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第二王子・レヴィウス視点

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俺の名はレヴィウス・バーミリオン。22歳。この国の第二王子だ。

俺には愛する婚約者がいる。
彼女の名はノア。

男兄弟の中育った俺は、同じように男兄弟と育ったキャロルとは気が合ったが、基本、女性があまり得意ではない。
そんな俺にノアという素晴らしい女性を捕まえさせてくれたのがキャロルである。

キャロルと俺は若干の魔力の使用が出来る上、属性的にも相性が良い。その為、その気になればアイコンタクトで会話が出来る。

『今こそ恩を返すべき時だぞ?』

上から目線でキャロルは言った。

いつか不敬罪に問いたいと思うほど、この女は俺に対して上から目線だ。

しかしながら、美しすぎるノアに対し敬遠する俺を、自らの立場を顧みず後押ししてくれたのは紛れもない事実。

(よし、恩を返そうじゃないか。 その方がノアも喜ぶしね!)




──そんな訳で。

さっさと帰って同棲の為に荷物をまとめんと急いでいるエミールをとっ捕まえた。

そしてキャロルと自分との関係をノアと婚約に至ったエピソードを中心に彼に語っている。

もっとも半分はノロケだ。
ノア最高。俺、超幸運。

ただし、そのノロケにもちゃんと意図がある。

「俺はこのようにノアを愛しているし、それはキャロルのおかげでもある。 だからキャロルと俺は君が心配しているような仲では一切ない」

俺の言葉にエミールは顔を赤らめた。
いちいち赤くなるなぁ、コイツ。

「お気付きでしたか……」

キャロルは気付いていなかったが、夜会で俺は何度もコイツの視線を感じている。
そしてその目には嫉妬の炎が宿っているように思えた。

実のところ、彼はノアのことが好きなのでは……と俺は警戒していたのだ。なんせコイツは抜群に男前だ。

先程の『どんだけ奥手だ』というツッコミは、無駄な心配を俺にさせたことに対する私怨も含まれている。

「ただし俺が今語ったように、キャロルは俺にとってもノアにとっても大事な人間であることに変わりはない。 エミール……君のキャロルを想う気持ちに疑いはないように思えるが、なにぶん俺は君のことを騎士としてしか知らない。  少しだけ君もキャロルについて語ってくれないか? キャロルが心配なんだ」

当然俺やノアはキャロルの性格を知っているが、あの女はふたつ名通りのキツい女だ。
『たまに見せる笑顔に惚れた』……みたいな緩い幻想だったら打ち砕かれることは目に見えている。

『キャロルが心配』と言いながらも、実際は『エミールが心配』と言っても過言では無い。




少しだけ遠い目をしながら、彼は話しだした。

「……私が彼女と初めて会ったのは、忘れもしない、14年2ヶ月と4日前の事です」

細けぇな!?
忘れなすぎだろ!!

「その日のことを私はこう名付けています…『天使が舞い降りた日』と」

どうしよう、もう既に胸焼けがしてきたんだが。
いや、とりあえず冷静になれ、俺。

(えーと、コイツは俺の一個上だから14年前は9歳。 キャロルが6歳か)

彼は確か田舎の方で育った、と聞いている。学校へは行かず、独学からの魔術師への師事を経て、14の時には仕官……という経歴だった筈だ。
年齢を考えると、その田舎でキャロルと会った、ということになる。


──彼の話をまとめるとこうだ。

今や美形で名高いこの兄ちゃんだが、子供の頃は小柄、小デブでいじめられており、その為学校に行かなくなったらしい。そして好きな魔術の本ばかり読んでいたそうだ。
家庭教師の下で勉学は励んだものの、太っているため武術は大の苦手で、父や兄の厳しい稽古は断固として受けるのを拒否し、泣き、逃げ回っていたとのこと。

そんな折、ブーゼンベルグ候爵が近くまで来た、ということで自宅に招くことになったと知る。
『自分は武芸を重んじるローガスタ家の恥部だ』と感じていた彼は、紹介されるのが怖くて家を抜け出したものの、運悪くそこをクソガキに捕まって暴行等を含むいじめにあったらしい。

そんなピンチを救ってくれたのが、玩具の弓矢を携えたキャロル。(6歳)

エミール曰く、天使。(笑)


「まぁ弓矢持ってるしね。 うん、いいんじゃない? それで」


3人程いたクソガキの一人に狙いを絞ったキャロルは玩具の弓矢を放った。
ポコッと弓矢が当たる。当然ダメージはない……だろうと思われた。


「しかし打たれた少年は突如悲鳴をあげ、『火が』と叫びながら逃げ出しました」
「……幻術か」


当時からアイツは冷静だったようだ。
おそらくそこまで魔力を上手く使用できるわけではないことを十分に理解した上で、自分の属性と相性のいい相手を見極め、そいつにのみ幻術をかけた。
……何もないところから発火したと思ったら、せいぜい軽い火傷程度の火であれそりゃビビルわ。

しかもその後、その冷たい目をした謎の美少女は、無表情のままゆっくりとこう言ったらしい。


『……地獄の業火に焼かれるがいい』


幼少の頃のキャロルのその姿を、俺は容易に想像できた。
おそらくその時キャロルはノリノリだったに違いない。……アイツの冗談は笑えないのだ。


残った2人も当然逃げ出したらしい。
当たり前だ。そんな気味の悪い子供に出くわしたら、普通は怖い。
っつーかどこが『天使』だ、どこが。


「彼女は去ろうとしたのですが、私は呼び止めました。 お礼を言って、幻術をどこで覚えたのか、と尋ねたら少し興味を持ってくれたようでした」


『何故貴方はやられっぱなしなの?』

幼いキャロルはそうエミールに尋ねたという。

『自分はこんなだし……』

太っちょなエミール少年が曖昧にそう答えるも、キャロルは理解できないようだった──そう彼は笑う。


「そこで私は『自分に自信がないんだ』と容姿や体型の醜さ……他人が怖いことなどをみっともなく吐き出しました。 自分よりも幼いその少女に何かしらの救いを求めたのです。 すると彼女は私の顔をじっと見て……その……」


『そう?綺麗なお顔をしているけれど』


キャロルはそう言ったらしい。
どうやらキャロルの好みは幼かろうが肉がついていようが変わらないようだ。

 
その言葉に彼は奮起したらしく、泣いて逃げ出す程嫌がっていた武術にも必死で取り組み、元々好きだった魔術の勉強も頑張った。
その結果、小デブは細マッチョ美形へと変貌を遂げた訳だ。


(──なるほど)


その時点で既にエミールには恋心が生まれていたが、なにぶん二人とも子供だ。

彼女に相応しい大人の男となった暁には彼女の元へ出向こう……そう決意をしてエミールは14の時に仕官した。
王都に入り、キャロルを見る機会も何度かあったらしい。しかし、敢えて見ないようにした、と彼は言う。
 
キャロルのことは気になっていたが、まだ相応しい男になっていない。
思春期であるが故、なおのこと今恋愛に目を向けるのは危ういと我慢したのだ。

そしてキャロルがデビュタントを果たす16の歳の夜会……彼も実家であるローガスタ子爵家次男として夜会に趣いた。


「あろうことか……天使は女神へと変貌を遂げていました」
「ああ…うん。 そう」

(うわぁ、なんかまた宣いだした)

正直キャロルに対する幻想はあると思うが、中身もそれなりにわかっているようではある。
コレを本人に報告すべきかどうかは悩めるところだ。

(まぁ、大体わかったし。 とりあえずノアに相談しよう……)

そう思い話を切り上げようとしたのだが、キャロルのデビュタント時の話には思わぬオチがついた。

てっきり俺は彼が奥手な為、結局声をかけられなかったのだろうとたかをくくっていたのだが──エミールがキャロルに声をかけられなかった理由は別にあった。

デビュタント用の真っ白なドレスに身を包んだキャロルの美しさに目が眩んだコイツは、よろけて頭を柱におもいっきりぶつけてそのまま運ばれたらしい。

「……そういえばあの日、運ばれてる奴いたなぁ」
「いやお恥ずかしい。 ですがそれくらい美し」
「あ、もうイイ。 わかった充分だ」

適当に礼を言って「是非我が友を幸せにしてくれ!」と持ち上げて解放した。




(……しかし大丈夫なのか?)
 
エミールは俺達よりも王子様然とした見た目だが、ガキの頃から『彼女に相応しい男に』の一心で動いていた愛の重い……正直ややキモチワルイ男であると判明した。

手を出さない約束で、寝室は別のお試し期間とはいえ……これから2ヶ月一緒に住むのだ。

(しくじったかもな、キャロル)

前途多難臭がプンプンする中……とりあえず個人的には、エミールを応援してやりたいと思いつつニヤニヤしている。

結局のところ、他人の恋路は面白いのだ。
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