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第一章 辺境の街 カルファ
24. コーゼル大森林 1
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森の入り口へと到着した僕たちを、大勢の人が出迎える。
レイクスさんやウォルターさんと同じような格好をしている人たちは防衛軍なんだろうけど、そうじゃない人もちらほらいるんだよね。
一体、彼らは?
「では、まずは防衛軍のほうから紹介させていただきますね」
そう言って、ウォルターさんは集合するように呼びかける。
すると、ウォルターさんたちと同じような格好をした人たちが集まってきた。
「こいつらは、カルファ防衛軍の第二部隊と第三部隊。俺たち直属の部下もいるぞ」
「第一はいないの?」
ルーナが眠そうにしながら尋ねる。まぁ、第二と第三がいるなら、第一もどこかにいそうだよね。
その疑問には、ウォルターさんが答えてくれた。
「第一は、治安隊と一緒に街の警備してるから、ここにはいませんよ」
「でも、魔物は危ないよ?人数は多いほうがいいよ」
ルーナの言う通り、魔物というのは、常に想定外を考えておかなければならない相手だ。一匹の魔物が一メートル行動範囲を広げるだけでも、森全体に大きな影響を与えかねない。
だからこそ、魔物の調査は安全面で見ても効率面で見ても、大人数のほうがいいのだ。
それも、一定以上の実力がなければ足枷にしかならないけど、軍隊に入れるのであれば、実力面は問題ないだろう。
「治安隊は、人間相手が専門だからな。魔物の対処には不馴れな場合が多いんだ。だから、街に魔物が襲撃する可能性を想定して、一部は残しておいたほうがいい」
なるほど、役割分担してるのか。でも、対応力を鍛えるためにも、治安隊にも魔物の相手をさせてもいいと思うけどな。
でも、街に襲撃があった場合には、住民の避難とかもしないといけないから、人数はいたほうがいいのか。うーむ……
「まぁ、こっちは冒険者ギルドの連中もいるからな。人数は問題ないと思うぞ」
「そうなんですね」
隊服ではない装備を着ていたのは、冒険者だったらしい。確かに、防衛軍の半分くらいの人数がいるので、人手は問題なさそうだ。
さて、疑問が解消できたところで、そろそろこちらも自己紹介しないと失礼だな。
僕は、ペコリと隊員の人たちに頭を下げた。
「僕はルートです。こっちはいもーー」
妹のルーナですと言う前に、僕は口を止めてしまった。
そこには、うつらうつらとしながら目を閉じているルーナがいたからだ。
「……少々お待ちください」
僕は、隊員たちに頭を下げて、ルーナの真横まで移動し、右手を振りかざす。
そして、思いっきり振り下ろした。
「こんなときまで寝るなー!!」
僕の叫びと、ルーナの頭にチョップが直撃するのは、ほぼ同時だった。
「いった~~い……」
ルーナは頭を抱えながら目を覚ます。まったく。マイペースも時と場合を選んでくれないと、ただの自分勝手なんだよ。
こうならないためにクッションを仕舞わせたのに、ルーナには意味はなかったらしい。
「ひどいよお兄ちゃ~ん……」
「ひどいのはルーナの態度だよ。ほら、お世話になるんだから挨拶」
ルーナの肩を掴み、隊員たちのほうに体を向けさせて、挨拶を促す。
「ルーナです。よろしくお願いします……」
ふて腐れながらも、ルーナは頭を下げた。少しは取り繕え。
「まぁ、こんな感じの奴らだけど、問題は起こさねぇよ。……多分」
フォローしてくれたつもりかもしれないけど、最後の一言で誰も信用しなくなったよ。僕たちを見る隊員たちの目が、すごい疑り深いもん。
「彼らのことは、私たちがしっかりと見ていますので、皆は自分の仕事を優先するように」
「「「「は、はい……」」」」
軍隊らしからぬ濁った返事に、僕は申し訳なさでいっぱいになる。
第一印象くらいよくしたかったのに、出だしから最悪のスタートだ。
ガックリと肩を落としていると、不意に視線を感じる。それも、一つや二つではない。
「……ルート」
ルーナも異変を感じ取ったようで、僕の裾を掴みながら周囲を警戒している。
僕も、同じようにルーナの裾を掴んだ。そして、軽く引っ張る。
これは、僕たちのなかでの暗号のようなもので、裾または体の一部を握るのは異変を感じたとき。引っ張るのは待機だ。
つまり、今回のような場合だと、様子見を意味する。
「……いいの?」
「まだなにもしてないから」
問題は起こさないに越したことはない。向こうがなにもしてこないなら、こちらから仕掛ける必要もない。
まぁ、手を出してくるというのなら……容赦するつもりはないけど。
◇◇◇
僕たちは、前後を防衛軍に挟まれる形で森の中へと足を踏み入れた。
冒険者は、それぞれ別ルートから森に入っているらしい。森を効率よく調査するためにエリア分けしているみたいだ。
僕たちは一番人数が多いから、危険なところか、広大な範囲を調査することになるだろう。
「お前たちは、回収できそうな薬草があったら回収しておいてくれ。遅れないようにしてくれれば好きなだけ取ってきていい」
「「はーい。じゃあ行ってきまーす」」
双子らしい息ぴったりな返事をして、僕たちは駆け出す。「いきなりか?」というレイクスさんの驚愕の声が聞こえたけど、僕もルーナもなにも返事しなかった。
「ふんふんふーん……」
とりあえず目についた薬草を手当たり次第摘んでいく。なかには、フェルニールさんに見せてもらった依頼対象の薬草などもあったので、お金を稼ぐという目的は果たせそうだった。
「お兄ちゃーん!」
僕を呼ぶルーナの声が聞こえて、そちらのほうを見ると、ルーナが何かを手にしながらこちらに走ってきている。
「見て、これ!」
ルーナが自慢げに手に持っているものを僕に見せびらかせてきた。
「月夜草じゃん!よく見つけたね。しかも、花が咲いてるし」
「えっへん」
ルーナはとても誇らしそうにする。
月夜草というのは、ある毒の特効薬として使われるんだけど、その花はとても希少価値があることで有名だ。採取方法は難しくないんだけど、開花条件が厳しすぎて、野生で見つかることはほとんどない。
条件は三つある。
一つ、月の出る晴天の夜であること。
晴天でも、月が雲で隠れたりしていたらアウト。月夜草の蕾は、夜に光を浴びる必要があるのだ。日光ではなく、月明かりじゃないとダメらしい。
二つ、翌日の朝に雨が降っていること。
小雨ではなく、それなりの量が必要。光を浴びた後は、水を多く吸収する必要があるので、小雨では足りない。
蕾が光を蓄えている間に水を取り込む必要があるので、翌日でなければならないのだ。
三つ、周りに他の月夜草が生えていないこと
月夜草は、土のなかにあるとある成分を使って成長するんだけど、それがあまり多く存在しているわけではないので、他の月夜草が生えていたら、芽吹くことはあっても、花を咲かせることはない。
そのすべての条件をクリアして見つけてきたらしい。
ちなみに、花は条件を満たしてから二週間~一ヶ月後とスローペースに咲かせるのも、見つかりにくい理由だ。
しかも、咲いたら一日で枯れちゃうんだよね。
ルーナは、かなりの幸運の持ち主のようだ。このままレアな薬草を集め続けたらどうしよう。売れたらいいけど、売れなかったら嫌だなぁ。
使う機会なんてほとんどなさそうだから、荷物が増えるだけになりそう。
「……ルート」
ルーナが、真剣な目つきで僕の裾を掴んで呼びかけてきた。
僕も、ゆっくりと頷く。
「いるね。五……いや、六匹かな」
周りの様子を見るに、誰も気づいていないようだ。
僕は、とりあえず一番近くにいた隊員の裾を引っ張る。ルーナもちょこちょことついてきた。
「……うん?君たちか。どうした?」
僕に気づいた隊員は、片膝をついて、僕に視線を合わせてくれる。
その気遣いはありがたいけど、今の状況を考えると動きにくい姿勢は危険だ。
「前方の……右斜めのほうから魔物が来ています」
「六匹いるよ」
まだこの森の地理に明るくない僕は、東西南北まではわからず、指で指し示す。
ルーナは、数まで詳しく教えていた。
「魔物……?」
隊員は、僕たちが指し示した方向を注視する。だけど、まだ姿は見えていないから、いくら注視しても魔物の姿が見えることはない。
でも、魔物はこちらにまっすぐ向かってきているから、向こうは確実に気づいているはずだ。このままだと、一分以内には遭遇する。
早く、準備を整えさせないと。
「どうしましたか?」
僕たちの様子に気づいたのか、ウォルターさんが声をかけてくる。
レイクスさんもウォルターさんの声がけで気づいたのか、こちらのほうに歩いてきていた。
「彼らが北西のほうから魔物が来ていると言うのですが、姿が見えず……」
ウォルターさんたちは、じっと僕のほうを見る。僕がにこりと笑みを返しておくと、何か言いたげな目をしていたが、視線を隊員のほうに移してくれた。
「彼らはこのようなことを冗談で言うような性格ではありません。警戒しておきましょう」
ウォルターさんがそう言って、北西のほうに視線を向けたおよそ十秒後。姿が見えてきた。
あれは……ウルフだろうか?でも、ルーナが倒したのとはまるで雰囲気が違う。
何よりも、体色がまず違う。ルーナが倒したウルフは灰褐色だったけど、こちらに向かってきているのは緑色だ。木々の生い茂るこの場所では、立派な保護色となるだろう。
「フォレストウルフか!全員、構えろ!」
レイクスさんが指示を飛ばす。ウォルターさんは僕たちの側から離れようとしないので、護衛のつもりなのかもしれない。
どうやら、あの緑色のウルフはフォレストウルフと言うらしい。精霊界では見たことがないな。この森の固有種だったりするのだろうか。
「あれって、どんな魔物なんですか?」
側で待機しているウォルターさんに尋ねると、丁寧に教えてくれる。
「あれは、フォレストウルフと言って、この森では比較的生息数の多い魔物です。餌が足りなくなると、街道に出てくることもあるので、今回の調査では討伐対象ですね」
ほー、僕たちの知っているウルフとそう変わらないのか。
ウルフも、普段はあまり人気のない場所にいるけど、餌が足りないと行動範囲を広げて人の前に現れるからね。
「強いの?」
「単独相手ならば、きちんと装備さえ整えていれば負けることはほとんどありませんが、動きが素早いため、群れに遭遇すると厄介です。今回は六匹ですが、数十匹になると苦戦を強いられるやもしれません」
「ふーん……」
ルーナは、フォレストウルフを訝しそうな目つきで見る。多分、『あれが?』って思ってるんだろうな。
まぁ、わからなくもない。魔力を見るに、強さは初日に遭遇したウルフと相違ないだろう。ルーナの魔法を使えば一瞬で殲滅できるはずだ。
僕も、やろうと思えばできると思う。あのレベルだと、僕たちからすれば、五十匹だろうが百匹だろうが大して変わらないのだ。
でも、同行した防衛軍たちの実力もかなりのもののようで、苦戦している様子は見られない。
これは、僕たちが戦闘に参加する必要はなさそうかな。
そのまま見守りに徹すること数分後、すべてのフォレストウルフが討伐された。
「全員、怪我はないな?」
レイクスさんがそう尋ねるものの、誰も申告することはない。どうやら、特にダメージをもらうことはなかったらしい。
いくらウルフとはいえ、ノーダメージなのはすごいな。
「お兄さんたち強いね~。わたしたちが出るまでもなかったや」
ふわぁとあくびしながらルーナが言う。ずいぶんと緊張感がないけど、寝ていないだけましか。
「いや、事前に魔物の来る方角がわかっていたから無傷で済んだんだ。んで、なんでお前らは魔物の来る方角がわかったんだ?」
う~ん……話してもいいものだろうか。ウォルターさんの反応から察するに、僕たちの索敵能力はありふれたものではないはず。
察してくれないかなとじっと視線を送ってみるけど、レイクスさんは不思議そうな顔をするだけだ。この人、鈍いのか。
「……もしかして、お二人は探知系の異能を持っていたりしますか?」
「う~ん……異能というか、技術のほうが近いですかね……」
この世界には、異能という力を扱う者がいる。ゲーム風に言うと、スキルと同じようなもので、生まれながらにして個々が持っている特別な力のことだ。
どの生物も一つは異能を持っていると言われているけど、精霊は異能を持たない種族だ。
理由まではよくわからないけど、少なくとも千年間の記録のなかで、異能を持つ精霊が生まれたことはないらしい。
僕たちも、その例にならうように、異能は持っていないのだ。強いて言うならば、ルーナの浄化の力がそうかもしれない。
でも、父さんいわく、あれは神さまから力を与えられているからであって、異能とはまた違う……らしい。僕も、転生させた神さまから力をもらってるけど、それは異能ではないと言われた。違いがよくわからないけど。
「技術って……どんな技術なんだ?」
「微量な魔力を周囲に広げることで、自分とは異質な魔力を感知しているんです。僕たちは、魔力探知と呼んでいますけど」
魔力を感じ取れるほどに感覚を鍛えて、魔力をコントロールする力さえ身につければ誰でもできる技である。
欠点をあげるとするなら、魔力に敏感な人には探知していることが気づかれやすいことくらいしかないので、僕たちは安全確保のために下界に来てからは常に探知していた。
魔力を周囲に広げるため、感知範囲は魔力量に比例するんだけど、僕たちの魔力量は膨大なため、感知できる範囲も広い。
魔物が視界に入る前に気づけたのも、感知範囲が広いからである。
「へぇ~、便利なもんだな。どれくらいでできるようになるんだ?」
「ルーナは二日、僕は一ヶ月かかりました」
僕がそう言うと、みんな驚いたようにルーナのほうを見る。
ルーナは、不思議そうに首をこてんと傾げた。
魔力探知がなんなのかはわからなくても、ルーナの異様な習得の早さはわかったんだろう。
ルーナの見て盗む技術は、ものを選ばないんだよね。なんでも見て盗むができてしまう。
まぁ、魔力探知自体は、目に見えるものではないため、習得にそれなりに時間がかかったようだけど、それでも二日は異例の早さである。
「皆さんも練習すればできます」
「それはありがたいが、今はそんな余裕はないだろう」
確かにそうだ。魔力を広げるために意識を集中すれば、それだけ周囲への警戒が怠ってしまう。調査が終わってからでもいいだろう。
それが終わってベッドも買ったら、別の街に行くとしようかな。
「……油断はするなよ」
これからのことを想像しながら浮かれていると、レイクスさんにくいっと右頬を引っ張られて、忠告されてしまった。
レイクスさんやウォルターさんと同じような格好をしている人たちは防衛軍なんだろうけど、そうじゃない人もちらほらいるんだよね。
一体、彼らは?
「では、まずは防衛軍のほうから紹介させていただきますね」
そう言って、ウォルターさんは集合するように呼びかける。
すると、ウォルターさんたちと同じような格好をした人たちが集まってきた。
「こいつらは、カルファ防衛軍の第二部隊と第三部隊。俺たち直属の部下もいるぞ」
「第一はいないの?」
ルーナが眠そうにしながら尋ねる。まぁ、第二と第三がいるなら、第一もどこかにいそうだよね。
その疑問には、ウォルターさんが答えてくれた。
「第一は、治安隊と一緒に街の警備してるから、ここにはいませんよ」
「でも、魔物は危ないよ?人数は多いほうがいいよ」
ルーナの言う通り、魔物というのは、常に想定外を考えておかなければならない相手だ。一匹の魔物が一メートル行動範囲を広げるだけでも、森全体に大きな影響を与えかねない。
だからこそ、魔物の調査は安全面で見ても効率面で見ても、大人数のほうがいいのだ。
それも、一定以上の実力がなければ足枷にしかならないけど、軍隊に入れるのであれば、実力面は問題ないだろう。
「治安隊は、人間相手が専門だからな。魔物の対処には不馴れな場合が多いんだ。だから、街に魔物が襲撃する可能性を想定して、一部は残しておいたほうがいい」
なるほど、役割分担してるのか。でも、対応力を鍛えるためにも、治安隊にも魔物の相手をさせてもいいと思うけどな。
でも、街に襲撃があった場合には、住民の避難とかもしないといけないから、人数はいたほうがいいのか。うーむ……
「まぁ、こっちは冒険者ギルドの連中もいるからな。人数は問題ないと思うぞ」
「そうなんですね」
隊服ではない装備を着ていたのは、冒険者だったらしい。確かに、防衛軍の半分くらいの人数がいるので、人手は問題なさそうだ。
さて、疑問が解消できたところで、そろそろこちらも自己紹介しないと失礼だな。
僕は、ペコリと隊員の人たちに頭を下げた。
「僕はルートです。こっちはいもーー」
妹のルーナですと言う前に、僕は口を止めてしまった。
そこには、うつらうつらとしながら目を閉じているルーナがいたからだ。
「……少々お待ちください」
僕は、隊員たちに頭を下げて、ルーナの真横まで移動し、右手を振りかざす。
そして、思いっきり振り下ろした。
「こんなときまで寝るなー!!」
僕の叫びと、ルーナの頭にチョップが直撃するのは、ほぼ同時だった。
「いった~~い……」
ルーナは頭を抱えながら目を覚ます。まったく。マイペースも時と場合を選んでくれないと、ただの自分勝手なんだよ。
こうならないためにクッションを仕舞わせたのに、ルーナには意味はなかったらしい。
「ひどいよお兄ちゃ~ん……」
「ひどいのはルーナの態度だよ。ほら、お世話になるんだから挨拶」
ルーナの肩を掴み、隊員たちのほうに体を向けさせて、挨拶を促す。
「ルーナです。よろしくお願いします……」
ふて腐れながらも、ルーナは頭を下げた。少しは取り繕え。
「まぁ、こんな感じの奴らだけど、問題は起こさねぇよ。……多分」
フォローしてくれたつもりかもしれないけど、最後の一言で誰も信用しなくなったよ。僕たちを見る隊員たちの目が、すごい疑り深いもん。
「彼らのことは、私たちがしっかりと見ていますので、皆は自分の仕事を優先するように」
「「「「は、はい……」」」」
軍隊らしからぬ濁った返事に、僕は申し訳なさでいっぱいになる。
第一印象くらいよくしたかったのに、出だしから最悪のスタートだ。
ガックリと肩を落としていると、不意に視線を感じる。それも、一つや二つではない。
「……ルート」
ルーナも異変を感じ取ったようで、僕の裾を掴みながら周囲を警戒している。
僕も、同じようにルーナの裾を掴んだ。そして、軽く引っ張る。
これは、僕たちのなかでの暗号のようなもので、裾または体の一部を握るのは異変を感じたとき。引っ張るのは待機だ。
つまり、今回のような場合だと、様子見を意味する。
「……いいの?」
「まだなにもしてないから」
問題は起こさないに越したことはない。向こうがなにもしてこないなら、こちらから仕掛ける必要もない。
まぁ、手を出してくるというのなら……容赦するつもりはないけど。
◇◇◇
僕たちは、前後を防衛軍に挟まれる形で森の中へと足を踏み入れた。
冒険者は、それぞれ別ルートから森に入っているらしい。森を効率よく調査するためにエリア分けしているみたいだ。
僕たちは一番人数が多いから、危険なところか、広大な範囲を調査することになるだろう。
「お前たちは、回収できそうな薬草があったら回収しておいてくれ。遅れないようにしてくれれば好きなだけ取ってきていい」
「「はーい。じゃあ行ってきまーす」」
双子らしい息ぴったりな返事をして、僕たちは駆け出す。「いきなりか?」というレイクスさんの驚愕の声が聞こえたけど、僕もルーナもなにも返事しなかった。
「ふんふんふーん……」
とりあえず目についた薬草を手当たり次第摘んでいく。なかには、フェルニールさんに見せてもらった依頼対象の薬草などもあったので、お金を稼ぐという目的は果たせそうだった。
「お兄ちゃーん!」
僕を呼ぶルーナの声が聞こえて、そちらのほうを見ると、ルーナが何かを手にしながらこちらに走ってきている。
「見て、これ!」
ルーナが自慢げに手に持っているものを僕に見せびらかせてきた。
「月夜草じゃん!よく見つけたね。しかも、花が咲いてるし」
「えっへん」
ルーナはとても誇らしそうにする。
月夜草というのは、ある毒の特効薬として使われるんだけど、その花はとても希少価値があることで有名だ。採取方法は難しくないんだけど、開花条件が厳しすぎて、野生で見つかることはほとんどない。
条件は三つある。
一つ、月の出る晴天の夜であること。
晴天でも、月が雲で隠れたりしていたらアウト。月夜草の蕾は、夜に光を浴びる必要があるのだ。日光ではなく、月明かりじゃないとダメらしい。
二つ、翌日の朝に雨が降っていること。
小雨ではなく、それなりの量が必要。光を浴びた後は、水を多く吸収する必要があるので、小雨では足りない。
蕾が光を蓄えている間に水を取り込む必要があるので、翌日でなければならないのだ。
三つ、周りに他の月夜草が生えていないこと
月夜草は、土のなかにあるとある成分を使って成長するんだけど、それがあまり多く存在しているわけではないので、他の月夜草が生えていたら、芽吹くことはあっても、花を咲かせることはない。
そのすべての条件をクリアして見つけてきたらしい。
ちなみに、花は条件を満たしてから二週間~一ヶ月後とスローペースに咲かせるのも、見つかりにくい理由だ。
しかも、咲いたら一日で枯れちゃうんだよね。
ルーナは、かなりの幸運の持ち主のようだ。このままレアな薬草を集め続けたらどうしよう。売れたらいいけど、売れなかったら嫌だなぁ。
使う機会なんてほとんどなさそうだから、荷物が増えるだけになりそう。
「……ルート」
ルーナが、真剣な目つきで僕の裾を掴んで呼びかけてきた。
僕も、ゆっくりと頷く。
「いるね。五……いや、六匹かな」
周りの様子を見るに、誰も気づいていないようだ。
僕は、とりあえず一番近くにいた隊員の裾を引っ張る。ルーナもちょこちょことついてきた。
「……うん?君たちか。どうした?」
僕に気づいた隊員は、片膝をついて、僕に視線を合わせてくれる。
その気遣いはありがたいけど、今の状況を考えると動きにくい姿勢は危険だ。
「前方の……右斜めのほうから魔物が来ています」
「六匹いるよ」
まだこの森の地理に明るくない僕は、東西南北まではわからず、指で指し示す。
ルーナは、数まで詳しく教えていた。
「魔物……?」
隊員は、僕たちが指し示した方向を注視する。だけど、まだ姿は見えていないから、いくら注視しても魔物の姿が見えることはない。
でも、魔物はこちらにまっすぐ向かってきているから、向こうは確実に気づいているはずだ。このままだと、一分以内には遭遇する。
早く、準備を整えさせないと。
「どうしましたか?」
僕たちの様子に気づいたのか、ウォルターさんが声をかけてくる。
レイクスさんもウォルターさんの声がけで気づいたのか、こちらのほうに歩いてきていた。
「彼らが北西のほうから魔物が来ていると言うのですが、姿が見えず……」
ウォルターさんたちは、じっと僕のほうを見る。僕がにこりと笑みを返しておくと、何か言いたげな目をしていたが、視線を隊員のほうに移してくれた。
「彼らはこのようなことを冗談で言うような性格ではありません。警戒しておきましょう」
ウォルターさんがそう言って、北西のほうに視線を向けたおよそ十秒後。姿が見えてきた。
あれは……ウルフだろうか?でも、ルーナが倒したのとはまるで雰囲気が違う。
何よりも、体色がまず違う。ルーナが倒したウルフは灰褐色だったけど、こちらに向かってきているのは緑色だ。木々の生い茂るこの場所では、立派な保護色となるだろう。
「フォレストウルフか!全員、構えろ!」
レイクスさんが指示を飛ばす。ウォルターさんは僕たちの側から離れようとしないので、護衛のつもりなのかもしれない。
どうやら、あの緑色のウルフはフォレストウルフと言うらしい。精霊界では見たことがないな。この森の固有種だったりするのだろうか。
「あれって、どんな魔物なんですか?」
側で待機しているウォルターさんに尋ねると、丁寧に教えてくれる。
「あれは、フォレストウルフと言って、この森では比較的生息数の多い魔物です。餌が足りなくなると、街道に出てくることもあるので、今回の調査では討伐対象ですね」
ほー、僕たちの知っているウルフとそう変わらないのか。
ウルフも、普段はあまり人気のない場所にいるけど、餌が足りないと行動範囲を広げて人の前に現れるからね。
「強いの?」
「単独相手ならば、きちんと装備さえ整えていれば負けることはほとんどありませんが、動きが素早いため、群れに遭遇すると厄介です。今回は六匹ですが、数十匹になると苦戦を強いられるやもしれません」
「ふーん……」
ルーナは、フォレストウルフを訝しそうな目つきで見る。多分、『あれが?』って思ってるんだろうな。
まぁ、わからなくもない。魔力を見るに、強さは初日に遭遇したウルフと相違ないだろう。ルーナの魔法を使えば一瞬で殲滅できるはずだ。
僕も、やろうと思えばできると思う。あのレベルだと、僕たちからすれば、五十匹だろうが百匹だろうが大して変わらないのだ。
でも、同行した防衛軍たちの実力もかなりのもののようで、苦戦している様子は見られない。
これは、僕たちが戦闘に参加する必要はなさそうかな。
そのまま見守りに徹すること数分後、すべてのフォレストウルフが討伐された。
「全員、怪我はないな?」
レイクスさんがそう尋ねるものの、誰も申告することはない。どうやら、特にダメージをもらうことはなかったらしい。
いくらウルフとはいえ、ノーダメージなのはすごいな。
「お兄さんたち強いね~。わたしたちが出るまでもなかったや」
ふわぁとあくびしながらルーナが言う。ずいぶんと緊張感がないけど、寝ていないだけましか。
「いや、事前に魔物の来る方角がわかっていたから無傷で済んだんだ。んで、なんでお前らは魔物の来る方角がわかったんだ?」
う~ん……話してもいいものだろうか。ウォルターさんの反応から察するに、僕たちの索敵能力はありふれたものではないはず。
察してくれないかなとじっと視線を送ってみるけど、レイクスさんは不思議そうな顔をするだけだ。この人、鈍いのか。
「……もしかして、お二人は探知系の異能を持っていたりしますか?」
「う~ん……異能というか、技術のほうが近いですかね……」
この世界には、異能という力を扱う者がいる。ゲーム風に言うと、スキルと同じようなもので、生まれながらにして個々が持っている特別な力のことだ。
どの生物も一つは異能を持っていると言われているけど、精霊は異能を持たない種族だ。
理由まではよくわからないけど、少なくとも千年間の記録のなかで、異能を持つ精霊が生まれたことはないらしい。
僕たちも、その例にならうように、異能は持っていないのだ。強いて言うならば、ルーナの浄化の力がそうかもしれない。
でも、父さんいわく、あれは神さまから力を与えられているからであって、異能とはまた違う……らしい。僕も、転生させた神さまから力をもらってるけど、それは異能ではないと言われた。違いがよくわからないけど。
「技術って……どんな技術なんだ?」
「微量な魔力を周囲に広げることで、自分とは異質な魔力を感知しているんです。僕たちは、魔力探知と呼んでいますけど」
魔力を感じ取れるほどに感覚を鍛えて、魔力をコントロールする力さえ身につければ誰でもできる技である。
欠点をあげるとするなら、魔力に敏感な人には探知していることが気づかれやすいことくらいしかないので、僕たちは安全確保のために下界に来てからは常に探知していた。
魔力を周囲に広げるため、感知範囲は魔力量に比例するんだけど、僕たちの魔力量は膨大なため、感知できる範囲も広い。
魔物が視界に入る前に気づけたのも、感知範囲が広いからである。
「へぇ~、便利なもんだな。どれくらいでできるようになるんだ?」
「ルーナは二日、僕は一ヶ月かかりました」
僕がそう言うと、みんな驚いたようにルーナのほうを見る。
ルーナは、不思議そうに首をこてんと傾げた。
魔力探知がなんなのかはわからなくても、ルーナの異様な習得の早さはわかったんだろう。
ルーナの見て盗む技術は、ものを選ばないんだよね。なんでも見て盗むができてしまう。
まぁ、魔力探知自体は、目に見えるものではないため、習得にそれなりに時間がかかったようだけど、それでも二日は異例の早さである。
「皆さんも練習すればできます」
「それはありがたいが、今はそんな余裕はないだろう」
確かにそうだ。魔力を広げるために意識を集中すれば、それだけ周囲への警戒が怠ってしまう。調査が終わってからでもいいだろう。
それが終わってベッドも買ったら、別の街に行くとしようかな。
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俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。
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コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。
だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。
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追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~
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目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
その言葉を信じて、俺は必死についていった。
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『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。
俺も分かっていた。
だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。
「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」
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――だけど。
ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、
“様々な縁”が重なり、騒がしくなった。
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「君と一緒に行かせてくれ。」
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穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、
世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい――
◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
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父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
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