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第一章 辺境の街 カルファ

25. コーゼル大森林 2

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 フォレストウルフの素材を剥ぎ取りつつ、僕たちは歩みを進める。
 素材を一部しか剥ぎ取っていなかったので、その理由を聞いてみたところ、魔物の死体は森に住む他の生物の食糧になるので、討伐証明分のみを持ち帰り、森に還元しているのだという。

 さすがにそのままにすると、死体に釣られて魔物たちがわらわらと寄ってきてしまうので、土に埋めておくそうだが。
 魔物の肉を食らうような生き物は、少し埋めただけなら匂いで埋めた場所もわかるし、掘り起こせるそうだ。
 土に埋める役は、土魔法を使える下っ端の役割らしい。まぁ、一から掘るよりそのほうが手っ取り早いのだろう。

 ウォルターさんいわく、分隊には魔法の基本属性である火、水、土、風が使える者が最低でもそれぞれ二人いるように配置されているらしい。最低ラインが二人なのは、一人だけでは対処しきれない場合もあるからだろう。

 今回の死体処理も、第二、第三部隊のなかで、土属性を使える五人の隊員が対処していた。
 僕はその作業を見守っていたけど、ルーナは立ったまま眠っていた。ぶれないやつめ。

 でも、そんなルーナも意識が覚醒するときがある。

「ルート、また来た」
「うん。今度は四匹だね」

 そう、魔物が来たときだ。ぼくたちからすれば雑魚であるとはいえ、万が一ということがあるのが魔物だ。
 さすがに命のやり取りになると、怠け者のルーナの眠気も一時的に吹き飛ぶ。
 先ほどと同じフォレストウルフのようだ。

「またか……今度はどこからだ?」
「「北東」」

 先ほどの隊員の北西発言のおかげで、おおよその方角がわかった僕たちは、北東を示した。
 他の防衛軍も、先ほどの件で信用してくれているのか、皆が北東を注目して陣形を組んでいる。

 こういうときは、別の方角から魔物が来たときが危険だけど、それっぽい魔力反応も気配もない。

 間もなくして、僕たちが感知した通り、四匹のフォレストウルフがこちらに突進してきた。
 先ほど、六匹のフォレストウルフをなんなく退治した防衛軍は、今回も苦戦することなく対処している。

 僕らは、ウォルターさんの護衛のもと、のんびり待機しているだけである。
 いいなぁ、楽チンで。

「お兄ちゃん、お腹空いてきた……」

 ルーナも緊張が解けたのか、いつもの怠け者モードになり、食事の要求をしてくる。マイペースすぎるって。

「せめて、この戦闘が終わるまで待ってね」

 僕としては何か食べさせてもいいんだけど、さすがに戦闘をしている最中にのほほんと食事をするのは失礼すぎる。
 僕がされたら間違いなく腹が立つ。

「お二人とも、もう少し緊張感を持ってくれませんか?」

 会話が聞こえていたのだろう。ウォルターさんが呆れたように言った。僕は、戦闘の様子を確認して答える。

「でも、危険がなさそうですし……」
「わたしたちの出番なさそうだもん」

 ふわぁとあくびしながらルーナが答える。普段のルーナなら、間違いなく十秒後には眠っている。それくらいに緊張感が薄れていた。
 まぁ、魔物の襲撃があったらまた覚醒するだろうし、そのままでいっか。

 数分後、ルーナの予想通り僕たちの出番はなく、討伐は終了した。

「お兄ちゃ~ん、おやつ~。ウァノス~」
「はいはい。今渡すから」

 僕は、カバンのなかからウァノスを二つ取り出して、ルーナに渡す。ルーナは、パアッと顔を輝かせて、それを食べた。
 僕も、一つだけ取り出して、それをぱくんと食べる。

「お兄ちゃん、おかわりちょーだい?」
「ダーメ」

 にこりと可愛らしくお願いしてきたルーナに、僕も笑顔で断る。
 むっとルーナは不機嫌になるけど、カバンを持っているのは僕なので、僕が渡さないかぎり食べられない。

「おねがーい!お腹空いたの~!」
「だって、ルーナはたくさん食べたらすぐ寝ちゃうじゃん」
「……………………そんなことないよ?」

 だいぶ間がありましたけど?

 僕がじとっと見ると、ルーナはボソボソと言い訳を始める。

「だ、だって、ご飯食べたら眠くなっちゃうし、ゴロゴロしたいし……」
「うん、それで?」
「だ、だから、眠っちゃうのは不可抗力というか……」
「うん、だからウァノスを食べないでって言ってるんだよ?」

 僕がにこりとしてそう言うと、ルーナはついに黙り込んだ。
 どうして自分の欲望のことになるととたんに話術が衰えるのだろうか。交渉術はかなりあるのに。

「まあまあ、もう昼時だから、そんなに腹が減ったならこの辺でメシにしてやるよ」
「やった~!レイクスさんわかってる~!」

 先ほどまで落ち込んでいたのが嘘のように跳び跳ねている。

 ほんと、調子いいんだから。
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