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第9話
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ナガノさんに金を差し出す久賀に向かって、俺は感情的に怒鳴った。
「金さえ払えば、何をしても良いと思ってるのか!」
どういう教育受けてきたんだよ!
久賀を睨み付ける俺の内に、怒りと共に沸き上がってきたモノは悲しみだった。
思いも寄らなかった。
確かに学校でのコイツは、彼女取っ替え引っ替えするし、女の子大好きオーラ垂れ流しで、暇さえあれば甘い口説き文句をふざけ口調で囁いていて、到底誠実的とは言い難い人物ではあったが、金で誰とでもヤるような、金で何でも解決しようとするような、そんなヤツだとは思いもしなかった。
だって、あの日のお前がホンモノだと信じていたから。
あの日の、あの雨の日の姿がホントのコイツで、軽い口調も態度も言葉も、全てツクリモノだと思ったからだ。
友人になれば、いつかあの日のお前に会えるだろうか。
あの寂しげな横顔の意味を知ることが出来るだろうか。
そんな風に思っていたのも事実だ。
何かをしてやりたいと思った。
苦しんでいるのなら、手を差し伸べてやりたいと、そう思っていた。
だから、白状すると、こんなに屈辱的な目にあってさえ、俺は久賀を信じていた。
あんなに悲しそうな目をしたヤツが、同じように誰かを悲しませるハズがないと。
とんだキレイゴトだ。
「金さえ払ってくれるなら、お前と寝てやってもいいよ。オガミ」
にっこり。極上の笑み。
学校で机を挟み、フザケあって笑うときの顔に似ている。
「今日の英語の授業が苦痛だ」とか
「俺は体育の授業がかったるい。ねみぃ」とか。
「次自習だってよ」
「ラッキー」とか。
「なぁなぁ学食のラーメンって安くて美味いよな」
「俺はBランチも好き、そぉいやー土井さんがお前の事カワイイって言ってた」
「うぉぉ!可愛いはちょい複雑だが、まじかー!遂に春到来!で、で?土井さんて誰?何年?カワイイ?美人?」
「学食のおばさん」
「ざけんなー!」
なんて、そんないつもの会話をするみたいな温度で、友人の顔をして、久賀は酷く冷たいセリフを口にする。
突き放すためではない。
最初からこの距離だったんだ。
屈託無く笑うコイツに、俺が勝手に勘違いして、仲良くなれたと……一番の友人だと勝手に思っていただけで。
久賀は変わらない。
知り合う前も、今も、同じ距離と同じ温度で接していたのだと、いまさら知った。
痛ぇ。
友人だと思ってた奴にイカされたときより、ナガノさんとキスしてるのを見たときより、今が一番胸が痛い。
金さえ払えば、俺ともヤれて、それは誰でもっていいって意味で、十年ダチでいようが、二十年ダチでいようが、こいつはきっと道で知り合ったばかりの『客』と区別しない。
友人だなんて名称は、なんの意味もない。
『オトモダチとキスをして
オトモダチなら何しても許されて
どんなときでも助けてくれるんだ』
アレはどんな意図を持って、発せられた台詞だったんだろう。
わからない。
分かっているのは、コイツが最悪だということだ。
「だれが……っ!頼まれてもテメェーなんかとヤるかよ!脳みそ腐ってんじゃねぇのか!強姦魔が」
「……強姦?」
訝しげな様子で、ナガノさんがすぐ側の肩を掴んだ。
どういう事だ、とその目が問いかける。
久賀はわざとらしく肩を竦めてみせ悪びれもせずにいい放った。
「事実無根も甚だしい。取引だって言いましたよー俺は。俺のバイトを黙ってて貰う代わりに、助けてあげたんだもん。それを犯罪者呼ばわりするなんて酷くない?むしろ好意的な行動なんですけど?」
「助けてとは確かに言ったけど、誰があんな事しろつったよ。犯罪だ」
あんな恥ずかしい目にあわせろと言った覚えは微塵もない。
お前の"助ける"は大きく間違っている!後さ、あれは絶対に"好意"じゃなかっただろう!
そーゆー親切な心でヒトを助けるようなやつは、取引なんて持ちかけねぇーんだよバーカ!
「だって先にハジメたのは尾上でしょ」
「はぁ!」
「俺にチューしたじゃない?」
「…………」
そうだった。
その後のアレがあまりにも衝撃的で、すっかり忘れていた。って!チューってなんだよ、チューって!ちょっと可愛い言い方するな!
大体、あれは突発的な衝動で……なお悪いっ!
衝動で友だちに問答無用でキスするとかダメだろう!
あー、マジで謎だ。なんで俺はコイツなんかに、キ……ぅ、ぁ……あー、も、考えるの止めようっ。ドツボにハマりそうだ。
「それにお前もノッてたし、和姦じゃね?」
「なっ!なななな」
なんて事を人前で言いやがりますかこのヤロー!
そりゃあ……気持ちヨカッタことは認めます。
すんません、男ですんません。
アレは仕方ないわ、うん仕方ない。
だってね、そんな風に体がね、出来ちゃってるからさ。快感に弱いのはもう仕方ねぇだろ、男だから。そしてコイツが上手いのがいけない。
……これだから、男ってヤツはと自分でも呆れるが、大事なのはカラダの良し悪しより、心の方で、いま問題になってんのもまさにソレで、つまり、何が言いたいのかというと。
「ざけんなー!俺はイヤだっつったのにー!カラダは良くても、心がヤなんだよ!プライドガタガタなんだよテメェの所為で」
って事だよ理解したか。
ああ、もう。今日だけで、一生分の怒りを使い果たしたんじゃねぇーかな。
怒鳴るのにも体力がいるってことが、よっっく分かったぜ。頭が痛い。
「えー、嫌だって言ってたか?んー、ちょっと確かめるから、待って」
「は?」
何を確かめるつったの、お前。
久賀はゴソゴソと服の内ポケットからスマホを取り出し、なにやら操作し始めた。
「これさ、レコーダー機能ついてんだよね。で、たまたまさっきのアレが録音されてたりするんだよね」
ななななにやっちゃってんのお前はぁぁぁ!何処がたまたまだ!それは意図的にと言う!計画的犯行以外の何物でもないわクソ野郎!
「金さえ払えば、何をしても良いと思ってるのか!」
どういう教育受けてきたんだよ!
久賀を睨み付ける俺の内に、怒りと共に沸き上がってきたモノは悲しみだった。
思いも寄らなかった。
確かに学校でのコイツは、彼女取っ替え引っ替えするし、女の子大好きオーラ垂れ流しで、暇さえあれば甘い口説き文句をふざけ口調で囁いていて、到底誠実的とは言い難い人物ではあったが、金で誰とでもヤるような、金で何でも解決しようとするような、そんなヤツだとは思いもしなかった。
だって、あの日のお前がホンモノだと信じていたから。
あの日の、あの雨の日の姿がホントのコイツで、軽い口調も態度も言葉も、全てツクリモノだと思ったからだ。
友人になれば、いつかあの日のお前に会えるだろうか。
あの寂しげな横顔の意味を知ることが出来るだろうか。
そんな風に思っていたのも事実だ。
何かをしてやりたいと思った。
苦しんでいるのなら、手を差し伸べてやりたいと、そう思っていた。
だから、白状すると、こんなに屈辱的な目にあってさえ、俺は久賀を信じていた。
あんなに悲しそうな目をしたヤツが、同じように誰かを悲しませるハズがないと。
とんだキレイゴトだ。
「金さえ払ってくれるなら、お前と寝てやってもいいよ。オガミ」
にっこり。極上の笑み。
学校で机を挟み、フザケあって笑うときの顔に似ている。
「今日の英語の授業が苦痛だ」とか
「俺は体育の授業がかったるい。ねみぃ」とか。
「次自習だってよ」
「ラッキー」とか。
「なぁなぁ学食のラーメンって安くて美味いよな」
「俺はBランチも好き、そぉいやー土井さんがお前の事カワイイって言ってた」
「うぉぉ!可愛いはちょい複雑だが、まじかー!遂に春到来!で、で?土井さんて誰?何年?カワイイ?美人?」
「学食のおばさん」
「ざけんなー!」
なんて、そんないつもの会話をするみたいな温度で、友人の顔をして、久賀は酷く冷たいセリフを口にする。
突き放すためではない。
最初からこの距離だったんだ。
屈託無く笑うコイツに、俺が勝手に勘違いして、仲良くなれたと……一番の友人だと勝手に思っていただけで。
久賀は変わらない。
知り合う前も、今も、同じ距離と同じ温度で接していたのだと、いまさら知った。
痛ぇ。
友人だと思ってた奴にイカされたときより、ナガノさんとキスしてるのを見たときより、今が一番胸が痛い。
金さえ払えば、俺ともヤれて、それは誰でもっていいって意味で、十年ダチでいようが、二十年ダチでいようが、こいつはきっと道で知り合ったばかりの『客』と区別しない。
友人だなんて名称は、なんの意味もない。
『オトモダチとキスをして
オトモダチなら何しても許されて
どんなときでも助けてくれるんだ』
アレはどんな意図を持って、発せられた台詞だったんだろう。
わからない。
分かっているのは、コイツが最悪だということだ。
「だれが……っ!頼まれてもテメェーなんかとヤるかよ!脳みそ腐ってんじゃねぇのか!強姦魔が」
「……強姦?」
訝しげな様子で、ナガノさんがすぐ側の肩を掴んだ。
どういう事だ、とその目が問いかける。
久賀はわざとらしく肩を竦めてみせ悪びれもせずにいい放った。
「事実無根も甚だしい。取引だって言いましたよー俺は。俺のバイトを黙ってて貰う代わりに、助けてあげたんだもん。それを犯罪者呼ばわりするなんて酷くない?むしろ好意的な行動なんですけど?」
「助けてとは確かに言ったけど、誰があんな事しろつったよ。犯罪だ」
あんな恥ずかしい目にあわせろと言った覚えは微塵もない。
お前の"助ける"は大きく間違っている!後さ、あれは絶対に"好意"じゃなかっただろう!
そーゆー親切な心でヒトを助けるようなやつは、取引なんて持ちかけねぇーんだよバーカ!
「だって先にハジメたのは尾上でしょ」
「はぁ!」
「俺にチューしたじゃない?」
「…………」
そうだった。
その後のアレがあまりにも衝撃的で、すっかり忘れていた。って!チューってなんだよ、チューって!ちょっと可愛い言い方するな!
大体、あれは突発的な衝動で……なお悪いっ!
衝動で友だちに問答無用でキスするとかダメだろう!
あー、マジで謎だ。なんで俺はコイツなんかに、キ……ぅ、ぁ……あー、も、考えるの止めようっ。ドツボにハマりそうだ。
「それにお前もノッてたし、和姦じゃね?」
「なっ!なななな」
なんて事を人前で言いやがりますかこのヤロー!
そりゃあ……気持ちヨカッタことは認めます。
すんません、男ですんません。
アレは仕方ないわ、うん仕方ない。
だってね、そんな風に体がね、出来ちゃってるからさ。快感に弱いのはもう仕方ねぇだろ、男だから。そしてコイツが上手いのがいけない。
……これだから、男ってヤツはと自分でも呆れるが、大事なのはカラダの良し悪しより、心の方で、いま問題になってんのもまさにソレで、つまり、何が言いたいのかというと。
「ざけんなー!俺はイヤだっつったのにー!カラダは良くても、心がヤなんだよ!プライドガタガタなんだよテメェの所為で」
って事だよ理解したか。
ああ、もう。今日だけで、一生分の怒りを使い果たしたんじゃねぇーかな。
怒鳴るのにも体力がいるってことが、よっっく分かったぜ。頭が痛い。
「えー、嫌だって言ってたか?んー、ちょっと確かめるから、待って」
「は?」
何を確かめるつったの、お前。
久賀はゴソゴソと服の内ポケットからスマホを取り出し、なにやら操作し始めた。
「これさ、レコーダー機能ついてんだよね。で、たまたまさっきのアレが録音されてたりするんだよね」
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