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第一章 辺境の街 カルファ

26. コーゼル大森林 3

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 魔物の襲撃が一段落し、ルーナが空腹を訴え続けるので、食事をすることとなった……のはいいんだけど。

「……なぜ僕を見てるんです?」

 レイクスさんとウォルターさんが、なぜか期待の眼差しで僕を見ていた。

「いや~、お前ならちゃちゃっとうまいもの作ってくれるんじゃないかな~って……」
「私たちは、あまり料理が得意ではないので……」
「なら、普段はどうしてるんですか?」

 軍隊にはあまり詳しくないけど、遠征任務とかでは、食事を自分で用意したりすることもあるのではないだろうか。
 まさか、食事抜きで今までやってきたわけではあるまい。

「普段は、適当に焼いたり、携帯食で……」

 そう言って、ウォルターさんは干し肉を取り出した。
 僕は、それを手にとって、いろいろと調べてみる。厚さはそんなになくて、手のひらサイズ。固さは、木片くらいはあるんじゃないだろうか。

 ……これで今まで乗りきってきたの?ルーナは別にいいと言ってバリバリ食べ出しそうだけど、僕が耐えられない!
 一、二回ならまだしも、ずっとは無理だ!

「……わかりました。何か作りますよ」

 僕は深くため息をつくけど、レイクスさんたちは反対に喜んでいる。
 いいの?見た目が子どもの僕が作るものでさ。
 幸い、ウァノス以外にもいろんな料理のレシピを精霊メイドたちから教えてもらっているから、大丈夫だとは思うけど。
 ルーナにはウァノスで充分だったけど、僕がウァノスを作り続けるのは飽きてきてしまって、他にもいろいろなレシピを教えてもらっては合間に作っていた。

「食材くらいはありますよね?」
「ええ。マジックバックに入る量ならありますよ」

 ウォルターさんは指示を飛ばして、マジックバッグを持ってこさせる。
 僕が中を覗くと、それなりの容量のマジックバッグに、いろいろな野菜が入っていた。肉類はなさそうだけど、日持ちする根菜類は多く入っている。

 入っていたのは、ポル、ニージュ、ロジェ。地球の食材で例えるなら、じゃがいも、ニンジン、玉ねぎである。

 別のバッグには、瓶詰めにされた調味料もあった。ペロリと一なめして確かめると、塩と胡椒がほとんどで、少し砂糖も混じっている感じだ。ちゃんと油もある。
 貴族がいるから、高級品の香辛料もあるみたい。

 これなら、なんとかなりそう。
 個人的にはお肉もほしかったけど、それは次の機会にしておこう。

「じゃあ、とりあえず作りますね」

 僕は、ポルを手にとって、ナイフでするすると皮を剥いていく。
 同じく、ニージュとロジェも下処理を終える。量が量なので、時間はかかったけど、これくらいは想定内。

「やっぱり器用だな、お前」
「ありがとうございます。ですが、調理中に話しかけないでください。気が散りますので」

 調理中は危険が多いのだ。ナイフで指を切るかもしれないし、やけどするかもしれない。怪我することはなくても、ちょっとした不注意で味つけが濃くなってしまったりすることもある。
 それを防ぐためにも、仲良くわいわいする気はない。

 僕が冷たく言いはなったのが効いたのか、それ以降は口を出されることはなかった。

 このまま、下処理を終えた野菜たちを細かく切り分けていく。
 ポルは、スプーンなどを使って擂り潰し、ニージュとロジェはみじん切りにしておく。人数分だから大変だけど、みじん切りだからまだましだ。

「お兄ちゃん、何作ってるの~?」
「ポルシェットだよ。ちゃんとした材料がないから、もどきだけど」

 僕が答えると、ルーナは嬉しそうに顔を明るくする。だけど、防衛軍の人たちはわけがわからないといった顔をする。
 これは精霊界での料理だから、知らないのは当然だ。

「ルーナさん、ぽるしぇっととはなんですか?」

 ウォルターさんがルーナに尋ねている。ルーナに聞いても、ちゃんとした答えが返ってくるかわからないけど。

「ポルをいろーんな野菜とか薬草と混ぜて焼くの!」

 やっぱり、大雑把な説明になった。その説明で理解できるのは料理人くらいじゃないかな。

 ポルシェットというのは、いわゆる、揚げないコロッケというやつである。
 ポルを擂り潰してマッシュ状にし、そこに細かく切り刻んだ野菜等を練り込む。そして、長円形に成形し、油で焼き上げるのだ。

 本来なら、油はリオル油を使うし、数種類の薬草を混ぜるんだけど、さすがに事情を知らない隊員たちの前でいろいろと食材を取り出すわけにはいかないので、用意してあった食材だけで作ることにした。
 いつも食べているポルシェットとは味が違うかもしれないけど、こればかりは我慢してもらうしかない。

 そして、さすがにこれだけの大人数だと、いちいち小さく丸めるのはめんどくさいので、今回はガレットのように大きめに焼くことにした。

「ふぅ……」

 ちょっと潰れたところで、僕は深く息を吐いた。子どもの体じゃ、ポルを潰すのは大変だ。何時間かかるかわからないな。

「あの~」

 僕は、後ろで見ていた隊員たちに声をかける。

「このポルを、潰してくれませんか?」
「……潰す?どういう意味だ?」
「こう……ぐっと」

 僕がスプーンで潰す素振りを見せると、すぐに理解してくれた。

「確かに、ガキのお前にはできねぇな」

 ニカッと笑いながらレイクスさんが言う。そこまで理解しなくてよろしい。

 でも、さすがは軍隊所属なだけあって、力はあるらしく、あっという間にポルがマッシュ状になっていく。
 第二部隊と第三部隊の両方の分を用意しているから、相当な量のはずなのに、十分くらいで終了してしまった。早すぎる。

「あ、ありがとうございます」

 とりあえず、マッシュはできたので、作業を再開するとしよう。
 マッシュ状になったポルに、刻んだニージュとロジェ、さらに塩と胡椒を適量加えて混ぜ合わせる。

 そして、それを油をひいたフライパン全体に広げた。さすがに一度に全部は入らないので、タネはあり余ってるけど。

 ジューといういい音が静かな森に響く。これが料理の醍醐味だよなぁ。

 焼き目がつくくらいで充分なので、十分くらい焼いたら、ひっくり返すんだけど……子どもの体ではフライ返しもなしに一度でひっくり返すなど不可能なので、1/6くらいに切り分けて、ナイフやフォークなどを駆使して少しずつひっくり返した。
 どうせ後で切り分けるだろうからノープロブレムだ。
 どうにかすべてをひっくり返して、今度は五分くらい。

 反対側にも焼き色がついたら、お皿に盛りつけて完成である。

「ルーナ、味見して」
「はーい!」

 待ってましたとばかりに元気な返事をして、ルーナは一口サイズに切り分けてぱくんと食べる。

「うん、おいしーよ」
「そっか、よかった」

 ウァノスのときと違って、今回はだいぶ変えちゃったからどうかと思ったけど、ルーナの舌にはあったようだ。
 問題は、隊員たちだけど……

「みなさんもどうぞ」

 僕がお皿を差し出すと、レイクスさんが真っ先に食べた。

「おお、うまいな!酒に合いそうだ」

 レイクスさんは、一人でパクパクと食べてしまう。
 隊員たちは羨ましそうに見るだけだ。分隊とはいえ、さすがに隊長ともなると、自分にもくれって言いづらいんだろうな、と思っていると……

「レイクス!一人で食べ尽くすつもりですか!」

 ウォルターさんは遠慮なく止めに入った。さすがです、ウォルターさん。
 ウォルターさんは副隊長だし、爵位が子爵家と男爵家のレイクスさんよりも上だから他の一般隊員に比べたら止めやすいのかな?

「まだ焼きますから、慌てなくてもいいですよ。レイクスさんからは遠慮なくぶんどればいいと思いますけど」
「ええ、私が許可しますので、みんな遠慮なくレイクスから取りなさい」

 ウォルターさんがそう言うと、周りはおおっと歓声をあげる。
 レイクスさんは「待て待て!」と慌てていたけど、多勢に無勢。独り占めすることは敵わないだろう。

 レイクスさんに注目が集まっているうちに、僕も焼いた一欠片をパクリと食べた。う~ん、おいしい!
 このまま全部食べちゃおうかなぁ……

「ルートさん、せめて一口は食べさせてくださいよ?」

 ウォルターさんが疑いの眼差しを向けてくる。
えっ、声に出てた?

「わ、わかってますよ!レイクスさんじゃないんですから!」

 遠くから「なんで俺をたとえに出すんだ!」と抗議の声が聞こえた気がしたけど、気づかなかったことにして、残りのものを焼き始めた。
 そうして、大好評だったポルシェットは、かなりの量があったのにも、あっという間に平らげられてしまった。
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