。

「えっ、なんで!?」
「えっとね~……『どうして二日も連絡をくれなかったんだ!』って言ってた!」

 あっちゃ~……やってしまった。言われてみれば、初日しか連絡してなかったな。
 まぁ、街歩きしてたら不審者に出くわしたり、その不審者の応対してたりしたら、忘れちゃうのも仕方ない。

 ……今夜は、少し長めに通信の時間を取ることにすれば、許されないかな?

「わたしに感謝してよね~。こっちに来ようとするパパを止めてあげたんだから」

 前言撤回。今すぐ話そう。

「ありがとうございます」

 ルーナに深く感謝しながら、僕は水晶を手に取る。先ほどまで連絡していたのか、水晶は無造作にベッドの脇に放ってあった。
 まったく、誰かに見つかったらどうするんだ。

「父さーん」

 魔力をこめながら僕が水晶に話しかけると、初日と同じく大きな物音を立てながら、応答があった。

「ルート!ずっと連絡がないから心配していたんだぞ!」
「ごめんなさい」

 たった二日なのにという思いは胸に秘めておいて、素直に謝る。忘れていたのは完全に僕が悪いしね。

「ルーナからある程度は聞いたが、何をしていたんだ?」
「う~んと……ベッド購入のために出かけたり話し合いしたり……かな」

 自分でも何を言ってるんだと思うけど、本当にこの二日間はベッド関連のことしかやっていない。一日目はベッドの下見、そして二日目は資金繰りだ。他にもいろいろとあったけど、ほとんどオマケのようなもの。

 ……今思うと、なかなか濃い三日間だな。最初は、のんびりといろいろな国を渡り歩きながら浄化の旅をするはずだったのに、どうしてこうなった?

 まぁ、身分証も問題ないし、資金集めの目処さえ立てば、もう少しのんびりできるようになるだろう。それまで頑張ればいいだけだ。

「……私たちの分はくれないのか?」
「今は難しいかな。お金に余裕ができたら考えるよ。それか、ルーナが約束を破ったらルーナのーー」

 そこまで言ったところで、ルーナに口を塞がれた。よっぽど、自分のベッド譲渡の約束はさせたくないんだな。

「じゃあ、わたしたち忙しいからまたね、パパ」

 ルーナは、早口で捲し立てながら通信を切り、水晶をカバンにしまった。普段からは想像できないほどの早さだ。
 そこまでするほどのこと……か、ルーナからすれば。

「お兄ちゃん、レイクスさんたちと話したことなんだけど」

 ルーナが、話題そらしの意味もこめてか、僕がクッションを買いに行った後の事を話してくれる。

 どうやら、ルーナはちゃんと話し合いをしてくれていたようで、お出かけの予定は一週間後に決まったこと、日程は五日間であることを教えてくれた。
 僕たちのことを周知したり、準備を整えるには、それくらいの時間は必要らしい。

 別に、長すぎるというわけでもないけど、その間は暇になりそうだから、久しぶりにのんびりできそうだ。

「じゃあ、ルーナ。一緒にごろごろしよっか~」
「その前にウァノスちょーだい!」

 キラキラとした目で要求してくる妹の手に、僕はウァノスを二つ乗せた。

◇◇◇

 その翌日から、僕は宣言通りにのんびりしている。ルーナは僕の隣で爆睡中だ。よほどのことがないと起きないだろう。
 僕は、今までの忙しさの弊害なのか、寝ては起きて寝ては起きてを繰り返していて、なかなか眠れない。
 それでも、昨日までよりは休めているけど。

「もふもふらっふぃ……もふ……もふ」

 むにゃむにゃと微睡みながら、ルーナは寝返りをうっている。
 寝言を言い始めたということは、何か夢でも見ているのかな?それとも、単純にもうすぐ離ればなれになるベッドを惜しんでいるのかも。

「ん……お兄ちゃん?」

 僕の視線が気になったのか、ルーナが起きてしまった。まぁ、無理やり起こされたわけじゃないから、そこまで機嫌は悪くないと思うけど。

「ごめん。起こしちゃった?」
「うん……だいじょうぶ」

 ルーナは、目を擦りながら、ふわぁとあくびをして起き上がる。
 もう寝なくてもいいのだろうか?

「お兄ちゃん、ウァノスちょーらい……」
「うん……」

 僕は、そっとウァノスが入ったカバンを覗く。そこには、ころころとしたウァノスが十個ほど転がっていた。
 渡すのはいいんだけど……本当にそろそろ在庫がなくなる。このままのペースだと、お出かけの間に在庫切れになるだろう。

「ルーナ。そろそろ持ってきたのがなくなっちゃうから、ウァノスの材料買いに行こうか」
「持ってきてないの?」
「薬草は持ってきてるけど、油とかがないの」

 ウァノス切れの際は、道中で作ることも考えて、混ぜ混む薬草は持ってきたものの、油のような加工品は持ってきていない。
 荷物になるし、そこまで珍しいものでもないので、どこかの街に寄れば売ってるだろうと思った。

「それ、下界に売ってるの?」
「どうだろう……」

 そう。精霊にとってはそこらにあるようなものでも、下界では珍しいものの可能性がある。氷霧草と火炎草の件でそう感じてしまった。
 一応、氷霧草は時間停止のカバンに入れて持ってきてるから、枯れることなく使うことができるけど、冬が来るまで調達はできそうにない。北国か山頂にでも行って探しに行くしかないだろう。
 他のものも、もし売ってなかったら、レイクスさんたちの伝手で手に入れてもらうしかなさそうだけど、一体いつになるのか。

「……ルーナ」
「絶対にやだ」

 まだ何も言ってないんだけど。名前を呼んだだけじゃん。

「どうせ、『しばらくおやつはなしでいい?』とか言うんでしょ?絶対に嫌!」

 頬を膨らませて、プイッとそっぽを向かれてしまった。
 さすがは、百年以上を共に過ごした双子の妹なだけあって、僕の考えはお見通しらしい。

「でも、いずれなくなっちゃうから、その時が来れば自然と……」
「そうなったら精霊界に帰ればいいじゃん」

 よくないよくない!それは僕がよくない!
 そんなことしたら、引きこもりコース一直線でしょ!

「僕はもう少しルーナと一緒に下界にいたいんだけどなぁ……」
「…………でも、ウァノスは譲れない」

 だいぶ考え込んでいたみたいだけど、やっぱり考えは曲げてくれないらしい。
 こうなったら、あらゆる手段を駆使して手に入れるしかない。まぁ、わりとあっさりと手に入るかもしれないけどね。

「じゃあ、レイクスさんたちに聞いてみるから、ここで待ってて」
「ふぁーい……」

 ふわぁとあくびしながら返事をしたルーナを置いて、僕は部屋を出た。

◇◇◇

 屋敷を歩き回ること数分。ようやく廊下を歩いていたレイクスさんと出くわした。

「レイクスさーん」

 僕が後ろから声をかけると、向こうも気づいたようで振り返る。

「おう。どうした?」
「ちょっと相談があるんですけど……お菓子の材料が欲しいんです」
「お菓子ぃ?なんでそんなものが欲しいんだ?」

 僕は、先ほどの出来事を要約して話す。レイクスさんにはウァノスのことはチラッと話した覚えがあるから、それはなんだとはならないはずだ。

「レイーボの花、リオル油、ハヌルの粉が欲しいんですけど、手に入りますか?」
「レイーボの花はともかく、他の二つはそれなりの高級品だぞ」

 高級品なのか、やっぱり。精霊界では簡単に手に入るんだけどなぁ……

「難しそうですか?」
「いや、探せば見つかると思うぞ」

 僕は、少しほっとした。
 氷霧草みたいに入手不可能ではなさそうなだけいいか。

「小金貨一枚分では難しそうですね」
「いや、あれはあくまでも自由に使える上限金額なだけであって、今みたいに話してくれれば特に問題ないぞ」

 あっ、そうなんだ。なら、母さんたちのベッドを追加で買うこともそんなに難しくなさそうかな?暴走されると困るから言わないけど……

「欲しいなら手に入れてやろうか?」
「出かける前に欲しいんですけど、できますか?」
「まぁ、やるだけやってみよう。その代わりと言ってはなんだが……」
「お金ならちゃんと払いますよ?」

 少し財布が寒くなってしまうけど、ルーナがずっと不機嫌でいるよりは遥かにマシだ。それに、資金調達の目処も立ったから、少しくらいなら財布の紐を緩められる。

「まぁ、それはちゃんともらうが、そうじゃなくてな」
「ではなんですか?」
「俺にもそのウァノスってやつ食べさせてくれないか?」
「ウァノスを……ですか?」

 それは全然いいんだけど……最低限を作るつもりだったから、ちょっと材料が足りないな。

「それなら、氷霧草も持ってきてくれませんか?枯れていてかまいませんので」
「今の時期にか!?」

 今は、暖かくて過ごしやすい陽気な春の気候だ。間違っても、冬の植物が芽吹くことはないけど……下界でも氷霧草は薬草として認知されているから、手に入れられないことはないと思う。
 交易品でも探せばいいんじゃないですかね。

「無理なら、ウァノスを諦めてもらうだけですので」
「……わかった。どうにかしてみよう」

 ウァノスを諦めるという選択はしなかったらしい。どう手に入れようか模索しているレイクスさんに、念のために伝えておく。

「もし、数が増えるようならその人たちにも氷霧草を持ってきてもらってください。二本くらいで大丈夫です」
「あ、ああ……」
「では、お待ちしております」

 ペコリと頭を下げて、僕は部屋に戻った。さてさて、一体何人集まるだろうか。
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