うそつきな友情(改訂版)

あきる

文字の大きさ
36 / 135

side久賀1-3

しおりを挟む
 普通に今のは危険だと、今後のためを思って軽く説明してやった。
 人が話してる間も、ぽたぽたと涙をこぼす相手に、はぁとため息が漏れる。

「久賀、ゴメンッ」

 だから、そんなに自分を責めなくても良いって言って……ないか、さっきから。思ってるだけで、言葉にして無かったや。まぁ、慰めてやる義務はないから、わざわざ伝えたりしませんけどね。

「尾上って無謀」

「ごめん」

「単細胞」

「ううっ」

「ワンコ」

「ワンコは関係ねぇーし」

 ぱたぱた。
 涙が止まらないらしい。
 拭っても拭っても、流れ落ちていた。

「変なヤツ」

 いや。別に変ではないか。
 俺もあの時は泣いたなぁ。と昔を思い出してみる。
 自分の愚かさを呪って泣いた。
 泣いて、泣いて、泣き続けて、ある日、泣くのを止めた。
 泣いても、現実は変わらなくて、起きてしまったことは消せなくて、過去は覆せないと知ったからだ。

 自分の愚かさをいまでも責めて、悔いてはいるけれど、もう泣いたりはしない。無駄だから。

「なぁ。なんで泣いてんの、オガミン」

「なんでって」

「ん?」

「お、俺が後先、考えなかった所為で、お、お前がっ、死ぬかと」

 だばーっと涙の洪水だ。
 あー……びっくりするなぁ。
 そんなに泣いたら、涸れちゃうんじゃない? 

「あのさ、俺生きてますが、まだ泣く必要あるの?」

「だ、だって」

「なに?くたばった方が良かった?」

「ふざけんな。冗談でも言うな!馬鹿じゃねぇの!」

 おーこーらーれーた。
 せぬ。ってこんな時に使う言葉だな。
 尾上はころころ表情が変わって忙しいね。
 ヒトの事に口出すわ、泣くわ、怒鳴るわ、とどめに飛ぶわ……なんて面倒なヤツ。

「ああっ。クソッ。止まらねぇーし」

 ごしごしと袖で目を擦りながら尾上が言った。一応、止めようとはしてるらしい、涙を。
 一歩間違えば大怪我か下手すりゃ死んでいたかもしれない、短絡的で衝動的な行動をとったせいで、神経がびっくりしちゃってるのかな?
 思い通りにならない涙にイラつきながら腕を顔に押しつけている。
 あのさ、そんなに乱暴にしたら怪我するよ。
 
 過去の経験から言うと、止めようと思っても止まらないときは、いっそ涸れるまで泣いちゃうか。

「別のショックを与えたらいい」

 なんか言った?と訊ねてくる相手の腕を引っ張って、目を合わせた。

 涙で濡れて、赤くなった目。色気なんて豆粒ほどもなくて、好みには掠りもしない。
 ああ。でも、キスは悪くなかっな、なんて、欠片ほど思ったりもする。

 まるで砂漠で水を求められたみたいに必死で、飢えて乾いた旅人みたいに命懸けだった。
 あんなキスなら悪くはないなと、自然と口の端を緩めながら、そっと尾上の唇を自らのそれで塞いだ。

 悪くないと思った奪い取るような激しさとは真逆の、触れるだけの厳粛な誓いのようなキスをした。
 なんて似合わない。
 思わず笑った。

 キスは嫌いではない。
 奪い合うような、求められるようなキスならば、なおのことだ。

「……止まった?」

「は?え、ええっ!?」

 ガッチガチに硬直しちゃった尾上は、何が起きたのか分からないって顔であー。とか、う゛ー。とか、意味不明な言葉を発していた。
 うーん。玄人相手に商売してるからな……キスくらいで初々しい反応とかされると、新鮮すぎて笑える。
 あんまり無茶するからつい助けちゃったけど、これ以上のサービスは有料ですよ、お客さん。

 ビックリして涙も引っ込んだ相手に、よしよしと満足する。人の名前を呼びながら泣き続けられてみ。首の後ろが痒くて仕方ねぇから。

 打ち付けた背中がずきりと痛んだ。
 頭痛は相変わらずだ。
 残念ながら、尾上の涙は止めることは出来ても、自分の痛みは無理らしい。

 そして、イヤなことにイヤな事は重なるわけだ。
 ソレほどにごうが深いか……当然だ。

 ブブーとスマホが振動し、ポケットから取り出した。
 メッセージを受信したスマホの表示を見る。
 送り主のアドレスは『黒曜』だった。先ほどの鬼畜云々を思い出して、ついつい「あ。サド皇帝さまだ」と呟いてしまった。
 しかも、うっかり気が抜けて、素の表情をしてしまったらしぃ。尾上が意外に目聡いってこと忘れてたよ。

 余談だけど、このうっかりミスのせいで、尾上に色々としつこく追求されて、ほんと、面倒くさくて堪らなかった。やっぱ働きすぎはダメだ。脳みそ動かないからね。


 頭痛が止まらない額を押さえながら、メッセージを確認すると、命令口調の一文があった。

『来い』

(……犬じゃねぇっての)
 
 たった二つの文字からでも、ひしひしと伝わってくる傍若無人な態度に、いらっとする。
 だが、彼は上客だ。しかも、今はたまたまこちらに滞在中だが、普段は日本各地やら海外やらと忙しく飛び回っているので、稼ぐならば今しかない。

 ほかの予定をすべて取っ払っても、皇帝さまだけは別口扱い。
 何故ならば、気難しいサド帝さまを満足させた場合、三日で一月の稼ぎが得られるのだ。
 七桁は稼いでやると意気込み、強がってにやりと笑みをつくった。
 正直なハナシ、通常な状態でも適わない相手なので、体調が芳しくない今はご遠慮したいのだが、大金を目の前に尻込みなんてしてられない。

 カラダなんて、使える内に使い切ってしまえ。
 一円でも多く、言葉と色で稼いでみせる。

 ああ、それにしても気紛れだな。
 前に帰国してたときは、一ヶ月音沙汰なしだったくせに、今回は四日連続だ。
 三日の拘束とねちっこい責めじゃぁ満足できないわけかよ、ドSめ。
 ああ。いっそマゾになりたい。鬼的な責め苦に狂う前に、ドがつくマゾにしてくれよ。
 いや、ダメだ。ドSとドMじゃぁ相性良すぎて歯止めがきかないだろう。
 下手すりゃヤり殺される。
 俺もさ、どっちかっつーとS属性なんだけどなぁ。いや、限りなくノーマルに近いSね。

 SとSは反発し合うんだよ。
 分かってて楽しんでるサド帝を恨むぜ。
 いつか主導権奪ってやるからな。
 
 心の中でドSな上客をなじって、ちょっぴり精神回復。
 体力・精神ともに空っぽでも、金のためならば無理やり絞り出してやりましょう。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...