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第一章 辺境の街 カルファ

28. コーゼル大森林 4

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 昼食を食べ終えて、調査を再開した。
 道中で、ウォルターさんからポルシェットの詳しい作り方を聞かれたのでそれを話しながら歩いていると、再び魔物の気配を感じた。

「ウォルターさん北西から……四匹来ています」
「またフォレストウルフですか?」
「う~ん……なんか違う感じですね……」

 魔力で判断しているから、はっきりとは言えないけど、フォレストウルフとは少し違う。なにか……別のもの。

「フォレストウルフよりどんよりしてる。多分、フォレストウルフより強いと思うよ」

 ルーナが横から口を挟んできた。僕は、うん?と疑問に思って、あることを尋ねる。

「強さとか……わかるの?」
「えっ、お兄ちゃんわからないの?」

 ルーナは、逆に不思議そうに聞き返してきた。その様子を見て、僕はなんとなく察した。

 ああ、天才のルーナからすれば魔力からどれくらいの強さかわかるのが当然なんだな、と。

「それができるのはルーナくらいだよ」
「そうなのかなぁ……」

 ルーナはどこか納得していないようだ。無自覚の天才はこれだからなぁ。
 でも、どんよりってなんなんだろう?強さの指標なのかな?

 そんなことを考えているうちに、魔物の姿が見えた。
 でも、それは明らかに異様だった。

 魔物は、動物に似ていることもあれば、人型のようであったり、なんとも言えない異形であったりと様々だ。
 でも、視界に映っているあの魔物は、見た目は普通のウルフのようだけど、雰囲気が明らかに違う。

 ウルフの周りに、赤黒いもやのようなものが見える。
 僕の、精霊としての本能が告げていた。

 あれは、ヤバイと。

「どう見ても普通のフォレストウルフにしか見えんがなぁ……」

 レイクスさんは首を傾げている。どうやら、あの明らかにヤバそうなもやは見えていないらしい。
 僕にしか見えない?と思っていると誰かがくいくいと袖を引っ張る。振り向くと、ルーナが鋭い目つきで引っ張っていた。

「ねぇ、あれどう見ても普通じゃないよね?」
「うん。僕もそう思う」

 どうやら、ルーナはあのウルフの異常性に気づいたらしい。ということは、あのもやは精霊にしか見えないんだろうか?

「あの人たち、倒せると思う?」
「難しいんじゃない?ほら……」

 僕は、ウルフと対峙しているレイクスさんを指し示す。
 レイクスさんは、首を狙って剣を振り下ろしているけど、ウルフはものともせずに弾き返している。
 皮すらも切れていない。よほど頑丈なようだ。ただのウルフとしか思っていないレイクスさんたちは困惑している様子だ。

「こっちに向かってきてる?」
「そうみたいだね」

 ウルフは魔力をエサにするので、魔力の塊の僕たちはごちそうだろう。
 あまり実力をひけらかすつもりはなかったけど、防衛軍が倒せないなら仕方ない。

「ルーナ、やるよ」
「りょーかい」

 僕たちは、ウルフのほうに駆け出した。ウォルターさんの危ないですよという制止の声が聞こえたけど、僕たちは止まらない。
 防衛軍の陣形すり抜けるようにウルフと対峙する。

「お前ら、なんでこっちに来てんだ!」
「巻き込まないようにするためです」

 僕は、素早く魔法を構築する。

「スプラッシュ」

 僕は水球を生み出して、触手のように伸ばした。狙いは、ウルフの眉間。四匹同時に仕留めるつもりだったけど、二匹は避けられてしまった。
 でも、その避けた方向には、ルーナがいる。

「エアスマッシュ!」

 ルーナは強風を巻き起こし、ウルフたちを消し飛ばした……けど、ルーナの魔法がこの程度ですむわけもなく。
 吹き荒れた風は、次々と草木をなぎ倒していく。

「ルーナ、ストップ!風が強いよ!」
「ほえっ?」

 ルーナはぽかんとしながら自分の魔法が引き起こした惨状を見つめた。
 そして、慌てた様子で魔法を中断するけど、間に合うはずもなく、一直線に木々がなぎ倒されて、道が広がっていた。

「き、気合い入りすぎたかなぁ……」

 ルーナはあははと笑いながらごまかしているけど、周りの人たちは呆れを通り越して恐怖を覚えているような表情だ。
 まぁ、一歩間違えば自分たちもあのバキバキな大木のようになっていたのだから、無理もないだろう。

「で、でも、ウルフの死体は残ってるよね!」
「僕の分だけね」

 大木がこのような状態なのだ。ウルフの死体が無事なわけがない。
 僕は眉間を撃ち抜いただけなので、眉間に銃痕のような傷が残っているだけだけど、ルーナが風魔法で討伐したウルフは毛の一本も見当たらなかった。

「いやぁ~、お前の話って、誇張でもなんでもなかったんだな」
「ちょっと過小評価だったかもしれませんね」

 レイクスさんの言葉に、僕は深くため息をついて返した。
 多分、レイクスさんたちは思ってもないだろうこれは、まだ全力の半分も出してないってことを。

「とりあえず、ルーナは魔法禁止にしようか。下手したら調査隊に被害が出る」
「はぁーい……」

 ルーナはつまらなさそうに返事をする。そんなに戦いたいのかな。

(……うん?)

 僕は、チラッと後ろを見る。何か、妙な視線を感じた。
 こんな騒動を起こしたのだから、僕たちに視線は集まっているけど、ほとんどが恐怖や驚きといったものだ。でも、そのなかに混じって、おかしな視線が混じっている。
 これは、森に入る前に感じたものと同じように感じた。

「……お兄ちゃん」

 ルーナは、いつになく真剣な顔をする。言葉は普段のお気楽なルーナのままだけど、雰囲気はスイッチが入ったときのものだ。

「行くよ、ルーナ」
「……うん」

 これ以上、何も問題が起きなければいいんだけど。
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