14 / 50
Last X
いつものキス、秘密のキス
しおりを挟む
「師匠《せんせい》ってば、またこんなところで寝て…」
ソファを見た青年は、少し掠れた低い声で呆れたように溢した。
薬の勉強に必要な資料を一階に取りに行った間に、すっかり意識を手放した真夜が、空になったグラスを握りしめ、幸せそうな顔でソファーに沈み込んでいた。
青年…コハクが頬をつついても、一向に起きる気配はない。さっきまで、コハクの質問にも答えてくれたのに、いつの間に…いや、最後の質問はなかなか怪しかったか。
「高かったのに…もったいない。」
ソファ横の小さなテーブルの上には、少し前に開けたはずの2本目のワインがすでにすっからかんだった。
余った分を勉強終わりに飲もうと思っていたコハクは、見通しの甘さを反省しつつ、真夜の足の裏と背中にそっと手を入れて抱え上げる。
すると、彼女は目を閉じたまま少し微笑んでから、するりと手をコハクの首に回してよこす。
心臓に悪い仕草に、意識が首筋に集中してしまうが、コハクは深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着けた。
「誰かと間違えて…じゃないですよね。」
無防備に体を預ける彼女に返ってこない質問を投げかけながら、慎重に階段を上がる。
「『私ね、最近酔っても絶対ベッドで寝るようになったわ!』って本当よく言いますよ」
彼女は何も変わっていない、コハクが彼女を抱えられる力がついただけだ。言っても信じないので、今は主張するのを諦め、文句は寝ている間に全部言ってしまうことで溜飲を下げていた。
ベッドにそっと横たわらせると、コハクが離れたからか、真夜は少し寒そうに肩を寄せたあと、手が空中を彷徨い、コハクのシャツを掴む。
そして、コハクを引き寄せて額にキスをする。
どんなに酔っ払っても、これだけは一度も欠かされたことがなかった。
満足そうに微笑んだ彼女は、再びベッドに横たわり、静かな寝息を立て始めた。
「…風邪ひきますよ」
コハクは、端に寄せられていた毛布を真夜にかけてから、ベッドサイドに腰掛けたまま、口の端にかかっていた髪の毛をそっと避け、そのまま手を頬に添えた。
真夜の唇は、コハクが飲めなかったワインが残ってるのか、紫にくすんでいた。
誘われるように顔を寄せて、プラムのような唇から、ワインの香りをかすかに感じたところで、コハクは動きを止めた。
そして、音を立てないようにそっと額にキスをした。
コハクはそのまま、ゆっくりとベットから離れて、寝室を後にした。
階段を降りたコハクは、明日洗おうと、ワイングラスに水を張り、ソファ前の小さなテーブルを簡単に拭いてから、ダイニングの椅子に座り直した。
そして、頭を抱えた。
「あぁ…やばかった」
背が高くなるにつれ、声が低くなるに従って、コハクはだんだん額のキスだけじゃ物足りなくなってしまった。近頃は、真夜が潰れて介抱するたびに悪魔のような欲望が頭を掠めて、振り払って寝室を後にするのはとてつもなく気力を消耗する。
まだ、そわそわとする鼓動にしばらく寝られなさそうだと思ったコハクは、落ち着けというようにテーブルの上の消えない線をなぞる。そして、首筋に感じた腕の柔らかさを振り払うように頭をぶんぶんと振り回してから、閉じていた本を再度開く。
「もうちょっと勉強してから寝るか」
薬の勉強も、真夜の面倒を見ることにもずいぶん慣れた。
コハクが調剤もできるようになれば、ぐうたらな真夜はどんどん働かなくなって、何もしなくなって、僕がいないと何にも出来なくなるのでは…そうなればいい。
そんなふうに思うこともたまにある。
そうすれば、一生そばにいれるのだろう。
「あれから十五年くらいか…」
真夜を好きなことも、魔法使いになりたいことも、真夜からの扱いも、なにも昔と変わっていない。
なのに、自分だけが、子供の頃とどんどん変わっていることがコハクは少し嫌だった。
真夜が気に入っていた綺麗な自分では無くなってしまったことに、彼女が気づくのは少しでも遅くありますように。そう願いながら、眠気が来るまでペンを走らせた。
ソファを見た青年は、少し掠れた低い声で呆れたように溢した。
薬の勉強に必要な資料を一階に取りに行った間に、すっかり意識を手放した真夜が、空になったグラスを握りしめ、幸せそうな顔でソファーに沈み込んでいた。
青年…コハクが頬をつついても、一向に起きる気配はない。さっきまで、コハクの質問にも答えてくれたのに、いつの間に…いや、最後の質問はなかなか怪しかったか。
「高かったのに…もったいない。」
ソファ横の小さなテーブルの上には、少し前に開けたはずの2本目のワインがすでにすっからかんだった。
余った分を勉強終わりに飲もうと思っていたコハクは、見通しの甘さを反省しつつ、真夜の足の裏と背中にそっと手を入れて抱え上げる。
すると、彼女は目を閉じたまま少し微笑んでから、するりと手をコハクの首に回してよこす。
心臓に悪い仕草に、意識が首筋に集中してしまうが、コハクは深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着けた。
「誰かと間違えて…じゃないですよね。」
無防備に体を預ける彼女に返ってこない質問を投げかけながら、慎重に階段を上がる。
「『私ね、最近酔っても絶対ベッドで寝るようになったわ!』って本当よく言いますよ」
彼女は何も変わっていない、コハクが彼女を抱えられる力がついただけだ。言っても信じないので、今は主張するのを諦め、文句は寝ている間に全部言ってしまうことで溜飲を下げていた。
ベッドにそっと横たわらせると、コハクが離れたからか、真夜は少し寒そうに肩を寄せたあと、手が空中を彷徨い、コハクのシャツを掴む。
そして、コハクを引き寄せて額にキスをする。
どんなに酔っ払っても、これだけは一度も欠かされたことがなかった。
満足そうに微笑んだ彼女は、再びベッドに横たわり、静かな寝息を立て始めた。
「…風邪ひきますよ」
コハクは、端に寄せられていた毛布を真夜にかけてから、ベッドサイドに腰掛けたまま、口の端にかかっていた髪の毛をそっと避け、そのまま手を頬に添えた。
真夜の唇は、コハクが飲めなかったワインが残ってるのか、紫にくすんでいた。
誘われるように顔を寄せて、プラムのような唇から、ワインの香りをかすかに感じたところで、コハクは動きを止めた。
そして、音を立てないようにそっと額にキスをした。
コハクはそのまま、ゆっくりとベットから離れて、寝室を後にした。
階段を降りたコハクは、明日洗おうと、ワイングラスに水を張り、ソファ前の小さなテーブルを簡単に拭いてから、ダイニングの椅子に座り直した。
そして、頭を抱えた。
「あぁ…やばかった」
背が高くなるにつれ、声が低くなるに従って、コハクはだんだん額のキスだけじゃ物足りなくなってしまった。近頃は、真夜が潰れて介抱するたびに悪魔のような欲望が頭を掠めて、振り払って寝室を後にするのはとてつもなく気力を消耗する。
まだ、そわそわとする鼓動にしばらく寝られなさそうだと思ったコハクは、落ち着けというようにテーブルの上の消えない線をなぞる。そして、首筋に感じた腕の柔らかさを振り払うように頭をぶんぶんと振り回してから、閉じていた本を再度開く。
「もうちょっと勉強してから寝るか」
薬の勉強も、真夜の面倒を見ることにもずいぶん慣れた。
コハクが調剤もできるようになれば、ぐうたらな真夜はどんどん働かなくなって、何もしなくなって、僕がいないと何にも出来なくなるのでは…そうなればいい。
そんなふうに思うこともたまにある。
そうすれば、一生そばにいれるのだろう。
「あれから十五年くらいか…」
真夜を好きなことも、魔法使いになりたいことも、真夜からの扱いも、なにも昔と変わっていない。
なのに、自分だけが、子供の頃とどんどん変わっていることがコハクは少し嫌だった。
真夜が気に入っていた綺麗な自分では無くなってしまったことに、彼女が気づくのは少しでも遅くありますように。そう願いながら、眠気が来るまでペンを走らせた。
0
あなたにおすすめの小説
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。
夫と婚姻してから三年という長い時間。
その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる