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13.長い夜
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ダンジョンに潜るとなると、滞在する日数にもよるが、野営のための荷物や食糧を自分で抱え、魔物と戦いながら奥深くに進むことになる。そのためいくつかのパーティが共同で進むような大規模なダンジョン攻略になると、荷物を運ぶための荷物持ちが同行したり、ダンジョンの地形や出現する魔物の特徴をよく把握した案内人がついたりと、それぞれの役割を最適化した構成が組まれることが多い。
レイの一行にも荷物持ちや案内人がついたらしいという噂だけは入手して、ジーノは今までと変わらずスカベンジャーの仕事を続けていた。例え嫌がられようと、冒険者や魔物の死体を漁って魔石でも素材でも集めなければ生きてはいけないし、レイが来る前までと何か変わるわけでもない。ギルドの裏口で諸々引き取ってもらって、手に入れたわずかな対価で食料品を買う。そして家に帰って料理をして、行水して寝る。ただ、久々に一人で使うベッドは広く、どうしてか布団さえ冷たく感じて、ジーノはもぞもぞと手足を縮めた。
レイが来てから、ジーノが一人でベッドを使ったことはなかった。狭い家でベッドを二つも置けないから仕方ないのだが、レイのほうが手足も長くて、寝るときはいつもジーノを抱きしめてきていたのだ。初めは戸惑ったはずなのにいつしか当たり前になって、レイに告白されてジーノが許してからは、肌で触れ合うようにもなった。もうおっさんでさほど欲のないジーノとは違い、レイは毎日でもジーノに触れたがるので若干恐れおののいているくらいだ。どう考えても綺麗なものではないジーノのアレを丁寧に刺激して、おっさんがよがって喘ぐのをレイは嬉しそうに見つめてくる。何ともなかったはずの乳首も、レイに触れられるとなぜかじんじんしてきて、レイが開発するだの何だの言っていた意味がわかるようになってしまった。尻もいつのまにかレイの指を何本も受け入れられるようになっていて、とんとんと叩かれると頭の先まで何かが駆け上がっていく場所さえ知っている。そんな場所、日常生活を送る上で誰も触れるはずがないし、ジーノもレイに教え込まれるまで知らなかった。
しかしよく考えればこの状態は、侵入は許していないものの、だいぶお膳立てを進められているのではないだろうか。何となく、入れられたら後戻りできないと思っていたが、すでに取り返しがつかない状態になっている気がする。
よぎった考えを深掘りするのも空恐ろしくて、ジーノは意識的に寝返りを打った。もっと別のこと、例えば、レイが帰ってきたらどうするとか、健全な考えにふけったほうがいい。
ダンジョンの中と外では連絡手段などないから知りようもないので、レイが今どうしているのかはわからない。もちろんジーノがどうしているかもレイにはわからないだろうが、帰ってきたときに、お互い無事で何事もなかったと穏やかに笑い合えるのが一番いいだろう。ロクトたちも大きな怪我なく見つかって、レイや他の冒険者と一緒に帰ってきて、ダンジョンの攻略はそのあとだっていいような気さえするが、実際はそうもいかないだろうということもジーノにはわかっていた。
そもそも、ロクトたちはダンジョンのどの辺りにいるのだろうか。モンテツェアラのダンジョンは全部で第七階層まであるらしいが、ジーノがぎりぎり一人で進めるのが第三階層まで、安全に動き回れるとなると第一階層が関の山だから、魔王の城まで乗り込めるような強い冒険者のことはよくわからない。おそらく第七階層まで行けるのだとは思うが、ダンジョンの中では勝手が違うだろうし、苦労はするのかもしれない。しかしダンジョンコアがあるのは第二階層のはずだから、わざわざ第七階層まで潜らなくてもいいわけで、攻略などすぐに済みそうなものではある。
そこまで考えて、ジーノはふっと気づいた。
ダンジョンコアが第二階層にあると、レイが話していた記憶がない。モンテツェアラのダンジョンは第七階層まであるから捜索にも時間がかかるかもしれないと、そういう話だけだ。
通常は、ダンジョンコアがあるのはそのダンジョンの最深部だ。ダンジョン自体が浅いのでもなければ、すぐ辿りつけるようなところにダンジョンコアは存在しない。それは冒険者の常識であり、もはや冒険者でなくても、一般的に知られていることと言ってもいい。
しかし、モンテツェアラのダンジョンは別だ。その常識を逆手に取るように、第二階層の隠しエリアにダンジョンコアがある。翻ってジーノがなぜそれを知っているのかと言うと、セスカに教えられたからだ。
ジーノがセスカのペンダントを拾ったのはモンテツェアラのダンジョンだったのだが、元の持ち主はモンテツェアラの外からやってきた冒険者だった。彼がペンダントを持っていた来歴までは聞いていないが、セスカは彼についてそれなりに教えてくれたように思う。彼にはセスカのことは見えていなかったそうだが、セスカのほうは彼らのパーティの冒険にくっついていろいろ見聞きしていたからだ。その冒険の途中、彼らはたまたま隠しエリアに到達してしまい、ダンジョンコアを守る魔物に致命傷を負わされ、何とか逃げ延びたものの息絶えた。
そうして彼らが死ぬまでを、ただ傍で見守ることしかできなかったセスカの宿ったペンダントを、これもたまたまジーノが拾い上げた。なぜかジーノの夢には干渉できたから、セスカも幼馴染のことや、いろいろ見聞きしたことをジーノに伝えることができた。
ジーノがモンテツェアラのダンジョンの構造を知っているのは、そうやって夢の中でセスカにいろいろ聞けたからだ。しかしそれは特殊な状況であって、普通はそんな情報は知り得ない。もしダンジョンコアが第二階層にあるのだとギルドが把握していたなら、そもそもロクトたちが戻ってこない、などという状態にもならないのではないか。
つまり、モンテツェアラのダンジョンのコアが第二階層にあることを知っているのは、もしかしたらジーノだけかもしれない。
ぐっと口を引き結ぶと、眠気に呑まれないよう、ジーノはベッドの上に起き上がった。
ダンジョンコアが第二階層にあることを知っているのが、実際にジーノだけかどうかはわからない。しかし、もしこれを知っているのがジーノだけだった場合には、誰かに伝えなければならない。それもできるだけ、ダンジョン攻略に関わりのある人物を選ぶべきだ。
ただ、名士でもなければ冒険者でもない、とりわけスカベンジャーであるジーノの話を信じてくれる人がいるかというと、可能性は限りなく低い。ダンジョンコアは最深部にあるのが常識で、第二階層の隠しエリアの話など、冒険者でもないのにどこで知ったのかと強く問い詰められれば、ジーノはきっとしどろもどろになってうまく答えられないだろう。セスカのことだって、目の前で魔王が封印された事実があるからロクトたちも信じてくれただけだ。他の人には何も見えないし聞こえないのに、夢の中に若者が出てくるのだとジーノが主張しても、妙なおっさんだと思われるのが普通だ。
ジーノの話を根拠もなく信じてくれる相手など、レイくらいしか思いつかない。
しかしレイはダンジョンの中だ。それもレイの実力ならかなり奥に進んでいるだろうし、ジーノが気軽に会いに行ける場所ではない。だいたい、レイだってジーノに来られても困るだろう。レイを困らせたくはないし、もし嫌な顔でもされたらと思うと、ぞっとする。
ばさりと布団をかぶって、ジーノはきつく目を閉じた。
人に嫌われるのには慣れている。でもそれは深い関わりのない相手の話であって、レイのように情を交わした相手ではない。レイには嫌われたくない。
同時に、レイを好きになっていることをようやく自覚して、ジーノはぎゅっと布団を握りしめた。
こんな冴えないおっさんが。ようやく魔王の魂から解放されて、自由に生きていい青年を。
千年分の記憶があるといってもレイの体は若いままで、見た目通りのおっさんであるジーノとはかなり年が離れて見えるはずだ。ジーノに縛られず、もっといろんなところに行って、いろんなものを見聞きして、もっと賢くて美しい、見た目にも釣り合いの取れる相手のほうがいい。
それを、ジーノも後押しすべきだ。
「……嫌だな」
はっきりと口にして、ジーノはまた寝返りを打った。
今まで、スカベンジャーは嫌われ者だから、いろいろなことを仕方ないと諦めてきた。ジーノが大人しくしていれば他に誰も不快な思いはしないし、他の誰も損をしない。それが習い性になって、頭にも体にも染みついて、慎ましく生きるのが一番安全だと思ってきた。
だが、レイを手放すのは嫌だ。一緒に暮らしていきたいと思う。
そのためには、レイを怒らせるのを覚悟してでも、ダンジョンコアのことを伝えに行くべきだ。他の誰かが知っているかもしれないが、誰も知らないことを前提にして動いたほうがいい。ロクトたちやレイが魔物にやられたとは到底思えないから、おそらく、最深部でダンジョンコアの探索を続けているはずだ。物資の限界はあるだろうが、ジーノが知っている情報を伝えられれば、より早く帰還できる可能性が高まる。
おそらくギルドによって立ち入りが制限されているだろうダンジョンにどうやって入るか、考えを巡らせているうちにジーノはいつしか眠りに落ちていた。
レイの一行にも荷物持ちや案内人がついたらしいという噂だけは入手して、ジーノは今までと変わらずスカベンジャーの仕事を続けていた。例え嫌がられようと、冒険者や魔物の死体を漁って魔石でも素材でも集めなければ生きてはいけないし、レイが来る前までと何か変わるわけでもない。ギルドの裏口で諸々引き取ってもらって、手に入れたわずかな対価で食料品を買う。そして家に帰って料理をして、行水して寝る。ただ、久々に一人で使うベッドは広く、どうしてか布団さえ冷たく感じて、ジーノはもぞもぞと手足を縮めた。
レイが来てから、ジーノが一人でベッドを使ったことはなかった。狭い家でベッドを二つも置けないから仕方ないのだが、レイのほうが手足も長くて、寝るときはいつもジーノを抱きしめてきていたのだ。初めは戸惑ったはずなのにいつしか当たり前になって、レイに告白されてジーノが許してからは、肌で触れ合うようにもなった。もうおっさんでさほど欲のないジーノとは違い、レイは毎日でもジーノに触れたがるので若干恐れおののいているくらいだ。どう考えても綺麗なものではないジーノのアレを丁寧に刺激して、おっさんがよがって喘ぐのをレイは嬉しそうに見つめてくる。何ともなかったはずの乳首も、レイに触れられるとなぜかじんじんしてきて、レイが開発するだの何だの言っていた意味がわかるようになってしまった。尻もいつのまにかレイの指を何本も受け入れられるようになっていて、とんとんと叩かれると頭の先まで何かが駆け上がっていく場所さえ知っている。そんな場所、日常生活を送る上で誰も触れるはずがないし、ジーノもレイに教え込まれるまで知らなかった。
しかしよく考えればこの状態は、侵入は許していないものの、だいぶお膳立てを進められているのではないだろうか。何となく、入れられたら後戻りできないと思っていたが、すでに取り返しがつかない状態になっている気がする。
よぎった考えを深掘りするのも空恐ろしくて、ジーノは意識的に寝返りを打った。もっと別のこと、例えば、レイが帰ってきたらどうするとか、健全な考えにふけったほうがいい。
ダンジョンの中と外では連絡手段などないから知りようもないので、レイが今どうしているのかはわからない。もちろんジーノがどうしているかもレイにはわからないだろうが、帰ってきたときに、お互い無事で何事もなかったと穏やかに笑い合えるのが一番いいだろう。ロクトたちも大きな怪我なく見つかって、レイや他の冒険者と一緒に帰ってきて、ダンジョンの攻略はそのあとだっていいような気さえするが、実際はそうもいかないだろうということもジーノにはわかっていた。
そもそも、ロクトたちはダンジョンのどの辺りにいるのだろうか。モンテツェアラのダンジョンは全部で第七階層まであるらしいが、ジーノがぎりぎり一人で進めるのが第三階層まで、安全に動き回れるとなると第一階層が関の山だから、魔王の城まで乗り込めるような強い冒険者のことはよくわからない。おそらく第七階層まで行けるのだとは思うが、ダンジョンの中では勝手が違うだろうし、苦労はするのかもしれない。しかしダンジョンコアがあるのは第二階層のはずだから、わざわざ第七階層まで潜らなくてもいいわけで、攻略などすぐに済みそうなものではある。
そこまで考えて、ジーノはふっと気づいた。
ダンジョンコアが第二階層にあると、レイが話していた記憶がない。モンテツェアラのダンジョンは第七階層まであるから捜索にも時間がかかるかもしれないと、そういう話だけだ。
通常は、ダンジョンコアがあるのはそのダンジョンの最深部だ。ダンジョン自体が浅いのでもなければ、すぐ辿りつけるようなところにダンジョンコアは存在しない。それは冒険者の常識であり、もはや冒険者でなくても、一般的に知られていることと言ってもいい。
しかし、モンテツェアラのダンジョンは別だ。その常識を逆手に取るように、第二階層の隠しエリアにダンジョンコアがある。翻ってジーノがなぜそれを知っているのかと言うと、セスカに教えられたからだ。
ジーノがセスカのペンダントを拾ったのはモンテツェアラのダンジョンだったのだが、元の持ち主はモンテツェアラの外からやってきた冒険者だった。彼がペンダントを持っていた来歴までは聞いていないが、セスカは彼についてそれなりに教えてくれたように思う。彼にはセスカのことは見えていなかったそうだが、セスカのほうは彼らのパーティの冒険にくっついていろいろ見聞きしていたからだ。その冒険の途中、彼らはたまたま隠しエリアに到達してしまい、ダンジョンコアを守る魔物に致命傷を負わされ、何とか逃げ延びたものの息絶えた。
そうして彼らが死ぬまでを、ただ傍で見守ることしかできなかったセスカの宿ったペンダントを、これもたまたまジーノが拾い上げた。なぜかジーノの夢には干渉できたから、セスカも幼馴染のことや、いろいろ見聞きしたことをジーノに伝えることができた。
ジーノがモンテツェアラのダンジョンの構造を知っているのは、そうやって夢の中でセスカにいろいろ聞けたからだ。しかしそれは特殊な状況であって、普通はそんな情報は知り得ない。もしダンジョンコアが第二階層にあるのだとギルドが把握していたなら、そもそもロクトたちが戻ってこない、などという状態にもならないのではないか。
つまり、モンテツェアラのダンジョンのコアが第二階層にあることを知っているのは、もしかしたらジーノだけかもしれない。
ぐっと口を引き結ぶと、眠気に呑まれないよう、ジーノはベッドの上に起き上がった。
ダンジョンコアが第二階層にあることを知っているのが、実際にジーノだけかどうかはわからない。しかし、もしこれを知っているのがジーノだけだった場合には、誰かに伝えなければならない。それもできるだけ、ダンジョン攻略に関わりのある人物を選ぶべきだ。
ただ、名士でもなければ冒険者でもない、とりわけスカベンジャーであるジーノの話を信じてくれる人がいるかというと、可能性は限りなく低い。ダンジョンコアは最深部にあるのが常識で、第二階層の隠しエリアの話など、冒険者でもないのにどこで知ったのかと強く問い詰められれば、ジーノはきっとしどろもどろになってうまく答えられないだろう。セスカのことだって、目の前で魔王が封印された事実があるからロクトたちも信じてくれただけだ。他の人には何も見えないし聞こえないのに、夢の中に若者が出てくるのだとジーノが主張しても、妙なおっさんだと思われるのが普通だ。
ジーノの話を根拠もなく信じてくれる相手など、レイくらいしか思いつかない。
しかしレイはダンジョンの中だ。それもレイの実力ならかなり奥に進んでいるだろうし、ジーノが気軽に会いに行ける場所ではない。だいたい、レイだってジーノに来られても困るだろう。レイを困らせたくはないし、もし嫌な顔でもされたらと思うと、ぞっとする。
ばさりと布団をかぶって、ジーノはきつく目を閉じた。
人に嫌われるのには慣れている。でもそれは深い関わりのない相手の話であって、レイのように情を交わした相手ではない。レイには嫌われたくない。
同時に、レイを好きになっていることをようやく自覚して、ジーノはぎゅっと布団を握りしめた。
こんな冴えないおっさんが。ようやく魔王の魂から解放されて、自由に生きていい青年を。
千年分の記憶があるといってもレイの体は若いままで、見た目通りのおっさんであるジーノとはかなり年が離れて見えるはずだ。ジーノに縛られず、もっといろんなところに行って、いろんなものを見聞きして、もっと賢くて美しい、見た目にも釣り合いの取れる相手のほうがいい。
それを、ジーノも後押しすべきだ。
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はっきりと口にして、ジーノはまた寝返りを打った。
今まで、スカベンジャーは嫌われ者だから、いろいろなことを仕方ないと諦めてきた。ジーノが大人しくしていれば他に誰も不快な思いはしないし、他の誰も損をしない。それが習い性になって、頭にも体にも染みついて、慎ましく生きるのが一番安全だと思ってきた。
だが、レイを手放すのは嫌だ。一緒に暮らしていきたいと思う。
そのためには、レイを怒らせるのを覚悟してでも、ダンジョンコアのことを伝えに行くべきだ。他の誰かが知っているかもしれないが、誰も知らないことを前提にして動いたほうがいい。ロクトたちやレイが魔物にやられたとは到底思えないから、おそらく、最深部でダンジョンコアの探索を続けているはずだ。物資の限界はあるだろうが、ジーノが知っている情報を伝えられれば、より早く帰還できる可能性が高まる。
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なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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