3 / 12
宇野さんは恋をしている。
しおりを挟む(ああ、素敵……井川くん……)
宇野 宙が山合にあるこの学校に転校してきてからもう、半年。
クラスメイトの井川はなかなかの爽やかイケメンで、なにかと宙を気に掛けてくれている。
今も遠くで友人男子達とじゃれつく中、目が合うとニコッと笑みを向けてくれた。
それを見て小さく手を振る宙に『告白しちゃいなよ~』等と友人がからかう。
「宙なら可愛いし、イケるって」
「っていうか絶対両想いだよ~」
「もう、そんなことないってば!」
友人達のヨイショ混じりの後押しにくすぐったいような気持ちになりながらも、宙は切ない気持ちになった。
──告白なんて、できるわけない。
「宇野……ちょっと、いい?」
「えっ、ええ……」
帰り際、井川に呼び出された宙の胸は高鳴った。
「その……もし良かったら……俺と」
(ええええぇぇぇぇ?! まっまさか……)
頬を赤く染めてなにかを言おうとする彼。
『告白』──その二文字が宙の頭に過った、まさにその時だった。
「大変だー!!」
「「!」」
慌てふためく男子生徒。
それはクラスメイトの田中。
なにやら井川を探していたらしい。
「井川! お前の家にも牛ドロが出たぞ!! タロウがやられたらしい!」
「ええっ?!」
「……!」
それを聞いた宙は真っ青になり、「ごめんなさい!」と言って駆け出した。
「あっ!! 宇野! ……田中、宇野は繊細なんだぞ! 彼女の前で牛ドロの話をするだなんて」
「スマン、まだその部分に触れてはないし平気かと……それに、タロウが!」
(ごめんなさい! ごめんなさい!)
田舎の道を宙は駆けた。
田んぼの横の畦道を。
田舎の香水(※家畜の糞尿などの匂いのこと)漂う、牛舎の横を。
走って走って行き着いた先、そこは森の中の一角の、ぽっかりと何もない土地。
上から注ぐ白い光と共に宙の身体は上に吸い上げられた。
宇宙船──そう、ここが彼女の自宅である。
(告白なんて、できるわけない。だって私……宇宙人だもの。 それに……)
牛ドロとは牛泥棒。
そして犯人は宙の家族であった。
牛泥棒というか、所謂『キャトルミューティレーション』というやつだ。
拐って解剖して戻すこともあるので、井川が心配していたのはそこである。井川は宙のことを『都会から来たお嬢様』と思っているフシがあるので。
もともと温和な民族である宙達は『牛を繁殖し、人間としてこのまま地球に永住する』ことを目的としている。
牛ドロも、『申し訳ないけど、研究の為ちょこっと借りてくね♪』といった感じだ。
まあ返すのはクローンで、しかももう少し先になるのだけれど。
──とはいえ、人間側にしてみればただの盗っ人である。或いは牛殺しのサイコパス。
(そんな私に恋愛など許されるわけがない)
宙はそう思っていた。
船内リビングでは猫型の父が新聞を読む中、グレイ型の母がステーキを焼き、香ばしい匂いが部屋に広がっている。
宙はいきり立ちながら扉を乱暴に開いた。
「井川君にはお世話になってるから井川牧場からはとらないでって言ったでしょ!!」
「あらあらウフフ、ごめんなさいねぇ……でももうとっちゃったもの、ホラせめて美味しくいただきましょ♪」
母は銀色の身体に割烹着をはためかせながら、肉の焼き加減を聞いてくる。
「井川『君』だと?! 井川さんとこは息子だったのか! パっ……パパは許さんぞ!! 男女交際なんてまだ早いんだからな!!」
「うるさいうるさ~い! パパなんかモフモフのくせにー!!!」
猫型の父から新聞を奪い、叩きつけると宙は自室へと走り去った。
「反抗期か……」
猫型の父が呟く。猫型だが、無駄にイケボ。
「多感な年頃ですもの」
宙の部屋は女子高生らしく、とても可愛い部屋だ。
それとは別に、窓からは地球が美しい。
そんな自室で宙はむせび泣く。
「せめて……せめて!
『頂いた牛は全てスタッフが美味しくいただきました』と伝えられたらいいのに!!」
そしてリビングに戻り、タロウを美味しく頂いた。焼き加減はミディアム・レア。
宙の恋は前途多難である。
10
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる