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side久賀1-5
しおりを挟む柔らかな皮膚の下を巡る血流を密着したカラダ全体で感じながら、服の裾から差し入れた掌で背を撫でた。
壁際に追い込んだ相手の肩がびくりと跳ね上がる。
逃げよう、逃げようとする舌を追いかけて、追い詰める。
事務的な情熱だ。
長いこと客を相手にしていると、心は冷めてはいてもカラダだけに熱を灯すなんて芸当が身につく。
求められるモノは快楽と擬似の愛情。
抱き合っているその間だけ、世界中の誰よりも愛しているフリをして、誰よりも必要なフリをする。
ホンモノの愛情はカケラくらいあればいい方で、お互いに明日死んでしまっても、涙の一粒だって流さない。
お金で繋がった関係なんて、その程度で十分。
執着は無くした時に悲しいだけだ。
だから今はもう、誰かに心を寄せたりはしない。
もっとも、俺の心はとっくの昔に止まってしまって、いまもそのままだ。
大切だと思える相手は史ちゃんかトモくらいで、新たに増えようがないみたいだ。
心はいつだって冷めている。
カラダだけはお客様の望み通り。
舐めるのもかじるのも撫でるのもジラすのも弄るのも、お好きなようにがモットーです。
勿論、マネー次第ですがね。
払えるものさえ払っていただけるのなら、どんな扱いだって受け入れますよ。
バシッと頬を叩かれて『暴力は別料金だぞ』と声には出さず呟いた。
「ひ、ヒトの話聞けよ、バカ!」
耳まで赤く染めた相手が、キャンキャンと騒いだ。
ホント、犬みたい。
別に犬は嫌いじゃないけど、鳴き声がうるさいのは勘弁願いたいなぁ。
相手を見下ろして、片目だけを細めてみる。
「『俺が買う」って、言ったのは尾上でしょ?なにか間違ったかな、俺は」
「そ、そーゆー意味で言ったんじゃないしっ」
真っ赤になって反論する相手に、なら、どういう意味だよと呆れて見せた。
つか、ウリやってるヤツに『買う』なんて言ったら、どう考えてもそーゆー意味だろう。
しつこいコイツをようやく追い払ったと思っていたら、西河原のあほうが引き摺って来やがった。
多目的ホールの屋根からジャンプして、軽く下敷きにされて、意識ぶっ飛んで、うるせぇー声に安眠を妨害されて、マイすぅぃーとトモちゃんに癒されてたら、うるせぇー西河原とこれまたしつけぇーコイツにアーダこーだと騒ぎたてられ、運良く入ったバイトを口実に逃げようとしたら尾上の「俺が買う」発言に思考回路がショートして……あー。もー。回想すんのも面倒くせぇ。
壁際に追い詰めた相手を、じっと見下ろした。
うろうろと視線がさ迷ってふいっと顔が逸らされる。が、茹でたタコみたいに真っ赤な顔になった後、覚悟を決めるようにぐっと歯を食いしばり、視線をあげた。
真っ直ぐな目は、負けるもんかと叫んでいるみたいだ。視線をそらした方が敗者だ!とでも言い出しそうな雰囲気。
そんな相手をマジマジと観察する。
『尾上輝』
不可解な同級生だ。
しつこくされるのが面倒で、何度も突き放そうとしているのに、まったくへこたれてくれない。
にっこり笑ってあしらうだけぢゃあ、伝わらないくらい鈍いのかな、コイツ。所謂、空気読めないタイプ……では、無さそうだけど……不可解だ。
もっとハッキリ言葉にすべきだろうか。
『(尾上的意味での)ダチになる気はねぇ』とか『近づくな』とか『もう俺にかかわるなよ』とか?うーん、そんなこと言ったら泣いちゃいそうだよね、オガミンは。
さて、どうやったら子犬みたいにうるさくて、懐いて(いるんだよな、多分。意味不明だけど)くる相手を泣かさずに、関係を断ち切れるかなと考えて、『あれれ?』と自分の思考に疑問を抱いた。
(もしかして、泣かせたくないとか思っちゃってるのか、俺は)
挑むような視線を向けてくる相手を見下ろして、ことりと首を傾げた。
つられたように、ちょっぴり頭を傾ける相手。
「な、なんだよっ。言いたいことがあるなら、言えよっ!」
と、喧嘩を売ってんですかね?と訊ねたくなるくらい、ツンツンした口調で尾上が吠えた。
ウルサイわんこの投げかけには応えてやらずに、じいっと相手を観察する。
誰かの痛みなんかを気にしてやるつもりはまったく無くて、そもそもシリアスモードは天敵だ。
薄っぺらくてなまぬるく、ニセモノの愛情と一夜限りの快感と、愉快な刹那を生きるのが、俺のスタイルです。
来る者は面倒ぢゃない限り拒みませし、去る者を追いかけたりもしませんよ。
切り捨てて置き去りにする奴らをいちいち哀れんだりしない。ビジネスならば、抱くのも抱かれるのもオッケイですが、金額以上の事を要求されても困りますよ、お客様。
傷つけられたと怒る相手には『傷つくのが嫌なら、寄ってこなければいい』と吐き捨てる。
愛が欲しいと縋ってくる相手には『ビジネスによる、まがい物ならいくらでも』と笑って返す。
憎しみを抱いて殴りかかってくるヤツは、西河原あたりに押し付けて、それが無理そうなら面倒だけど相手をしてあげる。金にならないケンカなんて、体力の無駄遣い過ぎて嫌だけどね。
サイテーなんて言葉は、聞き慣れたし自覚ありなわけで、誰に何を言われても止まったままの心は痛んだりしない。
誰を傷つけても、誰に傷つけられても、俺は揺らいだりしない。
だからさ、オガミンが泣こうが傷つこうが、俺にはカンケーないし、無くしたって困らないんだからハッキリ『うぜぇ』と言えばいい。
どうした俺。疲労が限界値突破しちゃった所為で、あしらうのも面倒になったか?
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