うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第39話

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 久賀の服を掴む手を、背中に回そうかどうしようかと悩み…………ええぃ!“棚ぼた”だ!堪能してしまえ!!
 目を堅く閉じてぎゅっと抱きしめ返せば、心は喜びで壊れそうになった。

 久賀の掌は冷たくて、体温は奪われるばかりだけど、好きな人の冷え切ったカラダをあたためてあげられるなら、冷たさなんて些細なことだ。
 何かをしてあげられる。
 好きな人を、ちょっとでも幸せにしてあげられる。
 そんなちっぽけな事が、とても得難い幸福に感じた。

 恋は凄い。
 何でもないことで、こんなにも幸せになれるんだ。

 ぎゅっと抱き締められて、抱きしめ返して、幸せで幸せで、頬はだらしなく緩む。

 なんでも、あげる。
 なんでもしてあげる。
 なにをしても許してやる。

 俺はお前がとても。

「トモ……」

 呟きに、心臓は瞬く間に凍りついた。
 冷たくて鋭い刃に、心を抉られる。
 さっと血が引く音を聞いた気がする。ドクドクと脈打っていた心音は、悲しみのリズムを刻んでいた。

 恋は凄い。
 何でも無い一言で、心がズタズタに引き裂かれる。
 カラダを埋め尽くしていた喜びは、ひと欠片すら残さずに散ってしまった。
 後は、悲しみと後悔が心に空洞を生み出すばかりだ。

 カナシイ。カナシイ。カナシイ。

 涙は……涙は歯を食いしばって引っ込めるしかない。
 傷ついたのは自惚れた所為だから。
 好かれてはいないなんて確認しなくても分かっていたのに。
 愛されたいと、願ったからだ。


 泣くな。
 泣くのは変だ。
 友人なら、こんな事で泣くほど傷ついたりはしないだろう。
 寝ぼけて抱きついてきた相手が、別の誰かの名を呼んだからって、泣くほどの事ではないだろう。
 むしろ、怒りを持って接したらいい。
 寝ぼけて抱きつかれて、冷たい掌攻撃も受けたのだから。

「んのネボッケー魔神!さっさと起きろー」

 痛みも、悲しみも、見ない振りをして。
 友情を演じて叫んだ。
 腕の中から必死で逃れて、まだ寝ぼけたままの相手の頬を思いっきり殴ってやった。

 ぐーパンチで。

 あたた。と頬を押さえて痛がる相手に、ほんの少しだけ気が晴れた。
 
 ざまぁみやがれ。



 むすっとしたまま一言もしゃべらない相手を、無理矢理引っ張って正門へと急いだ。
 だらだら歩く久賀は明らかに不機嫌だ。
 確かに、グーで殴ったのはやりすぎたなとは思うけど……いや、やっぱ自業自得。
 お前の方が悪い。

「急げ、久賀!正門が閉まるって!!」

「い……っっ。誰かさんに何度も殴られて……いい加減、顔の形が変わる」

「今より美形になれるなら万々歳だろ!ラッキーだな。おめでとー!そんな事より、早く歩けってば」

「殴られたトコロが痛いからムリ」

「顔と足は関係ないだろーが」

 ようやく喋ったと思ったら、そんな事を言うんですよこの男は。
 だらだら歩きの相手の腕を引っ張り、息切れしながら先を急ぐ……おぃ、ちょっとは足を早く動かす努力をしやがれ。

「あーもームカつくな!見捨てて帰るぞ!」

「あら、ひどいわ。あたしは待っててあげたのに」

 んべっと舌を出して、棒読みのおねぇ口調。
 バカにしてやがるなーとカチンときて。

「オメーだってぐーすか寝てたじゃん!しかも有り得ない寝ぼけ方してたし!ヤローに抱きつかれた俺の身にもなってみやがれ」

 振り返って詰め寄れば、物凄く嫌な顔をされた。
 あ。言い過ぎたかな?と顔には出さず不安になった。

 こんな口調で合ってたか?こんな態度で間違ってないか?と、胸の中は不安で一杯だ。

 恋を自覚する前は、どんな風に接していたか。
 それを必死に思い出して、トモダチの仮面を被る。

 バレたらきっとそこでおしまい。
 久賀にとっては、友情でさえ薄っぺらい表面上のモノでしかないのに、俺が抱いているモノが恋の情だとバレたら、一瞬で拒絶されておしまい。
 そうしたらきっと同級生と友人の間の、曖昧な関係ですらいられなくなるだろう。

 だから、必死に、友人の振りをする。
 ま、友人だと思われていませんけどねー。

「……トモと間違えたんだよ」

 どすっ。
 見えない矢が、心臓を貫く。
 恋の天使が放つ矢ではない。ひたすらに、痛いだけの言葉のやじりだ。

 残酷だな。
 本当にヒドい男だ。
 それに惚れた自分のバカさ加減に呆れる。

 胸の痛みなんかシカトして、イヤミを口にした。
 友情を演じるために。

「どんな夢見てたんだよ!身の危険を感じたぞ。ガチで」

「貞操の危機だったぞ」と怒っている振りをすると、鼻で笑われた。

 ムカつくなテメェ。
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