馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

文字の大きさ
90 / 116
犬牙、犬吠、その身に喰らえ

2-2

しおりを挟む
「ここからが内緒話だけど……実はね、種火を通してフェニックスとは会話が出来るんだよ」
「……魔物じゃ、ないんですか」

 魔物とは意思疎通が出来ない、と言われている。人を見れば襲い掛かってくるし、向こうが出す声だって、何を言っているかこっちにはわからない。
 フェニックスに会ったことはないけど、師匠が戦ってたから、魔物の一種なんだと思っていた。

「まあ、魔物ではないんだろう。遠方には人と違う姿をした種族の国があるともいうし、不思議なことでもないさ」

 何も思い出せなかったから、たぶん師匠に教わったことはないんだろう。師匠が言ってたことなら、俺が忘れるはずはない。でも会話が出来るなら、わざわざ戦わなくてもいい気がする。
 とにかく、師匠が採ってきた種火を通じて、法王はフェニックスに呼び掛けたそうだ。今どこにいるのか、新しい種火が欲しいので、クトス山に帰ってきてもらえないか。

「今クライヴと一緒に魔物だらけの場所にいるから帰れない、と返事をされてね」

 魔物だらけの場所。聞いて気持ちがざわついたけど、大人しく続きを聞く。

 フェニックスとのやり取りでわかったのは、当時、ドラゴンが最初に滅ぼした国の跡地にいること。そこにいるのは、師匠とフェニックス以外は魔物だけだ。特に危険になったことはないらしいが、もちろん人間が一人で生きていけるような場所ではないから、師匠を残していくわけにはいかない。それに、師匠が人間の住む地域へ戻る気がないので、フェニックスも当分戻らない。
 その辺りを一通り聞き出して、法王からモンドールさんに、モンドールさんから俺に連絡が来た、という流れだそうだ。手紙に詳細がなかったのは、情報源が公に出来なかったのと、場所が場所だから、というのが理由。

「……フェニックスと会話出来るのを、師匠は」
「それくらいは知っているだろう。ただ、種火を通して会話出来ることは、知らないはずだ」
「居場所がわかったのは」
「口止めしたよ、もちろんね」

 それなら、会いに行ける。ウィルマさんのところに行って結界の魔道具を借りれば、一人でも何とかなるはずだ。一番西の町までは馬で行って、その先はどうなるかわからないから徒歩になるけど、でも、確実に会えるなら歩いてでも行く。

 今度こそ喉笛に喰らいついてやる。

「行きます」
「そう言うと思って、いろいろ用意しておいたんだ」

 部屋の隅にいろいろ置いてあったのは、モンドールさんが準備してくれていた道具だったみたいだ。
 ドラゴンが通った国々が滅ぶ前の地図。魔物が溢れる場所になった後は誰も現地を確かめられていないけど、大まかには変わっていないはず、だそうだ。それから保存食とか、野営で使える道具がいろいろ。ウィルマさんにもらったのは食料がほとんどだったし、王都に来るまでに使ったから助かった。

「……どんな魔物が出るかわからないからね、気を付けて」

 少し大きめの荷物袋も譲ってもらって、店を後にしようとしたらモンドールさんに声を掛けられた。法王は少し時間をずらして、こっそり神殿に戻るそうだ。兄弟とはいえ、法王が特定の商会と繋がりがあるように見えてはいけないらしい。

「……俺の特別が師匠だってちゃんとわかってもらえるまで、死ねないので」

 何回でも師匠が欲しいって伝えたつもりだけど、何回言ってもあんまり実感してたようには思えなかったから。何年掛かっても、あがいて、手を伸ばし続けて、伝え続けて、いつかはわかってもらうつもりだ。その時までは死ぬわけにいかないし、その後も一緒にいたいから死ぬつもりはないけど。

「……そっか」

 眉尻を下げて、少し困ったような顔でモンドールさんが笑って、俺の頭をくしゃくしゃ撫でてきた。モンドールさんに撫でられたのは初めてだ。師匠とも、ウィルマさんともカーメルとも違う。

「……頼むね。ルイくん」
「はい」

 家族だけじゃなくて、友だち、にも師匠が大事に思われているのは、俺も嬉しい。

 でも、俺が一番に会いたいから、俺が師匠を探しに行く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

処理中です...