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Ring the bell
浅い眠りと彼女の夢
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ちりりん。
音に気づいて足元を見ると、小さな鈴が転がっていた。どうやら、鈴を蹴ってしまったようだ。
店の棚の掃除中、あまりにもフラフラと歩いていたから気づかなかった。
「なんでこんなところに」
つまみ上げて、店番をしている机の上に乗せる。
そして、そのまま集中力が切れた感覚に従って、掃除は諦めて机の前の椅子に座り込んだ。
真夜が居なくなってから、一ヶ月、まともに寝れていない。
少し眠れば見るのは、真夜が処刑されるか拷問を受ける夢だ。どんなに助けようと走っても近づけず、目の前で真夜が苦しむのを、ただ見てるだけ。
もはや夜に目を瞑るのでさえ、怖くなってしまった。
「夜が長いなぁ」
鈴の音をこれじゃないと思いながら転がしつつ、頬杖をついて微睡んでいると、ドアを開ける音が鳴った。
「いら…あんたか」
ドアを開けるシャルムに冷たく返す。
「まよも君も、もうちょっとお客さんに優しくしてくれても良いんじゃないかなぁ」
「はい、お客様いつものですね。百万円でございます。」
座ったまま、相変わらずの憎まれ口を叩くと、シャルムにまったくもうと笑いながら、頭を軽く叩かれた。
「今日は他にも欲しいんだ。全財産で足りるかな。」
ポケットをひっくり返しながらオーダーされたハーブを壁の引き出しから取り出すと、状態を確かめたシャルムによく手入れしてるねと褒られた。シャルムはそのハーブを持ったまま、コハクに「ちょっとだけ奥の作業台借りてもいい?」と尋ねた。
「良いけど…」
「じゃあ、そこで店番しながら待っていて」
椅子に腰掛けながら、後ろにシャルムの物音を感じながら店番を続ける。
真夜の調剤とは違うリズムの音に、違和感はあるものの、かちゃかちゃと背後で音がなっている久々の感覚に、ひどく心が落ち着いた気がした。
次第に瞼が重くなるのを感じながら微睡んでいると、トサっとした音に意識を引き戻される。
危ない、また夢を見てしまうところだった。
「なにこれ?」
目を開けたコハクは、目の前の小さな麻袋を摘んで、シャルムに尋ねる。
「怖い夢を見ないおまじないだよ」
優しいシャルムの声に、コハクはどきりとした。
不思議そうな顔をしているコハクに、シャルムは近くの椅子を引っ張って座り目線を合わせた。
「君、最近ずっとまよのベッドで寝てるけどさ」
「何で知ってんすか」
胡乱げな目のコハクに、シャルムはそこが気になる?と困った顔で話を続ける。
「まよが恋しくて昼寝しにきたら、枕に男の髪の毛落ちてたもん。びっくりしたよ。」
「不法侵入と異端、どっちで通報されたい?」
「怖いなぁ」
真夜が出ていってから、夜中、どうしても寂しくて不安な時は、真夜の部屋で寝ることがあった。しかし、シャルムも使っていたことは全く知らなかった。
「シャルムさんが寝た布団で寝てたとかやだ…死にたい…」
「寝てねえよ。俺も流石に野郎が寝た布団はやだよ、ナニしてんのかわかんないしさ」
「…俺、マジでお前嫌い」
睨むコハクにシャルムはまあまあ落ち着けと肩を叩く。
「でも最近は、それでも寝れてないみたいだからさ」
「だからなんで分かるんですか…」
「そのクマを見てもわかんない奴はいないよ。美男子が台無し…原因はまよだよね?」
問いかけだが断定の色を含むシャルムの言葉に、コハクは小さく頷いた。
「魔女を心配するなんて、変わった人間もいるもんだねぇ」
「だって異端狩りの中にも色んなやつがいるんでしょう」
魔女だからと言って簡単に出し抜けられるような小物だけが相手なら、魔法使いたちは身を隠しながら生きることもなかったのだ。
教会はいろんな手を使って、自分達の教義や利権の邪魔になる彼らを追い詰めているから脅威なのだ。
シャルムは無言の肯定のあと、麻袋を指差した。
「それは夢を見なくしてくれるけど、眠らせる薬は今の君には危ないから…この呪いでも無理で、どうしようもないなら街外れの教会においで」
「懺悔でもしたら寝れるの?」
彼らの脅威のもとに行けという、アドバイスにコハクは目を丸くする。シャルムは乾いた笑い声で、僕の魔法で無理なら、神に謝っても祈っても無駄だと思うよ。と異端らしいことを言ってのけた後、椅子から立ち上がりながらコハクに微笑んだ。
「全然おすすめじゃないけど、こんなふうに眠れない人が、寝られた方法を教えてあげる。」
「え、あんたも教会にくるの?」
「教会って情報が集まるから便利よ」
その夜、コハクはシャルムがくれたハーブで作ったお茶を飲んでから、ベッドに横になった。
いつもより不安感は少し和らいだ気がするが、それでも、コハクは目を閉じると襲ってくる不吉な想像に耐え切れず、すぐに目を開けてしまった。
このまま帰ってこなかったらどうしよう。
帰ってくるのが、何十年後かもしれない。
いないところでひどい目に遭っていないだろうか。
…コハクのいないところで、コハクのことなんか忘れてしまっていないだろうか。
そんな不安がぐるぐると渦巻いて、ハーブで和らいだ不安感が押し戻ってきた感覚に、コハクは諦めてベッドから抜け出した。そして、痛む頭に顔をしかめながら教会に行った。
「やっぱりダメだったか」
人気のなくなった教会で、司祭の服装をして掃除をしていたシャルムは、全てを察したような顔で迎え入れてくれた。
音に気づいて足元を見ると、小さな鈴が転がっていた。どうやら、鈴を蹴ってしまったようだ。
店の棚の掃除中、あまりにもフラフラと歩いていたから気づかなかった。
「なんでこんなところに」
つまみ上げて、店番をしている机の上に乗せる。
そして、そのまま集中力が切れた感覚に従って、掃除は諦めて机の前の椅子に座り込んだ。
真夜が居なくなってから、一ヶ月、まともに寝れていない。
少し眠れば見るのは、真夜が処刑されるか拷問を受ける夢だ。どんなに助けようと走っても近づけず、目の前で真夜が苦しむのを、ただ見てるだけ。
もはや夜に目を瞑るのでさえ、怖くなってしまった。
「夜が長いなぁ」
鈴の音をこれじゃないと思いながら転がしつつ、頬杖をついて微睡んでいると、ドアを開ける音が鳴った。
「いら…あんたか」
ドアを開けるシャルムに冷たく返す。
「まよも君も、もうちょっとお客さんに優しくしてくれても良いんじゃないかなぁ」
「はい、お客様いつものですね。百万円でございます。」
座ったまま、相変わらずの憎まれ口を叩くと、シャルムにまったくもうと笑いながら、頭を軽く叩かれた。
「今日は他にも欲しいんだ。全財産で足りるかな。」
ポケットをひっくり返しながらオーダーされたハーブを壁の引き出しから取り出すと、状態を確かめたシャルムによく手入れしてるねと褒られた。シャルムはそのハーブを持ったまま、コハクに「ちょっとだけ奥の作業台借りてもいい?」と尋ねた。
「良いけど…」
「じゃあ、そこで店番しながら待っていて」
椅子に腰掛けながら、後ろにシャルムの物音を感じながら店番を続ける。
真夜の調剤とは違うリズムの音に、違和感はあるものの、かちゃかちゃと背後で音がなっている久々の感覚に、ひどく心が落ち着いた気がした。
次第に瞼が重くなるのを感じながら微睡んでいると、トサっとした音に意識を引き戻される。
危ない、また夢を見てしまうところだった。
「なにこれ?」
目を開けたコハクは、目の前の小さな麻袋を摘んで、シャルムに尋ねる。
「怖い夢を見ないおまじないだよ」
優しいシャルムの声に、コハクはどきりとした。
不思議そうな顔をしているコハクに、シャルムは近くの椅子を引っ張って座り目線を合わせた。
「君、最近ずっとまよのベッドで寝てるけどさ」
「何で知ってんすか」
胡乱げな目のコハクに、シャルムはそこが気になる?と困った顔で話を続ける。
「まよが恋しくて昼寝しにきたら、枕に男の髪の毛落ちてたもん。びっくりしたよ。」
「不法侵入と異端、どっちで通報されたい?」
「怖いなぁ」
真夜が出ていってから、夜中、どうしても寂しくて不安な時は、真夜の部屋で寝ることがあった。しかし、シャルムも使っていたことは全く知らなかった。
「シャルムさんが寝た布団で寝てたとかやだ…死にたい…」
「寝てねえよ。俺も流石に野郎が寝た布団はやだよ、ナニしてんのかわかんないしさ」
「…俺、マジでお前嫌い」
睨むコハクにシャルムはまあまあ落ち着けと肩を叩く。
「でも最近は、それでも寝れてないみたいだからさ」
「だからなんで分かるんですか…」
「そのクマを見てもわかんない奴はいないよ。美男子が台無し…原因はまよだよね?」
問いかけだが断定の色を含むシャルムの言葉に、コハクは小さく頷いた。
「魔女を心配するなんて、変わった人間もいるもんだねぇ」
「だって異端狩りの中にも色んなやつがいるんでしょう」
魔女だからと言って簡単に出し抜けられるような小物だけが相手なら、魔法使いたちは身を隠しながら生きることもなかったのだ。
教会はいろんな手を使って、自分達の教義や利権の邪魔になる彼らを追い詰めているから脅威なのだ。
シャルムは無言の肯定のあと、麻袋を指差した。
「それは夢を見なくしてくれるけど、眠らせる薬は今の君には危ないから…この呪いでも無理で、どうしようもないなら街外れの教会においで」
「懺悔でもしたら寝れるの?」
彼らの脅威のもとに行けという、アドバイスにコハクは目を丸くする。シャルムは乾いた笑い声で、僕の魔法で無理なら、神に謝っても祈っても無駄だと思うよ。と異端らしいことを言ってのけた後、椅子から立ち上がりながらコハクに微笑んだ。
「全然おすすめじゃないけど、こんなふうに眠れない人が、寝られた方法を教えてあげる。」
「え、あんたも教会にくるの?」
「教会って情報が集まるから便利よ」
その夜、コハクはシャルムがくれたハーブで作ったお茶を飲んでから、ベッドに横になった。
いつもより不安感は少し和らいだ気がするが、それでも、コハクは目を閉じると襲ってくる不吉な想像に耐え切れず、すぐに目を開けてしまった。
このまま帰ってこなかったらどうしよう。
帰ってくるのが、何十年後かもしれない。
いないところでひどい目に遭っていないだろうか。
…コハクのいないところで、コハクのことなんか忘れてしまっていないだろうか。
そんな不安がぐるぐると渦巻いて、ハーブで和らいだ不安感が押し戻ってきた感覚に、コハクは諦めてベッドから抜け出した。そして、痛む頭に顔をしかめながら教会に行った。
「やっぱりダメだったか」
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