自分大好き姫と不細工な犬

花木 葵音

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ヒースの秘密と愛するということ

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 メイドたちが持ってきた切り花の香りに誘われ、アンナは目を覚ました。宿題はふたつあったけれど、もう一つが終わっていない。
 一番死んで欲しくない人。やっぱりお父様とお母様かしら、とアンナは思った。ひとりっ子のアンナの家族は両親だけだから。
 それでもアンナは色々な人に当てはめて考えた。
 やっぱりヒースのことがアンナの心に最後まで残った。半年前までいなかったヒース。なのにヒースが死んでしまったらと思うと心が凍りつきそうになる。
「だめだわ。そんなのやっぱりだめだわ。ヒースがいないなんて考えられない」
 身震いして言ったアンナにメイドのリリーが、
「姫様?  大丈夫ですか?  お着替えの時は手鏡をこちらに……」
 と声をかけ、手鏡を受け取ろうとした。そのとき。
「あ!」
 リリーが手を滑らせ、手鏡が落ちた。
 カシャーンと大きな音をたてて鏡が割れる。
 その音にヒースが何事かとこちらを向いて、慌ててアンナの顔色を伺った。
 リリーは声も出せずに震えていた。
「あら、割れてしまったわね。お気に入りだったのだけど……。また作らせればいいわね。リリー、怪我はない?」
 アンナの言葉にはっと我に返ったリリーは、
「も、申し訳ございません!!」
 と深々と頭を下げた。
「いいのよ。鏡は物だし、壊れても仕方ないわ。片付ける時に手を切ったりしないようにね?」
 そんなアンナにリリーは涙を浮かべた。
「ありがとうございます、アンナ様!」
 ヒースもほっとする。
「アンナ様、成長されましたね」
 ヒースがアンナに言うと、
「成長? 私はよく分からないけど……」
 と当のアンナは自覚がないようだった。
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