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side久賀1-3
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普通に今のは危険だと、今後のためを思って軽く説明してやった。
人が話してる間も、ぽたぽたと涙をこぼす相手に、はぁとため息が漏れる。
「久賀、ゴメンッ」
だから、そんなに自分を責めなくても良いって言って……ないか、さっきから。思ってるだけで、言葉にして無かったや。まぁ、慰めてやる義務はないから、わざわざ伝えたりしませんけどね。
「尾上って無謀」
「ごめん」
「単細胞」
「ううっ」
「ワンコ」
「ワンコは関係ねぇーし」
ぱたぱた。
涙が止まらないらしい。
拭っても拭っても、流れ落ちていた。
「変なヤツ」
いや。別に変ではないか。
俺もあの時は泣いたなぁ。と昔を思い出してみる。
自分の愚かさを呪って泣いた。
泣いて、泣いて、泣き続けて、ある日、泣くのを止めた。
泣いても、現実は変わらなくて、起きてしまったことは消せなくて、過去は覆せないと知ったからだ。
自分の愚かさをいまでも責めて、悔いてはいるけれど、もう泣いたりはしない。無駄だから。
「なぁ。なんで泣いてんの、オガミン」
「なんでって」
「ん?」
「お、俺が後先、考えなかった所為で、お、お前がっ、死ぬかと」
だばーっと涙の洪水だ。
あー……びっくりするなぁ。
そんなに泣いたら、涸れちゃうんじゃない?
「あのさ、俺生きてますが、まだ泣く必要あるの?」
「だ、だって」
「なに?くたばった方が良かった?」
「ふざけんな。冗談でも言うな!馬鹿じゃねぇの!」
おーこーらーれーた。
解せぬ。ってこんな時に使う言葉だな。
尾上はころころ表情が変わって忙しいね。
ヒトの事に口出すわ、泣くわ、怒鳴るわ、とどめに飛ぶわ……なんて面倒なヤツ。
「ああっ。クソッ。止まらねぇーし」
ごしごしと袖で目を擦りながら尾上が言った。一応、止めようとはしてるらしい、涙を。
一歩間違えば大怪我か下手すりゃ死んでいたかもしれない、短絡的で衝動的な行動をとったせいで、神経がびっくりしちゃってるのかな?
思い通りにならない涙にイラつきながら腕を顔に押しつけている。
あのさ、そんなに乱暴にしたら怪我するよ。
過去の経験から言うと、止めようと思っても止まらないときは、いっそ涸れるまで泣いちゃうか。
「別のショックを与えたらいい」
なんか言った?と訊ねてくる相手の腕を引っ張って、目を合わせた。
涙で濡れて、赤くなった目。色気なんて豆粒ほどもなくて、好みには掠りもしない。
ああ。でも、キスは悪くなかっな、なんて、欠片ほど思ったりもする。
まるで砂漠で水を求められたみたいに必死で、飢えて乾いた旅人みたいに命懸けだった。
あんなキスなら悪くはないなと、自然と口の端を緩めながら、そっと尾上の唇を自らのそれで塞いだ。
悪くないと思った奪い取るような激しさとは真逆の、触れるだけの厳粛な誓いのようなキスをした。
なんて似合わない。
思わず笑った。
キスは嫌いではない。
奪い合うような、求められるようなキスならば、なおのことだ。
「……止まった?」
「は?え、ええっ!?」
ガッチガチに硬直しちゃった尾上は、何が起きたのか分からないって顔であー。とか、う゛ー。とか、意味不明な言葉を発していた。
うーん。玄人相手に商売してるからな……キスくらいで初々しい反応とかされると、新鮮すぎて笑える。
あんまり無茶するからつい助けちゃったけど、これ以上のサービスは有料ですよ、お客さん。
ビックリして涙も引っ込んだ相手に、よしよしと満足する。人の名前を呼びながら泣き続けられてみ。首の後ろが痒くて仕方ねぇから。
打ち付けた背中がずきりと痛んだ。
頭痛は相変わらずだ。
残念ながら、尾上の涙は止めることは出来ても、自分の痛みは無理らしい。
そして、イヤなことにイヤな事は重なるわけだ。
ソレほどに業が深いか……当然だ。
ブブーとスマホが振動し、ポケットから取り出した。
メッセージを受信したスマホの表示を見る。
送り主のアドレスは『黒曜』だった。先ほどの鬼畜云々を思い出して、ついつい「あ。サド皇帝さまだ」と呟いてしまった。
しかも、うっかり気が抜けて、素の表情をしてしまったらしぃ。尾上が意外に目聡いってこと忘れてたよ。
余談だけど、このうっかりミスのせいで、尾上に色々としつこく追求されて、ほんと、面倒くさくて堪らなかった。やっぱ働きすぎはダメだ。脳みそ動かないからね。
頭痛が止まらない額を押さえながら、メッセージを確認すると、命令口調の一文があった。
『来い』
(……犬じゃねぇっての)
たった二つの文字からでも、ひしひしと伝わってくる傍若無人な態度に、いらっとする。
だが、彼は上客だ。しかも、今はたまたまこちらに滞在中だが、普段は日本各地やら海外やらと忙しく飛び回っているので、稼ぐならば今しかない。
ほかの予定をすべて取っ払っても、皇帝さまだけは別口扱い。
何故ならば、気難しいサド帝さまを満足させた場合、三日で一月の稼ぎが得られるのだ。
七桁は稼いでやると意気込み、強がってにやりと笑みをつくった。
正直なハナシ、通常な状態でも適わない相手なので、体調が芳しくない今はご遠慮したいのだが、大金を目の前に尻込みなんてしてられない。
カラダなんて、使える内に使い切ってしまえ。
一円でも多く、言葉と色で稼いでみせる。
ああ、それにしても気紛れだな。
前に帰国してたときは、一ヶ月音沙汰なしだったくせに、今回は四日連続だ。
三日の拘束とねちっこい責めじゃぁ満足できないわけかよ、ドSめ。
ああ。いっそマゾになりたい。鬼的な責め苦に狂う前に、ドがつくマゾにしてくれよ。
いや、ダメだ。ドSとドMじゃぁ相性良すぎて歯止めがきかないだろう。
下手すりゃヤり殺される。
俺もさ、どっちかっつーとS属性なんだけどなぁ。いや、限りなくノーマルに近いSね。
SとSは反発し合うんだよ。
分かってて楽しんでるサド帝を恨むぜ。
いつか主導権奪ってやるからな。
心の中でドSな上客をなじって、ちょっぴり精神回復。
体力・精神ともに空っぽでも、金のためならば無理やり絞り出してやりましょう。
人が話してる間も、ぽたぽたと涙をこぼす相手に、はぁとため息が漏れる。
「久賀、ゴメンッ」
だから、そんなに自分を責めなくても良いって言って……ないか、さっきから。思ってるだけで、言葉にして無かったや。まぁ、慰めてやる義務はないから、わざわざ伝えたりしませんけどね。
「尾上って無謀」
「ごめん」
「単細胞」
「ううっ」
「ワンコ」
「ワンコは関係ねぇーし」
ぱたぱた。
涙が止まらないらしい。
拭っても拭っても、流れ落ちていた。
「変なヤツ」
いや。別に変ではないか。
俺もあの時は泣いたなぁ。と昔を思い出してみる。
自分の愚かさを呪って泣いた。
泣いて、泣いて、泣き続けて、ある日、泣くのを止めた。
泣いても、現実は変わらなくて、起きてしまったことは消せなくて、過去は覆せないと知ったからだ。
自分の愚かさをいまでも責めて、悔いてはいるけれど、もう泣いたりはしない。無駄だから。
「なぁ。なんで泣いてんの、オガミン」
「なんでって」
「ん?」
「お、俺が後先、考えなかった所為で、お、お前がっ、死ぬかと」
だばーっと涙の洪水だ。
あー……びっくりするなぁ。
そんなに泣いたら、涸れちゃうんじゃない?
「あのさ、俺生きてますが、まだ泣く必要あるの?」
「だ、だって」
「なに?くたばった方が良かった?」
「ふざけんな。冗談でも言うな!馬鹿じゃねぇの!」
おーこーらーれーた。
解せぬ。ってこんな時に使う言葉だな。
尾上はころころ表情が変わって忙しいね。
ヒトの事に口出すわ、泣くわ、怒鳴るわ、とどめに飛ぶわ……なんて面倒なヤツ。
「ああっ。クソッ。止まらねぇーし」
ごしごしと袖で目を擦りながら尾上が言った。一応、止めようとはしてるらしい、涙を。
一歩間違えば大怪我か下手すりゃ死んでいたかもしれない、短絡的で衝動的な行動をとったせいで、神経がびっくりしちゃってるのかな?
思い通りにならない涙にイラつきながら腕を顔に押しつけている。
あのさ、そんなに乱暴にしたら怪我するよ。
過去の経験から言うと、止めようと思っても止まらないときは、いっそ涸れるまで泣いちゃうか。
「別のショックを与えたらいい」
なんか言った?と訊ねてくる相手の腕を引っ張って、目を合わせた。
涙で濡れて、赤くなった目。色気なんて豆粒ほどもなくて、好みには掠りもしない。
ああ。でも、キスは悪くなかっな、なんて、欠片ほど思ったりもする。
まるで砂漠で水を求められたみたいに必死で、飢えて乾いた旅人みたいに命懸けだった。
あんなキスなら悪くはないなと、自然と口の端を緩めながら、そっと尾上の唇を自らのそれで塞いだ。
悪くないと思った奪い取るような激しさとは真逆の、触れるだけの厳粛な誓いのようなキスをした。
なんて似合わない。
思わず笑った。
キスは嫌いではない。
奪い合うような、求められるようなキスならば、なおのことだ。
「……止まった?」
「は?え、ええっ!?」
ガッチガチに硬直しちゃった尾上は、何が起きたのか分からないって顔であー。とか、う゛ー。とか、意味不明な言葉を発していた。
うーん。玄人相手に商売してるからな……キスくらいで初々しい反応とかされると、新鮮すぎて笑える。
あんまり無茶するからつい助けちゃったけど、これ以上のサービスは有料ですよ、お客さん。
ビックリして涙も引っ込んだ相手に、よしよしと満足する。人の名前を呼びながら泣き続けられてみ。首の後ろが痒くて仕方ねぇから。
打ち付けた背中がずきりと痛んだ。
頭痛は相変わらずだ。
残念ながら、尾上の涙は止めることは出来ても、自分の痛みは無理らしい。
そして、イヤなことにイヤな事は重なるわけだ。
ソレほどに業が深いか……当然だ。
ブブーとスマホが振動し、ポケットから取り出した。
メッセージを受信したスマホの表示を見る。
送り主のアドレスは『黒曜』だった。先ほどの鬼畜云々を思い出して、ついつい「あ。サド皇帝さまだ」と呟いてしまった。
しかも、うっかり気が抜けて、素の表情をしてしまったらしぃ。尾上が意外に目聡いってこと忘れてたよ。
余談だけど、このうっかりミスのせいで、尾上に色々としつこく追求されて、ほんと、面倒くさくて堪らなかった。やっぱ働きすぎはダメだ。脳みそ動かないからね。
頭痛が止まらない額を押さえながら、メッセージを確認すると、命令口調の一文があった。
『来い』
(……犬じゃねぇっての)
たった二つの文字からでも、ひしひしと伝わってくる傍若無人な態度に、いらっとする。
だが、彼は上客だ。しかも、今はたまたまこちらに滞在中だが、普段は日本各地やら海外やらと忙しく飛び回っているので、稼ぐならば今しかない。
ほかの予定をすべて取っ払っても、皇帝さまだけは別口扱い。
何故ならば、気難しいサド帝さまを満足させた場合、三日で一月の稼ぎが得られるのだ。
七桁は稼いでやると意気込み、強がってにやりと笑みをつくった。
正直なハナシ、通常な状態でも適わない相手なので、体調が芳しくない今はご遠慮したいのだが、大金を目の前に尻込みなんてしてられない。
カラダなんて、使える内に使い切ってしまえ。
一円でも多く、言葉と色で稼いでみせる。
ああ、それにしても気紛れだな。
前に帰国してたときは、一ヶ月音沙汰なしだったくせに、今回は四日連続だ。
三日の拘束とねちっこい責めじゃぁ満足できないわけかよ、ドSめ。
ああ。いっそマゾになりたい。鬼的な責め苦に狂う前に、ドがつくマゾにしてくれよ。
いや、ダメだ。ドSとドMじゃぁ相性良すぎて歯止めがきかないだろう。
下手すりゃヤり殺される。
俺もさ、どっちかっつーとS属性なんだけどなぁ。いや、限りなくノーマルに近いSね。
SとSは反発し合うんだよ。
分かってて楽しんでるサド帝を恨むぜ。
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