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Daybreak
お土産よりも
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「何その顔」
「もう帰ってこないのかと思ってた」
お土産を持って、久しぶりの我が家に帰ると、すっかり背が伸びきってしまった弟子が、おかえりも忘れて、目をぱちくりとして出迎えた。
「ここは私の家よ?」
「そりゃあ、黙って出てって、一年もほったらかされていたんですから」
「え…そんなに経ってた?」
告げられた期間に愕然としていると、ため息をつきながら、「とりあえず、荷物が目立つんで、中にはいってください。」と家の奥へ誘導された、
「師匠の師匠のところは、落ち着いたんですか?」
コハクは相変わらずスムーズな手つきでお茶を淹れて、ダイニングに座る真夜の前に置く。
「ええ、全部片付いたわ」
真夜の師匠である魔法使いは、元々魔法使いの中でも高齢になったこともあり、見た目以上に弱っていた。それでも、異端の疑いをかけられていた近所の身重の女性の代わりとなって、自分から捕まりに行ったらしい。
真夜はその魔女を救い出すために、あの日、走り書きのメモだけを残してここを飛び出したのだ。
「その子が捕まらないように、なるべく長く引きつけようとしていたら…、一人では逃げ出せないようになっていたみたい」
「優しい人だったんですね…」
「昔からね。魔女のくせにお節介な人なのよ」
この国の教会は魔法使いなどの異端を取り締まる事を年々強化していた。そんなところでの尋問は、彼女の残り少ない寿命をさらに削りとってしまった。
仲間達で救い出した後も、気丈に振る舞ってはいたが、痩せて弱りきった体は戻らず、最後は風にさらわれたように消えていった。
「真夜さんは大丈夫ですか?」
「え?ええ、亡くなるまで二ヶ月くらいあったから…今までしなかった話もたくさんできたしね。」
吹っ切れたようなスッキリした顔の真夜に、そうじゃなくて、とコハクは苦い顔をした。
「それもそうだけど、教会の人たちとやり合ったんでしょ」
「まあ、助ける時と…あと、師匠の元の家とか持ち物が教会の奴らに差し押さえられていたから、返してもらって、見つけられないところに移しただけよ」
真夜は簡単そうに言うが、コハクの顔は渋いままだった。
「だけって…師匠の師匠が逃げられないくらい手強い人たち相手に、手こずったからこんなに時間がかかったんでしょう?」
「えっと・・・」
あからさまに目が泳ぎ出したマヨにコハクはため息をついた。
「そんな危ないところに大丈夫っかなって思いながら、こっちは死にものぐるいで薬屋を切り盛りして待ってたのに…」
コハクがソファの横に置かれた山を指しながらじっと真夜を睨むので、真夜は泳がせた目をコハクを見ないよう、そっとずらした。
「思ったより師匠の遺品が散らばってたから、いろんなところに行かなくちゃいけなくって……その後の帰り道で、コハクにお土産たくさん渡したくて、色々買い物しながら寄り道してたら…」
真夜は段々と声を小さくしながら、俯いたまま、謝る。
「まさか一年も経っていたなんて…ごめんなさい」
カタとおとをたてて、コハクが近づく、優しい香りが鼻をかすめる。
「僕が何で機嫌悪いかわかりますか?」
「えと…、薬屋を任せっきりで寄り道して帰ってこなかったから?」
至近距離に耐えられず、目を逸らしながら答えたら、大きなため息をつかれた後、もっと顔が近づいてきて、思い切り頭突きをされた。
痛い。
「心配したんです。あんな置き手紙だけ残して、異端狩りに捕まった人のところに行くって聞いたら…気が狂うかと思った。」
真夜への文句の合間に、いてえ、と呟いてコハクは、額を真夜の肩に載せた。
コハクも痛かったのか。
「しかも、落ち着いたなら早く顔見て安心したいのに、短い手紙だけ寄越して、なかなか帰ってこないし。」
肩に熱い感覚を感じて、真夜はそっと背中に手を回してポンポンを叩く。すると、応えるようにコハクは真夜を抱きしめて、小さく耳元で囁いた。
「本当に無事でよかった…。」
「えと…泣いてる?」
「なんなら、もうちょっとで漏らすところでしたよ」
「え。」
真夜が少し引きかけたので、コハクは離れないようにと慌てて腕に力を込めて、呆れた声を出した。
「いや、信じないでください。」
「…コハク、ごめんね。」
「もう、黙って出て行かないでくださいね。」
その後、肩が冷たくなっても、無言で抱き締め続けるコハクに真夜が居た堪れなくなり、声をかけようとすると、その前にコハクはそっと離れてソファの横に置いていた荷物の塊の方に向かった。
「よくこんなに買い集めましたね。一体どんなのを買ってきたんですか?」
しばらくすると、キッチンには呆れたようなコハクの声が何度も響くことになった。
「これもまた、使わなさそうなものばっかり…」
「ええ?これは使うわよ!可愛いし!」
「…師匠がたびたび夜逃げしてて良かったです。」
「喜ぶと思ったのに…可愛くない」
顰めっ面の真夜に、コハクも唇を尖らせる。
「可愛くなくて良いです。こっちもなんでこれで喜ぶと思われたのか、戸惑ってます。」
「じゃあ何で喜ぶのよ…」
「師匠が魔法使いじゃなくても分かるようにしてるつもりですけど…」
お互い顰めっ面のまましばらく向き合った後、懐かしい応酬にどちらからともなく噴き出した。
「あ、忘れてた。お帰りなさい、真夜さん」
「ただいまコハク」
「もう帰ってこないのかと思ってた」
お土産を持って、久しぶりの我が家に帰ると、すっかり背が伸びきってしまった弟子が、おかえりも忘れて、目をぱちくりとして出迎えた。
「ここは私の家よ?」
「そりゃあ、黙って出てって、一年もほったらかされていたんですから」
「え…そんなに経ってた?」
告げられた期間に愕然としていると、ため息をつきながら、「とりあえず、荷物が目立つんで、中にはいってください。」と家の奥へ誘導された、
「師匠の師匠のところは、落ち着いたんですか?」
コハクは相変わらずスムーズな手つきでお茶を淹れて、ダイニングに座る真夜の前に置く。
「ええ、全部片付いたわ」
真夜の師匠である魔法使いは、元々魔法使いの中でも高齢になったこともあり、見た目以上に弱っていた。それでも、異端の疑いをかけられていた近所の身重の女性の代わりとなって、自分から捕まりに行ったらしい。
真夜はその魔女を救い出すために、あの日、走り書きのメモだけを残してここを飛び出したのだ。
「その子が捕まらないように、なるべく長く引きつけようとしていたら…、一人では逃げ出せないようになっていたみたい」
「優しい人だったんですね…」
「昔からね。魔女のくせにお節介な人なのよ」
この国の教会は魔法使いなどの異端を取り締まる事を年々強化していた。そんなところでの尋問は、彼女の残り少ない寿命をさらに削りとってしまった。
仲間達で救い出した後も、気丈に振る舞ってはいたが、痩せて弱りきった体は戻らず、最後は風にさらわれたように消えていった。
「真夜さんは大丈夫ですか?」
「え?ええ、亡くなるまで二ヶ月くらいあったから…今までしなかった話もたくさんできたしね。」
吹っ切れたようなスッキリした顔の真夜に、そうじゃなくて、とコハクは苦い顔をした。
「それもそうだけど、教会の人たちとやり合ったんでしょ」
「まあ、助ける時と…あと、師匠の元の家とか持ち物が教会の奴らに差し押さえられていたから、返してもらって、見つけられないところに移しただけよ」
真夜は簡単そうに言うが、コハクの顔は渋いままだった。
「だけって…師匠の師匠が逃げられないくらい手強い人たち相手に、手こずったからこんなに時間がかかったんでしょう?」
「えっと・・・」
あからさまに目が泳ぎ出したマヨにコハクはため息をついた。
「そんな危ないところに大丈夫っかなって思いながら、こっちは死にものぐるいで薬屋を切り盛りして待ってたのに…」
コハクがソファの横に置かれた山を指しながらじっと真夜を睨むので、真夜は泳がせた目をコハクを見ないよう、そっとずらした。
「思ったより師匠の遺品が散らばってたから、いろんなところに行かなくちゃいけなくって……その後の帰り道で、コハクにお土産たくさん渡したくて、色々買い物しながら寄り道してたら…」
真夜は段々と声を小さくしながら、俯いたまま、謝る。
「まさか一年も経っていたなんて…ごめんなさい」
カタとおとをたてて、コハクが近づく、優しい香りが鼻をかすめる。
「僕が何で機嫌悪いかわかりますか?」
「えと…、薬屋を任せっきりで寄り道して帰ってこなかったから?」
至近距離に耐えられず、目を逸らしながら答えたら、大きなため息をつかれた後、もっと顔が近づいてきて、思い切り頭突きをされた。
痛い。
「心配したんです。あんな置き手紙だけ残して、異端狩りに捕まった人のところに行くって聞いたら…気が狂うかと思った。」
真夜への文句の合間に、いてえ、と呟いてコハクは、額を真夜の肩に載せた。
コハクも痛かったのか。
「しかも、落ち着いたなら早く顔見て安心したいのに、短い手紙だけ寄越して、なかなか帰ってこないし。」
肩に熱い感覚を感じて、真夜はそっと背中に手を回してポンポンを叩く。すると、応えるようにコハクは真夜を抱きしめて、小さく耳元で囁いた。
「本当に無事でよかった…。」
「えと…泣いてる?」
「なんなら、もうちょっとで漏らすところでしたよ」
「え。」
真夜が少し引きかけたので、コハクは離れないようにと慌てて腕に力を込めて、呆れた声を出した。
「いや、信じないでください。」
「…コハク、ごめんね。」
「もう、黙って出て行かないでくださいね。」
その後、肩が冷たくなっても、無言で抱き締め続けるコハクに真夜が居た堪れなくなり、声をかけようとすると、その前にコハクはそっと離れてソファの横に置いていた荷物の塊の方に向かった。
「よくこんなに買い集めましたね。一体どんなのを買ってきたんですか?」
しばらくすると、キッチンには呆れたようなコハクの声が何度も響くことになった。
「これもまた、使わなさそうなものばっかり…」
「ええ?これは使うわよ!可愛いし!」
「…師匠がたびたび夜逃げしてて良かったです。」
「喜ぶと思ったのに…可愛くない」
顰めっ面の真夜に、コハクも唇を尖らせる。
「可愛くなくて良いです。こっちもなんでこれで喜ぶと思われたのか、戸惑ってます。」
「じゃあ何で喜ぶのよ…」
「師匠が魔法使いじゃなくても分かるようにしてるつもりですけど…」
お互い顰めっ面のまましばらく向き合った後、懐かしい応酬にどちらからともなく噴き出した。
「あ、忘れてた。お帰りなさい、真夜さん」
「ただいまコハク」
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