Rely on -each other-

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 昂良がさつきと交際し始めたのは、入社して一年経過した頃だ。22歳の昂良はすっかり水商売から足を洗い、まるで壮絶な過去が嘘であったかのように日々を謳歌した。

 しかしさつきとの恋人関係においては、一筋縄ではいかなかったと言う。過去の追体験や、生きてきた上で培われた価値観が、昂良に不信感を抱かせたからだ。

「付き合い始めた頃はよくあんな事出来たなってくらい八つ当たりしたし、暴言もたくさん吐いたよ。子供みたいに大泣きしたり、しょっちゅう過呼吸起こして迷惑かけたりさ。でもその度にさつきは抱き締めてくれて、大好きだって言ってくれたんだ」

 苦笑を含んだ口元が、言葉を言い終えるに連れて解れていく。

 もしかしたら、昂良が自分の失態を大袈裟に言っているだけかもしれない。それでも、交際を始めて間も無い頃に全てを受け止め、愛を明言したさつきは、やはり只者ではない。

 昂良曰く、さつきは彼とは正反対の人生を歩んできている。幸せとは何かと言うことを、両親から教えられたような人物だ。そんな二人が交際に至った経緯は皆目想像がつかない。だがどんなにぶつかり合おうと、互いに離れ難い存在だったのは事実だ。

 さつきが居たから“普通”に近付けたと微笑む昂良を見て、二人の間に恋愛とはまた別の愛情が在ったことを不本意ながら悟ってしまう。

「25くらいでここを借りてさ、家具とか二人で選んで、こんな風に飯食いながら結婚したいねーなんて話したりして、本当に幸せだったな」

 もうすぐ一緒に住めるんだね。楽しみだね。
 仲睦まじく、現実になるはずだった夢を語る、昂良とさつきの姿が浮かぶ。本当はさつきが座るはずだった椅子が、心無しかギシッと音を立てた。

「ちゃんと、プロポーズしたかったな……」

 自然と流れ落ちる涙のように、昂良はそう口にした。掠れた言葉尻に、哀感が滲む。

「昂良……」
「わりぃ。変な事まで話したな。味噌汁温め直してくるけど、朔斗は?」
「あ、じゃあ温め……」

 言い終える前に、昂良は二人分の椀を持ってキッチンへと向かった。レンジのスイッチを押しても、視線がこちらへ戻ることはない。何と無く朔斗も俯き待っていると、不意に声が聞こえた。

「話は戻るけど、好きな人に貰うプレゼントってのは嬉しいもんなんだよ。朔斗がこんなことしてくれるのは初めてだし。ほんと、ありがとな」

 昂良の心からの喜びの色が、背中越しにありありと現れている。しかれども『一番嬉しい』と言わないのは、彼の中でさつきがまだ生きているからだ。

 不覚にも寂しいと思う反面、生前と同じように故人を愛せることが、彼の美しさの一つでもあると思ってしまった。 
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