異世界の学園物語

白い犬

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第1章 売却少女

第6話 実力テスト ー夜ー

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 ーあの後。

 俺も無事に?現実へと戻ってきて、試験は終わり。明日からは普通に学園生活も始まるので、今日はもう解散となり、各々の部屋に皆帰って行った。

 もちろん俺も自室に戻り、そして疲れた体を癒そうとベットに入った。そして俺は眠りにつき、起きたらすでに外は暗く。夜になってしまっていた。

「あー、しまったなぁ。晩御飯も取らずに寝てたか。んー、何か作って食べるかな。」

 ちなみに、この世界にも冷蔵庫らしきものは存在しており、学校から食材支給もあるので、材料は色々ある。がぱっと冷蔵庫らしきものを開けて、食材確認。何を作ろうかと、思案していたところに、コンコン、とノックの音がした。さてはまた、リヒター殿か。まぁ1人分くらいなら増えても大丈夫か、と油断したのが命取りだった。扉を開け、相手を確認もせずに、俺は、

「はい、ついでに作りますよ。リヒター、ど、の。」

 なんて言ってしまった。そこに、計7人もいるなんて知らずに。

「え、ほんとにー!?トランさすがー!」

 と、元気にはしゃぐディーナと、

「いやまぁ、そのつもりで来たのだが。太っ腹だな、トランよ。」

 相変わらずたかる気だったリヒター殿と、

「なんかすまねぇな、トラン。」

 おそらく巻き込まれただけのグウェントと、

「庶民料理に期待。」

「ふん、所詮大したことないわよ!」

 期待の目を向けているミーナ様と、失礼なアマリア様と、

「えっと、初めましてー・・・。」

「いきなりすぎてついていけないです。」

 状況においていかれている白髪の女性と、エメラルドの髪の少女がいた。

「あー・・・。」

 でも正直1番戸惑ってるのは俺だから。特に最後の2人が1番謎ですよ、はい。

「リヒター殿、説明を。」

「交友を深めようと、全員連れて来た。以上だ。」

 めちゃくちゃじゃないですかー。まぁ仕方ない、夜は冷えるし、そんな中全員を立たせておくのも申し訳ない。その上、一度作ると言ってしまったし、全員分なんとか作ろう。よし、そうと決まれば。

「はい、じゃあもうみなさん入ってください。さすがに人数が人数なので、簡易なものにしますが、それは許してください。」

「「はーい。」」

 ぞろぞろと俺の部屋に入ってくる。しかし、寮の部屋は人、1人が過ごすぶんには問題ないが、さすがに8人だと辛いものもある。テーブルの周りに4人、ベットの上に2人、床に2人といった感じだろうか。皆もそう思ったらしく、テーブルには、アマリア様、ミーナ様、白髪女性、エメラルド少女の4人。ベットには、グウェントと、ディーナ。床にはリヒター殿が座った。

 ーーいや、リヒター殿。なんで王族のあなたが1番粗末なところにいるんですか。

 なんてことを思ったが、この人は絶対にそんな話は聞いてくれないので、一つため息をついて、料理を始めることにする。

 さて、ところで何を作ろうか。自作のカレールーが確か余ってたし、カレーにしとこうかな。女性陣には、甘口で、男性陣には中辛のがいいかな。

 とりあえず作るものは決まったので手を動かす。まずは具材の下準備。具材を切って、あと玉ねぎはレンジで7分ほど温める。あ、この世界、レンジもあります。

 鍋に水、固形スープ、フォンドボーを入れて火にかける。それで、フライパンにサラダ油と、普通ならニンニクを入れるんだけど、女性陣が嫌がると思うので今回は無しにする。で、それを火にかけ、香りが出たら肉を炒める。

 沸騰した鍋に、炒めた肉とローリエ・ブーケガルニに似たものを入れ、あくを取りながら煮る。肉を取り出したフライパンにバターを加え、玉ねぎをあめ色になるまで炒め、鍋に追加。玉ねぎを取り出したフライパンで、更にジャガイモとニンジンを軽く炒めて鍋に追加する。

 全ての具材を入れて、沸騰させてから15分煮込み、カレールーを加えて10分弱火で煮込む。

 よし、これで後は待つだけ。と、一通りやり終わったので振り返ると、リヒター殿以外のみんなにすごく注目されていた。

「えっと、どうしました?」

 戸惑い気味に、聞いてみると白髪の女性が、

「え、っと、何を作っているのかしら?」

 と聞いて来た。あー、そっか。こっちだと何してるかわからないか。とは言っても、カレーと説明してもわかってはもらえないだろうし・・・。

「アリサ殿、心配するな。トランの作るものは基本的になんでも美味だからな。それに危険もない。」

 ナイスフォローです、リヒター殿。というか、この女性、アリサ殿と言うんだな。覚えておこう。

「とてもいい匂いがしますから、楽しみです。」

「うん、楽しみ。」

 エメラルド少女とミーナ様が、待ち遠しそうに足をパタパタしている。和むな、なんか。

「でもさー、なんかトランの部屋、殺風景だねー。」

 そう言うのはディーナ。そうだろうか?

「必要なもの以外あまり持って来ていないからな。みんなこんなものなんじゃないのか?」

「えー?私は色々持ち込んでるよー?」

 他のみんなを見回してみると、みんな何かしら持ち込んでる様な反応を見せる。俺が変なのか。

「今度私が何か持って来てあげるー!」

「はは、そしたら部屋に飾らせてもらうよ。」

 なんて話していたらちょうど10分ほど経っていたので、火を止めて、盛りつける。そして、皆それぞれに渡す。

「えっと、説明するのもなんなので、とりあえず食べてみてください。あ、ベッド組は零さないように頼むよ。」

 みんなカレーをじっと見てる。どう食べようか悩んでいる感じだな。

「ではいただくぞ、トラン。」

「はい、どうぞリヒター殿。」

 俺の料理に慣れているリヒター殿が、一足早く手をつける。カチャ、とスプーンを手に取り、口元にカレーを運び、食べる。

「ふむ、相変わらずうまいな、貴殿の料理は。下手な宮殿料理よりもよほど優れている。」

「それは褒めすぎですよ。」

 それに俺が発案したわけじゃないしね、カレーライスって。しかし、リヒター殿が手をつけたことで、皆も恐る恐る食べ始める。最初はゆっくりと、だんだん早く。最後には皆、美味しそうに食べてくれていた。よかったよかった。

 ーーで、みんな食べ終わったので、水を配って、挨拶。普通なら順番逆な気もするけれど、まぁいいだろう。

 リヒター殿、グウェントに関しては、もともと知っているので、割愛。それで、皆の挨拶をまとめると、こうなる。

 まずはミーナ様、この国の王族で、第2王女。比較的に口数が少ないものの、感情が顔に出にくいので、誤解されがちらしい。魔法については教えてくれなかった。まぁ、これから敵に回るかもな人たちがいるここで話すわけにはいかないだろうな。

 続いてアマリア様。こちらも王族、第1王女。王族としての意識が強く、気が強い。ただ、物事をはっきりいう人なので、俺は好感をもてる。魔法は残留、これは実際に戦ったので知っている。攻撃の残滓を残すという、なかなか厄介な魔法だった。

 次に、ディーナ。トルーパー軍事学校は、独立都市トルーパーの中に存在しているのだが、そこにはいろんな勢力がある。そのうちの一つに紅い狂犬という、傭兵ヤクザのグループがあるらしいのだが、なんとそこの娘らしい。それで、なんかそのグループには強者に服従というルールがあるらしく、ディーナもそのルールに従うとのこと。つまり俺のいうことは基本聞いてくれるらしい。
 そしてそんな彼女の魔法は、紅纏と言うらしい。体に炎を纏う、と言うが、規模がおかしいので、やはり厄介な魔法である。

 4番目は、アリス殿。なんでもどこかの貴族のご令嬢らしいが、俺はその辺に疎いので、全くわからなかった。この学校には、自分の世界を広げるために来たとのことで、将来の思考の幅を広げたいらしい。物腰柔らかで、温和な性格をしている。魔法は分からなかった。

 5番目は、ティナ殿。こちらはどこかの組織の一員らしい。組織と言っても、悪の組織とかでなく、単純に研究員的な意味でだ。とても優秀で有名らしいが、もちろん俺は知らない。魔法は不明。

 と、ここまで来て次は俺の番なんだけれど。

「でも不思議なんですけど、これだけ有名な面々の中で、あなたは世間的には、全く知られていないのよね。」

 とはアマリア様。そりゃまあ、何もしていませんから。

「えっと、でもトランさんとても強いですよね。どこかで修行とかしてたんですか?」

 ふむ、修行?

「いや、特にはしてないと思うんですけど・・・。」

 と俺が言った矢先、大きな笑い声が響く。リヒター殿だ、どうしたのだろう急に。

「はっはっはっはっは!!これだから面白いんだ、貴殿は!皆の者、トランはな"野望の森"でずっと生活してたのだ。これで、何もしてないと言うのだから、面白いだろう?」

 リヒター殿がそう言うと、周りがシーンとなる。え、森でサバイバル生活ってそんなに驚かれる話?いや確かに、ちょっと原始的すぎるかもだけど。

「はえー、道理でトランは強いわけだね。」

 ディーナ、何がどうなって道理なのだ。サバイバル生活って、そんなに修行としていいのか?

「うそ、だって、あの森って生還率1%切ってる。」

 とは、ティナ殿。え?そうなんですか?

「はー、そりゃディーナにも勝てるわけだ。生活環境からぶっ飛んでるな、トランよ。」

 グウェントにまで言われる始末。何故かみんな珍獣を見るような目で俺を見ている。な、なんとか話を変えねば。

「あー・・・、つ、次のイベントってなんでしたっけ、アリス殿。」

「え?あ、えーと、次は決闘祭かしら?一対一でトーナメント形式の大会だったと思うわ。」

「おー!次は負けないよ、トラン!」

 よし、ディーナが食いついた。

「ふむ、俺も次はトランと戦いたいな。どれくらい迫れるか試して見たい。」

「あー、俺も相手してほしいね。簡単には負けないつもりだぜ?」

 皆、次のイベントに目が行ったな。よしよし。この後も、次のイベントの話や、明日からの話をして、夜も深くなってきたので、解散。ドアの前で皆を見送った。

 しかし、少し歩いたところで、グウェントとアリス殿が止まる。残りのみんなは帰って行ったようだが、どうしたのだろう。

 グウェントとアリス殿が顔を見合わせ、まずアリス殿が近寄ってくる。

「あの、トランさん。この学校に部活が作れることは知ってますか?」

 聞いたことはある。4人以上集めれば、部活を発足できるみたいな話だったはず。

「それで、私は部活を発足してみようと思ってるんです。その部活に、トランさんも入ってほしいな、と。」

「部活に?」

「はい、私が発足しようとしてる部活は、貢献部と言う名前なんですけど、依頼を募って、解決していこうっていう、その、そういうものなんです。」

「なんで俺を?」

「その、こういう学校ですから、依頼もそれなりに危険なものが来ることもあると思いまして。腕の立つ人を誘いたいなとは前々から思っていたんです。」

「なるほど・・・。」

 貢献部、か。もともと俺は、どこか部活に入るつもりはなかったけれど、何かやってみるのもありなのかもしれないな。それに、頼られること自体は悪い気分しないし。

「それで、どうでしょう?」

「はい、俺でよければ是非。」

 ぱあっと、顔を明るくさせるアリス殿。美人がこうやって無邪気に喜んでいるのは、とても眼福だな。

「ありがとうございます、じゃあまた明日。それでは。」

 嬉しそうに去っていくアリス殿。その背中に声をかける。

「アリス殿、今度からは部活仲間です。もう少し砕けた喋り方をしてください。庶民の感覚として、敬語はなんだかムズムズしてしまうので。」

 苦笑しながら言う。さっきから気になっていたのだ。リヒター殿もこんな気分だったのだろうか。

「そう、ですね。うん、わかったわ、トラン。これからよろしくね。」

 にこりと笑うその笑顔に、少しドキッとする。そしてそのまま去っていくアリス殿。美人だな、やはり。

「はは、アリス嬢の反応からして、どうやらいい返事だったようだな。」

「グウェント、お前知ってたのか?」

「俺も熱心に勧誘されてな。美人の頼みは断れないからな。」

「はは、なるほど。じゃあ貴殿とも部活仲間か。」

「あぁ。そう言うことだ。」

「ーーで?貴殿はどうしたんだ?」

「あー、礼を言っておきたくてな。」

 礼?なんの話だろうか。特にグウェントに何かした覚えはないけれど。

「ディーナのことだ。あまり、深いことは言えないんだが、あいつの選択肢を、お前は一つ増やしてくれた。もしかしたら、あいつも変われるかもしれない。その事に、礼を言いたい。」

 ーー俺には、グウェントの言っている意味を完全に理解はできない。でも何か、深い事情があることくらいはわかる。だから今は。

「あぁ、どういたしまして。」

 こう言うのが1番いいのだろう。俺のその言葉に、顔を歪めて、少し辛そうにグウェントは笑う。

「ほんと、いい奴だな、お前は。・・・いつの日か、俺たちのことについて、お前に話したい。その時は、聞いてくれるか?」

 まだ出会ったばかりの俺に、グウェントはそんなことを言う。きっと、よほど溜め込んでいたのだろう。だから、俺なんかでよければ。

「もちろん、いつでも聞くさ。」

「あぁ、ありがとよ、トラン。」

 グウェントは小さく笑い、それじゃあなと言い残し、夜の闇に消えていった。

 ーーこの学校は、その特色上トラブルを抱えた人が多くいる。俺は、その人たち全員を救う気は無いけれど。

 せめて、身近な人は救えるといいな、なんて、明るく輝く月を見ながら、思ったのだった。
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