蒼い春も、その先も、

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イタズラは桜色

4-4

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 アールグレイティーを口に含み、穂希は正面にいる椿を見つめた。
 真っ直ぐに伸びた背筋と、やけに整った身なりは、紅茶を飲む姿さえ魅力的に思わせる。

 まるで小説の中から飛び出てきたような存在が校内に在れば、その名が知れ渡るのも必然的な結果なのかもしれない。

 あまりにも無駄の無い彼の品行と風貌には、思わず溜め息が出る。

「……穂希君?」
「あ、ごめんね。じっと見ちゃって。……なんか、椿が人気者なの、分かるなーって思って」
「人気者?」

 椿は目を円くした。
 謙遜ではなく、彼の無自覚が作り出した、いたいけな顔だ。

「妹が言ってたよ。『うちのクラスの女の子も噂してる』って」
「妹さん居たんだ」
「うん、今年から同じ学校」
「……一年生にも知られてるなんて恥ずかしいな。まだ学校も始まってそんなに経ってないのに」

 困り気味の笑顔を見て、知名度の高さが不本意であることを悟る。

 同時に、椿が躊躇い無く異質な自分に近付くのは、彼自身が常に耳目を集める存在である自覚がないからだということに、気付いてしまう。

「……椿さ、俺なんかと話して変に思われない?」
「全然平気だよ」

 迷いのない回答に、穂希は胸を撫で下ろした。

 椿が人格者でなければ、いくら優等生だからと言っても周囲の目は容赦しなかっただろう。
 今頃、二人まとめて白眼視されていたはずだ。

 そんな品行方正な彼が、傷を目の前にすると子供みたいに間誤付くのだから、やはり人の事は見た目だけじゃ何も分からない。

 ――――そう、今だって。

「痣、気になる?」

 椿が弾かれたように顔を上げる。
 手の甲に据えられていた目線を逸らして、彼は小さく頷いた。

「……これね。気付いたらこうなってた。イライラしてスマホで殴ってたみたい」
「……痛くないの?」
「痛いけど、痛い方が落ち着く」
「そっか……」

 葉月にも、過去に同じ質問をされたことがある。その時も今と全く同じ返答をしたのだが、反応の差は予想以上に大きかった。
 葉月が哀調を露にしたのに対し、椿は弱者を慈しむ目つきで微笑んだのだ。

 些細な歪みに気付く度に、彼も自分と同じ“人間”なのだと、安心感を覚えた。
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