22 / 78
戦乱
21.三面六臂
しおりを挟む
戦が、始まっていた。
キアラのヒートは五日ほど続き、家にあった食料や水を食い尽くし、ようやくお互いが正気を取り戻してユルトの外に出たところで、ユクガはそれを知った。
すでにククィツァは出陣したあとで、身支度を整えルイドの機嫌を取ってから、ユクガも戦場へ急いだ。
キアラとは、慌ただしい別れになってしまった。
「撃て!」
号令をかけるとともに太鼓が鳴り、ユクガも矢を放つ。
普段はほぼ意識することのない精霊の加護を感じるのは、こういうときだ。ヨラガンの放つ矢は、他の国のものと比べると遥かに長い飛距離を誇り、狙い通りの位置に届く。真偽のほどは定かではないが、風の精霊が矢を運んでくれるのだとも言われている。
ヨラガンの軍勢から放たれた大量の矢がカガルトゥラードの先陣に迫り、人が倒れていく。二射、三射と続けさせ、接敵するまでにできるだけ数を減らさなければならない。
カガルトゥラードの兵はかつてより明らかに多く、赤い髪以外の兵も少なくなかった。以前市で聞いた、傭兵かもしれない。確かめる術はないが、ユクガの戦った限りでは、そういう兵のほうが戦い慣れているように感じられた。
「備えろ!」
また太鼓が鳴り、ユクガの号令を味方に伝えていく。突進してくる敵兵に対し、槍と盾を持った歩兵が隙間なく列を形成して迎え撃つのだ。無論全く被害なしというわけにはいかないが、相手の突進を無防備に突っ立って待ち構える理由もない。
金属のぶつかり合う音、怒声、馬のいななき、鳴り響く様々な音に負けじと声を張り上げ、味方を鼓舞し迫る敵に剣を振るう。
追い込まれつつある味方のもとにルイドで駆けつけ、鎧の継ぎ目を薙ぎ払う。
「すまん!」
「構わん! 行け!」
律儀に礼を言ってきた男が別の戦いに飛び込んでいくのを見送り、馬首を返してユクガも新たな相手と相まみえる。
そうしてしばらくぶつかり合い、そのうちどちらからともなく退却の合図が鳴って、兵を引いて睨み合う。
全体に目を配れているわけではないが、少なくともユクガのいる戦場は膠着状態にあると思われた。戦線を押し上げ、カガルトゥラードを追い返さなければならないが、焦ってもいけない。他がどうなっているかわからない状態では、ユクガの隊が突出するわけにもいかない。
一度後ろにある陣幕に戻り、ルイドを労って水をやる。あとの世話を馬番に任せ、ユクガはジュアンを探した。
「ジュアン」
「っと、ユクガ様、探してました」
ジュアンは腕っ節の強い男ではない。だが、情報収集だったり交渉だったり、ユクガの苦手な調整役を担うことで光る男だ。ククィツァもそれを承知で、戦のときは大概組ませてくるので、とても助かっている。
「状況を知りたい」
「了解です、ちょうど調べてきましたよ」
ユクガがいるのは中央やや左翼寄り、ククィツァのいる本隊よりは前方に陣を構えている。中央の辺りはカガルトゥラード軍と戦力がほぼ拮抗状態にあって、戦線にほとんど動きはない。
左翼は主にカガルトゥラードに近い草原に住む集落のものたちで、士気も高く、あまり前に出すぎないよう抑えるほうが難しいらしい。カガルトゥラードに対して、積年の恨みというか、まあ思うところがあるものがほとんどで、傭兵相手でも特に問題はないそうだ。
一方右翼はどちらかというと押され気味で、特に黒髪の傭兵団が現れると、相当に苦戦する状況だという。
「……黒髪の傭兵団?」
「団と言っても、五人程度のようですが。とにかく強い、ということらしいです」
黒髪というのはつまり、精霊の加護を持たないものたちだ。一般的に、精霊が加護を与えない、ということ自体がおよそ信じられないため、どの精霊にも見放されるほどの悪行を為したせいだ、などと言われている。
そのような悪人を動員してまで、カガルトゥラードはヨラガンを徹底的に潰すつもりなのだろうか。
「指揮を任せてもいいか」
「右翼に行くおつもりですか?」
「崩れれば困る」
「あなたが一騎当千なのは知ってますけどね……」
ヨラガンにもククィツァを頂点とした指揮系統はあるが、ある程度は各々の判断に委ねられている。相手の五人に対しユクガ一人を動かすだけなら、この辺りの戦線が崩れることはないはずだ。現状では、ユクガは遊撃的に動いているので、戦いの要になってはいない。
「無茶はしないでくださいよ。キアラが泣きます」
「……気をつける」
勘所を押さえた忠告に苦笑して、ユクガは本陣に向かった。念のため、ククィツァにもどの位置にいるか知らせておく必要がある。
「……何をしている?」
「ユクガ様……!」
ただ、案内された陣幕で、暴れるククィツァと抑えようとする数人との乱闘を見せられるとは思っていなかった。
「ユクガ? 何でここに?」
「……右翼に向かうから、伝えておこうと思ったんだが……」
「お前もか!」
なぜか、ククィツァも例の黒髪の傭兵団のもとに向かおうとしていたらしい。
「……大将が前線に出るな」
「厳しいってんなら俺が行ったっていいだろ、強いし!」
「……お前が強いのは認めるが、俺が行くからお前はここにいろ」
ククィツァが気軽に戦いに出る男なのは知っているが、さすがにのこのこ行かせるわけにもいかない。黒髪の傭兵団とやらが右翼の苦戦の理由なら、なおさらだ。
「お前が行ったら俺が行けない……」
「だから行くなと言っている」
ククィツァの周りでなんとか押し留めようとしていたものたちが、あからさまにほっとした顔をする。苦労していたに違いない。
それでも粘ろうとするククィツァをどうにか宥めすかし、ユクガは右翼の後方から回り込んだ。
さすがに後方には剣を交えているようなものはいない。前へ進み、徐々に剣を振るう機会が増え、さらに激しい戦闘の場に進んでいく。
振り下ろされた剣を同胞の代わりに剣で受け止め、気づいた。
相手の髪色が、黒い。
なぎ払うように受け流して返す刃で追撃するものの、相手もさっと体勢を変えてユクガの剣を避ける。反動のように突き出される切先をユクガも避け、一度体を離した。
調子に乗って深入りすると、大けがをしそうだ。
改めて体勢を整えるユクガに向かって、相手の男も剣を構え直す。
「……何者だ」
傭兵稼業に身を置くものをよく知っているわけではないが、ある程度の強さがあるならちょっとした情報くらいはユクガの耳にも入ってくるはずだ。
だが、黒髪の傭兵の噂など、今の今まで聞いたことがなかった。
「傭兵を討ち取ったところで、武勲にはならんぞ」
声とともに刃が迫ってきて、また受け止める。一撃が重くて嫌な相手だ。
カガルトゥラードに限らず西方の国では、名のある武人を倒すことを名誉とする文化があることはユクガも知っている。しかし、ヨラガンにはそのような風習はない。敵は等しく敵で、倒して草原や一族を守れればそれでいい。
金属をぶつけ合う重たい音を立てながら、ユクガはひたすら機会を窺った。
この傭兵は、ユクガと同等か、もしくはユクガよりも強い。純粋な勝負で勝つのは難しい相手だ。隙を見て、数少ない機会をものにしなければならない。
噛み合わせた剣をぎりぎりと押し続けていた横から、別の剣が突き出てくる。急いで避けたものの、胴を軽く掠られてしまった。
「……リンドベル」
「あなたに傷をつけられるわけにはいきませんので」
新たに現れた男も黒髪だ。元の男よりは線が細いが、弱くはない。戦い方を変えなければならない。
相対したまま構えを変えたユクガに対し、相手の二人が軽く目を見張る。
「続ける気か」
「俺が引けば、他が窮する」
ユクガは右翼の戦況を改善するために来たわけで、ここで引けば改善どころか悪化させる可能性もある。黒髪の傭兵団は確か五人ほどいるという話だったから、二人でも引きつけておければ多少は他が楽になるだろう。勝てなくとも、死なずに戦いを長引かせるだけでも意義がある。
そこからは、何かを考える余裕などなかった。迫ってくる剣を払い、刃を避け、ただ死なないことだけを優先する。攻撃に転じられずとも、けがをしようとも、軍勢同士の衝突なら、そのうち戦闘の終わりを告げる太鼓が鳴るはずだ。そこまでしのげばいい。
左右に分かれた相手に挟まれるのを避けるために、後ろへ引く。
「ッぐ……!」
三人目が待ち構えていた。
無理やり地面を蹴ったがどうにもならず、とっさに体を庇った左腕に大きな傷口が開く。
「あちゃ、仕留め損ねた」
三人。どう戦えばいい。
活路が見出せないまま片手でも剣を構えるユクガに、取り囲む三人も隙なく身構える。
「これでも逃げんか」
「……死ぬわけにはいかない」
この状態から無事に逃げおおせるものがいるなら、むしろよほどの手練れだ。油断した背中など見せたら、即座に三人のうちの誰かに切り捨てられるだろう。
風にあおられる木の葉のように翻弄されながら、三方向からくり出される剣に何とか抗う。
死ぬわけにはいかない。キアラが待っている。
ただ、力が入らなくなったのか何かで滑ったのか、急に体勢が崩れた。
ユクガの血で汚れてなお、冷たい輝きを保った刃が迫ってくる。
負けられない。
一矢も報いることなく、倒れ伏すつもりも、ない。
「ッ……アアアアァ!」
腹を刺し貫かれながらも、目の前にいた男に一太刀浴びせる。
「隊長!」
倒れるユクガの前で、黒髪の男も膝をつくのが見えた。ユクガが執念で負わせた傷は、深くはないが、浅くもない。多少は痛みで動きが鈍るだろう。
退却を告げる太鼓の音が、遠くに聞こえた。
キアラのヒートは五日ほど続き、家にあった食料や水を食い尽くし、ようやくお互いが正気を取り戻してユルトの外に出たところで、ユクガはそれを知った。
すでにククィツァは出陣したあとで、身支度を整えルイドの機嫌を取ってから、ユクガも戦場へ急いだ。
キアラとは、慌ただしい別れになってしまった。
「撃て!」
号令をかけるとともに太鼓が鳴り、ユクガも矢を放つ。
普段はほぼ意識することのない精霊の加護を感じるのは、こういうときだ。ヨラガンの放つ矢は、他の国のものと比べると遥かに長い飛距離を誇り、狙い通りの位置に届く。真偽のほどは定かではないが、風の精霊が矢を運んでくれるのだとも言われている。
ヨラガンの軍勢から放たれた大量の矢がカガルトゥラードの先陣に迫り、人が倒れていく。二射、三射と続けさせ、接敵するまでにできるだけ数を減らさなければならない。
カガルトゥラードの兵はかつてより明らかに多く、赤い髪以外の兵も少なくなかった。以前市で聞いた、傭兵かもしれない。確かめる術はないが、ユクガの戦った限りでは、そういう兵のほうが戦い慣れているように感じられた。
「備えろ!」
また太鼓が鳴り、ユクガの号令を味方に伝えていく。突進してくる敵兵に対し、槍と盾を持った歩兵が隙間なく列を形成して迎え撃つのだ。無論全く被害なしというわけにはいかないが、相手の突進を無防備に突っ立って待ち構える理由もない。
金属のぶつかり合う音、怒声、馬のいななき、鳴り響く様々な音に負けじと声を張り上げ、味方を鼓舞し迫る敵に剣を振るう。
追い込まれつつある味方のもとにルイドで駆けつけ、鎧の継ぎ目を薙ぎ払う。
「すまん!」
「構わん! 行け!」
律儀に礼を言ってきた男が別の戦いに飛び込んでいくのを見送り、馬首を返してユクガも新たな相手と相まみえる。
そうしてしばらくぶつかり合い、そのうちどちらからともなく退却の合図が鳴って、兵を引いて睨み合う。
全体に目を配れているわけではないが、少なくともユクガのいる戦場は膠着状態にあると思われた。戦線を押し上げ、カガルトゥラードを追い返さなければならないが、焦ってもいけない。他がどうなっているかわからない状態では、ユクガの隊が突出するわけにもいかない。
一度後ろにある陣幕に戻り、ルイドを労って水をやる。あとの世話を馬番に任せ、ユクガはジュアンを探した。
「ジュアン」
「っと、ユクガ様、探してました」
ジュアンは腕っ節の強い男ではない。だが、情報収集だったり交渉だったり、ユクガの苦手な調整役を担うことで光る男だ。ククィツァもそれを承知で、戦のときは大概組ませてくるので、とても助かっている。
「状況を知りたい」
「了解です、ちょうど調べてきましたよ」
ユクガがいるのは中央やや左翼寄り、ククィツァのいる本隊よりは前方に陣を構えている。中央の辺りはカガルトゥラード軍と戦力がほぼ拮抗状態にあって、戦線にほとんど動きはない。
左翼は主にカガルトゥラードに近い草原に住む集落のものたちで、士気も高く、あまり前に出すぎないよう抑えるほうが難しいらしい。カガルトゥラードに対して、積年の恨みというか、まあ思うところがあるものがほとんどで、傭兵相手でも特に問題はないそうだ。
一方右翼はどちらかというと押され気味で、特に黒髪の傭兵団が現れると、相当に苦戦する状況だという。
「……黒髪の傭兵団?」
「団と言っても、五人程度のようですが。とにかく強い、ということらしいです」
黒髪というのはつまり、精霊の加護を持たないものたちだ。一般的に、精霊が加護を与えない、ということ自体がおよそ信じられないため、どの精霊にも見放されるほどの悪行を為したせいだ、などと言われている。
そのような悪人を動員してまで、カガルトゥラードはヨラガンを徹底的に潰すつもりなのだろうか。
「指揮を任せてもいいか」
「右翼に行くおつもりですか?」
「崩れれば困る」
「あなたが一騎当千なのは知ってますけどね……」
ヨラガンにもククィツァを頂点とした指揮系統はあるが、ある程度は各々の判断に委ねられている。相手の五人に対しユクガ一人を動かすだけなら、この辺りの戦線が崩れることはないはずだ。現状では、ユクガは遊撃的に動いているので、戦いの要になってはいない。
「無茶はしないでくださいよ。キアラが泣きます」
「……気をつける」
勘所を押さえた忠告に苦笑して、ユクガは本陣に向かった。念のため、ククィツァにもどの位置にいるか知らせておく必要がある。
「……何をしている?」
「ユクガ様……!」
ただ、案内された陣幕で、暴れるククィツァと抑えようとする数人との乱闘を見せられるとは思っていなかった。
「ユクガ? 何でここに?」
「……右翼に向かうから、伝えておこうと思ったんだが……」
「お前もか!」
なぜか、ククィツァも例の黒髪の傭兵団のもとに向かおうとしていたらしい。
「……大将が前線に出るな」
「厳しいってんなら俺が行ったっていいだろ、強いし!」
「……お前が強いのは認めるが、俺が行くからお前はここにいろ」
ククィツァが気軽に戦いに出る男なのは知っているが、さすがにのこのこ行かせるわけにもいかない。黒髪の傭兵団とやらが右翼の苦戦の理由なら、なおさらだ。
「お前が行ったら俺が行けない……」
「だから行くなと言っている」
ククィツァの周りでなんとか押し留めようとしていたものたちが、あからさまにほっとした顔をする。苦労していたに違いない。
それでも粘ろうとするククィツァをどうにか宥めすかし、ユクガは右翼の後方から回り込んだ。
さすがに後方には剣を交えているようなものはいない。前へ進み、徐々に剣を振るう機会が増え、さらに激しい戦闘の場に進んでいく。
振り下ろされた剣を同胞の代わりに剣で受け止め、気づいた。
相手の髪色が、黒い。
なぎ払うように受け流して返す刃で追撃するものの、相手もさっと体勢を変えてユクガの剣を避ける。反動のように突き出される切先をユクガも避け、一度体を離した。
調子に乗って深入りすると、大けがをしそうだ。
改めて体勢を整えるユクガに向かって、相手の男も剣を構え直す。
「……何者だ」
傭兵稼業に身を置くものをよく知っているわけではないが、ある程度の強さがあるならちょっとした情報くらいはユクガの耳にも入ってくるはずだ。
だが、黒髪の傭兵の噂など、今の今まで聞いたことがなかった。
「傭兵を討ち取ったところで、武勲にはならんぞ」
声とともに刃が迫ってきて、また受け止める。一撃が重くて嫌な相手だ。
カガルトゥラードに限らず西方の国では、名のある武人を倒すことを名誉とする文化があることはユクガも知っている。しかし、ヨラガンにはそのような風習はない。敵は等しく敵で、倒して草原や一族を守れればそれでいい。
金属をぶつけ合う重たい音を立てながら、ユクガはひたすら機会を窺った。
この傭兵は、ユクガと同等か、もしくはユクガよりも強い。純粋な勝負で勝つのは難しい相手だ。隙を見て、数少ない機会をものにしなければならない。
噛み合わせた剣をぎりぎりと押し続けていた横から、別の剣が突き出てくる。急いで避けたものの、胴を軽く掠られてしまった。
「……リンドベル」
「あなたに傷をつけられるわけにはいきませんので」
新たに現れた男も黒髪だ。元の男よりは線が細いが、弱くはない。戦い方を変えなければならない。
相対したまま構えを変えたユクガに対し、相手の二人が軽く目を見張る。
「続ける気か」
「俺が引けば、他が窮する」
ユクガは右翼の戦況を改善するために来たわけで、ここで引けば改善どころか悪化させる可能性もある。黒髪の傭兵団は確か五人ほどいるという話だったから、二人でも引きつけておければ多少は他が楽になるだろう。勝てなくとも、死なずに戦いを長引かせるだけでも意義がある。
そこからは、何かを考える余裕などなかった。迫ってくる剣を払い、刃を避け、ただ死なないことだけを優先する。攻撃に転じられずとも、けがをしようとも、軍勢同士の衝突なら、そのうち戦闘の終わりを告げる太鼓が鳴るはずだ。そこまでしのげばいい。
左右に分かれた相手に挟まれるのを避けるために、後ろへ引く。
「ッぐ……!」
三人目が待ち構えていた。
無理やり地面を蹴ったがどうにもならず、とっさに体を庇った左腕に大きな傷口が開く。
「あちゃ、仕留め損ねた」
三人。どう戦えばいい。
活路が見出せないまま片手でも剣を構えるユクガに、取り囲む三人も隙なく身構える。
「これでも逃げんか」
「……死ぬわけにはいかない」
この状態から無事に逃げおおせるものがいるなら、むしろよほどの手練れだ。油断した背中など見せたら、即座に三人のうちの誰かに切り捨てられるだろう。
風にあおられる木の葉のように翻弄されながら、三方向からくり出される剣に何とか抗う。
死ぬわけにはいかない。キアラが待っている。
ただ、力が入らなくなったのか何かで滑ったのか、急に体勢が崩れた。
ユクガの血で汚れてなお、冷たい輝きを保った刃が迫ってくる。
負けられない。
一矢も報いることなく、倒れ伏すつもりも、ない。
「ッ……アアアアァ!」
腹を刺し貫かれながらも、目の前にいた男に一太刀浴びせる。
「隊長!」
倒れるユクガの前で、黒髪の男も膝をつくのが見えた。ユクガが執念で負わせた傷は、深くはないが、浅くもない。多少は痛みで動きが鈍るだろう。
退却を告げる太鼓の音が、遠くに聞こえた。
80
あなたにおすすめの小説
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
回帰したシリルの見る夢は
riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。
しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。
嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。
執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語!
執着アルファ×回帰オメガ
本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます。
物語お楽しみいただけたら幸いです。
***
2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました!
応援してくれた皆様のお陰です。
ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!!
☆☆☆
2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!!
応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
すれ違い夫夫は発情期にしか素直になれない
和泉臨音
BL
とある事件をきっかけに大好きなユーグリッドと結婚したレオンだったが、番になった日以来、発情期ですらベッドを共にすることはなかった。ユーグリッドに避けられるのは寂しいが不満はなく、これ以上重荷にならないよう、レオンは受けた恩を返すべく日々の仕事に邁進する。一方、レオンに軽蔑され嫌われていると思っているユーグリッドはなるべくレオンの視界に、記憶に残らないようにレオンを避け続けているのだった。
お互いに嫌われていると誤解して、すれ違う番の話。
===================
美形侯爵長男α×平凡平民Ω。本編24話完結。それ以降は番外編です。
オメガバース設定ですが独自設定もあるのでこの世界のオメガバースはそうなんだな、と思っていただければ。
【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです
grotta
BL
【嗅覚を失った美食家α×親に勝手に婚約者を決められたΩのすれ違いグルメオメガバース】
会社員の夕希はブログを書きながら美食コラムニストを目指すスイーツ男子。αが嫌いで、Ωなのを隠しβのフリをして生きてきた。
最近グルメ仲間に恋人ができてしまい一人寂しくホテルでケーキを食べていると、憧れの美食評論家鷲尾隼一と出会う。彼は超美形な上にα嫌いの夕希でもつい心が揺れてしまうほどいい香りのフェロモンを漂わせていた。
夕希は彼が現在嗅覚を失っていること、それなのになぜか夕希の匂いだけがわかることを聞かされる。そして隼一は自分の代わりに夕希に食レポのゴーストライターをしてほしいと依頼してきた。
協力すれば美味しいものを食べさせてくれると言う隼一。しかも出版関係者に紹介しても良いと言われて舞い上がった夕希は彼の依頼を受ける。
そんな中、母からアルファ男性の見合い写真が送られてきて気分は急降下。
見合い=28歳の誕生日までというタイムリミットがある状況で夕希は隼一のゴーストライターを務める。
一緒に過ごしているうちにαにしては優しく誠実な隼一に心を開いていく夕希。そして隼一の家でヒートを起こしてしまい、体の関係を結んでしまう。見合いを控えているため隼一と決別しようと思う夕希に対し、逆に猛烈に甘くなる隼一。
しかしあるきっかけから隼一には最初からΩと寝る目的があったと知ってしまい――?
【受】早瀬夕希(27歳)…βと偽るΩ、コラムニストを目指すスイーツ男子。α嫌いなのに母親にαとの見合いを決められている。
【攻】鷲尾準一(32歳)…黒髪美形α、クールで辛口な美食評論家兼コラムニスト。現在嗅覚異常に悩まされている。
※東京のデートスポットでスパダリに美味しいもの食べさせてもらっていちゃつく話です♡
※第10回BL小説大賞に参加しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる