自分大好き姫と不細工な犬

花木 葵音

文字の大きさ
4 / 27
不細工犬ヒースとの出会い

4

しおりを挟む
 お風呂に入れてもらってもヒースの顔が変わるわけはなく、相変わらず不細工なその顔にアンナは思わず笑ってしまうのだった。

「ヒースは自分で自分の顔を見たことがある? 先程鏡に映したけど、自分だってわかった?」

 アンナはそう言ってヒースを抱き上げ、大きな姿見の前に立った。

「ほら、ごらん。これが貴方よ? 貴方とこうしているとますます私の美しさが際立つわね」

 ヒースはじいっと鏡を見つめ、目をしょぼしょぼさせた。

「私はこんな姿をしているのですね」

 そう言ったきりしばらく言葉を発さないヒースに、アンナは「そんなにしょげないで」と声をかける。

「私が私以外で見ていて楽しいと感じたのは貴方が初めてよ?」

 そう言ってまた笑う。アンナはヒースを自分のベッドの上に乗せると、今度は顔を近づけてまじまじとヒースを見た。

「なんとも不細工な顔ね。でも、ずっと見ていると、なんとなく愛嬌があるように見えるのが不思議だわ」

 アンナは恐る恐るヒースを撫でてみた。ヒースは気持ち良さげだ。

「アンナ様。今お気付きになったように、世の中には完璧でなくても愛すべきものがたくさんあります」

 ヒースはうっとりしながら、でも口調ははっきりと言った。アンナは可愛らしく首を傾げる。

「完璧でなくても愛すべきもの? ヒースは難しいことを言うのね」
「完璧なものは、例えばアンナ様です。アンナ様の美しさに敵うものはいないでしょう。だからアンナ様はご自分を愛していらっしゃる」
「そうよ。私以上に美しいものはないと思うわ。だから私は私を見るのが大好き。見ていて飽きることがないわ」
「そうでしょう。でも、本来愛するという感情は他者に抱いてこそ美しいものなのです」
「ヒース、貴方の言うことはよく分からないわ」
「難しすぎたかもしれませんね。でも、私はアンナ様に広い世界を見てもらいたいんです」
「広い世界? 世界はいつだって広いわ」
「でもアンナ様の世界はアンナ様だけ。それは幸せなことかもしれません。でも、私は不幸せだと思うのです」

 アンナはあくびをかみ殺す。

「ヒース。貴方の言ってることはさっきから分からないことばかりよ。なんだか眠たくなってきたわ」
「もう少しでお昼ですが?」
「私はお腹すいていないわ。ヒースがお腹がすいているなら、何か用意させるわ。誰か! 」

 アンナが手を叩くと、メイドの一人がやってきた。

「はい、姫様」
「ヒースに食事を。私は少し眠るわ」



 食事の間では王と王妃が待っていた。
「アンナ様はお昼はいらないそうです」
 ヒースが声をかけると、二人は顔を見合わせた。
「じゃあ、お前はなぜここに?」
「姫様がヒース殿に食事をと」
 ヒースを連れてきたメイドが答える。
 かくして、王と王妃はヒースと食事をすることになったのだが、ヒースは物怖じせず王と王妃と会話をした。初めは違和感を抱いていた王と王妃も、ヒースの様子に慣れて、食事が終わる頃にはすっかり打ち解けていた。
「ヒース、お前はなぜここにやってきたのだ?」
「私は色々な地を旅していたのですが、アンナ様の評判を聞き、やって参りました」
「アンナはこの通り、自分以外に興味を示さない。どうかお前がアンナの心を開けるなら開いてくれ。望みのものを与えるから」
「私は望みのものなどございませんが、尽力いたします」
「おお、頼んだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

突然、お隣さんと暮らすことになりました~実は推しの配信者だったなんて!?~

ミズメ
児童書・童話
 動画配信を視聴するのが大好きな市山ひなは、みんなより背が高すぎることがコンプレックスの小学生。  周りの目を気にしていたひなは、ある日突然お隣さんに預けられることになってしまった。  そこは幼なじみでもある志水蒼太(しみずそうた)くんのおうちだった。  どうやら蒼太くんには秘密があって……!?  身長コンプレックスもちの優しい女の子✖️好きな子の前では背伸びをしたい男の子…を見守る愉快なメンバーで繰り広げるドタバタラブコメ!  

手ぶくろ

はまだかよこ
児童書・童話
バレンタインデイ 真由の黒歴史 いいもん、しあわせだもん ちょっと聞いてね、手ぶくろのお話し

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...