元天才子役は悪役王女に転生する 名誉回復したら、なぜかいろんな人から溺愛されるんですけど!?

りーさん

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第一章 悪役王女になりまして

10. いくら嫌っていても

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「王女殿下!王女殿下!」

 マティアスはそうその場に倒れてしまったエルルーアに必死に呼びかける。だが、彼女が応答することはなかった。
 浅い呼吸を繰り返しているだけだ。

(どうすれば……)

 エルルーアは、朝にマティアスと会ったときは、何ともなさそうだった。再会したのと同じように、冷たくあしらわれただけだ。
 だが、授業後に会ったときは、少し顔色が悪くなっていた。
 彼女は普通に歩いていたし、疲れただけだと言っていたので、大したことはないと思っていた。

(フランキスカ王女殿下は……おそらく無理だな)

 エルルーアの姉……フランキスカは、エルルーアをそこまで好意的には思っていなかったが、嫌悪を示してもいなかった。
 頼るなら彼女が一番いいかもしれないが、男子が女子寮に入るのは禁止されている。いくら倒れているとはいえ、自分を中にはいれてくれないだろう。
 それに、女子寮は離れている。

(アルフォンス殿下に頼むしかないか)

 アルフォンスがエルルーアを毛嫌いしているのは、貴族の間では結構有名な話だ。いくら嫌っていても、倒れていたら寝床くらいは貸してくれるかもしれない。ここからだと、男子寮の方が近いのも理由だ。
 マティアスは、エルルーアをそっと抱えて、少し駆け足になるくらいで、男子寮に向かった。

*ー*ー*ー

 アルフォンスが、部屋で書類と睨みあっている。
 そのときにふと浮かんだのは、エルルーアだった。

(何があったんだ?)

 倒れたときもおかしかったが、倒れた後の方がもっとおかしくなっているように感じた。
 エルルーアが倒れた原因は、階段から落ちたことだったが、それもおかしな点だ。階段の幅が狭いわけでも、急なわけでもないのに、いくらなんでも、バランスを崩して落ちるというのがあり得るのだろうか。

(誰かに突き落とされたか?でも、使用人は誰もいなかったと証言している……)

 エルルーアは、そのときは使用人を連れていた。そのお陰で、発見が早かった。傷跡が残ることもなかった。

「まぁ、気にすることもないか」

 そんなことよりも、気になるのはその後エルルーアが毒気が抜かれたようにしおらしくなったことだ。
 それなのに、学園では、以前とそんなに変わりないという報告があった。変わったといえば、婚約者に対して冷たくなったことと、魔法のコントロール力があがったことだった。

(私たちの前でだけ、おとなしくしていればいいと思っているのか?)

 そう考えると、アルフォンスは腹が立ってくる。付き合うのは疲れたとか、そういう風に言われていたから、少し自分の行いを振り返ったりもしていたのに、エルルーアはただの演技だった。
 なぜそんなことをしたのか詳しくはわからないが、ある程度は検討がついた。

(どうせ、王族から抜けるのを恐れたんだろう。そういう話もあったしな)

 エルルーアの行いに、王族から外して、臣籍降下させるべきという声が多くあった。その声がエルルーアの耳に入ったんだとしたら。
 エルルーアが、城ではしおらしくしていたが、学園では大して変わらないのも説明がついた。臣下のいるお城でだけおとなしくしていればいいと単純に考えているのだろうと。

(まぁ、うっとうしくなくなったからかまわないが)

 改めて書類と向き直ろうとしたところで、ドアをノックする音が聞こえる。それは、少し慌てているようにも感じた。

「アラン。出てこい」

 すぐ側にいた従者に指示をする。主の命を受けたアランは、ドアを開ける。アルフォンスが視線だけを向けると、そこにはマティアスに抱えられたエルルーアがいた。

「アルフォンス殿下!エルルーアが……」

 最初は何事だとも思ったが、すぐにエルルーアの異常に気がついた。
 荒く、短い呼吸を繰り返している。顔は青いを通り越して、白っぽくなっている。
 いくら嫌っているからと言っても、そんな状態になっていたら、アルフォンスも心配になった。

「何があった?」
「わかりません……私と話しているときに、急に血を吐きまして……」
「それなら、私のベッドに寝かせておけ。医者は手配する」

 アルフォンスは、アランに目配せすると、アランは軽く会釈して、部屋を出ていった。
 なるべく平静を保っているが、内心は少し焦っていた。今までエルルーアが危険な目にあうことはたびたびあったが、ここまでのことは初めてだったからだ。
 自分は回復魔法が使えるので、それで治してはいたが、傷ついた内臓を元に戻すくらいで、エルルーアが苦しんでいる根源は取り除けない。

(フランと父上には伝えておかなければ)

 アルフォンスは、引き出しから手紙を取り出して、エルルーアが危険な状態にあることを伝えた。そして、その手紙に魔力を通す。すると、手紙は鳩の姿に変わっていった。
 鳩は、お城と、女子寮の方に飛んでいく。

「レン」

 アルフォンスは、部屋にいる使用人の一人に声をかける。

「エルルーアの今日の行動を調べあげろ」
「かしこまりました」

 アランと同じく、レンも部屋を出ていった。

(お前は嫌いだ。でも……)

 アルフォンスは、エルルーアの髪をそっとすくった。
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