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第12話
しおりを挟む笑っているのに、泣いてるみたいだ。
ああ、やっぱりお前、泣いてるんじゃないか。
あの。雨の日の姿が、よみがえる。
泣いてた理由は、それか?
生きるために嫌でも笑わなきゃいけない現実に、打ちのめされていたのか?
分かんねぇよ。
ホントのコトなんて何も。
お前何も言わねぇから。
俺も聞かなかった。
そんなの聞かなくても、コイツが対等に接してくれるから、ダチなんだと思い込んでいた。
家族のこと、バイトのこと、何にも知らねぇな。
女の好みすら、微妙だな。
側にいたのに、俺は何も知らない。
知りもしないのに知ったつもりになって、満足していた。
久賀の目をじっと見つめ返す。
その中にある、悲しみを読みとろうとした。
雨の日の横顔に確かに浮かんでいたモノを。
だけど、今は少しも見つけられない。
笑顔がツクリモノだって事しか分からない。
分かりたいよ、お前を―。
気がついたら、ぎゅっと久賀の頭を抱きしめていた。
憎しみでも良い、怒りでも良い、何かが欲しくて何かをあげたい。そんな気持ちだった。
そんな、嘘っぱちの笑顔ばかり、見せんな。
痛いんだ。理由が分からないけど、痛いんだ。
怒りは確かにあった。
だけど、どうしても俺はコイツを憎めない。
嫌いになれない。
「なぁに。やっぱり俺とくっついていたいの?」
くつくつと久賀が笑う。何時ものヒトをからかって楽しむ調子で。
不意に泣きたくなった。
こいつが泣かないからだ。
嘘つきだからだ。
こいつが、多分泣きたいのに笑うからだ。
「なぁ。やっぱりカラダで奉仕しろってこと?」
答えずに、抱きしめる腕の力を強くした。
肯定と思われても仕方ない行動だったと思う。
だけど、どうしても離す事が出来なかった。
その後も久賀は「あんまり情熱的だと照れるねー」とか「こんなに密着されたら、キスも出来ないんだけど?」なんて軽口を並べたけど、それも次第に減って、クスクス笑いも聞こえなくなった。
「……悪いけど、帰ってくれない。オガミン。取引の内容は、次に会うまでに決めておいてよ。ああ、バイト止めるっつーの以外ね」
べりっと襟首を掴まれて、引き剥がされた。
にっこり笑顔がすぐ側だ。女の子たちを口説く時と変わらない笑顔だ。
お前は、いつも笑ってなんて、いなかったんだな。
うそつきな笑顔。
うそつきな愛情。
うそつきな友情。
うそで固めた言葉は、表面しか見ない女の子たちの心を惑わして、うそつきな友情は、俺みたいな単純バカを友人に仕立て上げる。
薄い皮膚の、だけど分厚い嘘の上につくられた外面は、明るくて好意的で、カッコ良くて不敵に笑う。
人を惹きつける。だけどきっと誰にも気づかせない。心の奥にあるホントウには、きっと誰にも触らせない。
誰も何も知らずに、うそつきのコイツと接している。
ホントは少しも笑ってはいないコイツを、誰も見つけられないんだ。
じわりと熱いモノが込み上げてきた。
「ぷっ。なんで泣くの?お前って理解不能」
久賀は吹き出したけど、少しも楽しそうじゃなかった。
もう、そんな風には見えない。
「オガミンは泣いた顔もぶちゃいくだなぁ」
酷い言葉を吐きながら、久賀が目尻に口付けて涙を奪っていった。言葉とは裏腹に、その唇は心が震えるくらい優しかった。
ただ、涙を受け取るためだけに触れたソレが、とても大切で愛しいモノに感じた。
酷い、ヤツだ。
なんて酷いヤツ。
うそつきな笑顔で拒否するくせに、こんなに優しく触れるなんて、なんて残酷なんだろう。
心は突き放すくせに、触れるときはとても優しい。ありもしない好意を探してしまうくらいに、嘘でまみれたコイツは魅力的だった。
それは、なんて、哀しいことだろうか。
役目を終えた唇が離れていく。寂しい。何故だか、とても寂しいな。寂しくて、悲しいよ。
「お子ちゃまは帰りなさいよ。バイバイ。尾上」
また明日なと、友人の笑顔で久賀は手を振った。
あたたかく、やわらかな笑顔で拒絶された。
睨まれるより、冷たい言葉を投げつけられるより、ずっと苦しくて痛かった。
俺は、カバンを掴んでのろのろと立ち上がり、一ミリも揺るがない、キレーな笑顔を見下ろした。
結局、コイツの表情を変えたのはナガノさんで、俺の言葉や態度じゃ少しも響かないし、揺るがない。
その場から立ち去る以外に、何が出来ただろう。
いったい俺には、なにが出来るんだろう。
久賀に、何かをしてやりたくて、結局、何一つ出来ないまま俺は駆け出した。
嘘で固めた笑顔一つ崩せない俺に、一体 何が出来ただろう。
なにが、出来たのだろう。
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