うそつきな友情(改訂版)

あきる

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side久賀1-6

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 どうすればそんなに赤くなれるの?ってくらい茹で上がる顔を見下ろしながら『泣かれると困るかな、どうだろう』と自問してみる。
 切り捨てることは容易いはずだ。
 現に、何度も突き放そうとイヂワルな事もしたしね。
 それでも尾上は関わってきて、面倒くせぇって思うことさえ面倒になってきた。

(確かに良いヤツなんだけど……良いヤツなんて別にいらねぇし)

 困るかどうかはさておき、泣かれるのはきっと面倒くさい。
 泣きながら後をついてこられるのも面倒くさい。
 しかし、今後もしつこくされるのは、なにより激しく面倒くせぇ。仕方ない。キッパリ、ハッキリ言ってしまえ。

「あのさ。俺はね、お前のお遊びとか安売りの友情ごっこに付き合ってる暇はねぇーの。お客さんになりたいってゆーならモチロン止めないけど、出すモノは出せよ?冷やかしはお断り」

「だから、客になりたいわけじゃ、無くて……」

 だったらなんだよ。歯切れ悪いな。
 あと、先に視線を逸らしたから、お前の負けね。
 いつから勝負になってたよ、なんて親切な突っ込みはいらない。
 俯いてしまったワンコのつむじを見下ろしながら、あー。傷ついちゃったかな?ゴメンね、オガミン……なんて、目に見えて落ち込む相手がほんの少しだけ可哀想に思え、ちゃダメだろ、俺。落ち着け。多分、今の俺は普通ぢゃない。

 やっぱ寝不足はダメだ。
 いくら上客が相手でも睡眠時間は確保しなきゃ。
 思考回路もまともに確立出来ないんじゃぁ、上客どころか他の客もつまんねぇミスで失っちまうぞ。
 哀愁漂ってるワンコなんかに、うっかりほだされてる場合じゃねぇから。

(落ち着け。俺のやるべき事を……思い出せ)

 いま何のために息をして。
 何を得るために笑って。
 誰を生かすために生きているのか。

「……金を、稼がなきゃ」

「え?なに?」

 目を閉じると、今でもまざまざと思い浮かぶ場面がある。
 
 鮮やかに咲いた花の赤は、大切なあのひとの命の色だ。
 涸れてしまったのは、誰かのために流した涙で、振り払ったものは、唯一の愛だった。
 とても酷い言葉を吐き出した日に、心が死んだ。

 後悔はしている。涸れ果てた涙は、もう一滴だって湧きあがってはこないけれど、心に降る雨はやみそうになかった。

 許されがたき愚行の償いは、このカラダと言葉と色で、金を手に入れる事だ。
 それが俺に出来る、唯一の贖罪しょくざいだった。

 赤は罪の色だ。
 後悔の色だ。

 脳裏に焼き付く光景を、一生背負って生きる。
 いつか、気まぐれのカミサマが、気まぐれに微笑んでくれる奇跡がおきるまで、俺の心は凍ったままだ。

 役立たずな心なんかどうだって良い。
 使えるカラダだけを有効活用すればいい。

 ふらりと歩き出す。目の前は、赤色でいっぱいだ。
 寝不足と、体調不良による軽い幻覚か。
 うぜぇ脳みそだ。
 大丈夫。分かってるよ。何度もリプレイするな、バグ脳め。
 もう二度と、大事なモノを見誤ったりしない。
 自分のすべき事を放棄したりもしない。

 幸せを、求めたりもしません。
 楽しい日々を過ごすことも、ホントのキモチで笑うこともしません。
 誰かに愛されたいと想うことも、誰かを愛したりもしないから。
 だからどうか、カミサマ。
 気まぐれの奇跡を、俺に下さい。
 他にはもう何も、望んだりはしないから、だから…………。

「どこ行くんだよ。久賀っ!」

 ぱしりっと左手を掴まれた瞬間、赤い景色は消え去った。
 手首に自分のモノではない体温を感じる。
 ソコからじわりと伝わる熱に、ラリった思考は侵蝕されて今に引き戻された。

 振り返れば、現実だ。

 暗く沈む闇色なんて弾き飛ばす、強烈な光を見た気がした。
 力強い意志を抱いた瞳が、真っ直ぐに向けられている。
 ウザイとか面倒だとか思う前に『ヤバい』と思った。
 なりふり構わず逃げなければヤバい。

 コレはきっと危険なイキモノだ。
 このイキモノはとっくの昔に捨て去った、あたたかくて優しい何かを体現している。
 手にする資格が無いと分かっていながら、側に居たら羨望してしまうかも知れない。

「……いったい今度は何。いい加減にしようか、尾上。俺を買うって言ったり、客になるつもりはねぇとか言ったり、意味が分からない。冷やかしはお断りだって言ったよな?これ以上意味不明な事をしつこく続けるなら、いっそブチのめ」

 ブチのめして埋めるぞ。まで続く脅し文句は、突然の乱入者からの頭部への一撃に阻まれ中途半端になった。
 今度はなんだよ!どいつもこいつもぶっ飛ばすぞ。
 睡眠不足が拍車をかけるイライラが、予定外の出来事の所為で忍耐力マックス地点到着まで後わずか。到着どころか、軽く突破するだろう。

 殴ってバラして埋めるぞ。

 そんな気持ちで振り返ると、カバンを二つ手にした無愛想男が立っていた。

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